念願の、ポケモンマスターに



なっちゃいました














Jewel.39













―――――島にいるポケモン達と仲良くなって、皆さんの前に連れて来て

かなり驚く皆さんの姿に笑いながら、(強制的に)皆さんを迎えてポケモン達と楽しく戯れて

話を聞きつけて後からやってきた蒼華達やアスランさんを迎えて、収拾が着かなくなりそうになりつつも楽しい一日になったのは確かで――――






改めて此処は、ポケモンリーグ協会本部

本部の前に佇む、漆黒のリザードンのある噴水の前



そこに、私はいた







「―――――おめでとう御座います、ウルシバ・ミリさん。貴女は今日この日をもって、ポケモンマスターに認定します。私達は、貴女を歓迎します」

「ありがとう御座います」

「…」
「キュー!」
「……」







本部に働く従業員、本部の上層部の方々

ダニエルさんにルイスさん

二人の地方のリーグ協会幹部長の方々


そしてアスランさんに、私の手持ちの仲間達



私は、彼等に囲まれながら祝福を受け――――同時に、ポケモンマスターの授与式が行われていた









「(本当に、なっちゃった……)」








盛大に、とはいかない厳粛を重んじる本部らしい祝福と授与式のやり方

パレードや花火等の耳に五月蠅くなる音も無い。この静かに行われている空間が、とても心地良い

本当に私は今日この日をもって、ポケモンマスターになっちゃったんだ。目の前で演説している本部の方には申し訳ないけど、未だに実感が湧いてこない。右から左へ内容が流れていっちゃうのが本音だったりする

皆から贈られる拍手が―――何処か遠くから聞こえてしまう







「―――――ミリ選手、これから表彰状とトロフィーに賞金、そしてポケモンマスターだと証明するエンブレムを総監自ら貴女に贈呈します」

「!総監、御自らですか…恐縮です」

「それでは、贈呈式に入ります





 総監、よろしくお願いします」















「――――やっと私の出番が来た様だね。いくら規則だからとはいえ、随分待ちくたびれたよ」









不意に後ろから聞こえた、男性の声



その声は―――聞いた事のある声だった








「…………、え…?」

「やあミリ君、二・三日ぶりかな?やはりポケモンマスターになれた事もあって、随分と顔つきが変わった様に見える。更に美しさが極まったんじゃないかな?」

「え、えっ、えっ?、その声……リ、リチャさん?え、なんでリチャさんの声が………」

「ハッハッハ!かなり驚いている!美人な子の驚く姿を見るのは楽しいなあ!」







後ろから現れた気配

蒼華達が振り返る事で、心夢眼が彼の姿を映す




黒いスーツに身を包み

鋭い眼光を眼鏡で隠し

綺麗に切り揃えられた顎鬚

アスランさんと同年代、だけど若々しさを残しつつ



彼は、ニヤリと笑った








「改めて、だな。私の名はリチャード・R・セバスティアーノ、このリーグ協会本部を取り仕切る総監だ。ウルシバ・ミリよ、君をポケモンマスターと認定し、盛大に歓迎しようではないか!」


「う、う……うそーーーーーん!」









いつの間にか総監と会っていたなんて!





――――――――
―――――
―――









突然のリチャさんの登場と、突然のぶっちゃけで色々私自身が取り乱したりしちゃったけど(私らしくないよね!でもびっくりしたんだもん!)、無事に贈呈式を終わらせ、授与式も終わらせて―――

私達は、本部内部にある総監室の中にいた






「―――――総監、という立場はかたっくるしくてな。中々自由に出来ないのが不便で仕方ない。友と呼べる者も少なくてな…色々規則に縛られている私であるが、君には変わらず気軽にリチャと呼んでくれたら嬉しい。いや、むしろこれは決定事項だ。拒否は許されん」

「リチャード…それは職権乱用だぞ。見てみろ、ミリ君の困った引きつった顔を」

「ハッハッハ!譲らん!」

「全くリチャード、君って人は―――………あぁ、ミリ君気にしないでくれ。彼はこういう人なんだ。本音がそう言っているんだ、諦めてリチャだかルチャしらんがそう呼んでやってくれ」

「(えぇええええええ)」






先程の授与式で厳粛に行事を行なっていた二人の様子が一変し、此処にいる二人はなんともおもしろおかしく笑いあっている(いや、この場合リチャさんが、だけど

残念ながら本部内部にいる為、蒼華達の姿は無い。なので目の視えない暗闇の中で二人の会話が飛び交っているわけでして。ただでさえリチャさんが総監だって驚いているのに、その総監とアスランさんがまるで友人みたいな会話を繰り広げられているから、もう何を言えばいいかサッパリ分からない

総監とお知り合いの関係じゃなかったのアスランさーん…!






