皆の笑顔が眩しい



わざわざ私の為に


ありがとう











Jewel.48













「―――うん、いいね。流石ダイゴだよ、もう私が教える事はなにもないよ」

「ありがとう、ミリ。これで僕もチャンピオンとして成長したかな?」

「したした。頑張ったダイゴに頭よしよししてあげちゃうよ」

「それは嬉しいねぇ。それじゃお願いしようかな」

「…」



スパーン!



「あたぁっ!酷い蒼華ちゃん!」

「…」

「ハハハッ、残念」







此処はチャンピオン室の中


部屋の中にはダイゴとミリ、そして三強達の姿






「むー…蒼華ちゃんめ…」

「…」

「キュー(なでなで」

「まったくもう。……さて、これで私も役目が終わったってね。いやーいい達成感だよ〜」

「……」

「うん、そうだね。楽しみだね、シンオウ」

「!…シンオウに、いつ戻るんだい?」

「んー…ダイゴの引継ぎが終わったらって考えてたから、なるべく早めに。早くシロナに新しいホウエンチャンピオンの話をしたいしねー」

「…そうか……」








元ホウエンチャンピオンとして新チャンピオンのダイゴに引継ぎを始めてから、約二週間が経過していた

ロイドとミレイがホウエンを去ってから、約一週間未満。二人が去ったリーグは物足りない空気があったが、新任四天王二人の新しい風のお陰もあり、徐々に定着しつつあった

四天王とチャンピオンとでは引継ぐ内容も仕事量も違ってくるので、どうしても時差が起きる。且つ、ダイゴの確認作業(と言う時間稼ぎ)もプラスされ少々時間が掛かっていたが―――今日で本当に、引継ぎを無事終わらせる事が叶った

ダイゴの寂しげな表情なんて露知らず、ミリの表情は達成感に満ち溢れ、上機嫌にテンションを上げる






「本当に、いつかダイゴにシロナを紹介するよ。私の可愛い可愛いシロナちゃん!あ、ダイゴ!シロナの美貌に惚れちゃダメだからね!(ビシッ!」

「キュー!(ビシッ!」

「ミリ、それもう十回目。てか指差すところもこっち向いてないよ……」

「あれ?」







この鈍感娘は一度自分の容姿を見直した方がいいと思う

ダイゴはやれやれと溜め息を吐いた
















数時間後――――――



時刻は、夕方を過ぎようとした












「お腹空いたねー。夕飯何にしよっかー」

「…」
「キュー」
「……(くぅぅ」








さて、そろそろ定時の時間帯

特に何もする事もないし、残業もない

そろそろ荷造りでも始めて、いつでも出発出来る様にしようかな







「ミリちゃんと三強達発見!ミリちゃーん!まだ帰らないでー!」

「!………あらー、フヨウ。御機嫌よう。そんなに急いでどうかしたー?」

「あのねー、ちょーっと来てほしいの!こっちこっち!早く早く!!」

「?はいはーい」

「…」
「キュー?」
「……」








数分後………







「「「ミリさん!!」」」

「「「お待ちしてました!!」」」

「ジャジャーン!うえるかむ!ミリちゃんの送別会だよーん!」

「おぉ、来たか!」

「どうやら間に合ったみたいですわね」

「おーっす!ミリ!安心しろって!耳の事も考えて今回クラッカーは無しだぜー!」

「え、え。なになに?え、皆いったいどうしたの?」

「…」
「キュー…!?
「……」







ミリがフヨウの後を着いて行き、案内された場所は―――集会として広く使われている中央広場

そこにはダイゴ、四天王を始めとした大勢の従業員達がミリを待っていたのだ







「やあミリ、先程振り。さあそんなところにいないで主役はこっちに来るんだ。美味しい食べ物もたくさんあるよ」

「!キュー!」
「……!」

「???…ダイゴ、これはどうなってるの?」

「やだなぁミリ、決まっているじゃないか!」

「「「「我等がポケモンマスター、貴方の為の送別会です」」」」

「Σ!…凄いね、四人が言うと流石に迫力があるね」

「……あらー!」







そう、これはミリの為に計画された送別会

ステージの上にあるテロップが、花色とりどりに「ありがとう、ミリさん!」と盛大に書かれていたのだ

たくさんあるテーブル、その上にあるのは様々な料理の数々。ミリの耳の為にと流れるのはクラシック曲。談笑しあうリーグの仲間達。広場にいる人達の人数は―――此処に勤めている従業員ほぼ全員と言ってもよかった

びっくりした様子で固まるミリに、してやったりと笑みを深めるダイゴと四天王達。彼等がミリの傍から離れた隙を見て―――後から現れたアスランが、ミリに小さく耳打ちをする







