【氷の女王】から【盲目の聖蝶姫】

そろそろ表舞台の話に移りましょう



時間をほんの少しだけ

巻き戻しましょうね




















Jewel.26













時はまだ、ミリ達が悪党集団討伐を決行する前に逆上る――――
















《――――皆、準備はいいか?》

《いつでもいいよ!》

《覚悟は出来てる》

《さて、どうなるか…?》

《全てはマスターの為!》

「…」

「キューン」

「ドキドキしますね…!」

「はーい、それじゃみんなーいっくよー








 せーの!」











バッ!











《―――――あ!!》

《これは!》

《合、格…!》

「ミリ様!やりましたね!合格ですって!」

「え?本当に?どれどれ炎妃ちゃん心夢眼よろし――――わーお!合格だ!やったね皆!今回も合格だよ!」

《おめでとうございます!マスター!》

《わーいごうかくー!》









時刻は夜の8時頃

普段この時間は秀才チームの子達とお勉強会を開いている時間帯。ボールの中に例の如くスヤスヤと眠っている子達は置いといて

今回は珍しく教科書や書籍を開いている姿は無く、意気揚々と盛り上がりを見せていた








「いいねいいねー。順調だよ。どれもこれも全部皆のお蔭だよ。フフッ、手伝ってくれてありがとう。お蔭でこうして合格が出来たんだもんね。今度皆にご褒美をあげなきゃ」

《否、礼を言うのはこちらの方だ。私達は自分達の知識向上の為に主のお手伝いをしたまでだ。主が居なかったら私達はこうして人間の事や種族の事も知らずに終わっていただろう。そうだろう?愛来》

「はい!兄さまの言う通りです!分からない事があったら教えあって勉強し合って掴んだ合格なんですから!」

《こうして自分達の知識が通用出来ると分かると嬉しいものだな。やはり私はこちらを選択しておいてよかった》

《流石ですマスター!》

《あと残りは?》

《確かあと二つかな》

「…」
《めでたい》

「キューン…」
《妾も大変嬉しゅう御座いますれば…》












彼等が口を開いては喜び合っている「合格」の言葉

それは彼等の地道な努力が報われ花開いた証拠。それはつまり―――ミリが掴みたかった各認定試験に晴れて合格したからだ


今回合格した試験は「ポケモン獣医認定試験」。ポケモンに治療が出来る、ポケモンの医師になれる資格だ。通称「ポケモンドクター」。ポケモンドクターにも分類があり、その中で「臨床心理士」を取得した。本来だったら勉強期間が長ければ、また特定の学校通い卒業資格を取得もしなくてはならず難易度がむちゃくちゃ高いはず。しかもミリは盲目でもあるから尚更資格取得困難だと思われていたが―――この世界は、所謂通信学校というモノが存在していたお蔭で本来取れなかった資格取得が可能とした

主にこちらを担当したのはメンタル系ばかりを中心に勉強してきた闇夜と医療系を勉強してきた蒼空。蒼空の勉強内容はやはり実務を要し、専門学校に通わなくてはならない試験だった為、断念するしか無かったが―――しかし知識が身に着いた事には変わりはない。蒼空はひねくれる事もせず、闇夜と同じ路線の勉強に入ってくれた


二匹が一斉に幅広く学んでくれたお蔭でミリ自身も(荒技とはいえ)多くを学び、試験に合格出来た

この資格も通信とはいえかなり難易度クッソ高いのだが……まあそこは気にしない方向で






他に何個か連続して試験に合格して資格取得が叶ったモノがある


「ブリーダー認定試験」。育て屋などポケモンを育成していく為に必要な資格。これを持っていれば自分で育て屋を経営出来たり、また公共施設でポケモンの管理や育成に携われる仕事に就けたりする事が可能。育成を重視した愛来が担当を努めた


「木の実マスター」。現在認知されている64種類の木の実の名前や特性、味や使い方など熟知した者に与えられる資格。これを持っていれば木の実庭園を運営したり直営店を営業したり、使い方によっては木の実ソムリエにもなれる可能性があり、どんどん新しい木の実を見つけていけば木の実博士とも認定される場合もある。ふと見つけた図鑑に心惹かれた時杜が担当を努めた


「日商簿記2級」。これはポケモン関連の資格ではなく、一般職の資格だ。帳簿の付け方、そして帳簿に書かれている数字の意味を把握するだけではなく、経営管理や経営分析の基礎能力がある事を認定するモノだ。身近な者で言えば情報管理部のアキラやアルフォンスが該当する。担当は計算を得意とする刹那だった。しかし残念な事にパソコンを不得意とするミリの所為でせっかく身に着いた高度のパソコン技術も断念せざるおえなくなったが





他に現在結果待ちな試験があと二つほどある



「ホウエン観光文化検定試験」。名前の通り、ホウエン地方の観光や文化を知り尽くした事を証明する資格だ。この資格は観光や文化を紹介するガイドの仕事が可能。ホウエンチャンピオンとしてもこの試験は強みになる。歴史を得意とする蒼華が担当した


