私は至って元気です 大切な事なのでもう一度言います 私は至って!元気ですよ! Jewel.28 ―――毎日の様にリーグの仕事があり 毎日の様に悪夢にうなされ 毎日の様に懲りずに現れる悪党犯罪集団 そして討伐を決行して毎日の様に深夜にその悪党犯罪集団を闇に堕としていく――― 朝早く、夜遅い 寝不足もあり疲労も蓄積されていく そんな毎日を繰り返していったら 流石のミリも限界を迎えるわけでして 「解せん。認めない」 「ダメですミリ様、認めて下さい」 ピピピッと軽い音を鳴らすのはミリの脇の下に挟んであった体温計 その表示された体温計は―――38.4℃と書かれていた 「見なきゃよかった…よし、忘れよう私は今日も元気ピンピンよ!」 「ダメです!ミリ様、お仕事休みましょう」 「だいじょーぶだいじょーぶ。さーてお仕事行きましょうかね!あ、刹那ちゃーん丁度いいところに!今日のお仕事どうなってる〜?」 《落ち着け主。眼が虚ろだぞ》 「ダメですって!ちょっ、皆さんミリさんを押さえるの手伝って下さい!ミリ様このまま本気で行こうとしてますよ!」 《ミリ様ダメーッ!》 《マスター!》 《主、落ち着け!》 「ミロー!」 「キューン…!」 「ふりり!」 「へぶっ!ちょっ、ぶっ!こらこら君達!私の行く手を阻むんじゃないよ!……こらこら私をベットに連れていっちゃやーよ!」 「…」 《愛来、蒼華の言う通り今すぐアスランを呼んできてくれ。流石にもう主の容態を黙ってはいられない》 「はい蒼華さん!兄さま!アスランさん呼んできます!」 「あ!こらそこ!アスランさん呼んじゃダメだって!愛来ちゃーん戻っておいでええええ!」 いつから体調がおかしくなってきたのかは、もう分からないくらい昔の事。皆も本人も気付かないくらい、ミリの身体は追い詰められていた 始めは仕事が終わってすぐベットへ倒れ、夜に備えて仮眠とはいえ食事を忘れるほど熟睡する姿から―――気付けばトイレで嘔吐してしまう始末。今日は特に朝からボーッと心此所にあらずといった姿をしていた為、もしやと思って熱を測ってみたらビンゴ 質が悪いのは体温計を見ても仕事に行こうとするのだから、手持ちの皆はそれはそれは必死でミリを止める。勿論そんな事で仕事を休むつもりが無い事は嫌でも分かっている蒼華は最終手段で愛来にアスランを呼んでもらう様に命令し、早々と愛来は言われた通りアスランを呼びに行く 当然――― 「――――ミリ君、そんな身体では本当に倒れてしまうぞ!」 ミリの容態を知ったアスランは仕事を休むように強く薦めた やはりと言った表情を浮かべている辺り、アスランも前々から薄々感じていたのだろう。すぐさまアスランもポケモン達の味方に回り、ミリが仕事に行くことを阻止した 「そうですよミリ様!愛来は、ミリ様の無理なさる姿は見たくありません…!」 《そうですよミリ様!休んで下さい!》 「…!」 《無理はしてはいけない》 「大丈夫…こんなの微熱ですって」 「人間の体温温度の平均的に言われる微熱が38℃なんですか!?」 「ミリ君、それは微熱じゃない!高熱じゃないか!」 「いやいや、これくらいならまだまだ盗んだバイクで走れますって。それにまだ書類にサインしていないものだって沢山あるんだから、私だけ休むわけには…愛来、薬を頂戴。バッ〇ァリンよりナロンエースがあってくれたら嬉しいな。半分が優しさなんて要らない!」 「ミリ様…ロイドさんにセクハラされても知りませんよ…!」 「いや、それ以前に君は休みなさい頼むから!」 仕事がある書類がサインがあーだこーだと言い張るミリを無視し、アスランは愛来や蒼華にミリの事を頼んだ。そして時間になってしまったのでアスランは仕事へと行ってしまう 医者に行きたがらないミリに「ロイド君に事情を説明して後で来てもらうから」という一言を忘れずに 「いやじゃ!わらわもお仕事行くのじゃ!早くあの仕事を片付けてお仕事行くのじゃ!ロイド来たらセクハラされるいやじゃ!」 「ミリ様キャラが崩壊してますよ!?何キャラですそれ!?」 「…」 《……や、蒼華…流石に主相手にダークホールはちょっと…。さいみんじゅつなら…効くかは分からんが》 「チュリ〜?チュリチュリー!」 《桜花、主は今風邪をひいている。少し休んだら遊んでくれるとのことだ。それまであっちに遊んでおいで。…水姫、すまないが後は頼む。私は愛来の方に回る》 「ミロー」 暫く暴れて最終的に力尽きて眠ってしまうミリだった ―――――― ――― ― ピピピッ… 「――――…38.5℃。