時が、きた
















Jewel.50













突如として襲いかかる謎の記憶の断片に激しい頭痛。立っていられないくらい激しい頭痛にミリは苦悶の表情を浮かばせ、崩れた際に身体を支えてくれた刹那の腕にしがみつくしかない


しかし思わぬ事が起こってしまう

自分達しかいなかった小島に―――招かれざる第三者の存在が、こんな時に現れてしまうなんて








「嗚呼…貴女にお会いしたかったですよ。盲目の聖蝶姫、いいえ……愛しい愛しい氷の女王……。嗚呼、素晴らしい……なんて溜め息が出てしまうくらい、美しい女性なのだろうか………。にしても本当に顔見知りだったんですね。全く、抜け駆けは卑怯ですよ」

「ハッハッハ!愉快愉快、君をからかうのはやはり楽しい!抜け駆けもなにも偶然という運命の悪戯で出会えた奇跡に卑怯と言われてもな!愉快愉快!」









突然現れた、二人の男性

一人は、黒髪に紺碧色の瞳を黒斑眼鏡に隠す、所謂バーテンダーらしい格好をしている二十代後半の男

男は恍惚とした表情を浮かばせ、歪んだまなざしで刹那の腕に崩れるミリの姿を―――見定め、そして舐める様な目線で見つめていた

もう一人は――――







「…!」

《あの人は…!》

《いつの日か我々に不快感な思いをさせた奴だな。何故、また我々の前に現れる。否、何故…此処にいるんだ》







それは、全てが始まる前の―――まだ平和で平穏な微温湯みたいな日々の最中

空腹に堪えきれずフラリと立ち寄った喫茶店の中で偶然にも出会ってしまった―――あの忌々しい彼岸花の羽織りを羽織った、特徴的な話し方をする初老の男。彼はあの頃と変わらない―――ミリが嫌悪する彼岸花の羽織りを羽織っていた


忘れていた囁かな日常の中で過ぎ去った記憶は、改めて眼前でおかしそうに笑う男の姿を捕らえた事で鮮明に記憶が蘇る。もう会う事はないだろう、否、会いたくないと記憶から抹消したにも関わらず―――何故、また自分達の前に現れたのだろうか

しかも、もう一人の人間を連れてまで







《…気をつけろ、奴等の波動…醜く歪んだ波動は真っ直ぐにマスターを、狙っている!》






朱翔の波動だからこそ気付ける―――眼前の男二人の異様な感情

醜く歪む、真っ黒い感情が入り交じった波動。どうしてこんな感情を秘めているのかなんて分からない、否、分かりたくもない。少なくともこの波動の矛先は真っ直ぐに刹那の腕で苦しむミリに向けられている―――つまり奴等は間違いなく自分達の敵だ



朱翔の声ですぐに皆は戦闘態勢に入る

先頭で陣を取るのは、五勇士の彼等

その後ろに三凶を





―――あの時と同じように







しかし………







「キューン…!」
「ミロー!ロー!」

《ミリ様、大丈夫ですか!?》

「っ、あ…ァぐっ、……あ、たまが…ッ!」

「Zzz……(パチッ)チュー?チュ?……チュリ!?」

《桜花ちゃんちょーっとこっちにおいで〜!》

「い、…っ……う、ァ゛……!」

《《ミリ様!!》》
《《主!!》》







彼等自慢の司令塔は、意味を成さない状態へ

今まで見た事がなかったくらい尋常じゃない苦しみ方に、敵を前にしては成すすべもない



一体、何が起きているというんだ







《蒼華、時杜、刹那!主を頼む!》

《五勇士としてマスターを守る!》



《皆…気をつけて!》

《主、こっちだ》

「…!」







司令塔が使えなければ、自分達でどうにかするしかない

大丈夫、なんたって彼等は幾つもの悪党集団を懲らしめてきたのだから。攻撃パターンもミリの指示のタイミングも熟知している。奴等が一体何者なのかは関係ない。ミリを狙い、この小島に来た以上自分達のする事は一つしかないのだから



