千載一遇のチャンス 今まさに、その瞬間を迎える Jewel.33 ポケモンリーグ協会本部 其は、全ての地方にあるリーグ協会支部を統率し、全ての地方の頂点に君臨する絶対的存在 本部が一般市民や一般トレーナーが関わる事は無い。関わりがあるのは支部の幹部以上の地位の人間や権威等認められた人のみ。当然幹部以上だから私みたいなチャンピオンの地位でも接触は困難であり、それ以下の人達はもっての他。故に世間はリーグ協会本部の存在がある事をあまり認知していない。こういった行事があって初めて認知される。それでいいのだろうか…まあ私はトムさんから話を聞いて知っていたからいいけど ポケモンリーグ協会本部の本拠地こそ、誰も知らない未知の場所 否、幹部以上の人や権威等認められた人達は別にして、それこそ一般人や一般トレーナーは何処に本部があるのかは知らない。誰一人、旅をしてその地にたどり着けた人間は誰もいない。なんたって本部だから、全世界のトレーナーの情報が管理されているわけだからそりゃもう厳重に警戒し情報漏洩阻止を徹底してるからこそ、こういった設備になっているんだろう。簡単に想像出来た これまで、アスランさんは本部の事を口にしてこなかった。何故ならアスランさんは幹部長として本部の事情話を他言する事を禁止されていたから。勿論、本部の本拠地も。やっとポケモンマスター認定試験があって私が選ばれ出場が認められたからこそ、彼は私に(障り程度に)色々教えてくれた事は記憶に新しい それほどまでに徹底し、沈黙を守り続けている本部 一体、どんなところだろう。ゲームとは違うオリジナリティーあふれる未知の設定に心踊らすばかり サイユウセティにある飛行場で、本部が準備した小型ジェット機に乗り込んで―――今か今かと本部に到着する事を待ち望んでいた私達 しかし、此処で思わぬ障壁が私達を阻んできた 「………え、この子達着いてきちゃ駄目なんですか?」 「申し訳ありません。ポケモンバトル以外にポケモンを所持し、城内を連れて歩く事は禁止されています」 「…」 《嘘でしょー!?》 《そんなまさか》 小型ジェット機内はプレミアムで高級品で居心地の良い造りだった―――と感動してから暫く経った頃 此処で本部の人間から注意事項の説明を受ける事になった。アスランさんから兼々聞いていた内容から、初めて聞く内容まで(あ、本当はこの時点で身分チェックが入るみたいだけど本当にパスされたみたい)。この時に初めて、私達は衝撃を受ける事になる 本部の中に、ポケモンを連れていけないルールを 「(ちょっと困ったかな………)あの、実際に許される範囲はどの辺りまでですか?」 「城内は禁止されてますが、城外は問題ありません。敷地内にある他の施設に関しても連れて歩く事は可能です。ですが一番重要なのは本部の城の中にポケモンを連れてこない事。ポケモンを使った不正や騒動を回避する為です。勿論、身体を透明に可能とするポケモンも論外です。センサーが反応します」 《…そうなると姿を消せる私と蒼空の力、影に潜れる闇夜の力もこの場合は難しいという事か》 《それじゃミリ様の眼になれないじゃん!》 いや全く本当に この子達がいないと落ち着かないし眼も視えないから確実に筆記試験があった時の対処が出来ないんだけど! うーーん、困ったなぁ… …… ……… ………最悪私の力を使うしかないのかな← 「盲目の聖蝶姫、あなたの事は総監から聞いております。ポケモンがいる事であなたの身の回りやチャンピオンの仕事も、健常者の様に可能としていたのも存じ上げています。あなたは身体障害者扱いになりますので…状況に応じてこちらが責任もって対応致しますのでご安心下さい」 「(ここは信じておきますか…)分かりました、お願いします」 「…」 《むー…》 《いや、もしくは……(ブツブツ》 「城内に入りましたらまずは受付でエントリーしてもらいます。その後は案内に従って下さい」 「分かりました」 「ホウエン幹部長、大変申し訳ないのですが…」 「あぁ、分かっている。私は試験が終わるまで別の場所にいるよ」 「あ……この子達、ボールが無いんです。…どうしましょうアスランさん」 「なぁに、私が預かっておくよ。君は何も心配しなくてもいい。この子達と一緒に外で待っているからね」 「はい。