場所は変わって

此処は、とある場所―――






「――――お疲れ様でした、と言いたいところですが…今回の任務は失敗に終わりましたね」

「えぇ、残念ですが」






何処かの喫茶店の中


店内を寛ぐ複数の人影






「いい所まで追い詰める事が出来たのですが………彼女、爆風に吹き飛ばされましてね。簡単にポーン、と綿菓子の様に。今が機だと捕獲に移ろうとしたのですが……」

「そこには既に女王はいなかった、でしょうか?」

「えぇ、海に落ちる音もしなかったので落ちた可能性は低いのですが…問題が一つ、おきまして」






カウンター席に座る、露草色の瞳を持つ男、アポロ

男は胸元にしまっていた―――小型探知機を取り出した



すぐにでも男の意図が読めた眼前の―――バーテンダーであり此処の喫茶店の店長でもあるチトセは、動かしていた手をピタリと止める







「……探知機が作動しなかったと?」

「正確には彼女が海に落ちた後、ですが。……戦っていた最中しっかり表示されていたのはこの目でしかと確認しています。……しかし彼女が消えてからパタリと嘘の様に表示されなくてね……故障でしょうか?」

「……………」

「故障させた覚えは全く無いんですがね。…お返しします、今一度修理をお願いします」










「私は貴方達を許さない」







光ある強い瞳、尊き存在

圧倒的な実力

誰もが羨む存在は、記憶を失い牙を失っても強く聡明だった


―――しかし、今となれば過去の話だが







結果的に、彼女は敗れた

敗れて今は――――行方知らず









「探知機が表示されないという事は………女王は、死んだのですか?」





アポロが座る席より数席分先に座る、浅葱色の瞳を持つ男、ランス

瞳を憎しみと恐怖に歪ませていた先程の姿とは一変し―――ぼんやりと、目の前にある淹れたてコーヒーの湯気を見つめるだけ






「…死んだかどうかは分かりません。しかしあの女王が簡単に死ぬとは思えません。死体も見当たらないとなったら、生きている見込みはあるかと」

「生きていなければ困ります」

「………」

「生きていなければ困ります。そう、生きていなければ……もっと女王に復讐しなければ……もっともっと、私が強い事を知らしめてやらなければ……この罪の鎖を切り離す事は出来ない……生きていなければ、困ります……」






口はぶつぶつと呪文の様に唱え、視線はぼんやりと虚空を見つめるランス

半年間自分を苦しめてきた存在をやっと自分が倒せる日が来たと心踊らせるランスであったが、現実は自分の納得がいかない結末に終わってしまう

張り詰めていた緊張感が一気に失ったランスの瞳の光は虚ろだ。ただただ彼女が生きている事を切望する、もう一度この手で全ての決着をつけたいが為に

鬱モードに入ったランスの姿を見て、アポロは小さく溜め息を吐いた








「実際にどうなのですか?」

「どう、とは?」

「『彼岸花』としてこの状況を、ですよ。私は女王が生きていると思っていますが、そちらはどうなんです?それから今後の行動も知りたい。最終対象者を失った今、次に我々がすべき事とは?」







冷静に、淡々とアポロはチトセから次なる指示を待つ

忘れてはならないのはアポロはロケット団で、『彼岸花』と手を組むのはあくまでもロケット団復興の為だけに動いている。ランスの様な復讐心で動いているわけではない



止めていたコップを拭く手を再開させたチトセは、小さく息を吐いた








「―――私も彼女が生きていると確信しています。貴方達がどう采配を振るったかは把握しきれていませんが…彼女がそう簡単に死ぬとは思えません」

「『彼岸花』として、そう捉えても?」

「構いません、あの人も同じ考えです。彼女が簡単に死ぬとは思っていません。……何故なら、今回の件で私達は彼女の生命力の強さを思い知りましたからね」

「生命力の強さ…?」

「えぇ、彼女が行方不明にさせたのは紛れもない、私達『彼岸花』ですからね」



「―――!」

「!!!」









二人は驚いた




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