感謝をしています

今まで支えてくれた二人へ




また、会える日まで











Jewel.47













ロイドとミレイの事を改めて紹介しよう






まず第一関門として守ってきた、草タイプの使い手ミレイ。草タイプだからこそ可能とする「香」を扱う珍しい戦法を駆使する凄腕のトレーナー。ふんわりと弾ませる柔らかい黄色の髪に透き通った常磐色の持つ、元気で活発、四天王きってのイマドキでムードメーカーな女性。明るいキャラクターなミレイは子供達に人気No.1だ

四天王になったのは今から約五年前、当時も四天王で活躍するプリムに挑戦したくリーグ大会に出場したのがキッカケ

イッシュ地方のセイガイハイシティ出身。当初聞き慣れない地方の出身という事もあり、誰も触れた事がなかった為分からなかったが―――実は大企業の跡取り娘だから驚いたものだ。ダイゴが就任して会話の流れで「分かるよ〜同じ跡取りとして大変だよねー」といった台詞で初めて発覚した

好きな事はガーデニング。サイユウシティのフラワーロードの管理は殆どミレイが手掛けている






第二関門を守ってきた、悪タイプの使い手ロイド。「闇紅の狙撃者」という異名を持つ、相手の急所を的確に確実に狙い落とすという悪タイプの特性を知り尽くした凄腕のトレーナー。普段から全身を黒のスーツに身を包み、妖しく光らす紅色の瞳を黒い帽子で隠す、四天王きってのミステリアスな男。その知的で端整な顔立ちに高身長というルックスもあって、女性No.1人気を誇る

彼も四天王になったのはミレイと同じ五年前でミレイと同期にあたる。なにげなしにリーグ大会に挑戦し、なにげなしに四天王のポジションについた彼の心情は今も分からず

カントー地方タマムシシティ出身。四天王を務める前はフリーの外科医としてトレーナー業をやりながら医師として患者を救い続けていたらしいが、真相は謎のまま。今は医師として活動しているのかと聞いても結局分からず終い

好きな事も休日どう過ごしているのかも全て謎。唯一弟子であるカゲツがロイドの事を「ダーツが上手いぜ。ダーツ。メスでダーツしてたけど」と少し常識離れした話が浮上したが





異色なコンビだったが、少なくとも四天王にとって大切な存在だったのは間違いない




ミリがチャンピオンになる以前にいた前任のチャンピオン―――二人は四天王として職務を真っ当しても本心はあまり前任を好まず、前任の横暴さに呆れ、一時は四天王を降りる覚悟までしていた時期もあった

しかし、今は違う

ミリがホウエンに来た事で四天王の自覚が持ち、誇りをも感じさせてくれた。四天王にやり甲斐を感じ、また心から四天王としてミリに尽くした気持ちへと変わった。昔の自分達と比べたらかなりの心の変化だっただろう

でなければ、心の底から気持ちを込めて――――「我等がチャンピオン、貴女の御のままに」なんてくさい台詞が吐けたものじゃない


たとえ自分達より年下で、か弱くて、脆く儚い存在だとしても――――守ってあげたい

そんな擁護欲を燻らせつつ、偉大な背中を持つミリの事が、二人は大好きだった









「――――ロイド、ミレイ。二人はホウエンを去ったら次は何をするつもり?」







ホウエン支部、協会内の中央広場

色んな人が行き交う中―――広場の隅にある、小さな休憩所

そこにはミリと三強達、そしてロイドとミレイの姿があった






「私は……家業を継ぐつもり。そろそろ帰って来いってうるさいからさ〜」

「…話に聞いた、跡取りの事?」

「うん。元々四天王になったのも、経営がどんなものか勉強する為でもあったし……それを抜きに、トレーナーとして何か立派な事がしたい!ってね。当時プリムさんが私の憧れだったから、四天王になってトレーナーとして頑張りたいって思ったんだ」

「そっか。…家業継いだら、トレーナー業は辞めるの?」

「そうなっちゃうね…厳しいからさ、お父様が。でもね、それでいいと思ってる。だって私達、満足してるもん!出し切ったんだ、全てをね。ミリちゃんがポケモンマスターになってくれた、本当にそれだけで私達は満足してるんだ」

「ミレイ……」








のんびりと、自動販売機で購入したミックスオレを飲みながらミレイは話す

広場は色んな人が行き交っている。今となったら慣れ親しんだ光景だが、もう暫くしたら見れなくなる。寂しい気持ちを抱えつつも、ミレイは隣に座るミリに笑いかける

視線は相変わらず合わず、隣に座っている為、横顔にしか見えない。しかしミリはしっかり視てくれている事は分かっている。暫くしたらミリにも会えなくなる…自分は彼女にとって、ちゃんと"友達"になれたのかなぁと、その横顔をぼんやり眺める。(ちなみに三強達はのんびり自由に過ごしている

