ゼルという総監の一言で、名前を呼ばれなかった者達全員次々に帰路につき、店内はゼルとガイル―――名前を呼ばれたレンとゴウキとナズナだけが残った

最後の一人―――アスランが名残惜しそうで辛そうな表情でミリの氷像を見上げたのを最後に、扉が閉まったのをこの眼で確認して―――




途端に店内中を襲いかかったのは、ナズナとレンから発する殺気に近い威圧が掛かった圧力だった




先程の、冷静だった姿とは一変した姿に、映像で見ていたマツバとミナキは息を呑んだ。二人が威圧を発する相手は、ゼルとガイルへ。レンは双子の片割れのゼルへ、ナズナは自分を殺しにきたガイルへ―――因縁蠢く四人の姿は、背筋を凍らせるものだった

しかし、どれだけ殺気をかけようが威圧を込めようが、ゼルとガイルは平然としていた。ゼルはレンの威圧なんてなんのそのと冷めきった紅茶に口をつけ、ガイルはナズナの殺気に興味無しと微動だにしなかった






『―――…敢えて聞きますが、我々を呼び止めた理由をお聞かせ下さいますか?』

「カツラ、別にもう畏まらなくていい。楽にしても構わねぇぜ」

『………。では言葉に甘えよう。ゼル、と呼んでも?』

「いいぜ」

『…ゼル、何故私達を呼び止めた?』

「お前等に釘を刺しておこうと思ってな」





ニヤリとニヒルに笑うその姿はレンにとても良く似ている。しかし、動作が気品で優雅な物腰は、レンとは大きく違う

飲んでいた紅茶をテーブルに置き、ちらりと彼等を見上げるカシミヤブルーの瞳は挑戦的な光を秘めていた






「レンガルス、ゴウキ、ナズナ、カツラ、マツバ、ミナキ。お前等はミリ様にとって、少なくても親しい間柄なのは調べが付いている。並びに、お前等は知っているはずだ―――ミリ様には、不思議な力をお持ちな事を」

「「『『『―――!!』』』」」

「………」

「それでいてお前等は、ミリ様と聖蝶姫の関連性を見つけ出そうとしている。リーグ集会から調べ始めたと推測すれば………大方、もう結論が出ているのだろう?ミリ様と、聖蝶姫の関連性を」

「ハッ、…だったら何だよ」

「その結論が100%正しいかは置いておくにしても―――それをアイツ等に言ったところで、理解すると思うか?」

「「「…………」」」

『『『…………』』』






全員はゼルの言葉に返せなかった

そう、この話は「暴行猥褻及び殺人未遂事件」と『彼岸花』と同等に一番厄介なモノだったのは間違いない。あの時彼等に説明したところで、理解してくれたかどうかは闇の中。自分達でも確信は持っていても憶測でモノを言っているのと同然なのだから、理解しろと言ったところで無理な話だろう

本来だったら誰も理解出来ない話

しかし―――ミリの事を知っているからこそ、レン達はこの摩訶不思議な話を理解しようとしているのだ






「ミリ様の事を大切に思うのなら、あまり根掘り葉掘り真実を追及しない事だ。その真実が時に刃になり、あの御方を傷付けてしまう場合もあるからな」

「……ゼル、お前はミリの事を何処まで知っている?」

「さあな…今の段階では、殆ど何も知らないと言っておこうか」






何を確信してモノを言うのか、全てを悟ったゼルの様子にただただ回りは訝しな視線を向けるだけ

レンはただ黙ってゼルを見る






「…………」







心の中で囁く

お前は、本当は知っているんだろう?

