ゼル達とレン達が合流し、ゼルの一言で解散し、また緊迫した雰囲気の中、時間は呆気なく刻々と過ぎていき

時刻はもう、丑三つ時を迎えようとしていた

流石にもうサバイバルエリアは寝静まっていて、町の中の街灯以外全て真っ暗だ。唯一の光はこの喫茶店と少し離れているポケモンセンターくらいだろうか。他はもう、暗闇がサバイバルエリアを支配している。夜行性のポケモン達の姿もいない。燦々と輝いていた三日月も、自転によって徐々に影を潜めようとしていた








「ゼル様、お時間です」

「あぁ。…サーナイト、」

「サー」







ひとしきりナズナをからかったガイルは、胸ポケットにしまっていた懐中時計を取り出し、現在の時刻を確認する。予定していた時刻に達していた事に気付くガイルは、ゼルに声を掛ける

ゼルは席から立ち上がり、名残惜しそうにミリの氷像をひとしきり眺めた後、サーナイトに声を掛ける。部屋の隅に沈黙を守り続けていたサーナイトもゼルの言葉に動き、滑らせる動作で二人の元へと移動する

突然動き出した彼等にレンは訝しげに声を掛ける






「…何処に行くんだよ」

「本部に戻る。また改めてこっちに来るつもりでいるからお前等もいつでも動けるようにしておけ。こき使ってやる。有り難く思えよ愚弟」

「んだとゴルァいつか必ずぶっ飛ばす」

「「…………」」

『あぁ、ゼル。ちょっと待ってくれ』





去り際に言葉を忘れないゼルに、ヒクリと表情を引きつらせるレン

確かにもう今の時間はかなり過ぎていて、いい加減解散した方がいい時間帯。ゼルはどの道本部の総監として戻らないといけない身。サーナイトのテレポートで帰ろうとするゼルにカツラは慌てて引き止める







『私達はミリ君の事態を聞き、いつでもそちらに駆け付けるつもりではいるが、どうする?』

「お前等はジムリーダー、自分達の責務を全うしろ。カントーとジョウトにも奴等の手が及んでいる可能性だってある。もし急を急ぐ事になり、お前等の存在が必要になったら、サーナイトがそちらに行く。テレポートでこっちにこい」

『分かった。いつでも動けるようにしよう』

『ゼル、と呼ばれてもらうよ。きっと君の事だから僕の力は知っていると思う。ジムを休んででも彼女のポケモン達を探そうかと思っているけど、必要かい?』

「………。お前の能力がどの範囲まで可能かは知らねーが、いいだろう。お前はそっちに専念しろ。ジムに関してはセキエイリーグの幹部長に一報を入れておく」

『よろしく』





"ジムリーダー"として、"総監"に指示を仰ぐ

こんな後ろ盾があって認可してくれれば、こちらとして動きやすい事この上ない。暫く集中出来るだろう


ゼル、とミナキが口を開く







『最後に一つ、私から聞いていいか?』

「なんだ」

『…お前は先程から随分ミリ姫に執着している。レンがミリ姫に向ける執着さとはまた違ったレベルだと見える。ポケモンマスターだったとはいえ、地位はお前の方が上……………ミリ姫は、お前にとってそんなに凄い人間なのか?』






ミナキだけではない、カツラもミナキも、ゴウキとナズナも、数時間前にいた者達も―――ミリに対するあまりに異様な扱いを、疑問視していた

丁寧過ぎるのだ。"あの御方""ミリ様"だけでも違和感アリアリなところ、言葉の節々にミリを崇め、奉っている素振りが見受けられた。どこぞの宗教並みにミリを狂信しているゼルの姿に、動揺が隠せないのも事実

先程のナズナの一件も然り。「ミリ様が許したから俺達も許す」「ミリ様の為に行動したのなら目を瞑る」、全てミリを中心に、ミリの為だけに動いている様に見えるゼルの行動は、下々の人間からしたら異様で異常でしかない

なにせゼルは腐っても総監、対するミリは忘れられてもポケモンマスター…立場は違うというのに、この扱いの違いは一体何なんだというんだ。下々の支部には容赦ない采配を振うというのに