「―――兼ねてより計画していたのだよ。本当だったらあの二人もいて欲しかったが……今日の為に、全員全て自分達の仕事を終わらせて駆け付けてくれたというわけさ」

「!…そうだったんですか…」

「遠慮無く、皆の好意を受け取りなさい」








「おーーし!みんな聞けーーー!!」








いつの間にか人の波に流され、姿が見えないカゲツが、一際大きな声を上げる








「主役がやってきた!となればやる事は一つだ!今夜は無礼講だ!楽しもうぜお前らァ!!」

「「「イエーーーーイ!!!」」」











「おー、嬉しいねぇ」

「…」

「フフッ、心夢眼を止めておこう。久々に皆も楽しんでおいで、美味しいご飯が待ってるよ」

「……!」
「キュー!」

「…」

「蒼華は行かないの?」

「…」

「あらあら。それじゃ傍にいてね〜」








料理があるテーブルに飛び付く時杜と刹那を見送り

変わらず傍にいる姿勢でいる蒼華の身体を撫でる


お留守番チームの夕飯はお家にいる炎妃にお願いしよう―――そう考えているミリの元に雪崩の様に人が押し寄せる







「ミリちゃーん!ジュースどうぞ〜!」

「わたくしが何か料理を取りますわ。何かお好きな料理を行って下さいまし」

「カッカッカッ!楽しいのう!」

「いっちょギタリストとして一曲弾いてやるか!」

「ミリさん!改めてサイン下さい!」

「チャンピオーン!一緒に写真撮りましょう!」

「フフッ、順番ずつねー」

「ハッハッハ!楽しい夜になりそうだ!」











楽しい楽しい送別会が始まった!




―――――――
―――――
――
















『――――はい、皆さん。楽しんでいるかと思いますが、一旦こちらに注目して下さい』






ステージの上からマイクを使い声を響かせる

声の主は―――リンカ副幹部長だった

今までわいわいガヤガヤ楽しく笑いあっていた声が、リンカの掛け声でサッと静かになる

ステージの上にはマイクを持つリンカにアスラン、各部署の部長の顔が揃い―――ダイゴの姿もそこにあった

彼等の手には、立派な花束が色とりどりに咲いていた








『時間もそこそこ終わりに近付いています。此処でチャンピオンからミリさんに、花束贈呈も含めて発表が御座います







―――ミリさん、どうぞステージの上まで起こし下さい』








名指しで呼ばれたミリは頷き、周りの視線を一身に受けながら蒼華と共にステージに足を運ばす

料理や遊具で離れていた時杜と刹那が戻って来る事で、三強を引き連れてミリはステージの上に上がる

相変わらず見ていてハラハラさせるが、足取りがしっかりしている。本当に盲目かと疑いたくなる堂々さ。凛として優美で美しい姿、誰もが見惚れてしまう彼女の姿はけして忘れる事が出来ない存在なのは確かで



(嗚呼、でもしかし)

(彼等も結局、忘れてしまうのだ)




カツン――――




ミリがステージの上に立ち、彼等の前に対峙した






『ミリ、ホウエン支部を代表して君に伝えたい事があります』








リンカからバトンタッチしたダイゴはマイク手にし、語り始めた







『ミリ、君がホウエン地方に来てから一年が経つ。僕は親友として君と一緒に過ごし、君を見てきたつもりだった。…けれど、甘かった。僕が知らないところでミリはホウエンの為にたくさん尽くして、皆の為に頑張っていたんだと、チャンピオンになって引継ぎをしていく中で分かった

ミリ…君は本当にすごいよ。君が積み重ねてきた努力、それが実って、認められて、ポケモンマスターになった。誰もが成し得ない事を君はやったんだ。…僕は友人として、部下として、すごく誇らしい思いだ』

「ダイゴ…」

『本当だったら…変わらずチャンピオンを続けてもらいたい、ずっとホウエンにいて欲しい…僕に限らずきっと誰もが同じ事を思っているはず。けれど此処にいるホウエン支部の皆を始め、ホウエン地方全ての人達が君に感謝をしている。だからこそ言わせて欲しい。ホウエン支部…いや、ホウエン地方代表として








―――ミリ、今まで本当にありがとう。ホウエンチャンピオン、お疲れ様でした』







ワアアアアアア―――







リーグの皆からの歓声と、拍手

ありがとう、そう言って花束を渡したダイゴの表情は―――泣きそうな表情だった。しかし幸いな事に今のミリには心夢眼をシンクロしていなかった為、ダイゴの表情に気付く事は無かった。ミリはただ嬉しそうにダイゴから受け取った花束の香りを楽しんでいた

各部署の部長達からも労いの言葉と共に渡される。部署も結構あるので花束もかなりの数になってしまい、刹那や時杜、急遽ボールからヘルプとして出て来た闇夜や蒼空や愛来の手も借りての花束贈呈となってしまう

花束の数だけ皆の気持ち

花に囲まれたミリはくすぐったそうに、嬉しそうに笑った








『―――皆さん、わざわざ私の為なんかにこのような素晴らしい送別会を開いて頂き、ありがとう御座います』








ダイゴがマイクをミリに向けている事で可能とした、最後の感謝の言葉

全員はミリの言葉を一字一句漏らさずに耳を傾ける







『びっくり過ぎて、何から話せばいいか……皆さんのお気持ちが嬉し過ぎて、頭が真っ白で……言いたい事が上手く言葉に出ません』








でも、少なくともこれだけは言えます





ミリは微笑む

仮面の無い、優しい微笑で











『皆…今まで、こんな私に着いて来てくれて…本当にありがとう』










ありがとう、本当に

私は皆が大好きです





優雅な動作で頭を精一杯下げたミリに降ってくるのは、温かい拍手の嵐

笑顔で拍手をする者、涙を流す者達もいる中で




頭を上げたミリの光りの無い瞳には、迷いは一切無い

ミリは幸せそうに、花束と手持ちのポケモン達に囲まれて幸せそうに笑うのだった





















リーーン


リーー――ン


リー―――――ーン……




徐々に鈴の音が強く鳴り響き


ミリが付け続けていたクリスタルのイヤリングが、ゆっくりと光を帯びてくる事に気が付くのは―――もう少し先の話………









(束の間の幸せな時間も)(すぐに崩壊へと迫っていく)


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