約束

それが今の私の存在理由



だから私は負けない

自分自身にも、全てにも















Jewel.29






















「ねえねえ、ミリちゃん」

「はい?」

「前からずーーっと!疑問に思っていたんだけど……ミリちゃんはどうしてそんなに頑張れるの?」








今の時刻はまだまだ太陽光が燦々と降り注ぐ、午後三時頃

予選選抜試験の休暇時間の合間を使ってチャンピオンのミリを含め四天王の四人がテーブルを囲み、ちょっと遅めのティータイムを過ごしていた

プリムのお気に入りの紅茶を淹れてもらい、ロイドが持参してきた洋菓子に舌を包み、久しく無かった五人のお茶会に会話を弾ませていた時だった――――突発的に、と言ってもいいミレイの質問に、ミリは飲んでいた紅茶の手を止め意図が分からずといった様子でコテンと頭を傾げた

ミレイの突然の質問、ミリの傾げた姿にロイドは紅茶を飲みながらクスッと笑う





「ミレイ、藪から棒にどうしたんです?ほら、ミリさんがキョトンとしてますよ」

「だってさ、今さら言う事じゃないけど…ミリちゃんの歳でそんなに頑張れる子見たの、初めてだもん。前のチャンピオンのお仕事を片付けるだけでも大変な事なのに終わらせたし、このホウエン支部を新しくしたじゃんね!前よりミリちゃんのお仕事が大変になったっていうのに、資格の勉強もしてるって話だよ?改めて考えると私達って凄いチャンピオンの四天王やってるんだなぁ〜ってね」

「本当に今更な事を……クスッ、しかし気持ちは分かります。ミレイの言う様に、ミリさんというチャンピオンの四天王に居られるという事は、とても誇り高い事なんですから」

「私もつくづくそう思いますわ。本当によくやってくれてます。もし、私が同じ年齢で同じ立場だとしたら…全く想像がつきませんもの」

「ミリと同じ年代の者達を多く見てきたがまず中身が違う。…本当、あやつに爪の垢煎じて飲ませてやりたいものだのぅ」

「……うーん、皆さん私を買い被りだよ」

「…」
「キュー」
「……」





しみじみ、といった様子で頷き紅茶を飲む四人の姿にミリはなんとも言えない様子で苦笑を零す

自分の目の前でそんな風に言ってくれるのは嬉しい反面恥ずかしい、こそばゆい気持ちになるミリであったがチャンピオンとして当然の事をしていると思っていた為、この気持ちをすんなり受け止めてもいいのだろうかと微妙な気持ちでもあった

そんな事よりも自分が資格の勉強をしている事を皆が知っていた事に少し驚いていた。「私がどうして勉強しているって事、知っていたの?」と聞いてみたらゲンジに「司書の二人が毎日大量の本をもって行けば誰だって分かるわい」と半分呆れ気味に言い、「幅広く知識を得る為の勤勉は関心しますわ」とプリムは微笑ましそうに紅茶を飲んでいた。なんという事だバレてた解せぬ