誰しもが一番聞きたかった質問を代表で言ってやったミナキの勇気に、ここに他の者達が居たら心の中で拍手モノだっただろう

ミナキの質問にゼルは小さく驚く素振りを見せたが、ゼルは小さく笑うだけ







「――――…少なくても、命に代えてでも御守りすべき価値のある御方、とでも言っておこう」

『命に代えてでも?……ポケモンマスターだからか?それともまた別の理由か?』

「両方だ。それ以上は答えるつもりはねーぜ」

『しかし「――おい、ゼルジース。ちょっとこい」

「あ?」







総監がそこまでして言わせるミリは、一体何者だというんだ

返ってきた返答に少々納得がいかず再度質問しようとするミナキだったが、レンの横入りであえなく断念

レンは自分と同じ身長同じ体格のゼルジースの肩を組み、皆に背を向ける形で部屋の隅に移動させる。なんだよ、とカシミヤブルーの瞳が嫌そうにレンを写す中、レンは真剣な表情でゼルに耳打ちをする








「――――ふたごじまの件、忘れたとは言わせねぇ」

「それと今は関係ある話か?」

「今は関係ねぇな、今はな。…ゼルジース、最初に言っておく。お前が何を企んでいるかは知らねぇが、俺がミリを守る。お前なんかにミリを渡してたまるかよ」






鋭く見抜くピジョンブラッドの瞳は、あの時の事に関する恨みと頑固たる決意の色を秘めていて

対するカシミヤブルーの瞳も、レンの言葉に反応して―――嫉妬と憎しみの色を秘めて睨み返す





「……力のない無力なお前があの御方の傍にいられるだけでも光栄だというのに、よくその減らず口が叩けたものだ。…あの御方の、秘めたる存在すら何も知らないくせに」

「知らない?ハッ、残念ながら俺は情報屋なんでね。知ってるさ―――アイツの事も、俺達の事もな」

「!!!!」






敢えてそれがナニかは言わなかったが、聡いゼルはレンの言葉の意味に瞬時に気付いたのだろう。よほどレンがその事を知っていた事実が信じられないといった様子でレンを眼を張って見返した

一瞬の動揺、しかしすぐにゼルは肩を組んでいたレンの腕を勢いのままに剥した。ニヤリと同じ顔で笑う片割れに、ゼルは忌々しくギロリと睨み付けた






「…………レンガルス、お前とはいずれ決着をつけなければならないな」

「上等。受けて立つぜ」







求めるのは、ミリの隣

血を分けた双子が、愛しい存在を求めて争う事になるだろう

それがいつになるかは分からないが

確実に訪れる未来なのは間違いないだろう








「ま、勝利は既に決まったもんだけどな。フッ」

「ハッ。無能な奴が何を言っているのやら。隣にいれる資格すらないというのに」

「資格が必要とするなら、それこそ俺は該当しているはずだぜ?恋人としてな」

「…あ゛ァ?」

「あ゛?」

「………。フッ、関係ないな。恋人など、そんな薄っぺらい関係などで通用すると思うのか?」

「むしろお前こそ資格うんぬんどころかミリにしたら赤の他人じゃねーか。総監だかなんだか知らねぇが今のミリには関係ねーだろ。ストーカーかよ」

「…なんだとゴルァ」

「…やんのかテメェ」







バチバチバチバチバチバチ……










『こんな時にいうのもあれだけど……ミリちゃんって本当に愛されているよね。見せてあげたいよ、自分の知らないところで取り合いが起こっているところなんて。おにーちゃんは許さないよ』

『双子は同じものまで好きになるのか……双子もある意味厄介だな。断ち切りたくなるぜ』

「……あの中に舞姫が入ってみろ、色々とカオスになること間違いない。殴りたくなる」

『ミリ君も罪な人だ…。遠くから眺めているだけでいいかな』

「巻き込まれるのは勘弁だ…」

「ご安心下さいサラツキ博士。もう既に巻き込まれていますよ」














そしてゼル達は

六人の前から姿を消したのだった











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