陸を求めるマグマ団

海を広げるアクア団


本当の敵は、どっち?













Jewel.23













「ホウエン地方 悪党犯罪集団




‐「マグマ団」‐

特定のアジトは持たず、頭領のマツブサと三頭火と呼ばれる幹部以外はっきりした階級を存在しない等、奔放な面が目立つが逆に実態が掴み難いという一面を持つ

彼等の目的は、陸を広げる事で人が住みよい世界を作るという思考を持っている


(マグマ団頭領及び三頭火一覧以下略)

(マグマ団報告書以下略)






‐「アクア団」‐

表向きは自然保護団体を装っているが、マグマ団とは対照的に明確な縦割り構造組織になっており、総帥のアオギリを筆頭にSSSと呼ばれる幹部が存在する

彼等の目的は海を広げる事で新たな生物が生まれ育つ場所を作るという思考を持っている


(アクア団総帥及び幹部の一覧以下略)

(アクア団報告書以下略)








マグマ団とアクア団は、相反する目的を掲げる故に互いを対立しあっている

彼等の最終的な目的は未だ不明―――」
























「あらー、そうなの」








此処はリーグ協会ホウエン支部

情報管理部の更に区分けされた部署、「犯罪組織管理課」にミリ達はいた








「意外にスペ寄りだったんだ…ふーん」

「…………、すぺより?」

「あぁ、気にしないで下さい。ただの独り言です。……此処最近の彼等の動きは?」

「特に目立った様子はありません。冷戦状態を保ったままなのか、これといった報告は受けていません」

「二つの悪党の内、マグマ団の報告が多いのは?」

「こちらの入る情報と放送局の報道のほとんどがマグマ団なんですよ。どういうわけかアクア団は放送も報告も少ない。真相を追及したいところだが、リーグが動いているのを悟られたくない。冷戦状態という事もあって様子見をしている状態です」

「……………、喩え自然保護団体とはいえアクア団もやっている事は犯罪。世間に公になっていない悪事だってあるはず。…意外にも放送局と繋がりがあって情報を操作している可能性も考えてもいいかと思いますよ」

「放送局と繋がりが…分かりました。それも視野に入れて監視を強化します」

「お願いします」








ミリに応対しているのは、情報管理部部長アキラの部下でもあり、犯罪組織管理課の課長のマサルという男

ふらりと現れ開口一言目が犯罪集団の事を知りたいと言ってきたミリに彼は驚くも、何も詮索せずに言われたままに資料をミリに提示し、読み聴かせてあげた

当然ミリは心夢眼を発動している為、その行為は必要としなかったが厚意に甘えるとして。マサルが提示した資料を時杜が写しながら、ミリは暫く考える素振りを見せる






「(スペ寄りのストーリー、かぁ…これはある意味大きな収穫かもね)」







このポケモンの世界…ゲーム寄りなのかアニメ寄りなのかポケスペ寄りか、もしくはミリが知らないストーリー寄りか、等々

記憶が無いミリとしたらこの情報はかなり大きな一歩だった。基盤が把握出来れば、自ずと自分達もどう行動すればいいのか分かるはず


そうすると…、とミリはある犯罪集団を脳裏に浮かばせた







「後、他に知りたい情報はありますか?」

「…"R"の文字の、悪党犯罪集団ってありますか?」

「"R"……あぁ、もしかしてロケット団の事ですか?ロケット団なら話は聞いています。現在カントー地方を拠点にしている犯罪集団…報告書によるとこちらまで拠点を広げてはいないようです。なのでロケット団に関する資料はこちらにはありません」