ミリちゃん!とミレイは一際大きい声で拳を握る






「ミリちゃんはどうしてそんなにイイ子なの!?」

「………、う"ーーん?」

「ミレイ、その質問は流石にミリさんも困るんじゃなくて?」

「えー?うーーん…あ!ならこの質問ならどう?」

「うん?」

「ミリちゃんはどうしてシンオウ地方から離れてホウエン地方のチャンピオンになってくれたの?」







あ、それなら答えられそうだよ




ミリは苦笑を零して口を開いた






「それは――――――」








―――――――
――――
――












「――――ミレイが私の事を?」

「中々興味深い事を言っていたよ」

「あらー」

「…」








時は流れて夜の7時頃

定時に上がれた二人は、手持ちのポケモン達と共に自宅で食卓を囲み夕飯を食べていた

今日はなんの勉強をしようかなぁと夕飯後の流れを考えていたミリを余所にアスランは開口第一にそう質問をした








「もしミリ君がよければ、私にもその話を聞かせてほしい。君がどうしてそんなに頑張れるのかを。その原動力をさ」

「フフッ、そんなに大したお話はしてませんよ?」

「気になるじゃないか。ミリ君の言う『約束』の意味を。ミレイ君も「気になるー!」って言っていたよ」

「あらあら」







数時間前―――ミレイの突発的な質問から始まった出来事

興味津々と四人の目線を一身に受けながら話した内容。それは至ってシンプルそのもので、ミリは簡単に端的に言った。「約束の為にチャンピオンになろうと思ったの」

約束の内容までは答えなかった。言う必要性は無いと判断したし、あまり自分自身の話をしない主義でもあった。察しのいいロイドとプリムとゲンジはそれ以上何も聞くことはなかったが、ミレイはすごく気になっていたらしく「その約束って?」「んー、ひみつ」「えー!」と暫く駄々をこねていた

よほど気になっていたのかは分からないが、こうしてアスランにポロッと口に出してしまうミレイはよほどその約束が気になっているんだろう。未練がましく最後まで渋っていた数時間前のミレイの姿を思い出しながらミリは苦笑を零す

隣にいる蒼華の心夢眼から視えるアスランの姿は、とても興味津々とばかりの姿をしている。これは言い逃れ出来ないパターンですねなるほど。心夢眼を映す蒼華も諦めろと言いたげな感情をミリに向けていた為――――それこそ苦笑を零しつつ、観念した気持ちでゆっくりと口を開いた











「シンオウで、約束をしたんです」











思い出す、あの時の記憶


明朝にも関わらず、知らせていないのにも関わらず

あのナギサの港へ見送りに来てくれた―――大切な仲間達







「こっちに来る前に色んな人と約束を交わしました。シンオウに戻ったら、バトルをする事、コンテストをする事、一緒にいつもの様にナギサの街で遊ぶ事、弟子を育てる事、図書館で本を読んでもらうなど……その中でも、ライバルのシロナと交わしたんです。『一緒にチャンピオンになって、共にチャンピオンとして頑張ろう』って」







意気揚々と小指と小指を絡ませ、歌を紡ぎながら交わされた約束

嬉しそうに笑顔を咲かせる表情、まだ見ぬ未来を楽しみに待つと輝く瞳、居なくなるのは寂しいけど新しい土地でも頑張ってほしいと小指から感じる相手の本音

本当は指切りなんて嫌いだ

約束を守れる自信が無いから

けれどそんな気持ちを裏腹に指切りを簡単に交わせる事が出来た彼等の存在は大きくて、またその約束はけして破ってはならないとミリを駆り立ててきた




何がなんでも、約束を守りたい




皆の笑顔が、脳裏に過ぎる











「それが、私がチャンピオンとして頑張る―――本当の理由です」







最初から最後まで終始笑顔の皆の姿を思い出すと、自然とこちらも笑顔にさせてくれる


嗚呼、皆は元気にしているのだろうか








「…大切な友達と交わした『約束』という事だったのか。とても…………素敵な約束だね」

「はい、そうなんですよ。回りの人達に言った事無かったから…フフッ、なんか照れますね」

「………」

「この約束は皆の為でもありますが、私自身の為でもあるんです。…そしていつか立派なチャンピオンとして堂々と、皆と再会出来たらなって思っています」













その時が来たら、アスランさんに皆を紹介しますね

そういうミリは楽しげに笑みを浮かべた。久しく仮面の無い本当の姿で。嬉しそうで楽しそうで――――まだ見ぬ未来に思いを馳せながら、蒼華の身体を愛しそうに撫でる



楽しみにしているよ、とアスランも笑う



仮面を被らず久しく見なかったミリの笑顔に釣られて笑うも、その「約束」をあまり快く思わずいつかミリの身を滅ぼすのではないかと危惧していた事なんて露知らずに



ミリは束の間、本当の笑顔でアスランとの会話を楽しむのであった










(まだ自分は)(笑えるんだね)


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