ピタリ、と二人の言い合いが止まる 一斉に視線はある人物に向けられた その人物は、トウガンだった 困惑と動揺の表情を浮かべた彼は、まるで幽霊でも見ている様な目でゼルを見つめていた 「ゼルジース君……そう、私は君を知っている……君達の事を、知っている……そう!私は君達の事を知っていた!!」 「父さん!?」 「どうして私は君を忘れてしまっていたというんだ…!何故!…そう、まるで彼女を思い出した、あの時と同じ様に……!私はまた!同じ過ちを繰り返したというのか!!」 「トウガンさん!?」 「「………」」 普段の冷静なトウガンの姿とは思えない取り乱し方だった。息子のヒョウタや友人のゲンは勿論、回りの者達もギョッとしてトウガンの姿を見た 暫く湧き出て来る記憶に苦しむトウガンであったが、正気を取り戻したようだ。全員の視線が一斉に自分に向けられていると気付いたのか「すまない…取り戻した」とバツが悪そうに言った 「トウガン、アンタ…」 「レンガルス…今なら君があの時必死に訴えていた意味がよくわかった……すまなかった。今さら謝るなんて都合がいいものではないが…」 「……………」 「こんな事、言える立場ではないのは分かっている。しかし、言わせて欲しい……ゼルジース君、君が無事でいてくれて本当によかった。レンガルス、君も無事再会出来てよかったな…大切な、片割れを…。これなら、アイツも安心だろうな…」 「「…………」」 懐かしむ様な、けれど悲しい表情でトウガンは言う 今は亡き友人のアルフォンスの姿を思い出しながら―――生き写しとも言える息子二人を見据えた。嗚呼、あまりにも似ている。双子同士も、アルフォンスにも 二人は何も言葉を返さず、ただ静かにトウガンを見つめ返すだけだった 「片割れ…?おいトウガン、説明してくんねーか?俺が知っている話と違っているんだが……アルの息子はレンじゃないのか?」 「イエス。ワタシもアルサンから話を聞いてイマシタから………デスが、よく似ています…アルサンにも、レンガルスサンにも……」 「よく分からない…僕、レンさんしか知らない………もしかしてドッペルベンガーとか…?あ、そうするとレンさん死んじゃうか……」 「ヒョウタは後になって紹介したから知らないのも無理はない。……彼は、ゼルジース=イルミール。レンガルスとは血を分けた双子の兄だ。どうしてそうなってしまったかは分からないが…所謂二人は生き別れの兄弟だ」 「!やっぱ双子か…あまりにも似過ぎていたから、何かあるとは思っていたが…」 「改めて見ると瓜二つだわー…」 「しかし、トウガンさん……今になってどうして?あの時にでも気付けるはずだったのでは…」 「生き別れって…一体何が、」 「………私も何故、今になってゼルジース君を思い出せたのかは分からない。そう、彼女を思い出した時の様に、フッと思い出してきて……いや、これ以上は言わないでおこう。やはり、あまりいい気分ではないな…記憶を失い、思い出すのは」 「「…………」」 「「「「……………」」」」 元々アルフォンスはリーグ関係者だったこともあり、古株組は顔を合わせていれば、彼自身から息子の話は聞いていた。しかし、レンの話は聞いていてもゼルの話は聞いた事がなかった。こちらが聞かなかったのもあったが、彼の口からゼルの事を話すことなくこの世を去ってしまう ゲンの言う通りに、ゼルが現れてからすぐにでも気付けたはずだった。アルフォンスにも似ていてレンにも似ている。誰もが親子や双子だと指すぐらい彼等は分かりやすかった。けれどトウガンは気付かなかった。やりたい放題店内や氷像を変えまくるゼルに呆気に取られたにしても、ゼルとデンジとオーバのダブルバトル、レンとの幼稚な言い合いでやっと―――封印されたパンドラの箱が、遂に開かれる事になる まるで彼女―――ミリを思い出したあの時と同じ様に、とトウガンは言った。同じ体験をしているのは回りの皆も同じ。摩訶不思議で理解不能な現象に、成すすべも無い。一気に空間は静寂に包まれてしまった 皆さん、と すぐに沈黙を破ったのはジンだった 「ひとまずその話は保留にしても宜しいですね?バトルも一段落つきました。サラツキ博士達が戻ってきて下さいました……そろそろ本題へ戻りましょう」 「!あぁ…そうだったな」 「ゼルジースさん……貴方も、宜しいですか?」 「構わねぇぜ。そもそもこの話は凡人には理解出来ないレベルだしな。話したところで無意味な事は分かっている。……おい、愚弟。さっさと話をするならするで早くしろ」 「誰がテメェの指示に従うかよ愚兄野郎が」 「ではサラツキ博士、お願い出来ますか?」 「あ、あぁ…では皆さん、一旦店内へ…」 「―――ちょっと待ってくれ。まだ話は終わってねーだろ」 ジンの催促、ナズナの案内を遮って デンジは言葉を遮った 「おい、ゼルジース」 「あ?」 「テメェがレンの双子とか生き別れとかどうでもいい。そもそもお前等は何故此処に来たんだ。関係者でもねぇのにやりたい放題やりやがって……事と次第によっちゃ黙っているわけにはいかねぇんだよ」 「ハッ、負け犬風情が…煩くキャンキャン吠えてやがって。耳障りだ、シッシッ」 「…テメェッ!!!!」 「やめろデンジ!その方に手を出したらこの私が許してはおけん!!」 「ッ!…幹部長、なんでだよ!!」 「…フッ、どうやらお前達は俺の事に気付いたみたいだな」 「……確証は薄いですが、勘です」 つかみ掛かろうとしたデンジを止めたのは、今まで沈黙を守っていたコウダイで クツリと笑うゼルの問いに答えたのはジンだった。ジンは小さく息を吐き―――ゼルの後ろに控え、先程から静観をしていたガイルに視線を向けた 「…貴方の話は伺っています。勿論、貴方の活躍も…。お会いした事は、ありませんでしたが…」 「恐れ入ります」 「…その青年が貴方が仕える主だというならば、確証は的中し、私達の勘は正しかった事になるだろう……」 「おい幹部長!一体なんだよ教えてくれよ!」 「コウダイさん、ジンさん…説明を求めます。ゼルジース君がレンの兄弟は分かりました。しかし彼等は一体、何者なのですか?」 「……彼は、」 「……本来だったら会える事が出来ない、雲の上の存在だったのは間違いないだろう…」 「「「「???」」」」 「?コウダイさん、私達にも分かりやすく説明を…」 「…まさか、コウダイ……彼は、」 「そこからは私が説明致しましょう」 コウダイとジンの言葉足りない内容に、回りの者達は意味分からないと疑問符を浮かべる中―――唯一悟ったのはアスランで ハッと一つの可能性に驚愕するアスランの言葉を遮ったのはガイルだった カツリと靴底の音を鳴らし、視線集まる全員を前に物怖じせず悠然とした態度のままに―――先程のレン達に自己紹介をした時と同様に、恭しく一礼をした 「改めて自己紹介を。私はガイル・L・アルフレッド。我が主ゼルジース=イルミールの執事で御座います そしてこの御方こそ―――ポケモンリーグ協会本部の総監であらせられます、ゼルジース・L・S・イルミール様で御座います」 一気にフィールドの空気が固まったのだった → |