タイムリミットは

あと少し
















Jewel.49













「――――ちょっと遅くなってしまったね。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうものだよ。…他の子達のご飯は大丈夫そうかい?」

「大丈夫です。連絡も入れましたし、準備はしてありましたので。…今日はありがとう御座いました」

「君が楽しかったなら彼等も十分さ。…では、気をつけて帰るんだよ」

「はい。後はよろしくお願いします」









ミリの為に開かれた送別会は約四時間行なわれ、最終的に解散となったのは夜の9時になってしまう

出席した全員は勿論片付けに取り掛かる事になるが、ミリの場合は違った。送別会を終わらせた以上、ミリはもう今日でホウエン支部の職員ではないし、もう彼女を縛るモノは無い

ミリは皆が見送る中、リーグを一足先に帰る事になった







「ミリ、気をつけて」

「ダイゴ…今日はありがとね」

「君が楽しく過ごせたなら、僕は満足さ


 …ミリ、お願いがある」

「…?」

「これが最後にはしないでほしい。別れだなんて、言わないでくれ。僕は待っているよ、君が帰ってくるのを。僕らは此処で待っている。……シンオウのシロナさんに、どうかよろしく伝えてくれ」

「うん、うん。勿論だよダイゴ。ちゃんと、帰ってくるから安心して」








ダイゴの手を優しく握って、ミリは言う

ダイゴは寂しがり屋だからねぇ、と余計な一言に苦笑を零しつつ―――ダイゴは握っていた手を引きミリの身体を抱き寄せる

おふっ、と見た目に反する反応にプッと笑うダイゴ。初めて抱き寄せた反応がそれって……と笑いたくなる衝動を押さえつつも、儚い存在をしっかり抱き締める。予想外な行動をしたダイゴにあわあわし始めたミリの頭を愛しそうに撫でて、ダイゴは言った







「いってらっしゃい、ミリ」







見送りが出来ない僕を許してくれ。シロナさんやシンオウの人達にミリを取られてしまうんじゃないかって、引き止めてしまいそうだから

それに君の事だから、何も言わずに行ってしまうんだろう?

ミリから身体を離したダイゴは、ダイゴらしい爽やかな笑顔でミリを見送ったのだった








「ミリちゃーん!気をつけてねー!」

「ミリー!寄り道すんなよー!」

「ミリさん、どうかお気をつけて。帰ったらゆっくり休んで下さいね」

「またのぅ、ミリ!また会おう!」

「ミリさん!どうかお元気で!!」









蒼華の背中に乗り

肩には時杜、腕にはチュリネ

宙には刹那と闇夜と蒼空と愛来


最後の最後は、皆で彼等とのお別れを







「皆、また会いましょうね」









再来と再会を願って

ミリはリーグを去る



皆に見送られながら

ミリ達は振り返らずにまっすぐ―――夜の彼方へと消えていったのだった














リーーン


リーーーーン…









(嗚呼、ついにきてしまう)


(誰もが望まず予知しなかった、出来事が)








リーーーーーン……






―――――――
―――――
――










リーグから飛び立ち、皆と別れを告げたミリ達は―――ある場所へ訪れていた






「ミローロー!」
「キューン…」
「ふりり〜」
「ガァアア!」
《マスター、お疲れ様です》


「…」
《お疲れー》
《料理、上手かった…(けふっ》
《さっきは凄い花だったな》
《花粉症だったら大惨事だっただろう》
《綺麗なお花でしたね!》
「チュリー…Zzz」

「遅くなってごめんねー」






見上げる空は真っ暗で、星がキラキラ輝いている。海原も星の煌めきに反射して、静かにたゆたう母なる海として変わらず存在していた

先程、時杜の空間を繋げる力で家でお留守番していた仲間達を呼び、全員集合をする事になる

互いに労いの言葉を掛け合いながらも―――何故、此処に集まったのだろうかと全員は疑問に思った。ミリは腕に眠る桜花を赤子をあやす様によしよしと身体を揺らしているだけ






《……マスター、何故時杜の力を使ってまで我々をこの場所へ呼んだんです?》

《此処は主にとって…あまり好まないところではないのか?》








先に口を開いたのは朱翔と蒼空

ミリがあまり好まない場所


―――そう、それはいつの日か討伐の為に使われていた、あの小島だったから









「好まない場所…そう、確かに私はこの場所はあまり好きではない。自分で指定しておきながら…この島にいると嫌な思い出しかない。それは皆も同じなはず」

「「「「「………」」」」」
《《《《《………》》》》》

「【氷の女王】、【三凶】【五勇士】……私達はこの地から、始めたんだよね。心を鬼にして、牙にして、向かってくる奴等に鉄槌を。自分達の大切な居場所を…平和で平穏な微温湯みたいな日常を、守る為に……」






