三日月が燦々と輝いている 空を支配する三日月の月光だけが世界を照らす唯一の光。電灯が無いこの場所は月明りでしか頼るものは無い 特にこの場所は月明りだけが頼りで、野生のポケモン達が主に生活している場所でもある為、そんな人工的なモノなんて何処にも置いてはいない 此処は、シンオウ地方230番水道にある小島 その小島には、大勢の人間達の姿があった 「――――すごい、ううん…これは、酷い…!」 「すっげー…生々しいぜ…」 「激しいバトルをしていたのがよくわかる光景だね……」 小島に集う人間達 それは―――数時間前にリゾートエリアにて敵に襲撃され、撃退したチャンピオンや四天王、ジムリーダーを始めとした彼等の姿 途中行方知らずとなった自分達にとって守るべき大切な存在を救出しに、波動使いのゲンを先頭に波動を辿って救出に向かうものの―――嘘の様にパタリと感じなくなった、波動。何かの間違いだと一縷の希望を持ってこの小島にと足を踏み入れた、のだが… 彼等が見たものとは、言葉に出来ないくらい壮絶な光景だったのだから ――――地面は抉れ、岩は砕かれ、花畑であっただろうソコは跡形も無く花が無残にも散っている。大木もへし折られ、中には焼けた跡もある 尚且、それはそれは立派な氷柱が浮世絵離れの様に存在していたのだ。これは誰がやったかなんて、それこそ愚問。氷の中には、きっと同じように操られていたポケモン達が―――安らかな表情で眠っていた 「…此処で間違いない。ミリはこの場所で戦い、この場所で……ッ!」 「ミリ……ごめんなさい、わ、私達が、ミリの傍から、離れたばかりに……っ!」 「……僕らは結局、無力だ……守りたいモノも守れやしないッ……クッソオオオッ!」 「ゲンさん、シロナさん、ダイゴさん…」 此処に来る前、襲撃されてからずっとミリの無事を願い、確信し、希望を持って激しいバトルを繰り広げてきたシロナとダイゴとゲン ただでさえ疲弊し疲労していたのに、希望を呆気なく打ち砕かれた絶望感。此処にいる誰よりも、ショックは大きいだろう 波動が分かるからこその結末にゲンは肩を震わせ、シロナは金の瞳から絶望で歪む涙を流し、ダイゴは己の無能さに叫び、地面を強く殴った。三人の傍にいるナタネは彼等の絶望しきった様子に、ただただ隣のシロナの震える身体を擦るばかり 「おいオーバ!そっちはいたか!?」 「いねえ!こっちはハズレだ!」 「チッ!他を捜すぞ!……お前ら!!ボサッと感心してないでこっち手伝え!」 「バグ!お前はあっちだ!リョウ!お前は向こう!ヒョウタはこっちだ!」 「お、おうよ!」 「分かった!」 「は、はい!」 波動が消える=死亡説 そんな事絶対に認めない、諦めたくないと躍起になり、己の絶望感を振り切り一抹の思いで捜索を開始しているデンジとオーバ。途中眼前の光景に呆気に取られていた三人を捜索に加えて シンオウの夜、シンオウの土地は寒い。しかしそんな事は言っていられない。早く捜索して早く見つけなければ自分達がやってられなくなる 嗚呼、また絶望なんてしたくない 大切な存在を、また失うなんて そして―――― 「――――――…あぁ、俺だ。………すまない、間に合わなかった。…………………あぁ、そっちは話が済んだか。…………分かった、伝えておく。また後で再会しよう、今からお前のフーディンをテレポートさせる」 彼等より少し離れた場所に立つのはゴウキ 彼は携帯である人物に連絡していた その人物は誰か―――言わなくても分かるだろう。簡単に端的に電話越しで会話をした後、会話終了ボタンを押す。これ以上話をしたところで意味を成さないのは自身も相手も分かっていたから 不意に口から出てしまうのは、深い深い溜め息 自身も絶望感でいっぱいなのをなんとか振り切り、ゴウキは―――少し離れてただ海を眺めるレンに、静かに声を掛けた 「――――ナズナに連絡は入れた。向こうも話が済んだそうだ。…アイツも至急こちらへやってくる」 「―――――…………」 「……お前がいつも大事にしていたその腕輪、何かあるとは思っていたが…真実は時として、残酷だな……」 「…………」 道中―――なんのキッカケもなしに勝手に真っ二つに割れ、スルリとレンの手首から離れたソレ ひび割れた事があっても真っ二つに割れる事は無かったソレ。しかし腕輪の意味と作用を分かっていたからこそ―――確信していた希望が呆気なく打ち砕かれ、さらにレンを絶望に追い詰める結果となってしまった ゴウキは腕輪の存在を知っていても、作用までは知らなかった。当然だ、何故ならこの腕輪は二人の手錠の役割でもあり、繋がりだ。たとえ仲間のゴウキとて容易く知られる内容ではない しかし、今回を機に初めてレンの口から知らされる事になり―――腕輪の作用を知り、レンと同様に絶望する事になる 「…白皇、気をしっかり持て。……気持ちは痛いくらいに分かる。だが、此処でこそ俺達が舞姫の無事を信じなければ、誰が信じるというんだ。諦めるな……舞姫も、刹那達の事も信じるんだ」 そう言って自分に言い聞かせないと―――流石のゴウキも冷静でいられない精神状態で 自分でもこんな状態なら、目の前の男はそれ以上の絶望だろう 先程からレンは海を眺めていた 真っ二つに割れた腕輪を、愛しそうに握り締めながら 「白皇…頼むから、」 「………また絶望するな、か?」 「…………」 「安心しろ。…俺はまだ堕ちてない」 「…………」 そう冷静に、静かに言うレンだったが―――振り返ったピジョンブラッド色の瞳は完全に絶望に染まりきっていて 意地なのか、プライドなのかは分からない 少なくとも本人は毅然で冷静な態度を取っているだけで―――絶望した瞳の奥に見えたのは、絶望を上回るくらいの憎悪の感情が見え隠れしていた 「こんな腕輪ごときで簡単に人間が死ぬわけじゃねぇ。…俺はミリを信じている。絶対に生きている。…必ず俺の元へ帰ってくる。んで、割れちまったコイツを直してもらって、一件落着。何も問題はない」 「…………」 「ミリが戻ってくる為にも………アイツら彼岸花を、ぶっ飛ばしてやんねーと、ミリが安心して暮らせられねぇしな。お前だって気持ちは一緒だろ?」 「……あぁ」 「きっとミリは奴等のところにいるに違いねぇ。最悪な事になる前に、早く対策を立てて奴等をぶっ飛ばしに行くぞ」 絶望しているピジョンブラッドの瞳 憎悪に燃えた感情 負の感情で入り交じった、レンの姿 ―――嗚呼、世界よ コイツが一体何をしたというんだ 「(舞姫………頼む、無事でいてくれ…)」 無事でいてくれ 早く、白皇の元へ戻るんだ 早く奴を、安心させてやってくれ そして白皇を止めてくれ じゃないと―――取り返しのつかない事に、なりかねないのだから 歪んだ感情、本人はまだ気が付かない → |