「男四名、女二名の計六名の集団で、ポケモンを全て回復に回し無防備になってしまった聖蝶姫を狙った行為。奴等は無抵抗な聖蝶姫をいいように、暴行等を繰り返したそうだ。結果的に聖蝶姫が奴等を倒した事で難を逃れたそうだが、身体に受けた傷は深刻なもの。医者は全治二週間と言い渡されたくらい酷いモノだった。…これは俺の門下生も事故現場に駆け付けたから間違いはない。苦しいのに辛いのに、被害者でもあるのに毅然とチャンピオンとして、状況を纏めた冷静さには驚いた。そう、言っていた」






誰もが皆、信じられないと瞳は大きく開かれゴウキを見ていた。ありえないとばかりに口から出るのはただの空気のみ

知らなかった。嘘だと思いたい。彼女にそんな事が起こっていたなんて―――

特にホウエン地方にいて、近くでミリを見ていたダイゴの顔なんて驚愕に蒼白していた。この話を拒絶したいと、嘘だと言いたいくらい動揺を隠しきれてない不安定な瞳で



じわりじわり、と

彼等の中に絶望が染まっていく








「罪名は『暴行猥褻行為及び殺人未遂の疑い』。加害者の六名は無事に逮捕、起訴され、今は刑務所にでも入っているのだろう。これがただの突発的犯行だと思ったが、思わぬ疑惑が浮上した」

「それがこれだ」






ゴウキの言葉に合わせて、ナズナはエンターキーを押す

ピピッ、と新たに現れた画面

そこに細かく書かれている、調書の文面







「警察の調べ、そして容疑者の取り調べで分かった事があった。浮上した疑問は五つ、どれもこれも常識では考えにくい、妙な事が起こっていた」







一つは「情報の漏れ」

犯人の中にハッカーがいて、情報を盗み、彼女の行動パターンを推測した。他にもリーグに通じていた外部の人間がリーグ内が手薄だと漏らしたからだ。しかも防犯カメラも警備員の位置を把握しての行動。その為、誰にも気付かれる事なく進入出来た




二つ目は「犯人は全て初対面の人間の集まり」

犯人は六人の集団で形成されていた。男が四人、女が二人の計六人。彼等は彼女に対して歪んだ感情を携えていた。それがいつしか爆発して犯行に及んだのだろう―――だが、彼等は初対面だった。初めは嘘だと思った。こういったケースは必ずどっかで出会っているものだ。例を上げればインターネットなど非公式交流場所かなにかで。しかし厳重な調べで彼等全員が本当に初対面だという事が発覚した




三つ目は「犯行が同一日に重なった」

彼等は何かしらの原因で感情が爆発した。そして単身で犯行に臨んだ。しかしそれは自分一人だけではなかった。同じ考えや思考を持ち、犯行に及ぼうとした彼等全員が初めてその場に揃っていたのだ。そして彼等は初対面な筈なのに―――自分が揃っている事を当たり前の様に、共に犯行に及んだ




四つ目は「ハッカーだけしか知らない情報を彼等全員が知っていた」

ハッカー以外の犯人達はコンピュータの無縁な生活を送ってた。コンピュータを使っていても技術がない者、リーグには無縁な者、むしろ情報に乏しい者まで。勿論様々な可能性を見て彼等と繋がりのある者達を調べたが、結果は白。本当にハッカー以外の人間は何も出来なかった。なのに彼等は知っていた。今、リーグ内がどういう状態で、今彼女が何処にいて、何をしているのか、防犯カメラや警備員の位置等全てを




最後の五つ目、

「まるで何かに操られている感覚だった」








「警察も聖蝶姫も、この事に疑問を持っていた。しかし聖蝶姫は全てを警察に任せ、二週間の有休休暇を使って休養に入った。聖蝶姫や幹部長の手回しで結果的に聖蝶姫が襲われた事実が世間に明るみにならずに終わり、また聖蝶姫も休暇明けは通常通り仕事に復帰した。時期的に決算で大変忙しかったにも関わらず、誰もが皆、聖蝶姫の休暇に疑問を持つ者はいなかったそうだ」







呑気なものだ。トップがあんな目にあっているとも知らずに

しかし、たとえ回りに知れ渡らせる間も無く処理したとはいえ、どうしてこうも上手く騙せたのか疑問に思うばかり。違和感を、疑問すら感じなかったのだろうか。幹部長達の動きが早かったにしても、噂すら立たなかった当時の現状が少々理解に苦しむのが本音