「アスランさん、総監…いえ、リチャさんとはどういう仲で…?」

「友人、だね。上下関係を越えた、癖のある友人さ。…君の事を話した事もあってか、推薦枠を一つもらえたのさ」

「お前と会って、もう20年来の付き合いか…お互い歳をとったな」

「ハハッ、そうだな。…あぁミリ君、この事は内緒にしてくれ。総監と実は友人だって回りが知ったら、大変な事になるからね」

「は、はあ……」






なるほど指図め、アスランさんと総監が仲良くしている事で、回りはアスランさんを贔屓しているんじゃないかと疑われるから、かな

本部、それこそ総監は公平に平等に付き合わなければならない。なるほど納得、どこも大変だなぁ←






「今となればリチャードに感謝しなければな。私の娘をポケモンマスターにしてくれたキッカケを、与えてくれた事を。…私は幸福者だよ、本当によくやってくれたよミリ君は」

「!アスランさん…」

「なぁに、私は推薦枠を与えたまでさ。その推薦枠を、お前は最大限に有効活用したまでだ。その推薦枠をミリ君に当てた、そしてミリ君はポケモンマスターになった。ただそれだけさ、礼を言われる事は何一つしていない」

「リチャード…」

「むしろこちらがお礼を言いたい。アスラン、君の娘は素晴らしい才能を持っている。才能ある原石を、磨かず埋もれさせず惜しみ無く輝かせてくれた事はかなり大きい功績だ。原石から、美しい宝石へ―――そんな宝石を、私は待っていた。宝石という、ミリ君を。アスラン、よくやってくれた。総監としてお前の功績を称えよう」

「ハハッ、友人として称えてくれたら満足さ」






少なくとも、私は二人のお蔭でポケモンマスターになれたのは間違いない

確かに筆記試験はかなり難しかったし、トーナメント戦も皆の力のお蔭で通過できたし決勝戦にも出場出来た。二人はただキッカケを与えただけで、あとは私達の実力で勝ち得た栄光

それでもキッカケが無かったら、私はこの場にはこれなかったし、ポケモンマスター認定試験の事すらも知らなかった。キッカケという運命は本当に大切なものだ。謙遜し合っている二人に、「ありがとう御座います、アスランさん、リチャさん」とお礼を言うと二人が笑った気配を感じた









「―――――さて、ミリ君」

「はい」

「これから総監としてポケモンマスターの君に、色々とお願い事を話していく。無論、聡い君ならこのお願いは拒否権が無い強制の、決定事項だというわけだが…よろしいか?」

「――――はい」






真剣な声色に変わる、リチャさんの声

雰囲気もガラリと変わったのが分かった。真剣で、厳粛で、厳格な―――拒否権を相手に許さない、重くもはっきりとした、ポケモンリーグ協会本部の上に立つ存在の圧力

なるほど、これが"総監"

絶対にして頂点の存在、それが"総監"



今から話される内容は、ポケモンマスターと認められた私に話される大切な内容


自然と背筋が伸び、眼もスッと細くなったのが自分でも分かった










「まず、君はポケモンマスターになって最初の仕事がマスコミの取材の対応になるだろう。しかし、ポケモンマスターになれた経緯、試験内容は他言してはいけない。ポケモンマスターは歴史的由緒ある神聖な試験の下で決められるものだ、安易に対策など考えられても困るからな」

「…当然、私は他言無用の姿勢でいきますが………ですか流石に何も言えないとなると世間の目は厳しく私の認定を疑うかと」

「それは百も承知。もし君がマスコミなど執拗に迫れたら本部の名前を出したまえ。それでも収まらなかったらこちらが最終手段を下す。唯一許されるとしたら…君の率直な感想のみだな。それ以上口外してしまったら、君にもそれ相応の処罰を与えなければならない。私はそんな事で君を罰せたくないから、くれぐれも気をつけてくれたまえ」

「分かりました」






やはり他言禁止の原則は変わらないんだね

いや本当その姿勢を貫くにしても無理があるんだと思うんだけど…まあリチャさんがそう言ってくれるなら大丈夫だと思うけど……

率直な感想……とりあえず難しくて疲れたって言っておけばいいかな←



リチャさんの話は続く






「次だ。君は今、ホウエン地方リーグ協会ホウエン支部所属のホウエンチャンピオンとして在職しているわけだが…チャンピオンとして君は色々活躍してくれているのは本部にも話は届いている」