アイツの事を、【異界の万人】の事を―――





ちらりとレンの方へ視線を向けたゼルと、対照的な瞳がカチリと合う





「…………」

「…………」








一瞬だけ、交わした互いの瞳

ピジョンブラッドの瞳とカシミヤブルー瞳は、互いを鋭く睨み付ける


(その瞳の色は、)

(愛しい存在を我先に守るという、確固たる決意を秘めていた)










――――ゼルはフッと小さく笑う






「あと、この手の話は正直お前にとっては不利なんじゃねーか?ナズナ」

「何…?」

「ガイル、話してやれ」

「―――――奴等の本拠地につきまして、こちらに面白い情報が入りました」

「面白い情報…?」

「実は、リーグ本部の内部のメインコンピュータに鴉が潜り込みましてね」


「「『『『―――!!!!!』』』」」

「……」

「鴉は、所謂聖蝶姫の個人情報という光モノを盗みに来たのでしょう。しかし、本部には聖蝶姫の情報は無かった






何故なら、鴉が盗むよりも前に既に聖蝶姫の情報が盗まれていたのですから」






さぞ鴉は驚いただろう。トレーナーカードが使えるなら本部に、と禁忌を犯したというのにその存在が見つからなかったのだから

それはこちらも同じ事。まさか、まさか六年越しに情報を調べようと検索したら―――全く項目に出てこなかったのだから







「本部に保管されてありますメインコンピューターのセキュリティーは厳重に厳重を重ね、情報漏洩阻止等徹底的に対応しています。しかし、情報は盗まれた。リーグ史上前代未聞です。現実に起こってしまった―――盗まれたのは、聖蝶姫の全て。時期としたら、世間が聖蝶姫を忘れた六年前―――聖蝶姫の存在も、個人情報も、全て消えてしまったのです」







だからこそ、この六年間―――せっかく授かったポケモンマスターが不在のまま、且つ、ポケモンマスター認定試験すら忘れ去られていたのだ

皮肉な事に、リーグ本部が徹底して認定試験を内密に執行った姿勢こそが、更に人々の記憶からポケモンマスターの存在を消してしまう原因にもなってしまっていた






「しかし、そんな時に鴉が現れた。鴉も聖蝶姫の個人情報を探し、本部のコンピューターに手を出した。見つかったら一貫の、人生の終わりだと分かっていながら」







一番早く反応したのはミナキだった





『ナズナさん!アンタ…まさか本部の情報に手を出していたとは!』

「…言っただろ、全ては彼女の為だと」

『しかしだな!』

「簡単な話、このままいけばお前を逮捕しなくちゃなんねーんだわ。…それとゴウキ、お前だって警察の身でありながら兄の犯罪を見過ごしたとなれば、色々とマズいんじゃねーのか?」

「………俺達を脅したところで、なんの得にもならんぞ」







むしろ正当に調べたところで何も出てこなかった真相を相手に、こうでもしなければ見つけ出す事が出来なかったはずだ。そう心で悪態を吐きながら―――ニヤリと笑うゼルに、ゴウキは鋭い眼光を光らせてゼルを睨み返す

ナズナはギーギー説教してくるミナキの声を耳を塞いで素知らぬ顔で聞き流し、視線はたえずガイルの方を睨み付けている。映像ではギーギー喚くミナキをマツバがはがいじめにして押さえていた。中々のシュールだ

レンは呆れた様子でゼルに言う







「つーか、お前等人の事棚に上げといてナズナ関係無しに情報盗まれてんじゃねーか。お前こそ色々マズいだろ、それに情報盗まれておきながらあの幹部長に平然と処罰とか鬼かよ」

「うるせぇ。仕方ねーだろ俺まだ総監じゃなかったし全く関与してなかったしで色々大変だったんだぞ。だから大目に見て無給無休で手を打ってやったんだ、クビにしなかっただけマシだろ」

「鬼畜だろ職権乱用してんじゃねーよ」







心外だな、そんな目線で溜息を吐くゼルにレンごもっともなツッコミをいれる

前任の不祥事とはいえ、ゼルにとっては大切なミリの情報が奪われていた事は憤慨極まりなく大変迷惑極まりない事態。もしミリの情報が盗まれず、シンオウの情報だけ盗まれていたら即効コウダイはクビを切られていただろう。…恐ろしい話があったものだ





ま、つまりだ―――そう言って、視線をナズナに向けて言った








「ナズナ、俺はな―――隻眼の鴉としてお前の実力を買っているんだよ」

「な、に…?」















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