「(ホウエンに拠点は広げてない、か……)」

「もしあれでしたらセキエイリーグに交渉して報告書をもらえる手立てを取り付けますが…」

「いえ、お手を煩わすわけにはいきません。ロケット団についてはあくまで私が気になっただけなのでお気にならさず」

「分かりました」







ロケット団は健在していた

ポケスペだと分かれば、次に知りたいのはこの世界の時間軸。ポケスペの時間軸はどの辺りだろうかと思っての詮索だったが、どうやら問題外だったと知らされる

考えてみればホウエン地方のオダマキ博士には娘がいて、まだまだ小さい子どもだと聞く。逆算したら主人公達の年齢、及び時間軸も分かるのではないか――――



ま、いっか


考え出したらキリがないと分かったミリは早々に考えを切り上げるのだった


























《―――ロケット団、か》

《…?どうしたの?》

《……何故だろう、不思議とその名に馴染みを感じる。…ロケット団……仮にあのRの奴等と縁があったとしたら、…否、何でもない。考えたくもない話だ。しかし何故我等を狙ってくるのか……やはり気付かれないだけでホウエン地方に拠点を置いているのではないだろうか》

《そして僕らは目をつけられた。…そんなところだろうね》

「…」






チャンピオン室に戻り拝借した資料を眺めていた時だった。その表情は無表情だが、内心複雑だとばかりに刹那は苦々しく呟いた。何故こんなにも、自分はロケット団という言葉に馴染みを感じてしまっていたのかと。これ以上は何も考えたくないとばかりに刹那は黙々と他の資料に集中する

ミリは何も言わなかった。否、言えなかった。何故ならミュウツーはロケット団の手によって造られた存在だったから

淡々としつつも刹那はロケット団に嫌悪感を持っている。そんな刹那に、ミュウツーはロケット団の手によって造られたと分かったら―――まだ核心が無いとはいえ、ミリには彼に真実を伝える事を避けるしかなかった

黙々と資料を読み進める刹那によしよしと頭を撫でていると、今まで沈黙を守ってきた蒼華が腰を上げ、ミリに目線て訴えてきた






「…」
《主人よ、この地の犯罪集団をどう処分する?》






自分達は、主人の為に何をすればいいのか


静かに命令を待つ蒼華に、ミリは小さく頭を振った






「……本来だった立場上、そんな犯罪集団を野放しには出来ない。しかし、少なくても私達が手を下す相手ではない事は確か」

《どうしてですか?》

「…彼等はいずれ運命という定めによって、私達が何もしなくても滅びる道に在る。……けどその運命が来た時、まだ私達がチャンピオンを続けていたら話は違うけど」

《なるほど。その運命が訪れるまで我等はあくまで、奴等を追い返すだけに止どめておくのみ。…そういう事か》

《僕らとしたらもやもやしますが…》







陸と海を求めて争う悪党犯罪集団の末路も、ミリは知っていた

知っていても今のミリ達には何も出来ないのも理解していた。彼等は運命の下―――まだうら若き小さい少年少女が成長してこそ、意味がある

紅色の瞳をした少年、藍色の瞳をした少女

喩え運命だとしても―――ホウエンチャンピオンとして何も出来ず、黙って見過ごす無能な自分は、それこそ大災害になる事を分かった上で、なんて自分は残酷な人間なんだろうと思い知らされる思いだ






《…ではロケット団の事を、主はどう思う?》

「朱翔や蒼空の目撃や証言に基づけば、ロケット団はこのホウエン地方に拠点を広げている。そして私達に無駄な攻撃ばかり仕掛けている相手こそ、ロケット団に間違いはない。しかも自分達だとバレない様に水タイプや炎タイプを使ってくるから困ったもんだよ。胸元のR文字がその証拠。偽装するならもっとしっかり偽装しなさいよってね」

《ロケット団もいずれ運命の定めによって滅びる道に在るのか?》

「そう、ロケット団も直に崩壊する。それこそ私達が何もしなくても、勇猛果敢な少年少女達の活躍でね」

《…それはミリ様の予知夢です?それとも……僕らが忘れている記憶の中にある、記録ですか?》

「………どうだろうね。私もサッパリ分からないけど、でも確実に言える。私は自分の核心を信じるよ」







予知夢ではない。しかし流石に別の世界に漫画があってソレを読んでいるから結末は知っている、とは言えずにミリは苦笑を零す

あれから自分達は何も思い出せずに今を生きている。時杜が記憶の中にある記録と考えてもおかしくはない

その記憶の中にある記録という悪夢に絶賛うなされているミリとしたら、三匹に秘密にしている以上この話は最も避けたいばかり


しかし核心している気持ちに偽りは無い。彼等とは会った事は無いけど、漫画で彼等がどれだけ頑張ってきたのかは知っている。だから彼等に期待をするのだ。同じ図鑑所有者としてもそうだが、不思議と弟妹を想う気持ちにさせてくれる、かわいい子達を





