氷の微笑、氷の囁き

冷徹無慈悲の絶対零度

その名も



【氷の女王】










Jewel.24
















ある人は、こう言った







「女王を怒らせてはいけない」

「女王を怒らせたら生きて帰れると思うな」

「女王を怒らせたら最後、存在すら消されると思え」








ある人はこうも言った








「女王に存在を見放されたら、その者の末路は最期となり、死を意味する」

「女王の闇は悪夢となりて自身の罪の意識を、過ちの深さを責め立てるだろう」

「女王の命を狙った者は、逆に刈り取られるだろう」















事の始まりは、半年程前

最北の土地、シンオウ地方にて盲目の聖蝶姫が暴走族と暴力団相手に容赦ない鉄槌を下した事がキッカケだった


その時付けられた異名が、【氷の女王】


致し方の無いキッカケとはいえ、些細なキッカケは裏業界では瞬く間に広がった。主に発祥地のシンオウ地方と、彼女が拠点を変えたホウエン地方を中心に。裏業界に携わる彼等は畏怖をした。盲目の聖蝶姫の圧倒的強さを踏まえた上に、敵に回したら自分達がどうなる目に遭うのかを……現に暴走族や暴力団が解散させられた話を聞いてしまえば、尚更な事だった



しかし、人の噂も七十五日



時が過ぎる日々の中、【氷の女王】の名は薄らぎつつあった

確かに彼女は【氷の女王】だ。噂に偽りは無いし、体験談を聞いている。けれど実際に本人を見てみると―――【氷の女王】などとは到底思えない、とても暖かな存在であったから

盲目の聖蝶姫の姿を初めて見た裏の人間の殆どは噂は嘘だったと笑った。なんてか弱い人間だろうかと。興味本位で【氷の女王】を調べても発祥したキッカケの話しか出てこなければ、表舞台で輝くチャンピオンとしての盲目の聖蝶姫の情報しかなかった。この名もいずれは風化してしまうだろう…そう、誰もが思っていた





しかし、その姿が偽りだと発覚する





本当のキッカケは、数ヶ月前

ホウエン地方に新たに現れた犯罪組織「ロケット団」と名乗る者達が、盲目の聖蝶姫が所持するポケモンを狙い始めたのだ

何故だなんて、そんなの今更な話。彼女が従わすポケモンは、誰が見ても珍しくて羨ましいポケモンで、なにより強かった。誰もが彼女のポケモンを欲した。コレクターやハンター、そして犯罪組織の人間達も。勿論、最近冷戦気味で活動を慎重になっているマグマ団やアクア団も、それは然り

始めはロケット団だけが彼女を狙い始めたが、噂を聞き付け、遅れを取らせんばかりと次第に――――マグマ団やアクア団も彼女を狙い始めたのだ




何せ盲目の聖蝶姫のパーティには、アクア団が欲する水タイプのスイクンとミロカロス、マグマ団が欲する炎タイプのキュウコンや地面タイプのバンギラスがいた。こんな立地条件の良い標的を、狙わずにいられようか

なによりポケモンを狙い、盲目の聖蝶姫本人を丸め込み取り込めれば―――最終的に組織の為に動き、組織の最終目的を達成出来ると踏んだ






ロケット団は、全てはロケット団サカキ様の為と―――かつての上司を見つけ出す為に

マグマ団は、陸を広げグラードンの行方を探し、心中に収める為に

アクア団は、海を求めカイオーガを目覚めさせ、その力を使う為に






かくして、交わるはずのない犯罪集団組織が互いを競い合いながら盲目の聖蝶姫を狙う事になる

盲目の聖蝶姫、ホウエンチャンピオン

太陽みたいな、暖かな光を連想させるか弱く脆い女。身に余りすぎるポケモン達が傍にいるからこその栄光にのっかかっているだけの存在。ポケモンを襲撃し、ポケモンを奪えば、彼女に力は無に等しい


