運命<原作>という宿命<設定>は

どんなに道が枝分かれしても

結局は一本になって道が繋がる



それが、物語<補整>だから












Jewel.44













真っ先に声を荒げたのは四天王側だった







「ミクリ!お主は何を血迷うた事を!せっかくのチャンスを棒に振るつもりかッ!」

「そうだよ!ミリちゃんが何の為にこの大会に掛けてきたと思っているの!?」

「口を慎みなさい。我等がチャンピオンでありポケモンマスターを、愚弄するおつもりですか?」

「何を考えているか存じませんが……愚かな事はお止めになった方が懸命ですわ」








四人が怒るのも無理はなかった

ミリがこの日の為に、チャンピオンの全てを賭けて取り組んできた事をずっと傍で見てきたのだ。傍にいて、共に時間を共有し、同じ気持ちでリーグ大会に臨んでいたからこそ―――彼等の中でもこのリーグ大会は一番大切であり、またミリへの感謝の気持ちを含めた恩返しだった

本当だったら辞めて欲しくはない。ずっとミリの四天王で在り続けたい

総監の命令とはいえ、どうしてミリがチャンピオンを辞めてしまうのか、四人にその理由は知らされてない。たとえ理由を知っても、彼等の起こす行動は変わらないだろう



自分達は四天王として、チャンピオンの為に最後まで尽くそう




そう思ってきたというのに―――ミクリの予想外の行動は彼等の神経を逆撫でする結果となってしまう



珍しく声を荒げるゲンジと、信じられないと同じく声を荒げるミレイ、威圧を込めたブラックオーラを溢れさせるロイドに(カゲツがかなりビビっいてた)、諭す様に問い掛けるプリム

まあまあ落ち着いて皆、というミリの言葉が無ければそれこそボールを手にして制裁を加えんとばかりの勢いだった






アスランが静かにミクリに問いかけた








「何故、断る?」

「…………申し訳ありません、理由は言えません」

「君がミリ君の友人なら―――ミレイ君の言う通り、ミリ君がどんな思いでこのリーグ大会に賭けてきたか…分かるよね?」

「…はい。痛いくらいに」







静かに言うアスランの鋭い眼光も、怒りの光が見え隠れしていた

アスランも四天王と同様の気持ちでいた。一番傍にいたからこそ、一番ミリの為にこのリーグ大会を支えてきたからこそ、アスランもミクリの行動に不愉快な思いでいた

それにミクリはミリの友人だと兼ねてからミリ本人から話を聞いていたから―――それこそ友人でもあり自分の娘の思いを踏みにじる彼の行動に、理解が出来ないでいた








「ですが、私は…」

「分かりました。私は貴方の気持ちを尊重します。殿堂入りという形に手を打ちましょう」

「「「「!!!??」」」」








今まで沈黙を守ってきたミリが、やっとその口を開いた



―――思わぬ言葉と共に









「ミリッ!!」

「ミリちゃん!なんで!?」

「チャンピオンに就任しない代わりに、ミクリ。貴方をルネシティのジムリーダーになる事を命じます」

「「「「!!!??」」」」







これにはこの場にいる全員が驚愕した








「ミリ……」

「前々からアダンさんから話は伺っていました。弟子であるミクリ、貴方なら最後の砦としてジムリーダーを務める事が出来ると。私も、貴方の実力ならそれが出来ると信じています。それなら、文句はないでしょう?ミクリ」

「すまない…ありがとう、ミリ」

「皆さんも、異論はありませんね?―――いや、異論は認めません」

「で、でも!ミリちゃんはそれでいいの!?だってミリちゃんは…ミリちゃんはこの日の為に頑張ってきたじゃないの!」

「ミレイ」

「ッ!」

「お口、チャック」

「〜〜〜〜ッッ!」







にっこり、とミリは微笑んで、口にチャックを締めるジェスチャーをして―――ミレイを含めた全ての人間に黙る様に促した

このジェスチャーはミリが時たま相手に促す行動に使用される事があった。これをするという事は穏和に、しかしけして否定を許さないミリの優しい命令でもあった

しかも今となればミリはポケモンマスター。ポケモンマスターの命令は絶対といってもいい。それにミリの雰囲気が威圧掛かっているものだった為―――名指しされたミレイも、ロイドとプリムとゲンジも、他の人達も誰もが皆…口を噤んだ



シン―――と一気に静まる空間

そうさせたのを知ってか知らずか、あらあら、と微笑むミリに――――アスランはやれやれと肩を竦めた








「君がそう言うなら、私達は従おう。ミクリ君をルネシティのジムリーダーへ手配しよう。…リンカ君、すまないがアダンへ連絡を」

「分かりました」

「しかし、ミリ君……肝心なチャンピオンはどうするつもりかね。そうすると…二位と三位の二人を繰り上げる形になってしまうぞ。彼等はともかく、君が納得いくとは思わない」

「いえ幹部長、わたくし達四天王も納得いきませんわ」

「いやいや、俺も流石にミリの跡を継ぐ気はねーよ!?無理無理!!なっても俺はロイドの後釜の方がいいっつーか!」

「私も流石に万が一カゲツがチャンピオンになったら速攻に四天王を辞めます」

「あ、あちしもちょーっと…四天王なら頑張れるけどチャンピオンはねぇー…………ミレイ、あちしがチャンピオンって想像出来る?」

「うーーん、ごめん無理☆」

「だよね〜☆」








Σロイドお前容赦ねーな!

事実です。流石にプライドが許しません


あちしには無理だよ〜

うーーん、全く想像できないなぁ…


あららー







やいのやいのぎゃいぎゃいと次第に騒ぎ始めてきた彼等の姿に、アスランも含めゲンジも溜め息を吐くしかない








「ミリ、どうするつもりじゃ。このままじゃ収拾がつかんぞ」

「そうだねぇ〜」





「……ミリ、次期チャンピオンにピッタリな人を私は知っている。私はその人物がチャンピオンになる事を強く望む」









先程まで沈黙を守っていた(自分の知らないミリの姿に圧倒されていた)ミクリが口を開いた

やいのやいのぎゃいぎゃいと変わらず騒ぎ続ける声を背景に、ミリはミクリの意味深な台詞に「へえ?」と興味津々に聞き返す







「ミクリ、その人は誰?」

「君なら一番知っている男だよ」






爽やかに、しかしニヤリと笑うミクリ

ミクリは一体、誰の事を指しているのか




―――浮かんでくる人物なんて、一人しかいないだろう




ミリもニヤリと笑った









「………敢えて聞くけど、その人の名前は?」

「その人の名前は――――」









そう、名前は――――











「カナズミシティ出身…今はトクサネシティに住んでいる、あのデポンコーポレーションの副社長である私とミリの友人の一人









――――ツワブキ・ダイゴという男さ」

























イレギュラーの存在を迎え入れた物語は

補整し、修復されて


あたかも運命の様に物語としてページを刻んでいく




イレギュラーもいずれはレギュラーへ









「――――フフッ。あともうひと頑張り、だね」










(イレギュラーは)(全てを悟り、嬉しそうに笑った)


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