指一本で従わす

本部が求めている存在こそ



真のポケモンマスター












Jewel.38













場所は変わって、此処は本部の敷地内

広大な敷地内にあるレストランのテラスに、アスランを含めたミリの手持ち達が自由気儘に寛いでいた





「ミリ君の事が気になるかい?」






テラス席で紅茶を嗜んでいたアスランの視界の先は―――たてがみを靡かせ優美に佇む、ミリが去っていった方角を見続ける蒼華の姿

蒼華はチラリとアスランを一瞥するも、返す言葉は無いとばかりにすぐに視線を空へ戻した


勿論蒼華に限らず他の一部のポケモン(物静かな子だったり取り巻きに加わらない子だったり)達も、蒼華と同様に各々別の場所でミリの去った方角を見続けている

キャッキャッと楽しい声が聞こえるのは桜花を始めとしたメンバーで、楽しげにテラスの庭で走り回っている。とても平和だ。本部は何処よりも安全な場所だから色んな意味で羽を伸ばせるのに適している。昨日は壮絶なバトルをした手前、今日バトルは無いからそれこそゆっくり休めばいいものを――――

アスランは笑う





「大丈夫さ、ミリ君なら必ず勝ってくれる。何も心配はいらない。…といっても大切な主の無事を確認しなければ安心は出来ないだろうね。気持ちは分かるよ」

「…」

「少なくとも本部の人間は信用してもいい。彼等に敵意は無く公平にジャッジしてくれる。もし敵意がある者がいたとしても…総監が、許しはしないよ」






アイツは鋭いからね、とアスランは笑い紅茶に口をつける。蒼華は変わらず、優美に空を見続ける

蒼華にとって総監という存在も本部というモノも正直関係ない。ミリが彼等に従っているから、蒼華もミリに従って本部の言う事を素直に従っているが―――本来だったら従わなくていい存在なのだ。全てはミリの為に、蒼華は此処にいる

此処にいる仲間を守る為に

ミリの帰りを待つ為に


相変わらずミリ一筋な蒼華の忠実な姿に、アスランはそれこそ笑うのだった







「……そういえば刹那君と蒼空君の姿が見えないが、あの子達は一体何処に行ったんだい?」

「…」






当然蒼華の返事は無かった







* * * * * *









《主!こんなところにいたのか!》

《探したぞ。えらく遠い場所に連れてかれたみたいだな》

「(!……蒼空に刹那、どうして此処へ?)」

《当然、主の無事を確かめる為と主の眼になる為に、だ》

《安心しろ、悟られぬ様に私達は上空にいる。微力ながら空から主の眼になろう》

「(ありがとう、空からでもすっごく助かるよ!)」






最終試験が始まり、暫く経った頃

ビーチパラソル的な簡易型なテラスにて静かに順番を待っていた私の元に、突然二つテレパシーを受けた。その存在は、そう、刹那と蒼空だった。遠くから聞こえてくるとなると、彼等は本当に上空にいて、お得意の能力で姿を消しているんだろう

喩え上空にいたとしても、眼が視えない私としたら二人の突然の助っ人はかなり有り難かった。私は(なるべく表情に出さずに)彼等の存在を歓迎した






「(さっそくシンクロさせてもらうよー。………ほうほうほう、なるほどなるほど。本当にただの島に連れてこられたみたいだね。森もかなり立派じゃんね〜。まさに野生の島、野生の森って感じだね!)」

《やはり最終試験なだけあってか他の人間の数も多いな。これならよほどな事が無い限り、私達の存在がバレる事はないだろう》

《しかし………一体何の試験をしているんだ?》

「(あぁ…それが…)」







私は内心苦笑を漏らしながら、淹れてくれた紅茶に口をつける

対面して座っているのはダニエルさん。今、彼はあったかい緑茶を手に、生きた心地を実感してるとばかりにゆっくりと味わっている。数十分前に最終試験を終わらせた彼はいくらか落ち着きを取り戻してはいるが―――最終試験から帰ってきた彼は、(ルイスさん曰く)それはそれはもうボロボロで、一体何があったんだと驚きを隠せない姿になっていたのだ

