「ゼルジース=イルミール―――またの名を、ゼルジース・L・S・イルミール。L<ルーカス>は代々引き継がれる一族にして総監の名、S<セバスティアーノ>は今は亡き前任であるリチャード様の姓。その由緒ある名に嘘は御座いません。ゼルジース様は、正真正銘のポケモンリーグ協会本部の総監であらせられます」 滑らかで流暢な物言いで、此処にいないゼルジースの説明をするガイル その姿は気品に、上品に―――彼が着こなす軍服も、何もかも、彼が貴族の出だと誰もが分かる出で立ちで 少なくともガイルが放った言葉に 三人は、愕然とし、唖然とし……一歩も、動けなかった 「う、そ……だろ…!?」 一番誰がこの話を聞いて驚いただなんて、それこそ愚問な事 ゴウキよりも、殺され掛けたナズナよりも―――生き別れになってしまった双子の弟の方で 聖地をキッカケに生き別れ、兄を探す旅に出て早くも数年が経ち―――半年前のカントー地方でやっと消息が掴めたにも関わらず、その兄が、ゼルが、ポケモンリーグ本部の、総監だって?嘘だろ? レンはガイルの言葉を簡単に鵜呑みにする事が出来なかった ―――出来るはずもなかった 「――――ガイル、と言ったな。単刀直入に聞く」 「答えられる範囲で宜しければ」 搾り出す様に、口を開く 隙を見せない様に、慎重に 先に動いたのは―――誰よりも冷静でいられた、ゴウキだった 「…仮に白皇の兄が総監だとしても――――何故、何故ナズナを襲い、殺そうとした?あの時お前達は何が目的だったんだ。そして何故、今、此処にいるというんだ。…白皇の兄は、何処にいる?」 「…申し訳ありませんゴウキ様、一体何の事をおっしゃっているのか…私には理解に苦しみます」 「ッ!!」 「仮に本当に殺しに掛かったとしたら…サラツキ博士は、本来この場にいられる事はなかったでしょう。……そうですよね?サラツキ博士」 「貴様…!!白々しい事を!!デンリュウ!エレキボール!」 白々しいく、意味深に小さい笑みを浮かべたガイルに堪忍袋の尾が切れたらしく、ナズナは感情を高ぶらせた勢いのままにデンリュウに命令する 既にデンリュウの尻尾は蓄電されていた為、すぐにでもエレキボールは作られ、デンリュウもまた高ぶる感情のままにガイルにぶっ放してやった。相手を的確に狙ったエレキボールは、真っ直ぐガイルの元へと向かう ―――しかし、ガイルはさも平然と片手を翳し、その(憎しみが籠った)エレキボールを軽々と受け止めたではないか まるでボール遊びみたいに、バチバチ迸る電撃なんてなんのその。やれやれ、と肩を竦めたガイルはエレキボールをそのまま空に向かって振り上げた 振り上げられたエレキボールはそのまま上空へと上昇していき―――やがてボン!とエレキボールが破裂した小さな音が響いただけだった お得意の炎を使わずに、生身の人間、しかも全然効いていないガイルの平然とした姿に、ナズナは憎々しげに拳を握った 「クソッ!」 「お止めください、サラツキ博士。私は貴方と戦う理由はありません。どうかそのデンリュウを引いて下さると―――無暗な殺生をせずに済む」 「ッ!!!」 「ナズナ!一旦冷静になれ!お前らしくない、取り乱すな!」 あくまでも素知らぬ顔で平然と、白々しくも―――最後の言葉は声のトーンを低くし、若干の凄みを利かせてガイルは言う またカッとなったナズナをゴウキは制した。今の攻撃の跳ね返し方だけでも奴に無駄な攻撃が通用出来ないと察したゴウキだからこそ、頭に血が上って回りが見えていないナズナに叱咤した ゴウキは分かっていた 相手の気を見れるゴウキだからこそ――――この男には、勝てない事を、悟ってしまった コイツは他の人間と違ってレベルが違う。違い過ぎた。そう、まるで、人間ではない別の存在だと――― 変わらない態度でガイルは続ける 「どうして此処にいるのか、その問いには答えましょう。答えは簡単です、我が主ゼルジース様は総監として腰をお上げになられた。今まさに総監として責務を果たされようとしておられるのです―――シンオウ支部が犯した不祥事を、片付ける為に」 「「!!?」」 「…では、白皇の兄は此処にいるんだな?この、シンオウ地方に」 「はい、おっしゃる通りで御座います。ゼルジース様は今―――」 ドオオォオオオン―――― 突如、喫茶店から衝撃音が響いた 「!!?」 「なっ…何だ!?」 「何が起きた!?」 「――……嗚呼、大した事ではありません。今、ポケモンバトルが終わったところです。ゼルジース様と彼等の、バトルが」 「「「!!!!」」」 「どうぞ、こちらへ。貴方達をゼルジース様の元へご案内しましょう」 優雅で、慣れた動作で滑らせて ガイルは喫茶店の扉を開けた 「レンガルス様、どうぞゼルジース様との再会を。バトルフィールドは奥の部屋に御座います」 ガイルは変わらない態度でそう言い、恭しく一礼をした → |