ちょっと強引かもしれないけど

私は貴方が、いいんだよ




貴方が、本当のチャンピオンだから










Jewel.45













一足早く帰路に戻ったダイゴの元に、一つの紅い空間が開いた。初めて見るその異様な紅い空間だったが、疑問を浮かばせる暇もなく身体が勝手に吸い込まれていったのはつい数分前

よくも分からず抵抗も出来ずに知らない部屋に出されたダイゴが真っ先に目にしたのはミリの手持ちのセレビィ。そして次に見たのは楽しそうな表情を浮かばすミリの姿、チャンピオンになった筈のミクリに四天王達の姿――――それからやっと、ダイゴは自分がリーグ協会の中にいる事を悟った

ダイゴはわけが分からなかった







「――――と、言うわけだから、私は君が次期チャンピオンになる事を強く進める。君がチャンピオンに相応しい男だ!」

「ちょっと待って。色々ちょっと待って。全く理解不能なんだけど!」







もっとよく分からない話が舞い込んできたもんなら、物分かりのよく秀才で冷静なダイゴさえも意味不明だと目を白黒させた

動揺を隠せず心乱れるダイゴの珍しい姿にミリはケラケラと笑う






――――ミクリが次期チャンピオンとしてダイゴを選んだ

ミクリから知らされた人物の名に―――あまりの予想外の人物に全員が驚いたのは数十分前。デポンコーポレーションという名前、そしてツワブキという苗字は誰しも聞いた事がある有名な名前だったから

デポンコーポレーション副社長、ツワブキ・ダイゴ

名前を聞く限り、肩書きだけは立派な男。副社長としての器量は企業の目線で見れば実力は確かなモノで、彼は立派な融資マンでもある。しかしそれは企業からしてであり、ポケモントレーナーとしてではない

リーグは―――たとえ予選選抜試験でゲンジに認められたとはいえ、彼の実力を完璧に把握しきれていないのが現実。なにより彼は辞退したのだ。このリーグ大会を、友人二人の勇姿を見届ける為に

名前を聞いた四天王は当然否定した。リーグ大会に出場していないし、たとえミリの友人関係でも認められない、と。流石に幹部長のアスランもミクリの推薦を却下した。ダイゴという男の事は当然知っていたし、その父親も友人関係でもあった。確かに彼は適任だろう、とは思うも―――しかしそれは個人的な見解であり、ホウエン支部史上初あまりの異例の事態に首を振るしかなかった。けどミクリはめげなかった。めげずにミクリはダイゴのトレーナーとしての実力や魅力を訴え続けた。ここまでくれば素晴らしい友情だろう


しかし、それを覆す事態になった


そう、ミリの鶴の一声だった

ミリがダイゴの就任に賛成し、任命したのだ。のほほんと嬉しそうに笑うミリに当然全員が猛烈に抗議した。しかしミリの決定がさらに覆される事はなかった

――――ツワブキ・ダイゴの人柄は勿論、トレーナーとしての力量は素晴らしい。彼はさらに化けるだろう。彼がチャンピオンになってくれたら、私は安心してチャンピオンマントを渡せれる。そこら辺の信用のないトレーナーなんかよりも、ダイゴが一番相応しい―――

