さあ、お家に帰ろう

平和で平穏な微温湯みたいな平和へ




たとえ、短い日常だとしても











Jewel.40













昨日、無事ポケモンマスターになった事で―――贈呈式で総監の手から私に贈られた栄光ある宝は三つあった


一つ目は、表彰状だった。まさに読んで字の如く―――大層立派な材質の紙に、大層立派な達筆の文字で、「ポケモンマスターを認める」と書かれていた。後から聞いたらリチャさん直々に書いて下さったそうで、「我ながら上手く書けたと思ってる!」と自慢げに笑っていたのが記憶に新しい

二つ目は、トロフィーだった。大層立派でかなり大きく重い、黄金に輝く見事なトロフィーだった(純金じゃないかこれ)。驚く事にそのトロフィーはただのトロフィーではなく、装飾品に手持ちのポケモン達全員の姿が象られていたのだ。繊細な細工で造られたトロフィーを手掛けられる本部の存在感は計り知れないモノだと感じざるおえない、素晴らしいトロフィーだった

三つ目は賞金だった。賞金といっても手渡しやすい、小切手を。金額は…一生分過ごせるんじゃないかと疑ってしまうくらいの、十分過ぎる金額を頂いてしまった。どうしよう、こんなにお金貰っても正直使い道が浮かんでこないといいますか!(あまり金に執着がなかったりする)よし、とびっきり美味しいご飯を蒼華達にでも奮発してあげちゃおうかな!←

四つ目は――――








《ポケモンマスターだと証明するエンブレム…まさかですよね、まさか僕らが描かれているなんて》

《蒼華の額のクリスタル、時杜の姿に私の武器…よく短期間でこんなデザインが浮かぶものだ》

「…」
《…まるで我等がポケモンマスターになれると分かった上での用意周到の様に感じるが、まあいいだろう》







総監から最後に頂いたのは、ポケモンマスターだと証明するエンブレム

メノウカメオのブローチだった

ポケモンマスターだと証明するブローチは全て統一しているわけじゃなく、そのトレーナーの代表するポケモンをデザインとして採用するらしい。私のエンブレムは三強と呼ばれる蒼華と時杜と刹那を使われていた

蒼華のクリスタル、時杜の可憐な姿に刹那が具現化していた武器に―――オレンジ色をしたお花に結晶型の蝶を象った、綺麗なデザインのしたブローチだった

大きさは直径六センチくらい、メノウカメオの器は18金に所々にプラチナもあり、しかもプラチナにはダイヤモンドがあしらわれていた。伊達に宝石の勉強をしてきた身としたら、此処まで大きく立派なメノウカメオは初めてで、値段にしたらきっと50万円はいくんじゃないかな。しかも器の18金やプラチナにダイヤモンドなど色々加算されていったら―――150万円は越えるんじゃないかな?うんうん







「着けるなら…ここだね」

《ミリ様、僕がつけます》

「ありがとう、お願いね」

《はい!》







ブローチを時杜に手渡して、代わりに付けてもらう

そこは――――首元を隠す、白いシルクのスカーフへ


うんうん、我ながらイイ感じじゃない?






「うーん、これを着けると気持ち的にもポケモンマスターになった気分。…本当になっちゃったんだね、私達」

《主の活躍の賜だな》

「ううん、そんな事ないよ。皆の力もあって出来た事なんだから。皆の活躍もあってこそだよ、刹那」

《そうか、そうだな…主、そして私達で勝ち取った栄光だったな。嬉しいものだな》

「うんうん、よしよし」

「…」
《―――しかし、ある意味ではその栄光の代償は大きかったな》

《だよね。まさかだよ…ミリ様がチャンピオンを辞退しなくちゃいけないだなんて》

「…………そうだね」






あの後、皆にも総監に言われた事を包み隠さず話してあげた

皆もまた、言葉を失っていた。私と同じように殿堂入りの感覚でいて、帰ったら変わらない日常が戻ってくると揺るぎない確信をもっていた

皆、思うところは様々。敢えて皆がどう思っているかは聞かない。何故なら私達には拒否権が無い。総監の命令がある以上、この子達の意思を汲み取る余裕などないのだから






「少なくても、これから私達がやる事は一つだよ。帰ったら、ゆっくり休んで―――悔いのない様に、充実した日を過ごそう。皆にはとびっきり美味しいお菓子を作ってあげるからさ、元気よくいこう。ね?」