「ありがとう御座います」

「君はチャンピオンとして誇りを持っている。誰もがみな、君がチャンピオンであり続ける事を望むだろう」

「そうだといいんですが……」

「そして君も、ホウエンチャンピオンであり続ける気持ちで、チャンピオンとして君臨していくのだろう?」

「はい、勿論です」

「――――――…」

「―――折角の実を潰す様で悪いが、残念だがそれは無理な話だ」

「!え、リチャさんそれはどういう意味で…」

「ポケモンマスターよ、私は総監として君にチャンピオンの職を辞職する事を命じる」

「!!!??」









突然の辞令宣告に私は言葉を失った







「ポケモンマスターの地位をまず教えよう。ポケモンマスターは簡単に言ったら、そこにいるアスランよりも格段に上の立場にある。支部では幹部長以上、本部では上層部と同等――――且つ、ポケモンマスターはこの私である総監の直属の部下の地位になってくる。そんな上等の地位を持つ存在を、支部に置いておく訳にはいかない。当然、ポケモンマスターになったら自動的に在職が支部から本部へ移される。よって、支部にずっといる事は出来ない」

「…そ、んな…」

「……………」

「ポケモンマスターは地方のリーグ戦みたいな殿堂入り制ではないのだよ、ミリ君」






確かに私はポケモンマスターは殿堂入り制の感覚でいた。何故なら情報量があまりにも少な過ぎたから、この後の事情など知るよしもなかったから

だから、認定試験が終わったら変わらない日常が戻ってくると信じていた。いつもと変わらない、チャンピオンとしての勤めを、平和で平穏な微温湯みたいな日常を。それがまさか、こんな形で終わってしまうだなんて誰が予想したか

ポケモンマスターがアスランさん以上の地位になることも全く知らなかった。アスランさんは、知っていて私をポケモンマスターへ?…いいえ、彼は純粋に私をポケモンマスターへと導いてくれていたから、きっと彼自身私が幹部以上になっても構わない気持ちでいてくれたに違いない







「尚且、ポケモンマスターはいわば人間国宝的存在とも等しい。一体いつ誰にその身を狙われるかは分からない。実力が認められた君のポケモン然り、君自身も。私達本部は君というポケモンマスターを、守る立場にいる、否、守らなければならない。私の目の届くところにいてもらいたいのだよ。しかもポケモンマスターは此処100年は誕生しなかったから、久しく誕生した君の存在はかなり大きい」

「……」

「故にチャンピオンを辞職したら、こちらの本部に来てもらう。チャンピオンとしての仕事の決着の仕方は、君自身に任せよう。リーグ選を開くなりなんなりしなさい、タマランゼ会長を手配しよう」

「リーグ、選…」

「期間は多く見積もって一年だ。一年間自由の時間を与えよう。その間に全てを片付けてきなさい、悔いのないようにな。無論、期限の約束が守れないとこちらで判断した場合、強制的に君をこちらに連れてくる姿勢でいるので心しておくように」

「…………」







慣れ親しんだホウエンから、本部へと活動拠点を移す

つまりそれはアスランさんとのお別れを意味し、勿論ダイゴ達や―――シンオウに住む友人達との別れを意味する

もうただの一般人として生きていけない。一般人として、彼等と会えない。ポケモンマスターになった以上、本部の管轄下の中で生活していく事になるから――――嗚呼、本当に、こんな形で皆の元から去っていく事になるなんて

拒否権なんて無い

受け入れるしか、出来ない


なら―――――









「―――分かりました、リチャさん、いえ…総監の意向に従います。私なりのやり方で、全てを終わらせてきます」

「うむ。よろしく頼んだぞ」

「…はい」












約束を守る為に私はチャンピオンになった

けれど、チャンピオンを辞職する事になってしまった


なら、チャンピオン以上の土産を持って帰ってあげよう。ポケモンマスターという、お土産を。約束を破る形になってしまっても、優しくお人好しな彼等の事だから…きっと喜んでくれるはず

…そうであって、ほしいな







「(ごめんなさい、シロナ…)」










お互いにチャンピオンとして再会して

チャンピオンとしてバトルをする




――――結局私は、約束を守る事が出来なかったね










(だから約束なんて)(嫌いだ)



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