――――赤色の瞳の少年、緑色の瞳の少年、青色の瞳の少女

そして黄色の瞳の少女、金色の瞳の少年、銀色の瞳の少年、水色の瞳の少女――――



主人公達には酷な運命だけど、彼等の活躍を切に願うばかりだ











《では、アクア団マグマ団同様ロケット団も追い払うだけにすべきか?》

「………ロケット団は別。叩きのめしてやりましょう」

《!…ロケット団はいいんですか?》

「少なくともロケット団の狙いは私達だけ。朱翔が感じ取った波動に嘘はない。ホウエン地方を脅かす脅威とまでにはいかないから彼等も追い返すだけでよかったけど…」





でもね、とミリはにっこりと笑う








「彼等は確実に平和で平穏で微温湯みたいな優しい日常を壊そうとしている。いつ、私達が築き上げてきたモノを壊されるかも分からない





…そんな彼等を、私は絶対に許さない」








にっこりと、楽しげに

しかし雰囲気はまるで真逆で


背筋を凍らしてしまう様な

空気が凍ってしまう様な

―――恐ろしい微笑を浮かべていて





「また家に帰ったら、作戦会議でもしよっか」






クスクスとおかしそうに笑うミリを、三匹は静かに見つめる事しか出来なかった




――――――――
―――――
――







暖かな地方も夜になると夜風が少し肌寒くなり、野生のバルビートとイルミーゼの蛍火が一際美しく光るそんな時間帯

時は呆気なく過ぎていき、時刻は夜の10時となっていた


場所は変わって此処は敷地内にある、手入れが入っていなく主に修行場所に使われている広場。そこには珍しく―――ミリを筆頭に、手持ち全員のポケモン達が集っていた








「―――――逆襲は決まって夜、誰も手を付けていない、それこそ名前も知らない小島で彼等を迎え撃つ。いつも張ってる結界に追加効果を付け加えといたから、彼等が結界に近付いたその時、嫌でもその小島に辿り着く事になるでしょう。そして、一斉に討伐を開始する。…此処まではいいかな?」






手持ち達の前に立つのは、彼等の主であるミリ

気持ち良さそうに眠りに付く桜花を愛しそうに腕に抱き締めながらも、その表情は真面目そのもので――――真面目を通り越して、無表情だった。腕に眠る桜花が見たら…泣き出してしまうくらいに、恐ろしいモノで

手持ちの仲間達はミリの話を静かに耳を澄ませ、一字一句聞き逃さずに聞いていた






「討伐メンバーだけど……正直私は、なるべく強制したくない。これから私は心を無にして、鬼にして皆に酷な命令を下す場合がある。その行為がどれだけ皆を傷付けてしまうのか……考えただけでも恐ろしい。皆を、辛くて苦しい思いになんてさせたくない」








そして同時に


皆には見せた事がない、否、誰にも見せた事がない――――【異界の万人】としての"裏の一面"を見せてしまう事があるかもしれない








「――――それでも私に、着いてきてくれる?」








この一線を踏み込んでしまったら、もう後戻りは出来ない

この先に起こるのは"闇"だ

今までの様にはいかない

確実に戦闘を要する事になるし、相手も自分達も傷付く事になる。状況によっては毎日が戦争状態になる可能性だってあるのだ

その事を踏まえた上でミリは改めて皆に問う




私の眼となり、足となり、牙となってくれるのか―――と



















「…」
《主人よ》






先に動いたのは―――蒼華だった








「……蒼華、」

「…」
《今更な事を言ってくれるな。我等は生半可な気持ちで主人の元にいるわけではない。主人の行く道が我等の道―――闇に堕ちるのであれば、堕ちるだけ堕ち、何処までも主人の共に歩もう》