「結果的に事件が解決された。警察も容疑者共を送検した事で、もう聖蝶姫を狙う輩は居なくなる。聖蝶姫は公にされる事を拒んだ。新しく立て直したリーグに傷が付かない為にも、アイツは自分の身を犠牲にしたんだ。だから聖蝶姫はこの事件を公にせず、そのまま闇に葬った。誰にも気付かれず、知らされず、心に傷を負ったままな」

「「「「「――――!!!!」」」」」









だからこそ、聖蝶姫は闇に葬った

チャンピオンとして、リーグ関係者として

誰よりも冷静にいられたからこそ、リーグの為に彼女は全てを闇に葬り、変わらない日常を過ごしていた。彼女は完璧に演じていたのだろう、心に深い傷を負いながら、何もなかったかの様に平然と笑って―――――











「―――そ、んな…」

「知らなかった…先輩に、そんな事が…!」

「暴行…猥褻…ッ!なんでだよ!なんでアイツがそんな目にあわなくちゃなんねーんだよ!」

「そうよ!なんで…ッなんであの子がそんな事を、しかも、誰にも言わず一人で抱え込むなんて…!そんな、嘘でしょ!アスランさん!!お願いします!嘘だと言って頂戴!!」

「――――…残念だが、嘘ではない。真実だ」

「「「「「!!!!!!」」」」」

「私達はアスランから話を聞いていた。私と、ジン、そしてアルフォンスの三人だけにな」

「他言無用と言われました。しかし聖蝶姫の情報が奪われた以上隠し通せるものではないと判断した私達は、ゴウキ君に全てを託しました」

「そ、んな……!!!!」

「私は彼女と共に過ごしてきた。無論、幹部長として事件の結末もしかとこの目で見てきた。あの子があの事件で心に傷を負ってしまった事も……あの子の笑顔が仮面になってしまった事もね」

「「「「!!!???」」」」

「か、仮面!?」

「アスランさん!!仮面って一体…!?」








嗚呼、彼等は皆悲しんでいる

悲しんでいて、驚いて、様々な感情が揺れ動いている


シロナの金色の瞳に、またじわりじわりと涙が溢れている。ダイゴの顔は相変わらず蒼白でこのまま話を聞いたら倒れてしまいそうで、ゲンも冷静を保とうとしているが帽子をグシャリと潰している。デンジとオーバは、辛い表情と怒りの感情で訴えている、「何故アイツを守れなかったんだ」と―――


そして五人は絶望している

何も知らなかった、自分自信に








「…………太陽の様に笑う、素敵な笑顔をしたミリ君の顔…今でも鮮明に思い出すよ。しかしあの事件をキッカケに…月の様な笑顔に変わってしまったよ」

「「…………」」

「乱暴にされた所為もあるのか、ミリ君は露出を拒み、黒い服ばかりを好んで着ていたよ。夏の暑い時でも黒い服にオレンジ色のコート、さらにチャンピオンマントときたモノなら、こちらが心配してしまうくらい徹底していたよ」









皆は知らないのも仕方ない


彼女は、あまりにも"完璧"だったのだから













「―――ガイル、」

「…存じておりませんでした。過去の調査報告書には何もその様な記載はありません。敢えて書かなかった、としても些か不自然です」

「……、チッ」

「無理もない。本部に知られる前に事件が解決したのだからね。当時、ホウエンに本部の人間が混ざっていた事は分かっていた。私は認知していないが…目敏いミリ君の事だ、何かしたのかもしれない。今となったら知るすべがないのが残念だ」









ゼルは知らなかった

ガイルも知らなかった

そうしたら―――当時総監だったリチャードも、当然知らない事になる


―――こういう不正を防ぐ為に、監視員を潜り込ませていたにも関わらず、まさに不意を突かれて思わぬ真実にゼルの形良い眉が怒りでつり上がる



不正を見過ごした当時の監視員は勿論、この事態を隠し、黙っていたアスランやコウダイとジンに―――今は亡き自分の父親アルフォンス

立場がそうさせてしまったのなら、こちらの責任にもなる。しかし、少なくとも、彼等を口を黙らせ自分自ら葬った、ミリ本人にも――――ゼルは怒りの感情を感じていた








他にもあるぜ、そうレンは言う








「アイツが隠してきたのは他にもある。流石にこれはアスランでも知らない話だ。俺は考える…その事件がキッカケかもしれないが、大きな原因はコレにあるかと思う」

「「「「!!!!!」」」」

「!?…私でも、知らない?…それは一体、何だというのかね」

「おい、愚兄。お前ならもう、既に分かっている事じゃねーか?」

「―――、【氷の女王】か」

「「「「「!!!!???」」」」」

「そう、【氷の女王】だ。今からその話をしよう、アイツが誰にも知られず裏でやってきた事をな」
















真剣な表情で、レンは言った







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