私のやってた事は間違いなかった

全てが報われた気持ちになった


そんな、強烈な一日だった













Jewel.31













いつの日か、とある会話をした事がある

それはあの事件が起き、不本意ながら有休休暇を頂き、護衛という形で一時間半話し相手の為に一人の新米警察官セキさんがやってきていた時

セキさんは私に将来の夢は何かと質問してきた。その質問に私はこう答えた「ポケモンマスター」と。しかしそう答えても実際どうやってポケモンマスターになれるかは正直分からなかった

アスランさんに触り程度に話は聞いていた。ポケモンマスターになる為には様々な試練を乗り越えなければならない、と。五十年に一度あるリーグ協会本部が主催する認定試験があり、かなり難易度の高いレベルでしかもその認定試験を受けれる人間は極僅か

ポケモンマスター認定試験、一体いつ開催されるかは分からない。開催日は知らされず、試験内容も不明。全てが闇に包まれているあやふやな存在―――だからこそ人はその地位に魅了されるのだろう。しかも万が一にポケモンマスターになれたら、そのトレーナーは栄光を受けその先の未来は約束されたようなもの同然なのだから








「…ポケモンマスター認定試験、そんな話が?」

「えぇ、すごく耳寄りな話でしょう?」

「…」
「キュー」
「……」







ここは情報管理部のコンピューター室

数多のパソコンに座る従業員が並び、その上座に構えるのは此処の管理部部長のアキラさん

少し別件の所用で此処を訪れた際、こっそりとアキラさんは私に耳打ちをしてきた。思わぬ耳寄りな話に私はびっくりしてアキラさんを見返した(といっても心夢眼でだけど)。情報管理部部長を勤めているからそういった情報は強いのは分かるけど、まさかそんな話が

アキラさんは続ける






「既に動いているそうです。本部の人間が人選に着手しているのは間違いありません。一体誰が、どのトレーナーを調べているかは把握していませんが…もし、万が一リーグ内で不審な動きをしている人がいたとしても………見過ごしてあげて下さい」

「(朱翔と蒼空が警備している事を分かって言っているな…)……、分かりました。この情報はどちらから?」

「シンオウの管理部長のアルフォンスさんから頂きました。彼なら真っ先にでも情報を得れたのも納得がつきます。この情報を、すぐにでもチャンピオンへとの事でした」

「そう、でしたか……」







アルフォンスさんは、私の夢がポケモンマスターだって事を知っている。伝えなくたってアルフォンスさんの事だからすぐにでも調べをつけているはず

だから彼は私にこの話を真っ先に伝えたかったのかもしれない。ユリさんとアルフォンスさんは…私がポケモンマスターになる事を応援してくれていたから






「まだ内密な話です。他言無用でお願いします」

「勿論です。……他にこの話を知っているのは?」

「アスラン幹部長とリンカ副幹部長です」

「私が知った事はご存じで?」

「いえ、これは私の判断でお伝えしました。これは本部の機密事項になっていきますので…知らぬふりをお願いします。機密違反でクビにはなりたくないので」

「(うーん、だったらここで話さなくてもいいんじゃないかな…)」







本部の機密事項に関してはこちらは関係ないからどういう内容かは分からない

アキラさんの言葉通りだったら、アルフォンスさんもクビを覚悟で私に伝えてくれたって事になる。……そこまでして教えてくれた事は有り難いけど――――嗚呼、とっても残念な話だよ


私にはこの情報を有効活用出来るすべが無いのだから






「もし業務終了時でよければアルフォンスさんに繋げますよ」

「…………。いえ、遠慮します」

「…宜しいのですか?」

「はい。いずれまた、会えますしね」







アルフォンスさんに電話を繋げ、会話なんてしたら色々とボロが出そうで怖いから

何故なら彼は、鋭過ぎるから

ちょっとした変化でも目敏く気付く観察力は私の度肝を抜くほどだから、今の私を見たら―――すぐにでも私の状態を察知してしまうに違いない。もしかしたら…悪党集団相手を討伐していた事も、向こうは知っている可能性だってある