クスッ、とロイドは笑う







「セイガイハイシティは私も耳にしています。セイガイハイシティはイッシュ地方で随一のリゾート地で、また大手企業になれば一つしかない。…孫にも衣装、という諺がありますが、クスッ。あのミレイがねぇ………」

「ちょーっとロ・イ・ド?後で覚えてなさい」

「すみません私難聴なので聞こえません。あと認知症なので忘れます」

「嘘おっしゃい!」

「…ロイドは?ロイドはどうするの?」

「…おやおや、私に興味がおありで?あまり大した話はありませんよ」

「ミリちゃんミリちゃん、ロイドに聞いても何も教えてくれないよー。だって自他共に認めるミステリアスな男なんだし!同期の私すら分かんないもん!」

「クスッ。自覚はありませんが…私なんかよりもミリさんの方がよっぽどミステリアスですよ?」

「ロイド、」

「……イッシュ地方のライモンシティにある大学病院に、外科医として呼ばれています。私もミレイと同じく、トレーナー業を辞め医師として専念するつもりです。医師であり、またポケモンドクターとしても」

「医師としてポケモンドクターとしても、か……ロイド、貴方は凄いよ。私も一時期勉強してたけど、結局心理士の資格しか取れなかったのに……ロイドにしか出来ない事を、するんだね」

「心理士だけでも十分ですよ。私としたら心理士をいつの間にか取っていた貴女の方が凄いですけどね。それに時期としても今が機だと思いましてね……私も、トレーナーとして悔いはない。貴女の傍で栄光を見届けた、それだけで満足しています。言葉にしなくても…貴女の事だから分かってくれると信じてます」

「ロイド……」







なにせこの儚い存在は賢くて聡い。盲目だからこそ研ぎ澄まされた感覚は言葉を不要としてくれるのだから

ロイドは缶コーヒーを飲みながらミリを盗み見る。ミレイの隣で姿勢よく座るもやはり変わらず視線は合わず、瞳に光は無い。前に見た、熱で倒れた不安定な姿は影を潜めてくれているが、嗚呼、とても心配でならない。きっと彼女はまた誰にも言わずに全てを抱え込み、自分で自分を壊していくんだろう

