予想外の事態

しかし、それを糧にしよう





何も問題は、ないよ










Jewel.42













此処はポケモンリーグ協会ホウエン支部にある、とある会議室

ホウエン幹部長と副幹部長にホウエン四天王、各部署の責任者を交えた数多くいる人達が――――これから行なわれる予定であるホウエンリーグ大会について議論を交わしていた





「――――リーグ大会の出場権利者につきましては、やはり予想を超える人数になってしまいましたね」

「日々毎日予想選抜を行なっていけばある程度は予想していましたが…」

「期間内にリーグ大会が終わるとは思いませんね…どうしたものやら……」






大掛かりな会議が始まってすぐに、彼等を悩ます原因が浮上した

それは―――自分達の予想を超えた、リーグ大会出場者達の人数だ

新設リーグとして生まれ変わり、新たな決意と共に新たにリーグ大会予選選抜試合というモノを取り入れてから、約一年近くが経とうとしている

四天王が毎日挑戦してくるトレーナーをちぎっては投げ、ちぎっては投げの繰り返し。しかし四天王の誰かでも実力を認めたらリーグ大会の出場を認める。そんな事を毎日繰り返していけば、積もりに積もった出場者の数がどんどん増えていき―――気付くと出場者は100名を超えていたのだ

正確な数字は115名。前年度よりも人数が多くなっていて、ミリも含め協会側は大いに驚いたに違いない






「ふむ…儂等もちと、考えが甘かったかもしれんな」

「これでも結構じゃんじゃん切ってきたつもりだったんだけどねー…」

「仕方ありませんわ。私達四天王が認めた、熱意のあって実力があるトレーナーが多くいたいう証です」

「しかし結果が結果です。今後の私達の課題、ですね…」






前年よりも確実に忙しくなった日常の中で、熱き闘士を燃え上がらせるトレーナーを見つけた未来ある光

四天王と戦える、チャンピオンに会える、勝てばリーグ大会に出れる―――思いは様々だとはいえ、そうして彼等トレーナーは強き者を求めてこの地に足を踏み入れ、戦い、認められた。四天王としても公平にトレーナーの実力を見抜き、選抜していった結果がこの事態を引き起こした

当然彼等は悪くない。彼等は真面目に自分達の仕事をしてきただけなのだから







「さあミリ君、新設者としてこの事態をどう処理する?」







不意に沈黙を守っていたホウエン幹部長のアスランが―――隣に座り、瞼を閉じ同じく沈黙を守っていたミリというポケモンマスターに問い掛ける





「君は此処のチャンピオンであると同時に、ポケモンマスター。私達は君の指示に従うつもりだ」

「―――…」

「ミリ君、私に遠慮せず皆に指示を。皆は君の命令を待っている」






―――――ミリがポケモンマスターになった事で、幹部長であるアスランとミリの立場が一変した

今までチャンピオンの上が副幹部長、副幹部長の上がトップの幹部長だった。しかし此処にポケモンマスターがいるとなったら話は違う。幹部長の立場は繰り下げになり、ポケモンマスターは一気にこの支部のトップの地位に変わる

当然決定権はポケモンマスターのミリにある。この会議の結末も最終的にミリの判断になる。今まで幹部長だったアスランがやってきた事を、今度はミリ自身が采配を振るう。

アスランから話を振られたミリはピクリと小さな反応を返す。アスランの言葉を始め、誰もがミリの言葉を待ち沈黙が広がり――――ゆっくりと瞼の下に隠された光のない瞳が、会議室にいる全員を映した






「―――確かにこの状況は予想以上でもあり、予想外でもあります。私達の努力が実った結果だとはいえ、まだまだ改善しないといけない点が浮上した事は、むしろ私達の今後を左右する大切な結果になってくれたのも事実。けれど、それは未来の話です。大切なのは今です。この状況をどう打破すべきか―――――まず私の提案としたら、リーグ大会の前に更に予選選抜を設け、出場者の数を減らす。それから通常のトーナメント戦を開始してからでもよろしいのではないかと」

「!予選選抜をして、更に予選選抜……」

「…しかし、それだと予選選抜だけでもかなり時間が掛かってしまいますが……」

「効率よく進めさせる為に、サイユウシティ以外の場所で同時進行で予選選抜を行なうのはどうでしょう?例えばバトルフィールドが完備されているところ―――ジムリーダーが運営するジムや公共施設を中心に、公平に出場者を割り振り、戦わせる。ジムトレーナーがしっかり公平にジャッジしてくれますし、安全は間違いない。一度は訪れているはずですから交通の面では問題はないはず。さらにまた再度足を訪れる事で観光に繋がってくれるとも考えます」