そしてミリは仮面を被った

悪夢にうなされ、体調も悪化し、誰にも頼らなかったミリが―――誰にも悟られない様に被った笑顔の仮面

そしてミリの心をも、【氷の女王】は凍らせてしまった。討伐が終え、ポケモンマスターになったとしても氷が溶ける事はない

当然本人に自覚は全くない。今は【氷の女王】のなりを潜めているだけで―――スイッチ一つで、簡単に変貌してしまうのだ

【盲目の聖蝶姫】ではない、【氷の女王】として







「ねえ、皆は悔いは無い?」







突然、静かにミリの話を聞いていた皆に質問を投げ掛ける







「私は今日より、本当にポケモンマスターになった。そうなれば今までの…平和で平穏な微温湯みたいな生活は出来なくなる。……少なくともこの土地から確実に離れるのは間違いない」






それは総監から下された、絶対服従の命令






「私の唯一の悔いは……皆に付けられてしまった、忌々しい異名」








不意にミリは片腕で桜花をしっかり抱き締め、空いた手を使ってパチン!と指を鳴らす

すると何処からか現れた淡い光がキラキラとミリの周りを輝き始めた。突然自身の力を使い始めたミリを驚きの表情で眺める彼等を余所に―――淡い光は集結しあい、それは文字に具現化し始めた



文字は幾つか形造られた




【冷徹ノ氷帝】【紅き悪鬼】【沈黙の暗殺者】

【夢魔の影】【鮮血ノ騎士】【音無蝶】

【暴君の破壊神】【冷酷監視者】



ゆらりゆらり、

淡い光の文字は宙に揺らめく








「この名前がある事で、皆の個性が塗り潰され本来の皆の良さを打ち消されてしまう。名前はとても大切なものだから






――――今日でこの名前を捨てましょう。そう、こんな風に」







パチン――――



また指を鳴らした事で―――淡い光の文字は、一瞬で粒子となって消え去った









「私達はただのトレーナーとして、ポケモンとして。こんな名前なんて捨てて、私達らしい姿でポケモンマスターになろう」









リーーン







「もう何も迷う事はない。新しい風と共に、新しい毎日を切り開いていこう!私はね、こう見えてすごくわくわくしているんだよ!ルンルンだよ!」








リーーン








「だからね、皆も気持ちを入れ替えて―――これからも、私に着いてきてほしい」









リーーーーーン…



















「―――――ミリ…」












「……え?」

《?ミリ様?》

《?》

《マスター、如何されました?》

「今……誰かに呼ばれた気が…」

「「「「??」」」」









不意にミリの耳をくすぐる誰かの声









「―――――…えーっと、アポロさん、ですか…随分とまぁ…ちょっとお菓子を連想する可愛らしい名前の方ですねぇ。あ、今手元にそのお菓子ありますが、要ります?美味しいですよ」

「シバき倒しますよ」

「それから、えーっと…ランスさん、でしたっけ?最も冷酷と恐れられたランスさんでしたっけ?すみません…私、自称冷酷とか言っちゃう痛い人と知り合いになった覚えが全くもってないんですが…ププッ!…自称冷酷…自分で自称って言っちゃった…ププッ!ヤバい私この世界で初めて見ちゃったよププッこんな稀な人っているんだねププッ!自称冷酷…冷酷…ブフゥッ!!(噴出」

「ハッ倒しますよ」











「え、ちょ……こ、れは…!?」









「お前には後でゆっくり話がしたいものですよ。お前が何故、そのミュウツーをしたがえているのかを。お前とナズナ様との関係もね。…美味しい紅茶なんかと一緒にね」

「あら、お茶のお誘い?嬉しいですねぇ、ですが気持ちだけ受け取っておきます」

「おやおや、遠慮深い方ですねぇ」

「―――…女王!必ず貴女を倒しますよ。覚悟しなさい!」










「私は…いえ、私達はポケモン達の為にも、シンオウに住む人達の為にも、友達の為にも、そして皆の為にも貴方達を此処で倒す。だから貴方達の企みに負けるつもりはない。…――覚悟しなさい」



























「な、にこれ………ッ!?頭が…!」


《《ミリ様!!》》
《《《主!!》》》
《マスター!!》






突如として襲いかかる、記憶の嵐

それに伴い襲いかかる、激しい頭痛




正体不明の記憶と頭痛で立っていた身体を崩し倒れるミリを皆は慌てて支えに掛かる








リーーン…





ポゥ、と光るクリスタルのイヤリング

大小二つの内、小さい方のクリスタルが―――段々強い輝きを増し始めた




――――その時だった












「―――いやはや、何を勿体ない事を言っているのやら。せっかく付けられた異名を、有効活用せずにいてどうするのかね。愉快愉快、名は体を現すモノだというのに、異名を捨てたところで本来の姿を取り戻したとは言えないはずだろう?氷の女王よ」



「!!!」








また突如、別のところから声が聞こえた








(突然の、予期せぬ来訪者)


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