朝は何℃でした?」 「はい、朝は38.4℃でした。二時間後に測った時も変わらない体温でした」 「そうですか…。少なくともこれは風邪ではありませんね。咳もなく頭痛もなく喉の扁桃腺も腫れてる様子もありません。過労と疲労からくる熱でしょう。解熱鎮痛剤を飲み、しっかり栄養をとって静養すれば大丈夫です。解熱鎮痛剤は一日二回、朝と夜に飲ませる様に。水分もしっかりとらせる様に」 「はい!」 ミリが力尽きて眠りについてから早くも午後に回った アスランから話を聞き、予選選抜を終わらせ休憩時間を使ってアスランの家に訪れたロイド。愛来を始めとしたミリの手持ちのポケモン達に出迎えを受けながら、ベットにダウンしているミリの姿を目撃する事になる 今までロイドは完璧なミリの姿しか見た事が無かった。チャンピオンとして、何処か不釣り合いな姿を。しかし今のミリは全くそんな姿なんかしてなく、とても弱々しい姿をしていた。普段完璧なミリをからかいその反応を見て楽しんできたロイドにとって、その姿は衝撃的だったのは間違いない ロイドに気付いたミリは慌てて身支度を整え毅然な態度で迎え入れようとしていた。嗚呼、この人は完璧を装っていただけだったんだとロイドは悟り、その姿を垣間見た唯一の四天王の一人と思うと何処か誇らしいモノを胸の内に感じたのだった 「クスッ」 「……何よ、その目は…」 「いえ、貴女も所詮人の子という事です。…いずれ体調を崩してしまうんじゃないかと心配していましたが、やはり予想は的中するものですね。仕方ありませんよ、貴女は誰よりもリーグで頑張っているんですから」 「………皆には、」 「えぇ、分かってますよ。言ったら煩くなるのも想像出来ますからね。特にミレイ」 「あ、あはー…」 「ですがあまり私を心配させないで下さいね?…約束ですよ?」 「…………ぶー」 「そんな約束交わせないって顔ですね。よろしい、ならばその可愛らしい唇にキスして差し上げましょうか?」 「すみません約束します黙ります」 バフッ!と布団を頭の上まで隠しロイドから逃げるこどもっぽい行動を起こすミリに、それこそロイドはクスクスと笑う 布団の上に手を置き、布団越しでミリを撫でる 細くて小さい存在だった。触れる事で改めて感じた。こんな小さい存在が自分達の上司だなんて、今考えると何処か危うくて頼りないのに。けれどこの存在はフィールドに立つと一辺してしまうから恐ろしい この小さい存在は、一体どれだけの責任を抱え―――闇をも抱えているんだろうか ロイドには到底踏み入れられない境界線が目の前にあることも、聡いロイドは理解していた だからそれを越えるのは自分ではない 「…いつか、貴女に素敵な人が現れるといいですね」 「………え?何か言った?」 「クスッ、なんでもありません。私の独り言です。お気にならさず」 「??ふーん」 「さあミリさん、お喋りは此処までにしてゆっくり休みなさい。後の事は我等四天王に任せて、ね?」 「……うん、ありがとうロイド。おやすみなさい」 「おやすみなさい、ミリさん」 おやすみなさい、愛しく尊いチャンピオンよ ゆっくり休みなさい、貴女は頑張り過ぎたのだから 布団を掛け直し、深い眠りに入っていくミリの額に優しく口付けを落とす 今までベットの隣で静観していたスイクンに咎めの視線を受けるが、「秘密にしておく代わりに餞別として頂いておきます」と飄々と笑うのだった 「―――ロイドオオオ!聞いたわよアンタ休憩中抜け出してミリちゃんのところに行ってたんですって!?アスランさんから話は聞いてんのよ!なに一人で行ってんのよキィィ!」 「おかえりなさいロイド。ミリさんの様子はどうでした?」 「おや、もうバレていましたか。えぇ、行ってきましたよミリさんのところへ。体調は深刻に考えるほどではありません、ゆっくり休めば大丈夫です」 「そうか…やはり負担が大きかったんじゃな。あやつは本当に真面目じゃのう」 「えぇ、本当に私も思いますわ。少しはこちらに頼ってもいいのに…」 「ちょっとロイド!ミリちゃんに変な事してないでしょうね!?それこそセクハラとかセクハラとかセクハラとか!!!」 「心外ですね。流石に病人相手にあんなことやこんなことなんて出来ませんよ。…―――そう、なにもしてませんよ。なにも、ね?」 「ロイドオオオ!!」 (ちなみにその日の夜、ケロッとしたスッキリ顔で犯罪組織を蹴散らすミリの姿があった) |