そう言うミリの瞳には全く迷いのない決意の光があった。最終的にはミリが認めて安心してチャンピオンを任せられるトレーナーだったら、と見事全員を言いくるめたのだった

そしてここぞって時の初公開、セレビィの力を使って空間を開き帰宅したダイゴを引き寄せて――――今に至る、というわけだ






「どうだいダイゴ、チャンピオンを引き受けてくれるかい?」

「断る。ミクリ、君は何を言っているのかしっかり理解しているのか?」

「その答えを断る!君はチャンピオンになるべきだ!」

「意味が分からない!!」







自慢げに、チャンピオンになれ!と言ってくるミクリに、断る意味が分からない!と却下するダイゴ

次第にエスカレートしていきそうな言い合いに、遠くで静観している四天王はやれやれと溜め息を吐く






「……まぁ、普通はそうじゃろうな。突然拉致られて突然言われたらそうなるじゃろうな」

「…こんなこと、普通は認められませんわ」

「どうしてダイゴさんがチャンピオン…トーナメント戦に出てないのに…大丈夫なのかなぁ…?」

「実際イッシュでそういう事例があった話を聞いた事がありましたが……たとえミリさんが認めた事とはいえ、果たして世間に認められるかどうか………」

「(そろそろ帰ってギター弾きてぇ…)」

「あの二人面白いねー」





やれやれと頭を抱える者、大丈夫かと心配する者、呆れてモノが言えない者様々な反応で四天王は眼前の光景をただただ見守るしかない

言い合いは予想通りヒートアップしていく






「ダイゴ!!君に拒否権はない!さあさあチャンピオンになるんだ!ミリが使ったチャンピオンマントをその身に纏えるんだぞ!あったかいぞ!」

「君になんの権利があってそう強制するんだ!意味が分からないしそれにミクリその台詞は変態に聞こえるから止めてくれ!!僕はチャンピオンにはならないから!!」

「断る!君がなるんだ!」

「断られるのを断る!!」

「何故断る!?ダイゴのくせに!!」

「断って当然だろう!?ミクリのくせに!!」

「なにおう!?やるんだ!」

「やらないよ!」

「やるんだ!」

「やらない!」

「やるんだ!」

「やらない!」








わーぎゃーわーぎゃー

ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃい………










「仲がいいねぇ、あの二人」

「…」
「キ、キュー…」
「……」







こんな事態を引き起こした張本人は、二人の姿を呑気に微笑ましく眺めていた








「やれやれ。……ダイゴ君」

「!…アスランさん、父がいつもお世話になっています」

「堅苦しい挨拶は抜きにしよう。…君が断る気持ちも分かるが、まずどうしてチャンピオンを断るのか理由を教えてくれないか?」

「理由もなにも…僕はリーグ大会に出場していないし、上位に入ったわけではありません。…むしろリーグとして大会に出場していない人間をチャンピオンにしていいものなんですか?」

「本来だったら不可能だ。しかし、今回は異例なのだよ。ミクリ君が辞退したとしたら候補のカゲツ君とフヨウ君になるのだが…彼等もチャンピオンにならないと言っている。それなら誰がチャンピオンになるのか…白羽の矢が立ったのが君だったのだよ。ミクリ君の推薦でね」

「しかし…」

「ミクリ君の決意は頑固に硬い。そしてなにより―――君をチャンピオンになる事を賛成したのが、ミリ君だ」

「!!!」

「ダイゴ君なら出来る、とね。ダイゴ君なら安心して任せられる。……これ以上無い後ろ盾が君にはあるのだよ」

「お気持ちは嬉しいんですが……」







アスランから、ミクリへ

視線を移し、ダイゴは真剣なまなざしで口を開く






「ミクリ、この際だからはっきり言おう。…ミリが座っていた席を…僕が、座ってはいけない」

「!」

「ミリみたいな立派なチャンピオンにはなれない。ミリはあまりにも、僕にとって存在が大きいんだよ」

「………」

「ミクリ、分かって欲しい。僕はミリの居場所を奪うわけにはいかないんだ」

「だが断る!なんだそれはダイゴらしくない!私は認めない!!君が簡単に諦めるような男ではないだろう!」

「ミクリ!!人が真面目に断っているのに!見た目に反して君はすっごく頑固だな!!」

「君こそ頑固だぞ!!」

「君に言われたくない!!」






「―――――ダイゴ」









一連の流れを静かに(呑気に)眺めていたミリがやっと口を開いた







「!…ミリ、」

「ダイゴ、貴方は充分立派なトレーナーよ。何を謙遜をするの?」

「でも、」

「私の居場所がなくなる?私みたいなチャンピオンになれない?…馬鹿を言わないで。私はチャンピオンの座とか、そういうにはこだわってないの。それは貴方自身が知っている事でしょ?」

「……………」

「後ろめたい事の原因が私なら、全然構わない。私の事はいいから。これは貴方の道よ。貴方の肩書きや重みなんて頭から離して、今一番にやりたい事、正直に話してみればいいよ」






ミリはまっすぐダイゴの元へ歩み寄り、眼前の前に立った。動揺を隠せないダイゴの手を取り、優しく包み込ませた

驚きたじろぐダイゴの表情なんて眼の見えないミリには関係ない。しかしダイゴの様子を知ってか知らずか―――ミリは優しい微笑で、けれどダイゴをしっかり視て、ミリは言ったのだった








「ダイゴ、貴方は強い。強い貴方なら誰にも負ける事は無い。―――貴方が私の居場所とか考えているなら、そうね、こうしましょう。貴方がチャンピオンになって、私の席を他の人なんかに、座らせてはいけない。座っていいのは、ダイゴ、ミクリ、そして私だけ―――」












この言葉が

後にダイゴのチャンピオンとしての決意となり

また励みにもなる、言葉となる








「ツワブキ・ダイゴ。私は貴方を信用し、信頼しています。そんな貴方だからこそこのチャンピオンマントを渡したい






受け取って、くれますか?」







信用しても、信頼してこなかったミリの

精一杯の、誠意の込めて









「――――僕でよければ、喜んで」









諦めた様な、しかし嬉しそうに

決意の色を秘めた強い光をその瞳に宿して―――ダイゴはミリからチャンピオンマントを受け取ったのだった







―――――――
――――
――













ホウエン地方全土に放送される生放送で、リーグ大会が終了したことで新しいホウエンチャンピオンが決まったという主旨の内容が放送された

全員が全員、リーグ大会優勝者であるミクリの事を予想しただろう―――しかし、映像の中に立つ人物は自分達の知る男ではなかった






『―――初めまして、僕の名はダイゴ。元ホウエンチャンピオンでありポケモンマスターであるミリからこのチャンピオンマントを引き継ぎ、正式にホウエンチャンピオンになりました。前任の思いを背負い、精一杯チャンピオンとして努めていきたい』