「ポケモン生態調査検定試験」。所謂「ウォッチャー」と人は呼ぶ。ポケモンの生態の観察や調査を主とし、研究所で努める事が可能。波動を使え生態の位置や感情を特定出来る朱翔が担当した




主に担当をしていたのは各手持ちのポケモン達とはいえ――――心夢眼を駆使し、膨大な記憶力を持って無事試験をクリア出来たミリの底力は計り知れない






この時点で、ミリはカナズミスクールの通信学科を卒業していた

本来だったらもう少しかかりそうだった卒業も不本意ながら有休休暇の時間もあったお蔭で早めに卒業が可能になった

これでミリは普通の人間になれたのだ。何も持たず、戸籍すらあるのかも分からない最中の、唯一誇れる学歴。ミリはとても安堵していた。少なくともこの世界の常識は身に着けただろう











《しかし、時杜の力は便利だな》

《過去に戻り試験資格申請に間に合わす様に仕向けるのは、普通出来る事ではないからな》

《本来は禁止されてるんだけどね。だからこそミリ様の鶴の一声は強みだよ!》

《流石はマスターです》

「こらこら皆、お口チャックだよ」

「しー、ですね!」

《しー》

《しー》

《《しー》》











―――――まぁ、後は少々荒療治というか非現実的で非合法的な方法で掴んだ合格だが


結果オーライとしましょう














あとは――――













「時杜、ポケモン図鑑を」

《はい!》







ミリの一声に時杜は元気よくビシッと敬礼をすると、キラリとその瞳を妖しく輝かせる

ベット脇に置いてあった通勤用のバックの中からフワリと浮かんできたソレ―――シンオウ地方でナナカマド博士から頂いたポケモン図鑑。図鑑はまっすぐこちらに飛んできて、キャッチしたのは刹那だった。刹那は慣れた手つきで図鑑を操作し、ミリが視える様に心夢眼のシンクロを繋げる

ミリの心に視えた、光の光景

ポケモン図鑑、そして――――全国図鑑が集まった、一覧表









「大変だったねぇ」

《そうですねぇ》

「大変でしたね〜」

《………何が大変かってえんとつ山や海底洞窟、空の柱に行く事が大変だった》

《マスターがいるのにレックウザはともかくカイオーガとグラードンは眠ったままだったしな》

《レジなんとかっていうポケモンも封印されたままなのか動かなかったな》

「…」
《相変わらず呑気過ぎる奴等だ》

「キューン…」
《古代ポケモンにその様な事を言えるのは蒼華様くらいです…》








しみじみと、うんうん頷く手持ちの皆にミリもうんうん頷きながら図鑑を視る

チャンピオンをやっていると自ずと様々なポケモン達に出会い、図鑑は自動的に行進されていく。なのでよく知るポケモン達は簡単に集まってくれるが―――やはり伝説や幻といったポケモン達は中々空欄に埋まる事が叶わず

まだシンクロは神々のポケモン達と再会出来たからいい。ホウエンもこちらから足を運んだ事で再会を果たせた(と言ってもいいのか微妙なライン)。問題なのがまだ足を踏み入れていないカントーとジョウトのポケモン達だ。ミュウツーの刹那やスイクンの蒼華、セレビィの時杜は別として。びっくりするくらい一匹もかすりもしなかった。解せぬ

ポケモン愛好者でもありポケモン博士として前の世界で豪語していただけあってミリのプライドが許すはずもない。しかしまだ救いだったのは、どうやらこの図鑑は伝説や幻といった存在が揃わなくても全国図鑑完成として扱ってくれるらしい。その事に気付いたミリはなんとも言えない微妙な気持ちでいた。解せん

まあゆくゆくカントーやジョウトに足を踏み入れた時にでも会いに行きますか










「楽しみだよ。いつかこの図鑑を全部埋めてやるんだから」

「ですね!私も精一杯お手伝いします!」

「フフッ、ありがとう。さっそくだけど明日、遠征の帰りにオダマキ博士の研究所に行って報告しにいこっか」

《はい!》

《眠くなってきた》

《お疲れだな》

《マスター、私は夜の警備に行ってきます!》

《朱翔、私も行こう》

「キューン…」
《皆様お疲れ様で御座りました…今日はゆっくりお休み下さいまし》









資格を取得したからといって、此所がゴールではない。始まりだ

いつの日かこの資格が生かせる日がくるのだろうか。今のミリには予想は出来ない。けれど資格を取得出来た事によって、ミリを含め彼等は成長した。世間の味方も変わった

勉強出来る環境にいられる事は、幸せな事だという事も知れた







「次は何を勉強しよっか」








ミリは楽しそうに笑った







(この時はまだ)(平和で幸せだった)


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