《そうですよ、ミリ様》

「時杜…」

《ミリ様の行く道が僕らの道、ミリ様が守るモノが僕らが守るモノ。そしてミリ様の敵が僕らの敵―――ミリ様を守る為なら、僕らはどんなことでもしてみせます》

《強制とは思わない。むしろ本望》

「刹那…………争いを好まない君を分かっているのに、私は…」

《確かに私はあまり争いを好まない。しかし状況によって私も覚悟を決めなければならない。今がまさにその時だ。私は主の為にも自分の為にも皆の為にも、主の牙となり脅威となろう》






誰よりもミリの傍にいた蒼華と時杜と刹那。今更怖じ気付いて離れるなんて彼等は全く考えていない。むしろ今までのミリを見ていたからこそ、彼等は変わらずミリの傍にいる事を望み、脅威になる事も望んだ

喩え歪んでしまっていても、自分達が愛した主に変わりはない

むしろ愛しい自分達の主を歪ませた奴等を絶対に許せない気持ちでいた。なのでどんなに辛い命令を受けたとしても、進んで奴等に鉄槌を下してやろう。心を無にし、鬼にし、ミリの牙として



勿論、気持ちは他の者達も同様で







《私は主の影。光がある限り、影は何処までも着いて行く》

「闇夜…」

《此処にいる全員、気持ちは一つ。主の苦しむ原因を取り除く事が出来るなら、私達は進んで引き受けよう》

《マスター、我等にご命令を》

「朱翔………」

《今日という日をお待ちしておりました。奴等を叩きのめし、またマスターが安心出来る日を送れるのであれば、我等の存在の意味があってこそです》

「グルル…」
《いい加減、奴等には思い知らせてやりてェところだったから好都合さ。新参者に、俺達の恐ろしさを見せつけてやろうぜ。【暴君の破壊神】として俺ァ暴れるぜ?》

「轟輝……」

「りり〜!ふぅ〜」
《ボクも流石に堪忍袋がなんたらとって感じだからさ、はりきっちゃうよ!あ、でも寝オチしちゃったら許して〜》

「風彩……」

《風彩、お前は大事な話の時に間の抜けた発言を……主、私も皆と同じ意見だ。二度も言う必要もないな》

「蒼空……」






彼等もまた進んでミリと共に行く事を望んだ

彼等にとってもミリは大好きな主で、自分達を救ってくれた主で、自分達の居場所でもある。今更怖じ気付いて逃げ出す様な精神なんてしていない

ミリの為に、その一心で彼等も守ろうとしていた






「男の子達の意見は聞けた…でも、」

「ミロー…」
「キューン…」
《ミリ様…》

「君達は女の子。男女差別するつもりはないけど…桜花の事もあるし、アスランさんの事もある。私の分身は残しておくけど、それでも心許無い。…家を、私達の居場所を守ってくれる?」

《……はい、ミリ様がそうおっしゃるのでしたら、私達は精一杯皆さんのお帰りをお待ちしております。ですが……》

「ロー!」
《私達も覚悟は出来ています。闘う覚悟も、傷付く覚悟も!》

「キューン…」
《我が君、どうか妾達の事もお導き下され…》

「愛来、水姫、炎妃………」






女の子達に酷な事はさせたくない。そのミリの気持ちを三匹は受け入れるも、自分達も着いて行く事を望んだ

三匹は気付いていた。あの事件以降ミリに変化が生じ、それが歪んでいってしまっていた事を。自分達は何も出来なかった、見つめる事しか出来なかった―――その主が望み、少しでも気が晴れてくれるなら自分達はなんでもしてあげたい






手持ち達全員の気持ちを聞けたミリは小さく息を吐いた

フッと雰囲気が変わった。先程の背筋が凍りそうな雰囲気とはうって変わり、フワリと暖かみな雰囲気に変わり、ミリは微笑を零した

嬉しそうに、愛しいそうに

決意を込めた、光の無い瞳の灯火を揺らしながら







「――――ありがとう、皆」

























さあ、心を無にしましょう

心を鬼にして、脅威になって


愚かな人間達には、報復を

慈悲なんてそんなモノは捨ててしまえ






「―――行こうか、皆」







(嗚呼こんな姿)(誰にも見せられないね)


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