その時私は当然眼が視えないから彼がどんな姿で帰って来たか分からない。けれど彼の疲労したオーラとルイスさんからのドン引きと若干の恐怖したオーラを感じ取った。事態はかなり深刻なんだ、と私は何処か他人事の様に見つめていた。あ、眼は視えないけど

今、ルイスさんが最終試験に入っている。ルイスさんのオーラが「(ないわー、マジないわーヤバいぞこれはもしや本当にジ・エンド・オブ・俺フラグじゃねーか)」って言っていたのを今でも忘れられない






「(最終試験…この森に住むポケモン達を単身でどれだけ従わす事が出来るか、だってさ。勿論ポケモンの所持は禁止で)」

《無理だろ。主じゃあるまいし》

《無理だな。主ではないんだし》

「(ですよねー)」








ポケモンマスター認定試験

全ての頂点に君臨する存在なだけあって、課せられる内容も一筋縄ではいかない

本部が求めているポケモンマスターは、指一本でポケモンを従わす存在

今まさにその手腕が問われている




――――普通の人間は、確実に無理だろう









「ルイスさん大丈夫かなぁ」






色んな意味で

いや本当。マジもマジで







「………難しいだろうな。この島は野生のポケモンが住む森だ、人間がポッと現れたものなら敵とみなし攻撃態勢に入る。こちらに敵意は無くとも彼等にとってそんな事は関係ない。ただ自分の住家を脅かす存在を排除するまで」

「(おっと心の声がいつの間にか出ていたとは)」

「君も十分気をつけるんだな。本部の人間がいるとはいえ、一体何が起こるかは分からない。…本当にな」

「はーい」

「…緊張感がないぞ。本当に大丈夫か?」

「あはー」






「ルイス選手、お疲れ様でしたー」









遠くで声が聞こえた

心夢眼に映るのは、上空から映される――――ヘロヘロボロボロになった、爽やか何処いったと疑いたくなる風貌になってしまった、ルイスさんの姿が

腕にはジタバタもがくゴクリンの姿があった






「ルイス選手は…ゴクリンが一匹、ですね。ではこちらにどうぞ、今温かい紅茶を淹れますので休憩して下さい」

「ルイスさんおかえりなさーい」

「………やはり君も、彼等の洗礼を受けてしまったか」

「は、はは…情けないばかりです」

「くぉー!!」







ゲッソリと覇気を失ったルイスさんはよろよろと椅子に腰を掛け、ぐったりとテーブルに突っ伏した。《よく命があったな》《普通の人間ならこうなるな》という二匹のテレパシーが聞こえたけどここはあえてスルーして

ルイスさんの腕から逃れる事が出来たゴクリンは、このまま逃げればいいのに私の膝の上に乗ってきた。「くぉ〜」と甘えてきたゴクリンの姿に今の内にホクホク癒されておく

しかしゴクリン…よくゴクリンを捕まえれたよね。従わすというか捕まえれただよねこの場合







「…俺、ゴクリンだけで手いっぱいでしたよ。ダニエルさんのガーディとヘルビルには負けます。お手上げです」

「結果はともかく……無事、命があった事を純粋に喜び合おうじゃないか…」

「ですね…」

「ゴクリン可愛いねー」

「くぉ〜」

「………。一人全く緊張感のない子がいますが、大丈夫ですかね」

「奇遇だな、私も同じ事を考えていた」







大丈夫かこの子、という心配する視線を一身に受けるがそんなの気にしない。ゴクリンの可愛らしさの前では関係ないのだよ!

構っていると《主、緊張感》《……何をしているんだか》と呆れたテレパシーも聞こえてきたけどスルーよスルー






「…先程から君はかなり余裕そうにいるが、何か策でもあるのか?少しは緊張感を持った方がいい。君にだって何が起こるかは分からないんだぞ」

「敵同士とはいえ盲目の貴女だからこそ、俺は心配なんだよ。てか…攻撃ばかりしてきたそのゴクリンがどうして貴女に真っ先に懐いているのかが理解出来ない……」

「くぉ〜」

「フフッ、まあ大丈夫ですよ。なんとかなります。ゆるーく行きましょうゆるーく」

「…その自信が何処からくるのか分からん」







「――――エントリーナンバー10番。ミリ選手、スタンバイお願いします」











お!きたきた


ついに私の出番が来たよ!