せっかく耳寄りな情報を教えてくれた手前、本当に申し訳ないけど私は私を守る為にも彼に電話はしない。彼に会う時は、それこそ約束を果たして再会した時―――







「ポケモンマスター、一体どんな人がなるんだろうね」

「…」
「キュー」
「……」










少なくても今の自分は到底なれない事は、分かっているから




――――――
―――









数時間後、私はアスランさんに呼ばれた






仕事上、アスランさんに呼ばれるという事は100%お仕事の話。プライベートで話す様な内容じゃないのは半年以上働いてきたから承知済み

さて、今日はどんな仕事の話が出るのかなぁ――――と、ポケモンマスターの話は全く自分に関係ないとみなしすっかり忘れていた私はアスランさんのいる幹部長室の扉を叩いた


そして、すぐにでも私はアスランさんから自分の予想外を越える話を聞かされる事になる


そう、何故なら








「ポケモンマスター、認定試験…!?」









私は驚いた

蒼華と時杜と刹那も驚いた

異空間にいる子達も驚いた

そりゃもう、目が飛び出ちゃうくらいに



眼前に座るアスランさんの面持ちはホウエン幹部長として私に対峙していて、この話もホウエン幹部長として提示してくれたって事になるとは思うんだけど…

まさかだよね!数時間前にこっそり話を聞いていた事が、まさかアスランさんの口から話されるとは誰だって思わないからね!


口はあんぐり、目はポカーンとまさに阿呆な顔、内心目茶苦茶動揺しまくっている私を余所に、アスランさんは話を続ける





「あぁ、そうだ。リーグ本部主催で行われるポケモンマスター認定試験。五十年に一度に開催される一大イベントだ。私はね、実は本部の総監と知り合いなのだよ。彼のご好意で私の為に枠一つを空けてくれたから、君を推薦して出場させたいと思っている」

「!!」

「既に多くの博士達や著名人から君に推薦をしたいと募って来てくれている。…第一関門でもある身分チェックも、総監のご好意でパスしてくれるそうだ。それが叶わなくとも、私の娘として出場すればいい。…だから君は、何も考えずに試験に臨んでもらいたい」







あまりにも!情報量が多過ぎて!処理仕切れな過ぎて!頭がパンク寸前なんですよアスランさんちょっと待って…!

だけど、なけなしの脳味噌はどうやら動いてくれたお陰で状況はなんとか飲み込めそうです。はい(おねーさん着いていけない…!

動け私のなけなしの脳味噌…!



まず本部の総監さんとお知り合いだったのはすっごく驚いた。幹部長の地位は本部とコンタクト取れる地位なのは知っていたけど…まさか、総監と知り合いだったなんて。人脈広いのは兼々知っていたけどまさかだよね!総監とかさ!アスランさん末恐ろしいです!

大切な推薦枠を頂き、それをまさか、私に当ててくれるなんて…他にも優秀なトレーナーがいるにも関わらず、私を選んでくれたなんて…夢でも見てるんじゃないかな

多くの人が私を推薦してくれているって聞いて、もう私は開いた口が塞がらない。少なくても今まで私がやってきた事は間違いなくて、ちゃんと実になっていたんだと思えてジワリと温かい何かを感じさせた




…―――身分チェック、敢えてその事を言ってきたとしたら、アスランさんは気付いていたんだろう。私が、無戸籍な人間だっていう事を

アスランさんは分かっていて、色々手を差しのべてくれていたんだ。そして、自分の娘として迎え入れてくれるという事も…


色んな情報量でいっぱいいっぱいでも、この話に勝るモノは無かった












「…どうかね?出場、してもらえるかな?」









アスランさんは問う


全てを分かっていた上で、アスランさんは私に期待を込めて問うのだ


ポケモンマスターになってくれと―――







「(そんなの…答えは決まっているじゃないか…!)」








嗚呼、なんて私は幸福者なんだろう


幸せ過ぎて、涙が出そうで








「も、勿論です!出場させて下さい!アスランさん…本当に本当に、ありがとう御座います!私…アスランさんの為にもポケモンマスターになってみせます!ね、皆!」

「…」
《わーい!》
《張り切るぞ…!》









皆さんからの、期待

アスランさんのご好意―――ううん、アスランさんからの深い"愛情"


裏切ってはいけない


そして、このチャンスはけして逃してはいけない






今までやってきた事が無駄にはならなくて本当によかった







私は嬉しさのあまり―――アスランさんの前にも関わらず、蒼華と時杜と刹那に抱きついたのだった










(これぞまさに)(千載一遇のチャンス!)



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