「…」
《ミリ様…》
《………》

「私達の旅は、終わってないんだから」









そう、まだ終わってない

ポケモンマスターである手前、私はポケモントレーナー

無くしたモノを振り返らず、ただ前に突き進むまで



実際にポケモンマスターになって、本部の管理下に置かれた状況を考えたとしても今の私では何も想像が出来ない

今はそれでいいのかもしれない


今はただ、目の前の事を片付けよう




リーグの事、チャンピオンの事、

交わした約束を、果たす為にも――――














―――コン、コン、コン、コン







「!…はい、どうぞ」

「(ガチャ)失礼するよ、ミリ君そろそろ――――おお!そのブローチ、似合っている。素敵に決まっているよ、ミリ君。リチャードのセンスも中々悪くないな」

「フフッ、ありがとう御座います。……アスランさん、そろそろですか?」

「あぁ、荷物は纏まった。いつでも出発が出来る







 ――――帰ろう、私達の家へ」

「――――――はい、アスランさん」










ポケモンマスター認定試験

本部滞在期間は、一週間


今日、私達はホウエン地方へ戻ります








* * * * * *











「―――――ポケモンマスターが、決まったって?」

「えぇ、リチャード様からそう連絡がありました」

「…なんだそれ、初耳だ。俺は何にも知らねぇんだが」

「無理もないです。ポケモンマスター認定試験は世間に知らされず、内密に行なわれるもの…まだ城へ足を踏み入れる許可を頂いていない以上、連絡が来ないのも致し方ない話かと」

「ハッ、そーかよ。………ま、仮にその場にいたところで俺はポケモンマスターなんかに興味は無い。俺はただ力をつけるのみ」

「そうですか。…しかし、リチャード様は何やら興味深い事を電話先でおっしゃっていました」

「興味深い事だと?」

「えぇ。少なくとも私は気になっています」

「…お前がそう言うなら、本当に興味深い話なのかもな。…――で?その内容は?」

「具体的には教えてはくれませんでしたが…―――貴方様が大変喜ぶ話だと、リチャード様が」

「………………、俺が喜ぶ?」

「はい。それは私にも言える事らしいですが……リチャード様から改めて教えて下さる日は、貴方様が修業の課程を終わらせてからになりますから…約一年後かと思われます」

「勿体ぶりやがって、あのクソジジイめ。…まあいい、あのクソジジイの事だからどうせくだらない内容に違いない。こんな修業、さっさと終わらせて帰るぞ。早く帰って甘い物が食べてぇし」

「そうですね。では早めにお帰りになられるようにメニューを増やす方向性でいきましょう。さあ構えて下さい





――――"ゼルジース"様」

「鬼かお前は!少しは手加減しやがれ!"ガイル"!俺はお前と違って頑丈じゃねーんだよ!」









―――――――
――――
――









「―――ポケモンマスターよ、しばしのお別れだ。君が故郷に帰り、全てを終わらせ、しがらみから解放されたその時にまた会おう。私は総監として、友人のリチャとしても君がこの島に戻って来る事を信じて待っている。…――――再会したら、私のバカ息子にでも会ってやってくれ」






小型ジェット機に乗り込む前に、見送りに来てくれたリチャさんがそう言って私の手を握ってくれた

嘘を纏わない、惜しみなく純粋な歓迎し見送る気持ちと、私達が去る事を寂しがる気持ち。手から伝わる感触に「必ず戻ってきます、リチャさん。それまで待っていて下さい」と私は誠意を込めてその手を握り返した


そういえばリチャさんは蒼華と時杜を見たがっていた事を思い出し、この日に私はリチャさんに二匹を紹介した

私の紹介する言葉にきちんと返事を返す時杜と、変わらず佇む蒼華。リチャさんは「君達の話は兼々耳にしている」と二匹に対して話始めた







「…お前達が彼女の元にいるという事は…無事、再会出来たんだな」

「…」
《……この人、》

「大切にするんだぞ。近々、アイツにも会ってやってくれ。その日がくるのを楽しみにしている」





「刹那ちゃんよしよーし」

《ハブられた…》







あれ自分は?とちょっとハブられた気持ちになっている刹那をよしよしと慰めていたから―――リチャさんと蒼華と時杜の会話は聞いていなかった。途中で会話に混じってきたアスランさんとお話をしていたから、尚更

二匹に会えて改めて会話が出来た事に満足したらしいリチャさんは、素敵なニヒル笑みで私達を見送ったのだった







「ホウエン幹部長アスラン、ポケモンマスターのミリ君。君達親子の再会を楽しみに待っている






 ―――また会おう!」












また会いましょう、リチャさん

暫くは、さようなら

またの再会を楽しみにしています





(私は気付かない)

(今日この日が、最初で最後のリチャさんの姿になるなんて――――)












「さあミリ君、帰ったら忙しくなるぞ。覚悟を決めておきなさい」

「はい、分かっています。…まずは私をポケモンマスター認定試験に推薦してくれた方々にお礼の一報を入れる事から取り掛かりたいと思います」

「分かった。時間が掛かるだろうから、私も微力ながら手伝うよ。…そうそう、リーグに連絡したらかなり喜んでいた。明日の夜、仕事が終わったら盛大にパーティを開くそうだ。出席してやってくれ」

「あらら。分かりました、お言葉に甘えて参加させてもらいます。皆、いっぱい美味しい物を食べようね」

「…」
《はい!》
《美味しい物…!》















キラリと宝石が輝く、エンブレム

キラキラと淡い光を輝かす、クリスタルのイヤリング





リン、と小さく鳴り響く鈴の音――――











「帰りましょう、ホウエン地方へ」












少しずつ、警戒を知らせる鈴の音が鳴り響く事に気付かずに

私はホウエンやシンオウに住む仲間達の再会に心踊らしていたのだった








(ただいま、)(そしてありがとう)


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