胸元には「R」の文字

浅葱色をした強い瞳を持つ男


彼こそが、そう

全てを引き起こした主犯格














Jewel.25













いったい、何度自分の心を殺してきたんだろう

あの夜―――自分の思いを打ち明け、皆の気持ちを聞き入れたあの日。もう数ヶ月も経過していく中、私達は自分達の居場所を守る為に、いったい何度…心を無にしてきたんだろう。何度、心を鬼にしてきたんだろう。嗚呼、今となれば、そんな事…どうだっていいよね




私は紛れもない【氷の女王】だった




この名前が私に存在しているのは、知っていた。本当は全く興味が無かったけど、あまりにも彼等が私にそう言ってきたもんだから、半分キレ気味つつお望み通り演じてやりましたよ。えぇ、そりゃもう完璧に。鬱憤晴らす気持ちでやらせてもらっていた面もあったから、ちょっとスッキリしてたのはここだけの話←



演じていたつもりでいた

演じて一線を越えないようにしていたのに

次第に心が―――【氷の女王】に変わっていくのが、頭の片隅で理解していた





私はもう、いつもの様に笑えなくなった





【氷の女王】として裏に立つ一方で、勿論表の【盲目の聖蝶姫】としての生活があった

びっくりするほど、笑えなかった

否、愛想笑いとかは出来る。いつも浮かべる笑い方なら大丈夫だった。少なくても他の人達に気付かれない程度の笑みを浮かべる事は出来たけど(まあ気付かせないけどね)―――心から、そう。心から笑う事が出来なくなってきていて




久しくなかった自分の姿に

ただただ私は嘲笑うしかなかった










「【氷の女王】!アオギリ様の為、アクア団の為にも一緒に着てもらおうか!」

「否、我等マグマ団だ!アクア団はすっこんでろ!」

「なにおう!?」

「後からのこのこやってきた分際で何シャシャり出てんだ!【氷の女王】は我等ロケット団がもらい受けるんだ!邪魔はさせない!」



「(うーん、すっごくどうでもいい。勝手に争って自滅すればいいよ)」









彼等を小島にて迎え撃った事がキッカケか知らないけど、彼等は決まって夜に現れた

予想していたロケット団を始め、この地に潜伏するマグマ団やアクア団まで彼等は懲りずに現れた

どうしてまたマグマ団やアクア団まで来るのさ…まあ日中仕事中に色々やらかしてくるよりはこうして夜にまとめてやって来てくれた方が手間が省けて有り難かったけど

あくまでも普通に生活し仕事をしながらの毎度毎度繰り返される討伐の日々。終わりが見えない連鎖。日々募っていくのは彼等に対する呆れる気持ちと嫌悪感。勿論チャンピオンとしての仕事をしつつのコレだから、私を含め皆の疲労感は増すばかり

ぐったりする私や皆をかいがいしくお世話してくる愛来達の存在は大きかったよ…やっぱり私の考えに狂いはなかった…!女の子はいいねぇ、癒しだよ!←



ちなみに、






「…」
《人間相手に手加減無しで戦えるのは意外に気分がいい》

《人間って本当馬鹿だよねー。また来てるよあの人。ねぇ、学習しないの?馬鹿なの?なんなの?死んじゃうの?》

《つくづく我等はポケモンでよかった。でなければ私達、傷害罪に問われていたのかもしれない。まあそんなの関係ないけどな》

《私の忌々しい能力がこの様な場面で役立てる事に珍しく高揚感を感じている。はりきって闇に堕とせる》

《汚ならしい手でマスターに触る奴等はこの私が許さない!この朱き波動で駆逐してやる!!》

「ふりり〜っ!」
《いけーボクのむしのさざめき攻撃〜!耳の鼓膜いっちゃえー!いえーい!》

「ガァアアッ!」
《暴れたりねェなあ!暴れたりねェぜ!!》

《まるで人がゴミのようだ、という台詞があると聞くが…今まさにそれだな。まるで人がゴミのようだ》








皆さん意外にノリノリでした

…や。寝不足疲労が蓄積されちゃってるせいか多分、アレ…きっと、うん。テンションのネジが緩んでのハイテンションになっちゃってるんだと思う

……明日お休みだからゆっくり休んでもらおっか、皆…









「さあ、もう消えなさい




 二度と私にその顔を見せないで」







【三凶】の圧倒的存在感に心を挫き、【五勇士】によって撃ち砕かれる

そして絶望しきった彼等に私は酷な命令を下すのだ

罪の鎖を相手の心に巻き付かせ

罪の意識を突き付ける為に







「闇夜、ダークホール」










今宵もまた、私達は演じる


【氷の女王】として

【三凶】と【五勇士】を従えて





歪み、傷つき、涙を流す心の叫びに気付かないふりをして

私は今日も彼等に裁くの鉄槌を下すのだった





(もうこんな事、早くやめたい)




―――――――
――――
――









私達と彼等の戦いが続いてから、早くも半年が過ぎた

ロケット団、マグマ団、アクア団―――当初はかなりの数で私達に歯向かって来ていた彼等も、徐々に徐々にその人数が減っていき、やがては手で数える人数にまで減らす事が出来た

