これが、最初で最後



私達の、最後のお仕事














Jewel.43













かくして四天王とチャンピオンのリーグ大会開催宣告の放送がされた事で確実にトレーナー魂に火が灯された事だろう。世間は専ら、リーグ大会の話ばかり。ポケモンマスターのミリが築き上げてきたホウエンチャンピオンの後釜は、一体誰になるのだろう―――人々はリーグ大会に釘付けだった



そしてリーグ大会は開催された



まず始めに行われたのは本試験というもの。本試験は各地にあるジムや公共施設に出場者を割り振り、各自競いあってもらう。本試験で競い合い、無事勝ち進んだ50名がサイユウシティのトーナメント戦に出場出来る、という流れだ

勿論こうするのは協会側の都合と意図で行なわれた事。人数が予定よりも多くなってしまった為の処置だ。リーグから伝達され事情を知ったジムリーダーや公共施設の管理者は当然驚きを隠せないでいたが―――ポケモンマスターのミリが決めた内容だと知ると、快く自分達のフィールドを呈示し、自分達もリーグ大会本試験の為に駆り出した。最後の大仕事になるミリに、最初で最後の感謝の気持ちを込めて



本試験は順調に行なわれた

各地のジムにたくさんのトレーナーが集い、その自慢のポケモン達を従えてバトルをする。活気溢れたジムの勢いはそこだけに止どまらず、経済効果を産む結果にも繋がった。トレーナーはいわば観光客、観光客が増えれば街も活気に溢れ、金銭的にも潤う。また、リーグ公認のジムの中で行なわれ適切な対処をする事で、損害や被害の報告がされる事はなかった

出場者も、再度ジムを訪れる事で新たに気持ちを引き締めるキッカケにもなったし、新たなライバル達の出会いに繋がってくれる。彼等は燃えていた。メラメラと、トレーナー魂に火が燃え盛っていた


全てはミリの読み通りで、全てが順調に事が進んでいった




本試験は着々と進んでいき―――予定していた三週間の期間を短縮し、一週間と少しで本試験を終了する事が出来た





この50名こそ―――本来リーグが予定していた、リーグ大会出場者となる

(※但し事情が事情の為、口外禁止令が出ました)







トーナメント戦の会場は、リーグ協会ホウエン支部を置くサイユウシティへ

サイユウシティにあるリーグ大会専用に造られた壮大なフィールドこそ、本来のリーグ大会の会場

普段は予想選抜試験等で使われている場所でもあり、普段はバトル以外誰も足を踏み入れない場所。しかし、今となれば―――新たなチャンピオンをこの目で見たいと集まった人々の姿で、観客席は人で溢れ返っていた




そしてトーナメント戦が行なわれた









「スゴいよミリちゃん!今回のリーグ大会、ミリちゃんの読み通りレベル高いよ!」

「フフッ、それはよかったよ」

「観客も盛り上がってるよ!―――あ!フヨウが無事勝ち進んだ!サマヨール強いパンチ!この調子で頑張って〜!」

「ロイド、お主の弟子も中々渡り歩いているぞ。儂が認めただけはある」

「おやおや…彼も無事勝ち上がってくれると嬉しいんですけどね」

「ミリさん、貴女のご友人も励んでますわ。素晴らしい水のイリュージョン、戦いながら観客の皆さんを魅せていますわよ」

「ミクリはトップコーディネーター、自ずと戦い方も魅せるバトルになるからね。…ミクリには頑張ってもらいたいよ」









トーナメント戦も、ミリが予想していた通りの結果になった

予想選抜から、本試験へ。勝ち残った出場者はさらに実力をつけ、トーナメント戦に臨んだ。レベルの高い見応えのある白熱したバトルは観客を、ホウエンを盛り上げさせた


フヨウと言うトレーナーは、おくりびやまで墓を管理する夫婦の孫であり、ゴーストタイプの使い手。ミレイの友人である彼女は予選選抜にてプリムに勝利し、出場権を得た。ミレイの紹介もあってフヨウとミリは顔見知りとなり、キャピキャピはしゃぐ二人の姿を微笑ましく眺めていたミリの姿を度々目撃されていた

ロイドの弟子、と呼ばれたトレーナーの名はカゲツ。ギタリストで活躍している悪タイプの使い手。二人は師弟関係にあるが、どうして二人が師弟関係になったかは謎。予選選抜でゲンジに認められたのをキッカケに、ロイドから紹介を受けるミリだったが…片や医者、片やギタリスト…悪タイプの繋がり以外何処から繋がったんだろうと疑問を浮かばすばかり

ミクリというのはミリの数少ない友人の一人。ホウエントップコーディネーターでもある彼は当然四天王も認知済みである。彼は予選選抜にてミレイに勝利し、リーグ大会の出場権を得た。ミリが二週間の有休を取っていた間にいつの間にか取っていた為、改めて出場者の一覧を見た時にミクリの名前があった事に驚くミリだった






三人を筆頭に、トーナメント戦はどんどん勝ち進んでいき―――気付くとリーグ大会トーナメント戦が始まって、早くも一週間が経過していた









《主、ダイゴを連れてきた》

「ありがとう刹那。やっほーダイゴ、いらっしゃい」

「………突然身体が言う事聞かなくて勝手に動きだすから本当に焦ったよ……君のミュウツーの仕業だったのか…びっくりしたよ」

「あはー」

「あ、もしかして噂のダイゴさん?こんにちは!私はミレイよ!」

「初めまして、我等がミリさんのご友人さん。ロイドです」

「御機嫌よう、プリムよ」

「おお、お主だったか。久しいのう」

「あらゲンジ、ご存じでしたの?」

「ご存じもなにもこ奴も予選選抜通過しとるぞ。儂が認めたトレーナーだ。…どうやら今回のリーグ大会は出場しなかったんじゃな」

「はい、今回は辞退しました。友人の応援と、ミリの最後の仕事を見届ける為に」

「そうか。…ダイゴ、お主は幸せ者だぞ?普通だったら此処に居れるのは我等四天王とチャンピオンくらいじゃろうに…ミリの配慮に感謝するんだな」

「ダイゴも一緒に見よう。一緒に新しいチャンピオンを迎えようよ」

「全く君って子は……恐縮してしまうくらいだよ。是非、一緒にお願いするよ」







本来立ち入る事が出来ない、それこそミリの座るチャンピオンの椅子がある場所にダイゴを招いての観戦

その日はそう―――トーナメント戦最終日を迎えようとしていた

上位4名が最終戦を行ない、決勝戦を迎えて勝者がチャンピオンとなる。その上位にはミリや四天王が注目しているミクリとカゲツとフヨウの三人の姿もあった







「ついにリーグ大会最後の日。さあ、彼等は最後にどんな光を見せてくれるのかしらね。私達は最後まで見届けましょう、この白熱したバトルを」

「「「「我等がポケモンマスター、貴女の御心のままに」」」」

「………(ポカーン」







ミリの囁きに近い言葉に対し、当たり前の様に揃えて答える四天王の行動に呆気にとられてるダイゴは置いといて←





リーグ大会最終日、最後のバトルが始まった






白熱したバトルは、夜まで続いた

フィールドは地響きと爆発音に爆風を

熱気が収まらない観客からの熱い声援




そして―――――











『エントリーナンバー・30番、ミクリ選手の勝利!






よってホウエン地方リーグ大会の優勝者は―――ルネシティのミクリ選手です!!』








ワアアアアアア―――!!








「――――ハハ、ハハハッ!ミクリが勝った!よくやってくれたよ!おめでとうミクリ!」

「おめでとうミクリん!ってね!やっぱミリちゃんが注目していたトレーナーだねー!うーんフヨウお疲れ様だよ〜!フヨウも強かった!」

「最後まで白熱したバトル…見ていてとても見応えがありましてよ、ミクリさん。フヨウとカゲツは残念でしたが、わたくし達はしかと二人の熱きバトルを評価しますわ」

「カッカッカッ!あ奴が、次の新しいホウエンチャンピオンか。悪くはないな!」

「カゲツも悪くはないバトルでした。最後の最後まで諦めず戦い抜いた姿、師として認めましょう」







喜びに満ちるダイゴの声

友人や弟子の労う言葉をかけるミレイとプリムとロイド

新たなチャンピオンになる相手を満足げに笑うゲンジ







「――――…フフッ、」







喜び満ち溢れる彼等の中で


一人だけ、ミリは意味深に微笑みながら拍手を送る






「(嗚呼、やっぱり――――)」









優勝者はミクリ、貴方になったのね








「おめでとう、ミクリ。今の貴方はコンテスト大会よりも勇ましく強い光で輝いているよ







さあ、新しいチャンピオンを迎えに行きましょうか」










自分の記憶違いでなければ


次に起こる事は、分かっている






――――――
――――
――















トーナメント戦を無事に終え、表彰式を終わらせた事で今期ホウエンリーグ大会の幕は閉じた

温かい拍手が会場を包む中、ミクリは色んな人に勝利を称えられていた。ミクリは輝いていた。私のこの、目の見えない光の先まで。コンテスト大会でキラキラ輝く優雅な姿とは違う、トレーナーらしい勇敢な姿で










場所は変わって、此処はホウエン支部のリーグ協会内部



殿堂入りした者達が、自分達の記録を残す為に入れる部屋の前


殿堂入りしたミクリ、チャンピオンのミリを筆頭に―――ホウエン支部に勤める上層部の面子が揃っていた








「――――優勝者ミクリ、この部屋の先は殿堂入りした者達しか立ち入れない、神聖な場所。此処に入ったら貴方は正式に殿堂入りを果たした事になり、そしてホウエンチャンピオンになれます」

「ミリ…」

「おめでとうミクリ。私達は貴方の殿堂入りを認め、貴方を次のホウエンチャンピオンに任命します」

「…」
「キュー」
「……」






ミリを始めとしたリーグ関係者の皆から、ミクリに向かって温かい拍手が贈られ、広場は拍手の音が響き渡る


ミクリの後ろには―――リーグ大会で上位を競ったカゲツとフヨウの姿があった。ミクリを含めた上位三名が、この場に呼ばれていたのだ

カゲツとフヨウもまた、回りと同じようにミクリに拍手を送っていた






「――――時杜、」

《はい!》








一言、ミリの隣に悠然と立つセレビィの時杜が動く

肩に乗っていた時杜はふわりと宙に浮き、キラリとそのつぶらな目を輝かす。するとミリを纏っていたチャンピオンマントがスルリと身体から外され、ミリの腕の中に収まった

ミリはそのチャンピオンマントを―――次期チャンピオンになるミクリへ差し出した







「これが、歴代ホウエンチャンピオンが受け継がれていくチャンピオンマントです。さあ、受け取りなさい。受け取って、そして共に殿堂入り登録を終わらせましょう。そうすれば本当に貴方はホウエンチャンピオンです」

「――――…ッ」







チャンピオンとして、一人の友人として

ミリは誠意を込めて新しくなるチャンピオンに全てを託す思いで、仮面の無い―――優しい微笑みで、ミリはミクリにチャンピオンマントを渡そうとした

――――が、ミクリはチャンピオンマントを受け取ろうとはしなかった

何かをためらう様な、苦しそうな―――しかしその水色の瞳には決意の光を。一向にミリの差し出すマントに手を掛けようとしないミクリに誰しもが訝しげにミクリを見返した







「……ミクリ君、どうかしたかい?さあ、受け取りなさい。ミリ君が待っている」







ホウエン支部幹部長アスランが、穏やかにミクリに促す

あくまでも声色は穏やかだったが―――その雰囲気は、圧力のかかるものだった


それでもミクリはチャンピオンマントに手を付けようとはしなかった





不穏の空気が流れる中――――ついにミクリの口が開かれた








「……すまないミリ。私はそのチャンピオンマントを……受け取れない」









不穏の空気が、一気に騒然となった








「大変申し訳ないが、私はホウエンチャンピオンにはならない。よって、ミリ――――君からチャンピオンマントを受け取る事は出来ない」









凛として堂々と、ミクリは言った









(とりあえず腕下ろしていいかな?)(と思うミリだった)


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