よろしくお願いします」 今まで皆に甘えてきたから、今回は流石に自分の力で乗り切らなきゃ 多少自分の力を駆使しながらやりこなすにしても、それ以外は自分の実力で勝負を決めよう 大丈夫、私ならやれるはず 「早く着かないかなぁ」 しかしこの座席、すっごく居心地が素晴らしくて眠くなるね ――――――― ―――― ―― ― 小型ジェット機に揺られてから、軽く五時間くらい経過した。ホウエン地方よりも遥か東の方角に進んでいったジェット機は陸を過ぎ、海を越え、空の上をひたすらまっすぐ進んでいき 遂に私達は、ポケモンリーグ協会本部へ足を踏み入れた 初めて視た本部は、一言で言ったら優美な「城」だった。漆黒の外壁に包まれた西洋風の、貴賓溢れ数百年以上の歴史を重んじさせるような、優美な「城」………今まで色んな世界の数々の有名な城を見てきたけど、この「城」も中々見事なモノだった サイユウシティよりも広い島に鎮座する本部。回りは海しかない。本部を、否、島ごと囲む城壁も大層立派に鎮座していた。この島こそが、本部そのもの。ポケモンリーグ協会本部は「島」そのものだった 本部の玄関である飛行場に到着した私達を出迎えたのは―――黄色やオレンジ色といった暖色系の色をした、様々な種類の花が咲き誇るフラワーロード まるでサイユウシティのフラワーロードそのものだった。おかしい、数時間前その道を通ってきたばかりだっていうのに……私は笑う。お蔭様で何処か緊張が解けたのも自分でも感じた。フラワーロードはまっすぐ本部へと続いていて、城の玄関前は眼を見張る程の―――漆黒の大きなリザードンのオブジェと、キラキラ輝く噴水が来客を歓迎していた 「…」 《!これは……》 噴水の前にたどり着いた時―――蒼華と時杜が何かに気付いたのか、リザードンのオブジェを見上げた 丁度ここら辺がポケモンを連れ添える境界線でもあった為、私はアスランさんに向き合って手持ち全員分のボールを託していたのもあって―――私は二匹の様子に気付かなかった かつて昔に存在していた仲間を、懐かしむように…けれど瞳が哀しみに揺れていたのを 《……?二人共、リザードンの物体がどうかしたか?》 《!ううん、なんでもない。…刹那、物体じゃなくてコレ多分オブジェってやつだよ。物体には間違いないけど》 「…」 《ほう、これはオブジェと言うのか。日本語は難しいな》 「それではアスランさん、よろしくお願いします」 「任せてくれ。私達は先に庭園にあるレストランにいるから、終わったら案内してもらいなさい。状況によっては先にホテルに行って休ませてもらう」 「はい、アスランさんにお任せします」 何処からともなく現れたバスケットの中に一つ一つ丁寧にボールを入れ、アスランさんへと渡す 様々な色をしたカラフルなボール。ボールの中には大切な仲間達がいる。私と離れるのを名残惜しそうに、それぞれのボールがカタカタと小刻みに揺れていた。テレパシーで伝わってくる、皆の応援する声――― 不意に、アスランさんが私の頭に手を置いた 「大丈夫、ミリ君なら出来る」 「アスランさん…」 「誰よりも私は君の実力を知っているからこそ、君がポケモンマスターになれる核心を持っている。勿論、リーグの皆も君を信じている。ホウエンに住む人々も当然信じているさ。……本当だったら君は出場するだけでも祝福される身なのに、こういったルールがある所為で祝福されないのはこちらとしたらとても残念でならないよ」 「いえ、私なんかに祝福なんて……」 「必要さ。事の重要さに気付いていないからそう思うのさ。…ミリ君、頑張ってくれ。私の娘として、私にポケモンマスターになった姿を見せてくれ」 「――――はい!」 私の頭をサラリと撫でる、男性特有のしっかりした手 スルリと私にすり寄って来た蒼華のひんやりとした身体 胸に抱き着いてきた時杜の小柄な身体 寄り添ってきた刹那のスラリとしたしなやかな身体 私は、一人なんかじゃない 蒼華と時杜と刹那と繋げていた心夢眼のシンクロを解いた すると私の眼も心の視界も、全てが闇に包まれる 何も見えない。全てが真っ黒 ―――ううん、大丈夫 こんなこと、私には全く問題ないんだから 「いってきます」 本部の付き添いの方を従えて 私は本部の扉を叩いたのだった (私は絶対に、負けない) |