「確かにジムで予選選抜を行えたら効率は良い……しかしジムリーダー達がその話を受け入れてくれるか…」

「大丈夫だと思うぞ。儂等と違って、リーグ大会に入れば奴等も暇になるじゃろうし、施設を有効活用する面では奴等も腰を上げるじゃろう」

「それにポケモンマスターのミリちゃんの鶴の一声なら喜んでジムを貸してくれると思うしね!」

「そうだと嬉しいね」

「…」
「キュー」
「……」

「あえて予選選抜とは言わず、本試験選抜として枠を作ります。本試験が終わったら、今度こそ通常通りのリーグ大会のトーナメント戦に入る。出場者達もさらに強者として実力を付けてトーナメントに臨んでくれるはずですから、中々見応えのあるバトルが期待出来るかと」

「チャンピオン、確かにその案は時間短縮を解決出来ても、手間とお金が掛かっていきます。その点については?」

「手間を惜しまず取り組めば、それ以上の達成感と経済効果を期待出来るかと。それに万が一予算を越えそうな場合、本部の方から一時的にお借りしてきます。総監から許可は頂いてます、が…出来ればそれは避けたいですけどね」

「従業員やジムトレーナーの休みについては?」

「当然通常通りです。週休二日制は変わりません。ジムの方々も同じです。…ですが期間中はなるべく有休を取る事は避けて頂きたい。よほどの事がない限りは勤務に当ててもらいたい。皆さんのお力添えがあるからこそのリーグですので」







課題はまだまだたくさんある。そしてこれからリーグ大会に向けての準備の手段も、色々と。

ミリは一つの提案に対し沸いて出て来る質問を一つ一つ丁寧に答えていった。チャンピオンとしてポケモンマスターとして、そして新設者として。まだまだ未成年者だというのに冷静に対処する大人も舌を巻く立派な姿は、誰も真似は出来ないだろう

ミリの隣に座るアスランは、冷静に対処し議論を交わすミリの姿を―――頼もしそうに、嬉しそうに、微笑ましそうに眺めていた






「――――………?質問は、これで以上ですか?」

「えぇ、よろしくてよミリさん。部長の方々も聞きたい事が聞けて満足していますわ」

「それならよかった。………それでは皆さん、私の提案した内容でリーグ大会の運営をやってくれますか?」

「おいおい、ミリ…違うじゃろ」

「?」

「貴女はポケモンマスターです。……ポケモンマスターなら、ポケモンマスターの言い方があるんじゃないですか?」

「えぇ」

「うんうん!」

「――――…フフッ、そうだね…そうだったね」








フフッ、と鈴を鳴らす声色でミリは微笑んだ







「ポケモンマスターとして皆さんに命令します。私が提案した内容で―――リーグ大会運営をよろしくお願いします」

「「「「はい」」」

「「「「我等がポケモンマスターのお心のままに」」」」









…なんかバリエーション変わった?

皆で考えて練習したんだ!

あらー






――――――――
―――――
―――
















その日は特に変わりないただの平穏な一日だった

時間帯は世間でいう夜のゴールデンタイム、つまり夜の七時。誰もが自宅に帰宅したり、何かとテレビを見ている時間。今日も今日とて一日が終わりを迎えようとしていた

そして誰も何も考えずに、なにげなしにテレビを見ていた人や見たい番組の為にテレビを付けていた――――が、突然番組がプツンと消えた。誰もが「あれ?」と勝手にテレビが消えた事に驚き、次第に慌て始めるが―――また突如として画面が回復し、自分が見ていた場面と異なる映像が流れ始めたのだ

そこに映ったのは――――暗い画面、スポットライトを浴びて出て来た、黒い服に身を包んだ一人の男

クスッと笑う口元に、帽子の唾から妖しく紅色の瞳がちらついた







『――――今ご覧になっているチャンネルを、一時ストップさせてもらいました。驚く方も大勢いらっしゃるかと思いますがしばしの間、この私達リーグ協会ホウエン支部にお時間下さい』






流暢な言葉を述べ、被っていた帽子を外し胸に置き、慣れた動作で頭を下げる

この人は誰かだなんて考える必要はない

ホウエン地方に住む者達は全員、この男の存在を認知していたから






『まずは自己紹介から。私はホウエン四天王のロイド、そしてこちらが、』

『やっほー!ホウエンに住む皆さん!私の名前はミレイだよ〜!よろしくね!』

『わたくしはプリム、そしてこちらの方がゲンジで御座います』

『うむ』






スポットライトが新たに男の隣を照らし、そこに現れたのはまた別の三名の人物

勿論この三名も誰もが知る有名人だった

何故、ホウエン地方の代表するホウエン四天王がわざわざテレビ出演なんていう真似をし出したのか―――

答えはすぐに分かった







『私達四天王がこうしてテレビに出演したのも、もしかしたらもうお分かりになられたかと思います』

『ズバリ!ポケモンリーグ協会ホウエン支部はリーグ大会を開催する事をここに宣言します!』

『兼ねてより、リーグではリーグ大会出場の為に予選選抜試験をやってきました。どのトレーナーも、わたくし達の心を熱くさせるトレーナーばかりでしたわ』

『ついにお主らの成果が問われる時が来たのだ。随分と待たせたが、その分儂等が認めたその実力を思う存分発揮せい!』








そう、リーグ大会開催を伝える予告の為

クスッと妖しく笑うロイド、楽しげにビシッとカメラに指をさすミレイに優美に且つ不敵に微笑むプリム、テレビの前にいるであろう出場者に対して挑戦状を叩き付けるゲンジ


さぞ、テレビを見ていたトレーナー達は歓声を上げただろう。ついにこの日がやってきたと。出場者も然り、街の住人も然り、これから始まるリーグ大会に意気揚々と気持ちを高ぶらせた事には間違いないだろう