ミリが着用していたチャンピオンマントをその身に背負い、バサリとはためかせる

隣には、ミリの姿があった

チャンピオンマントを脱いだ事で本当にポケモンマスターになったミリ。首元のエンブレムを輝かせ、光の無い瞳は眩しそうにダイゴの栄光を見通していた






『今、テレビをご覧になられている多くの市民の方々は僕のチャンピオン就任に驚きを隠せないでしょうが、事実です。僕も今…チャンピオンとしてこの場に立っているのが不思議でなりません』

『今期リーグ大会優勝者であるミクリはホウエンチャンピオンを辞退し、ルネシティのジムリーダーに就任する事になりました。私は彼の意思を尊重しました。そして厳重に次期チャンピオンを審査した結果(※嘘)―――このダイゴが適任だと、私達ホウエン支部は核心しました(※押し付け)』

『任されたからには全力で取り組む。彼女達リーグからの期待を裏切らない為にも、僕はチャンピオンとして努力していきたい。…が、突然そんな話が出て納得出来ない人が出てきても仕方がない事だと理解しています』

『彼の実力は私が知っています。彼ならチャンピオンとして相応しい実力を持ってます。優勝者であるミクリからも彼の実力を推したほどですから、間違いはありません。いずれ、ダイゴの実力が皆さんの目に届き、チャンピオンに相応しいと認められる事を私は強く望みます』







頼もしそうに微笑むミリに、真剣な表情でカメラに見据えるダイゴの姿

カツン―――と二人の後ろに複数の影が現れる






『また、上位に勝ち残ったカゲツとフヨウは――――四天王であったロイドとミレイの後を引継ぎ、新しいメンバーに加わる事になりました』

『皆さん、改めましてロイドです。この度、私は五年勤めた四天王を辞退する事となりました。私は私なりに四天王として我等がチャンピオンの支えになれる様にと励み、またそれがホウエンの為に繋がると日々励んで参りました。我等がチャンピオンであるミリさんがポケモンマスターへなられた、その姿を見届けた事が四天王として感無量な一時であり、もう何も思い残すモノはありません。新しいチャンピオン、また私の後を継ぐカゲツに全てを任せて故郷に帰ります』

『同じく四天王のミレイよ!私も四天王やって、ロイドと同じ五年は経ったわ。四天王として、いつも全力で取り組んできた。ミリちゃんというチャンピオンに出会えて、一緒に戦って一緒に共に笑って……それからミリがポケモンマスターになってリーグ大会が終わるまで、最後の最後まで四天王の誇りを持って勤めてきた。もうこれ以上の喜びはないわ!私もロイドと一緒よ、私はすっごく満足した!だから私は、四天王を辞めます。後はフヨウにお願いして、故郷に帰ります。今まで楽しかったよ!私はホウエン地方が大好きです!』

『よぉ!俺の名はカゲツ!ロイドの後を継いで四天王になった!新しいチャンピオンと他の四天王と一緒に、俺なりに頑張っていけたらいいと思ってる。ヨロシクな!』

『はろろーん!あちし、フヨウよー!四天王のミレイとバトンタッチしました!あちし、まだ四天王がどんな仕事をしていくのか分かってないけど…あちしなりに頑張る!よろしくネ!』

『新しい風に新しい芽吹き!若いモンには負けられんなぁプリム!』

『ふふふ、楽しみですわ』






ロイドとミレイの四天王退任に

上位まで残ったカゲツとフヨウの就任

さぞ住民は驚いただろう。ロイドとミレイはとても人気だったから。チャンピオンのミリが居なくなるだけでも悲しいのに、四天王の二人まで居なくなってしまうなんて―――特に二人のファンはさぞ嘆き哀しむだろう(ロイドは黄色い叫び声が)(ミレイは野太い叫び声が)






―――新任チャンピオン、ダイゴ

―――四天王、ゲンジ、プリム、カゲツ、フヨウ


新しい面子を迎えたホウエン地方トップの実力者

彼等は今後、どのような活躍を見せてくれるのだろうか












『最後に皆さんに一言だけ、私から伝えたい事があります』








カメラがミリを映す


(この放送がミリを映す、最初で最後の映像になるなんて)





ミリは仮面の無い、本当の微笑みを浮かべた

(誰も想像しなかった)








『元ホウエンチャンピオンとして、本当に一言だけ皆さんに伝えます








――――今まで本当に、私にたくさんの光を照らし、輝きを視せてくれてありがとう』








そしてありがとう


ホウエンチャンピオンという居場所を、与えてくれて









『私はこのホウエン地方が、大好きです』









ありがとう、また会いましょう


さよならは言わないよ

必ずこの地に戻ってきます




だから、どうか





私を忘れないでね――――









(何も知らない私は)(栄光輝くダイゴの姿を誇らしげに称えていたのだった)


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -