「お前は気付いているかは分からねぇが、リーグ本部に情報が無い事を知ったお前は別の場所へ飛んだ。飛んだ先に―――ミリ様という聖蝶姫の情報を見つけた。違うか?」

「……だから、なんだというんだ」

「…本当に気付けていないのか。意外だな。まぁいい―――聖蝶姫の情報の先にある場所こそ、奴等『彼岸花』の本拠地だ」

「――――!!?」

「「!!」」

『『『――!?』』』







誰もがゼルの予想外の言葉に驚きの表情を浮かべた

確かにナズナは聖蝶姫の個人情報を見つけ出す事に成功した。そのやり方はけして合法的なモノではなかったにしろ、ナズナは貪欲なままに、ミリの為にとインターネット上を飛び回った。奇跡的に見つけ出したのは良しとしよう―――ゼルの言葉で誰より驚いたのは、情報を見つけ出せたナズナ本人だっただろう

ナズナが情報を探し出した時は残念ながら『彼岸花』の存在なんて露知らず、眼中にも無かったから仕方無い事だったのだが―――まさかそこが『彼岸花』の本拠地だったとは、あまりに予想外過ぎた


ゼルは言葉を続けた







「お前はリーグ本部のセキュリティーに簡単に侵入した上で、奴等の居場所まで侵入し、ミリ様の情報を手に入れた。こっちのセキュリティーに侵入出来た事でさえも圧巻だというのに、敵の場所でさえも見つけ出したんだ、ハッカーとして素晴らしい技術を持っていると言ってもいい」

「リーグ本部としてもサラツキ博士の技能はとても惜しい限りです。支部で、しかもこのまま消滅しまうとはなんて勿体ない。これぞまさに宝の持ち腐れで御座います」

「だからこそ、お前のハッカー人生も博士人生も、こんな事で潰したくないんだわ。俺達はな」








リーグは『彼岸花』がミリの情報を盗んだと踏んでいる。だからこそナズナが飛んだ足取りを探していたが、リーグ本部の中でもナズナと等しい技術を持った人間が残念なから居なかった為に、現在でも地道に足取りを追跡しているという

全ての頂点に君臨していると言ってもいい総監からのお褒めの言葉は、本来だったら光栄至極だと喜ばしい話だ。そしてナズナは、犯罪を犯した身であっても"総監"に認められ、勧誘を受けている。その能力を、確実な保身を与える代わりにもっとこちらの為に使ってくれと―――


総監の勧誘を受け、安全な道を取るか

ミリの事を話す事で自分の罪を暴露するか

究極の選択肢が迫られた



しかし―――ナズナには彼等に対し、どうしても許されない事があった









「だったら!何故お前は俺を――」







殺しにきたのか―――







そこまでは事情が知らないマツバとミナキが居た為に、口には出せなかった



ゼルの眼光が鋭く光った







「そもそもお前、今まで自分が一体何をしてきたか分かってんのか?」

「ッ!!!」

「「『……』」」」

『『…?』』

「このまま全てを話したら…お前は色々と、マズいはずだぜ?」

「……元々俺は、」

「覚悟の上で?本当にそう思っているのか?………何処かで期待しているはずだ。お前が重ねてきた罪が、解き放たれる日が来る事を」

「……………」








―――忘れてはならないのは、ナズナは元ロケット団の団員で、上層部レベルの人間だった

その罪は重い。脱走したとはいえ、世間からしたらクロだ。科学者としてポケモン達に酷な事をさせ、民間に恐怖を与えてきたその罪はけして消える事はないだろう

ミリの情報を話したら、確実に"あるポケモン"に辿り着き、ナズナの事を嫌でも話さなければならない時がくるのは明白で、ナズナ自身も覚悟の上だった事に嘘はない

けれどナズナは、ゼルの核心を付いた言葉に言い返す事が出来なかった




図星を突かれて黙り込むナズナの姿に、ゼルはフッと笑う







「まぁ、安心しろ。お前の罪は、既に解き放たれている」

「何…?」

「もはやお前は法律的には裁けられない。証拠不十分でな。故にお前に巻き付いた罪は一生消える事はない。…が、お前の罪は解き放たれた






…――――ミリ様のお陰でな」

「!!!」

「ミリ様はお前を許した。その罪をも、あの御方は全てを許した。そう、全てを――――だからこそ、俺はお前の実力を買っているんだよ」







いつの日か聖地に足を踏み入れた禁忌を犯した事も、ミリは許した。ミリが許したとなったら自分達もナズナを殺す事を止め、受け入れてやろうではないか

せっかくミリが許した罪を、自分自身で蒸し返してどうする?

それをしたところでミリが悲しむだけだ




カシミヤブルーの瞳は鋭く、有無を言わせない威圧感でナズナを諭した。その顔は、まさに総監そのものだった。ミリ様が許した以上、お前に罪を暴露させる事は許されない―――そう、ゼルは瞳で言っていた









「リーグ本部のセキュリティーに侵入した事には、目を瞑ってやろう。全ての始まりがミリ様の為となったら、大いに結構。その先で奴等の居所が掴めたとしたらそれこそ大手柄だ」

「………」

「ナズナ、総監として命じる―――まっさらになったからこそ、お前はミリ様の為だけに動け。自分自身の命すらも捧げる気持ちでいろ」

「…言われなくても、そのつもりだ」

「フッ、そうか」








俺は彼女に救われた

俺の命はもう、彼女のモノ

お前に言われなくても、彼女の為なら再度罪を犯しても構わない







ナズナの言いたい事が分かったのか、ゼルは満足げに不敵に笑った










『――――…えーっと、話がいまいち理解出来ないけど…ミリちゃんの個人情報の話は今しばらく伏せた方がいいって事かな?ナズナさんの為にも』

「ま、そんなところだ」

『分かった。ならこちらもそのつもりでいようではないか』

『それこそ他のジムリーダー達にも口外しないようにするよ』

「そうしてくれ」












「(ゼルジース…お前は一体何を考えているんだ)」









何故、ミリ相手にそこまで言えるんだ



ナズナは鋭い眼光でゼルを静かに睨むのだった







(カシミヤブルーの瞳は何を考えている?)



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