『……いやー、しかし驚いたね。まさかレンに双子のお兄さんがいて、しかもリーグ本部総監だっただなんて』 『だな。人生何があるか分からないな』 まるで嵐が過ぎ去った様な、強いインパクトだったのは間違いない リーグ本部の総監、レンの双子の兄、生き別れた兄弟―――それだけでも痛烈な衝撃を与えたのだから、帰宅した他の者達はそれ以上の衝撃だっただろう しかしこれでよくわかったよ、とマツバの視線がレンに向けられた 『―――レン、君が何を求めて旅をしていた本当の理由が…彼だったんだね。結果がどうであれ、生き別れた家族との再会は喜ばしいもの。見つかってよかったね』 「………」 『気に食わない表情をしてるな。…なんだ、何かあったのか?やはりあれか?アイツもミリ姫にゾッコンな上にあまりに強敵だったからか?』 「…………(ピギィッ」 『(図星か)』 『(図星だね)』 情報屋として出会い、一匹狼だった当時のレン。何も執着せず情報だけを求め、一匹狼だったくせに妙にお節介を焼き、かといって自身の事は一切話さなかった だから彼が何の為に旅をしていたかは、マツバもミナキも分からなかった。その関係が心地よかったのもあったから、追及は一切しなかった レンは変わった。トゲトゲで他者の介入を拒んでいたレンが、ミリとの出会いで変わった。レンの雰囲気が変わった事は数ヶ月前から気付いていたにしろ、ここ数週間のレンは妙に何かが違っていた。敢えて何かは聞かなかったが、勘のいいマツバはレンの中で求めていた情報の在処が掴んだと踏んでいた。まさか今日此処で出会うとは思わなかったが、どちらにせよ感動的な話に終わってよかったと思うばかり(感動的か? 「…ひとまず俺達も今日は解散としよう」 『そうだね。明日も早い事だ、色々と動かないといけないからね』 「カツラさん、マツバ、ミナキ。こんな遅い時間まで付き合ってくれて感謝する」 『ナズナ達もお疲れ様。こんな状況で言うのも気が引けるが…ゆっくり休んでくれ。また連絡を待っている』 「あぁ。…フーディン、ヤドキング、機材を片付けてくれ」 「フー」 「ヤド」 「…この飾りや氷像はどうするんだ。このまま此処のマスターに任せて帰っていいのか?」 「さぁな」 『ナズナさん、ちょっと待ってくれ』 機材を片付け始め様とするナズナを、ミナキが制した 『…あまり深く介入すべきではない事は分かっているが、あの話を聞いてしまえばそういうわけにはいかない。ミリ姫の今後を左右し、またナズナさんの人生を左右するとしたら、私達も聞いた方がいい。こちらとしても聞いておけば何かしら手助けが出来るかと思うのだが、教えてくれるか?ナズナさん、アンタが犯した罪っていうのを』 「……………」 『ハッキングを得意とするハッカーは分かる。ハッキングも合法でなければ罪だという事は分かるが……それだけじゃなさそうだな』 「「「…………」」」 ミナキの核心を突いた質問に、ナズナは勿論ゴウキとレンも無言を通す 事情を知らない者からしたら先程の会話は意味不明なものでもあり、またナニあると疑問に思ってしまう内容だったのも事実。このまま聞かなかった事に、としたくても今後を左右するとしたら聞き流すわけにもいかない 最初は利害一致の関係だった。しかし此処まで来たら引き返すわけにもいかない。ミナキの瞳は真剣そのものだった。パジャマ姿だが ミナキの質問に答えたのは、隣にいたカツラだった 『…ミナキ君、私の方から説明するよ。彼は元ロケット団員だ。科学者でもあり、当時三幹部と首領の補佐を勤めていた男だ』 『『!!』』 『勿論、彼だけではない。…私もそうだったからさ。元ロケット団の、科学者としてね』 『『……』』 『…幻滅したかい?仕方無い、それほどの事を私達はやってきたのだから』 『いや…むしろこちらとしたら納得。