そしてまた一つ、彼等四人の後ろに新たなスポットライトが照らされた








『――――そう。全てはリーグ大会の為に私達は皆さんの前に立ちはだかり、猛威を奮い、果敢に立ち向かうトレーナーの皆さんの実力を選抜してきました』







カツン、と響かせるヒールの靴

テレビを見ていても分かる。一気に雰囲気を持っていった存在感

四天王の四人は左右に分かれ、新たに現れた人物に対し―――恭しく頭を垂れた






カツリカツリ、と新たに現れた―――オレンジ色の存在


フワリと靡かせる、チャンピオンマント

キラリと目に付く、首元のエンブレム


その美貌と美しい顔にある瞳は、変わらず光は無い





――――この人物こそ、誰もが知る人物であり、誰もが羨む存在だった
















『御機嫌よう、ホウエンに住む皆様方。私の名はミリ、ホウエンチャンピオンでもあり、ポケモンマスターでもあります。このたび、私は今期リーグ大会を開催を宣言すると同時に――――







私は、ホウエンチャンピオンを辞退する事をここに宣言します』











誰もが皆、テレビで伝えられた発言に驚愕の声を上げた









『私はもう、悔いはない。ホウエンチャンピオンとしてやり尽くした。もう…後悔はありません。故に私は…このリーグ大会で優勝した者に、チャンピオンマントを託したい。新たに誕生したチャンピオンにマントを、このホウエンを託す。それが私の最後の仕事です』








パチン!とミリは指を鳴らす

鳴らした音と共に、突如として現れたのは彼女に傍にいた三強の姿




そして―――場面が明るくなり、さらにまた現れたのは大きな階段

その先の頂点に見えるのは―――チャンピオンの椅子。ホウエン地方のチャンピオンが座る、王座




バサリと、ミリはマントをはためかせた












『さあ皆さん、幕は開かれた。栄光あるステージの上で皆さんの力を示しなさい。競いなさい、あの席に座る為にも。そして、どうかこの私に――――私の眼に届くくらい、強く眩しい光を見せて頂戴』

『…』
『キュー!』
『……』

『新しく誕生するチャンピオンを、私達は待っています』







ポケモンマスターのミリ

ミリに従う三強達

チャンピオンを守る四天王の姿





彼等は、笑う

不敵に笑った―――――










『それでは、リーグ大会でお会いしましょう』













* * * * * *










一方、その頃







「あの映像、見たんだね」

『勿論さ!あれは中々、インパクトあったよ。企業のCMとしても印象強い、こっちの町はトレーナーが熱くなっていたよ。ミクリなんて電話先で燃え上がっていた。メラメラだね』

「フフッ、無事皆のトレーナー魂に火が点けれたなら満足だよ。メラメラとね」







自宅の電話にて、ミリはダイゴと会話を楽しんでいた






「その様子だとミクリは出場確定だね。ミクリが予選選抜で通過していたのは聞いていたからさー。ダイゴも予選選抜通過してるからリーグ大会出るよね?」

『……………。申し訳ないけど僕は止めとくよ。リーグ大会には出ない』

「!」

『僕は観客席でミクリの活躍と、ミリの最後の仕事を見届けるつもりさ。二人の、友人として』

「………」







意外なダイゴの言葉に、ミリは押し黙る

急に口を閉じたミリの様子に、ダイゴは笑う






『僕はこうみえてデポンコーポレーションの副社長。いくらミリが僕に自由を与えてくれたとはいえ、自分の立場は弁えている』

「………」

『ミリを見ていると、こっちも頑張らなくちゃって思うんだ。石ばっか掘っていられないからね。…ミリ、改めてポケモンマスター就任おめでとう。リーグ大会を終わらせたら、次はお疲れ様と言わせてくれ。頑張ってくれ』

「……うん、ありがとう」

『それじゃ、また。おやすみ、ミリ』

「うん、おやすみなさい。ダイゴ」









ピッ…








「……………うーーん……あれー…?」

「ミリ様〜お風呂が沸きましたよー……?ミリ様どうかされました?」

「ううん、なんでもない。…うーーん…あれー…?」

「??」







「(ポケスペ寄りならダイゴって……確かリーグ大会出るはずだったよね?)」










ミリは頭を捻らせた







(さあ、どうなるのかな?)



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