彼女を支えれるのは自分ではない。自分でも理解せざるおえない彼女の厚い心の壁が、あまりにも高すぎた

小さく溜め息を吐くロイドの心情を知らずに、ミレイはミリに質問を返す







「ミリちゃんは何をするの?」

「とりあえずシンオウに帰るつもり。シンオウに帰って、交わした約束を果たしにいく。後の事はそれからかな?」

「あ、出た約束!結局約束の中身教えてくれなかったよね!」

「おやおやミレイ。まだ気にしていたのですか?貴女もしつこいですね」

「お黙りロイド!ねえねえミリちゃん!最後のお願い!約束の中身を教えて!ロイドには言わないで私だけでも!」

「ミレイ、それは不公平では?」

「ロイドは興味無いんでしょー?」

「―――フフッ」










この掛け合いも、もう見れなくなる



寂しい気持ちは三人一緒

否、他の四天王を含めたリーグ全員も一緒で








「しょうがない、最後にミレイに教えてあげる。ロイドには内緒だよ〜?」

「!やったミリちゃんさっすが分かってる〜!それじゃミリちゃん、ロイドに聞かれない為にもあっちに行こっ!」

「おっけー」

「ずるいですよミレイ、私も仲間に入れなさい。不公平です」

「やーだよーーッだ!べー!!…ミリちゃん!ロイドから逃げるよ!」

「あはー、鬼ごっことか久しぶり〜。時杜ちゃんおいで〜」

「キュー!」

「こらこら、お待ちなさい二人とも」









後にダイゴ達が気付くまで、三人の鬼ごっこは続くのだった




―――――――
――――













ロイドから、カゲツへ

ミレイから、フヨウへ


引継ぎが無事終了した






――――その意味を指すのは









「ミレイって本当にお金持ちだったんだねー!すごいよ自家用ジェット機だなんて!あちしびっくりだよ〜」

「びっくりだよねー私もびっくり〜。自分が金持ちの娘だって事忘れていたから改めて自分にびっくりだよ〜」

「跡取り娘がそれでいいのかよ…」







此処は、サイユウシティにあるリーグ協会専用の飛行場

ミレイの自家用ジェット機を前に、持ち主のミレイ、ロイド――――そして二人を見送るチャンピオン、四天王、リーグ関係者の人々の姿があった







「本当に行ってしまわれるのですね…寂しくなりますわ。ロイド、ミレイ、どうかお元気で。後の事は任せて下さい」

「儂等もお主らが残した二人と共に、新任チャンピオンとホウエンを支えていく。お主らも元気でやっとくれよ」

「プリムさん、ゲンジさん…五年間、今までお世話になりました!」

「貴方達から学んだ教え、経験、そして共に歩んだ思い出はけして忘れません」

「ロイド!後は俺達に任せてくれよな!ロイドから学んだ技、ぜってーに無駄にしねーからよ!」

「うー、寂しくなるよー…」

「当たり前です。わざわざ私が教えたのですから、必ずその技、生かせて下さいね」

「あはは!フヨウ泣かないで〜」








長年共にした仲間達と別れの言葉を交わし

自分達の後を引継ぐ光に期待を寄せる






「ロイドさん、ミレイさん。本来だったら送別会に出席して頂きたかったのですが……どうかお元気で。後は任せて下さい」

「ありがとうダイゴ!気持ちだけでも十分受け取ったよ!」

「任せましたよ、ダイゴさん。このホウエン地方をね」

「はい、勿論です」

「君達には随分世話になった。どうか元気でいてくれたまえ。私達はこの地で君達の無事を願い、また君達の帰りを待っている」

「今度は上下関係ではなく、一人のトレーナーとしてお会いしましょう」

「お世話になりました!アスラン幹部長、リンカ副幹部長!」

「こちらに戻る事がありましたら必ず、一報を入れます」







寂しい気持ちは誰もが同じ


しかし皆―――その顔は、笑顔だった












「ロイド、ミレイ……」







隣には三強、胸にチュリネ


ミリは、静かに二人の姿を見届ける







「ミリちゃん、今度絶対こっちに来てね!こっちの地方には見た事がないポケモンがたっくさんいるんだから!その時、私があげたポケモンの成長を見せてね」

「さよならなんて言いません。世界は繋がっていますからね。…ミリさん、こちらの地方に来た時は是非私に連絡下さいね。待っていますから、貴女がこちらに来てくれるのを」

「またね、ミリちゃん。また今度、一緒にガーデニングしましょうね」









さよならとは言わない

必ず会えるのを信じている




ミレイはチュリネの頭を撫で、そしてミリの身体を抱き締めた

四天王の自分ではなく、一人の友として





「ありがとう、私に素敵な夢を見せてくれて。私、ミリちゃんに出会えて本当によかった。大好きだよ」







次会う時は、本当の友達として会おうね

ミレイは笑う。向日葵の笑顔で



ロイドも二人の抱き合う姿を見届けた後、いつもの調子でクスッと笑い―――ミレイと同じ様に、ミリの身体を抱き寄せた

流石に誰も彼をセクハラだと唱える者は居なかった






「我等がチャンピオン、我等がポケモンマスター……我等の、愛しいミリさん。どうか体調には気をつけて、貴女は貴女の道を進んで下さい。…貴女の四天王でいれた事、私の一生の誇りです」







そしてどうか、ご自愛下さい

貴女の傷付く姿は、見たくない












「…うん、また会おうね二人とも。私、絶対…二人に会いに行くからね」

「チュリネ〜!」






ミリは微笑む

寂しそうにこらえるも、愛しそうに微笑む優しい姿を





(二人も結局、忘れてしまうのだ)

(最後に見た、彼女の姿を)




















ブロロロロォォォ――――








「…出会いの始まりが、別れの始まり」

「…」
「キュー」
「……」
「チュリ〜」

「ロイド、ミレイ。私の頼もしくて愛しい、大切な四天王、大切な仲間―――私は貴方達の幸せを願っています。どうか貴方達も元気でいて下さい」






私は貴方達を忘れない

だから、どうか

貴方達も私達を忘れないで――――










「……ミリ、飛行機の姿が見えなくなった。そろそろ戻ろう」

「まだ、だよ」

「?」

「まだ私の耳には聞こえている…飛行機の音が。……ダイゴ、もう少し此処にいたい。皆には先に戻る様に伝えて」

「……いや、一緒にいよう。ミリの耳が聞こえなくなるまで僕も…あの二人を見届けるよ」

「…ありがとう」












リーーン…




何処かでまた、鈴の音が鳴った





(ミリの耳が聞こえなくなるまで)(結局全員で見送り続けるのだった)


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