スッキリした。初めてナズナさんに会った時からナニかあるとは薄々感じていた』 『他のカントージムリーダー達にも噂があったから…それがカツラさんだって知っても、特に驚きはしないよ』 「……すまないが、この件は今後触れずにいて欲しい。俺は、ミリさんを見つけ出す為にも…捕まるわけにはいかない」 「俺からも頼む。この戦いはナズナの戦力が必要になってくるし、俺自身…身内としてもナズナの人生を棒に振わせたくない。無論、カツラもな」 「ナズナはこうして罪を償おうとしている。カツラもジムリーダーとして責務を果たしてきた。俺からも頼む、見逃してやってくれ」 世間に公に出来ない黒い話。たとえミリのお陰で罪が解き放たれたと言われたところで、それは総監が見過ごしただけで実際のところはクロはクロ。ナズナがロケット団に在職していた情報そのものを消さない限り、ナズナは一生罪を背負う事になる。勿論、それはカツラにも言えれば元ロケット三幹部のマチスやナツメも同罪だ ミリを探し出す為に、奴等を倒す為にもこんなところで立ち止まっているわけにはいかない 真剣な表情と確固たる決意の光を秘めた三人の顔を見て、マツバとミナキは彼等らしい笑みを浮かべ頷いた 『安心してくれ、口は堅い方だ』 『同士として、秘密は必ず守るよ』 『!マツバ君、ミナキ君…』 「…すまない。そう言ってくれると助かる」 『それに、ナズナさんはこの家族の中では長男だからさ。可愛い妹の為にも互いに手を取り合わないと。ね、おにーちゃん?』 「!…フッ、そうだな」 マツバの言葉に小さく驚くナズナだったが―――いつの日かカツラと会話した内容を思い出し、意図にも気付いたナズナは彼らしい笑みを浮かべて小さく笑う その可愛い妹を見つけ出す為にも、長男がしっかりしなければいけない。ミリが揃ってこその家族だ。尚更こんなところで立ち止まっているわけにもいかないのだから 『おいマツバ、そろそろ私もその家族の一員になりたいんだが。マツバの友人設定は寂しいものがあるぞ』 『えー』 『えー、ってお前…せめて従兄弟とかにしてくれよ』 『しょうがないなぁ、それで手を打ってあげるよ』 『ハハハ、身内が増えるっていいね』 「なんだ、いつの間にお前達にそんな話があったのか?」 『勿論!家族編成は長男がナズナさんで次男がゴウキさん、三男は僕で、従兄弟がミナキ!に今なったよ。おじいちゃんがカツラさんで、末っ子がミリちゃん!』 「ほう……それは、中々楽しい家族だな」 『でしょ?…ちなみに、そこにいるレンは可愛い可愛い僕らのミリちゃんを奪った恋人。抹殺すべし』 『排除だ排除!』 「おいテメェ等テレビ中継だからって好き勝手言ってんじゃねーよぶっ飛ばすぞ」 『あ、おいマツバ。ゼルはどうする?ゼルもレンの双子としたら色々とマズいぞ!奴は手段を選ばないに違いない!』 『確かに!可愛い可愛い妹が恋人に奪われただけじゃなくて、その双子の兄にも狙われているとしたら!大変だ!おにーちゃんは許さないよ!魔の手から守らないと!』 『あぁ!今こそ兄弟の真の絆を見せる時だぞ!』 「…なるほど、だったら俺も兄貴として妹を守らねばならんな。安心しろ、この俺達がいる限り可愛い妹には一本も指を触れさせん」 「だからゴウキ、俺を巻き込もうとするな。……………しかし、そうだな………かなり歳の離れた妹を持つ兄貴は、溺愛するほど大切にしていると聞く。…此処は俺も便乗するのもアリか。麗皇、そういうわけだから覚悟しておけ」 『おじいちゃんは可愛い孫が幸せならいいんだけどね…レン、とりあえず頑張れ』 「いい加減にしやがれこのシスコン共がぁあああああッッ!!!!」 そんな小さな夢を いつか必ず、全員揃ってこそ → |