事態を重くみた彼等のリーダー達が私達捕らえる事を諦め、引き上げたんだろう。自分達に被害が被る前に、私達に狙われる前に……犠牲になった仲間達を見捨てて

本来だったらこんな回りくどいやり方なんてしないでさっさとアジトに乗り込んでフルボッコしてあげたいところを敢えてやらなかった私達に感謝してもらいたいよね


マグマ団、アクア団―――あのコミカルで鮮やかな服装をしていた集団の姿がめっきり少なくなっていき、真っ黒い服のロケット団の姿も減っていってきて

これでやっと終われる

そう思って何度も裁きを下し続けてきたけど、一向にその気配が無かった


何故なら、そう



この男の存在がまだ残っていたから







「女王…今日こそは!今日こそは貴女を捕らえてみせる!そして…教えてもらいますよ!私の……ッ私達の、上司を!」



「(知らないっつーの)」






胸元には「R」の文字

真っ黒い服を来た、20代前半の男性

緑色の髪と、浅葱色をした瞳


皆の攻撃を一身に受け、闇夜のダークホールを何発も受けたのにも関わらず、彼は懲りずに私達の前に現われ続けた


彼がロケット団の主犯格だという事は蒼空の監視で見抜いていた

彼が全てのキッカケを作った張本人

少人数メンバーでリーダーを務めていたとなればロケット団でそれなりの地位にいたのだろう。今までの襲撃を命令していたのも彼に間違いない。これが私達相手ではなく別の人間相手だったら任務は簡単に成功していたのかもしれないけど―――残念、喧嘩を売る相手を間違えてたね

当然の様に私達は彼に容赦せず鉄槌を下してやった




当初こそ、その負けを知らない強い決意を宿した浅葱色の瞳も―――今となれば恐怖と絶望で染まりきっている

彼は私を恐れている

私達を、畏れている



威勢よくこちらに噛み付いてきてはいるけど、その瞳とその身体に嘘はつけない。ガタガタ震える身体に叱咤して立ち向かう彼があまりにも滑稽で、あまりにも愚かだった

何故、彼がそこまでして私達の前に現われるのか




始めこそ「盲目の聖蝶姫の捕獲」の為に私達の前に現れた。しかし私達の技を食らっていくにつれ―――彼は口を開くたびに、刹那を見るたびに「上司」という言葉を口にし始めた




自棄にでもなったのだろうか。それは分からない。けど「ロケット団」、「上司」「緑色のミュウツー」「居場所」――――このキーワードを並べてみると、彼等が何を目的に私達を狙っていたのかが分かった

「ロケット団」は「緑色のミュウツー」を造った自分達のかつての「上司」を探している

緑色のミュウツー、それは刹那の事。ミュウツーという存在はロケット団が造った存在。スペ寄りだと把握出来た今となればその線は濃厚。刹那は彼の言う「上司」の手によって造られた存在―――

けれど、私は彼の問い掛けには答えなかった。否、答えなくなかった






《慣れなれしく私に近付くな。私はロケット団と関わりは無い。お前達の言う「上司」など私達は知らん。早々にこの場から立ち去れ。うっとうしい》






淡々としている刹那も、ロケット団を前にすると豹変する様になってきた

刹那はしつこい彼等に苛々していた。その存在を嫌がっていた。自分がロケット団に関わっている可能性を恐れていた

ミュウツーは元々、凶暴な性格だ。今まで刹那の性格が穏やかだったのが不思議なくらい。もし仮に刹那がロケット団と関わりがあって、彼等の言う「上司」の事が分かったら――――刹那の心が壊れてしまいそうで、私には堪えられなかった

そもそも、私だって刹那の事も蒼華や時杜の事、なにより私本人の事でさえ何も分からない状態のままだから…答えられないのも、しょうがないよね





さて。今まで何回彼に容赦なく鉄槌を与えてきたのかだなんて、もはや興味がない

彼のその後の人生すら全く興味がない――――しかしこれ以上闇夜の技を食らいすぎたら流石にヤバくなりそうだと頭の片隅で眺めていた

ま、どうでもいいけと

せめて、最後の慈悲として今日ここで全て終わりにしましょう







「――――もう、貴方に会う事はないでしょうね」

「ッ―――女王!」

「去りなさい、愚かな人よ





 貴方にはもう、興味がないわ」











さあ、早くお家に帰ろう

いつもの光ある生活に戻ろう


私達には、やるべき事がたくさんあるんだから






「女王!私は…いつか!いつか私は貴女を捕らえてみせる!絶対に!私に与えた仕打ち…絶対に忘れない!」










そんな戯言、この私には無意味だよ









「闇夜、これが最後だよ」

《あぁ》

「愚かな彼に誠意を込めて






 ―――ダークホール」










最後の最後に―――悲痛な叫び声が木霊した






























かくして――――名前も知らない最後の一人を闇に沈めるまでの半年間、

私達の"裏側"での行動を知る者は誰もいなく


ホウエン地方は、嘲笑ってしまうくらい―――とても平和なものだった






(凍ってしまった私の心を代償に)


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