皆が戦闘態勢に臨んだ一方、ミリの耳には絶えず記憶が流れ―――同時に鈴の音が鳴り響く










リーーン…








「女王、卿は素晴らしい!既に我等の存在を認知し、我等に立ち向かおうとするその美しい姿勢!天晴れ天晴れ!やはり私が見込んだだけはある!」

「この者はお前の愛する者なのでしょう?…どうです?愛する男に攻撃される気持ちは?」

「ククッ…いい眺めですよ女王…!」









「ふりり〜!」
《せっかくミリが名前を捨てる儀式っぽいことしてくれたのに!台無しだよ!》

「ガァアア!」
《ミリの敵なら容赦はしねェ!この暴君の破壊神がぶっとばしてやんよ!》

《何者かは知らない。が、我等五勇士の前に現れ、主を狙うとなれば私達は容赦はしない!》

《五勇士の一人、鮮血の騎士として貴様等をこの手で倒す!マスターを傷付ける者は誰一人許さない!》

《この忌々しい能力が…また使われる日がくるとはな!》












リーーン









「皆!しっかりして!」

「そんな…!三匹が倒れるなんて…!」

「お願い"  "……目を覚まして!!」










「ミロー!」
《ミリ様の敵…!皆さんと一緒に私も戦います!》

「キューン…!」
《今まで戦わなかった分、今此処でお役に立ちますれば…!》

《早くこの方達を倒して、お家に帰ってミリ様の手当てに入らないと!ミリ様がすっごく心配です!》

「チュリチュリー!」
《ま、ママのかわりに!桜花おうえんしゅる!がんばれー!》










「君達にお願いがあるんだ」

「このボールをポケモンセンターに持ってって欲しいの。なるべく遠く、もっと遠くへ。…ほら、こうすれば落とす事はないから大丈夫。ちょっと大変なお使いになると思うけど、ちゃーんと出来たらとびっきり美味しいおやつを作ってあげるから」

「振り返ってはいけないよ。どんな事があっても、絶対振り返っちゃ駄目だから。そして、皆に伝えて欲しい。今日の事を、敵の事を…――――彼等にバレない為にも、今から君達を遠くに飛ばす」








「またね――――…白亜、黒恋」









リーーーーーーン…











「…………ア、ぁ……あ……ッ!?」














思い出した



思い出した



思い出した



思い出してしまった



忘れてしまっていた






何 故  




   ナ ゼ










何故私は此処にいるの



何故私は忘れていたの









な ん で    




   ど う し て 




い や !








う そ だ !!   











忘れいただなんて



認めたくない







と て も 大 切 な 記 憶 を















ド ク ン …


















「欲望に忠実であれ。欲しい物は奪ってでも手に入れろ。その姿こそ、人間の最も醜く美しい姿だ」

























「あ、な、た…は……」








私は、奴等を知っている

"奴等"という存在を、知っている








「ふむ。そういえばまだ自己紹介をしていなかったな。せっかく二度目の奇跡を果たせたのだ、こちらが名前を知って女王が知らずとしたら不公平。尚且かの有名なポケモンマスター相手に大変失礼極まりない!…よろしい!ならば私の名前を教えよう――――私の名は、カンザキだ。女王よ、ポケモンマスター就任を祝いし、紅茶でも一緒に飲もうではないか」

「私の名前はチトセと申します。愛しい聖蝶姫、どうぞよろしくお願いします。自慢の紅茶で、貴女をおもてなしさせてください」










リーーン…









リーーン…







リーーン…












ピキピキッ、ピキッ……





―――――パキンッ……










ミリの耳にある

大小二つあるクリスタルの内の一つ


淡い光を纏っていた小さいクリスタルが


割れて、弾けた









―――――――――
――――――
――



























コポポポポ…




コポポポポ…








暗い暗い、暗黒の世界





海の中に沈む、四つの影










『――――ミリ、貴女こんなところにいたの?』







コポポポポ…






コポポポポ…







沈んでいく四つの影



四つの影は、奥へ奥へと沈んでいく








『随分探したわよー。まさかこんなところにいたなんて。…まあ、でも少なくても謎は解けたわ。そういうことだったのね。納得したわ』









コポポポポ…






コポポポポ…






堕ちていく、

ただ深く深く、深海まで







『……あらあら、傷だらけになっちゃってるわね。貴女もそうだし、貴女のお仲間さんも。……見ない内に貴女の心も随分やられちゃっているわね。無理もないわ。…こんな姿、彼等が見たらどうなるか……ま、私は遠くで見守っているわ






そんな事よりも貴女が居なくなった現代、すっごく大変な事になっているわよ?』










コポポポポ…







『早く帰りなさい、貴女の仲間が待っている。貴女が思い出した記憶、貴女の精神的配慮を含めて少しだけ封じましょう。思い出すのも出さないのも、貴女次第よ』













嗚呼、もう何も分からない


何も思い出したくない





自分がとても嫌になる



だから記憶なんかに、振り回されたくないのに




私はなんて―――愚かなんだろう












『―――また、この世界でもこの子の意図関係無しに、傷付けてしまうのね……可哀相な子』













帰る場所なんて一つしかない


帰らないと。皆が待っている



アスランさんやダイゴがいる場所が、私達の居場所


約束も果たしにいかないと

シロナやデンジにオーバー、ゲン達皆が私達の帰りを待ってくれているのに














「(まだだよ、まだ私は――――)」












暗闇の中、腕を伸ばす

掴もうとしても何も掴めない

深海の中、暗闇の中




ただただ私達は海に沈んでいくだけだった
















忘れた大切なモノを、置き去りにしたままで













(これが、六年前の全ての真実)


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