所詮は名ばかりだと――――誰もがそう思っていた




しかし


その考えこそが、そもそもの間違いだったのだ








「ようこそ、箱庭の地獄へ






 貴方達を、歓迎しましょう」









朝、昼、夕方―――始めはそれこそ姑息な方法で彼女に襲撃してきたが、一向に任務達成が出来ず

最終的には真夜中に彼女の自宅に襲撃しようと乗り込もうとしたが一向に辿り着けず――――深い霧の中に迷い混んだと思った矢先の、まさかのお出迎えを受けたのだ

盲目の聖蝶姫、もとい氷の女王

そして彼女に集う、屈強な仲間を従えて









「去りなさい、愚かな人達よ



 まだ、死にたくはないでしょう?」








そこから先は、まさに地獄絵図

嗚呼、口に出すのもおぞましい


彼女はまさに【氷の女王】だった


冷徹に無慈悲にポケモンに容赦無く命令し、その太陽だった微笑は絶対零度の冷たい嘲笑を。表で輝く盲目の聖蝶姫、ホウエンチャンピオン……あまりにも真逆な姿に誰もが皆、震え上がった

そして必ずと言っていい程、彼女は罪の鎖を相手に与えるのだ。冷たく恐ろしい、罪の意識という鎖を。鎖は心を蝕み、トラウマとなって襲いかかるのだ


なにより、トラウマを与えたポケモン達にも然り











【冷徹ノ氷帝】の氷を浴びたら自分の時間さえも停止させられる



其は、水色のスイクン




【紅き悪鬼】が翔んだら命を吸い取られる



其は、紅色のセレビィ




【沈黙の暗殺者】が姿を消したら命も消させられる



其は、緑色のミュウツー










彼等は表では【三強】と呼ばれていた


彼等は裏では――――【三凶】と呼ばれていた












表で輝く、盲目の聖蝶姫

彼女に寄り添う、【三強】達


彼等もまた、容赦は無かった

実力は分かっていたつもりでの戦闘だったのにも関わらず、まるで今までが手加減してきたと言わんばかりの圧倒的強さでその脅威を奮った

故に【氷の女王】の様な畏怖を込めた異名を付けられるのも時間の問題だった




異名を付けられたのは、彼等だけではない










【夢魔の影】が闇に紛れば悪夢の鎖が巻き付き引きずり込まれる



其は、黒銀色のダークライ




【鮮血ノ騎士】が地を翔ければ容赦無く己自身の血で染まってしまう


其は、朱色のルカリオ




【音無蝶】が羽ばたいたら鼓膜が破かれ音を失う


其は、橙色のアゲハント




【暴君の破壊神】が暴れたら島ごと全てを吹き飛ばされる


其は、褐色のバンギラス




【冷酷監視者】に見つかれば全てが無駄に終わってしまう


其は、空色のラティオス






彼等は裏で、こう呼ばれる様になる








女王の眼となり牙とになる存在


――――【五勇士】と













【三凶】と引けを取らない実力で【五勇士】もまた容赦無く猛威を奮った

他に【氷の女王】は手持ちにミロカロスとキュウコンとラティアスを所持していたが、異名も無く姿を見せないところを見ると流石に情でも起こしたのか連れてこなかったのだろう

今となればそんな疑問はどうだっていい

仮に連れて来たとしたら同様の異名が付けられてた事には間違いなかったのだから









「さあ、ここでお終いにしましょう





消えなさい、早々に。貴方になんか、興味は無い」







相手の末路がどうでもいいとばかりの仕打ちを、彼女は容赦なく突き付ける

【三凶】の圧倒的強さに心を砕かれ、【五勇士】によって撃ち崩される

そして彼女は最後の締めとして【五勇士】の一匹、黒銀色のダークライに命令するのだ


罪の鎖を相手の心を巻き付き

己の罪の意識を突き付ける為に













「闇夜、ダークホール」
























組織の為に女王に挑み

嗚呼、何人者の人間が犠牲になったのだろう







今宵もまた、女王は小島で待ち受ける

愚かな人間達に容赦ない鉄槌を与える為に



そして彼等もまた女王に立ち向かう

組織の為に、自分の為にも












(この不毛な争いは半年間続くのであった)


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