「ダニエルさん、ルイスさん、いってきます!」

「…何故そんなに楽しそうなんだ…本当に心配になってきたぞ」

「…秘策でもあるのでしょうか……いやでも秘策もなにもあそこは全てが通用出来ないのに…」

「あはー」








《主、》

《ついに主の出番か》

「(刹那、蒼空。君達は何もしないで変わらず上空で私の眼になっていてほしい。手出しは無用だよ)」

《《分かった》》









「―――ミリ選手、準備はいいですか?」

「はい、いつでも」

「途中まで私が森の中へ連れていきますが、後はミリ選手次第です。盲目とはいえ、此処から先は私共もお手伝いが出来ません。どうか、ご武運を」

「はい」









さてさて、この森は一体どんな子達が住んでいるのかな?


おねーさんはとっても楽しみだよ







「さーて、行きますか!」



































数時間後―――――












「プリプリ〜!」

「ありがとうプリン、案内してくれて。お礼に頭よしよししてあげちゃうよ〜可愛いなぁプリン!」

「プリィ!」

「さーて、皆!この人達に向かって整列してー。小さい子、大きい子、数えやすい様にお願いねー!」

「「「ギシャァァ!」」」
「「「ガルルルル!」」」
「「「ガァアアン!」」」
「「「ピッピー!」」」
「「「チリリリン!」」」
「「「ツクツクホー!」」」
「「「チュッチュー!」」」
「「「キューン!」」」
「「「チララ!」」」
「「「ピッチュ!」」」
「「「くぉ〜!」」」

「うーーん、とっても素敵な返事!おねーさんとっても嬉しいなぁ!」







プリンを先頭に―――ぞろぞろと私の後に着いてきてくれた、此処の島に住むポケモン達

大きい子から小さい子まで、とてもニコニコした可愛らしい顔で素直に私に着いてきてくれるとてもイイ子達



そして――――










「な…ん…だと……!!」

「う、そ…だろ……!?」








愕然と、驚愕な表情を浮かばす二人の姿


―――と、複数いる本部の方々


皆さん素晴らしく面白い顔になっているね!








「あ、皆さん!お待たせしました!此処にいる子達、全部とはいきませんが一緒に来てもらいました!どうでしょうか?とっても可愛い子達ばかりですよ!」

「……なんという事でしょうか……歴代史上初の更新記録ですよミリ選手……!」

「は、はは……俺は今、夢でも見てるんじゃないか…!?彼女は一体何者…いいやむしろこんなこと、あっていいのか…!?」

「……もう、勝敗は確実に決まってしまった、というわけか………完敗だ」

《もうそろそろ地上に降りてもいい頃だな》

《私はこの事を皆に伝えてくる》

「ほらほら皆さん、そんな所にいないで!皆さんも一緒に来て仲良くしましょう!大丈夫です、噛み付いたりしませんから!」

「ミリ選手!?ミリ選手ーーー!!危ないですよ戻って来て下さいーーー!!」





























「ククッ、ハッハッハ!!これは素晴らしい!!まさに予想以上の事を彼女はやってくれた!期待以上だ!」







一方―――本部でもこの島の中継が繋がっていて


映像に映るのは、まさに歴代史上初と言ってもいいアリエナイ光景




リチャードは大声で笑い、歓喜の声を上げていた











「ウルシバ・ミリ、彼女こそポケモンマスターに相応しい逸材そのもの。君という存在を、私達本部は待っていた








――――さあ、新しいポケモンマスターを迎えに行こうではないか!彼女の為に用意したエンブレムと一緒に!」
























『―――――登録入力一覧...



名前:ウルシバ・ミリ

年齢:18

出身:カントー地方マサラタウン

住所:ホウエン地方サイユウシティ付近

役職:ホウエン地方リーグ協会ホウエン支部認定チャンピオン






〇〇月〇〇日をもって

ポケモンリーグ協会本部主催

ポケモンマスター認定試験にて


ポケモンマスターを認定する事とする――――』












(全ての挑戦の幕が閉じたのだった)


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