変わらないモノなんて あるはずがない Jewel.22 「チャンピオーン!失礼しまーす!また本を持ってきました〜!」 「ありがとう、いつもの場所に置いといて。あとそこにある本を返却したいから持っていってほしいな」 「はーい!!」 いつもと変わらない日常 いつもと変わらない平穏 いつもと変わらない毎日 《――――…ミリ様、後10分で定例会議が始まります。お仕事はいったんそこまでにして、そろそろ準備をお願いします》 「おっけー、分かったよ時杜ちゃん。行く前に持って来てくれた本、空間広げて部屋に届けておいて」 《はい!》 《定例会議が終わったら次は予選試合に行く事になっている。もしもの場合を備えてこちらはいつでも準備が出来ている》 「頼もしいね〜」 いつもと変わらない平和 いつもと変わらない時間 いつもと変わらない空間 「御機嫌よう、ミリさん。丁度良かった、今から貴女の所に顔を出そうかと思っていたのよ」 「やっほーミリちゃん!いいところに!」 「御機嫌よう、プリム、ミレイ。どんなご用件で私に?」 「昨日のお休みで私達クッキーを焼きましたの。もし宜しければ皆さんで食べて頂けたらと思ってね」 「今回も美味しく出来たよ!」 「フフッ、ありがとう御座います。手持ちの皆と仲良く美味しく頂きますね」 いつもと変わらない日々 いつもと変わらない微温湯 いつもと変わらない光景 いつもと変わらない―――― ―――― ほ ん と う に ? 《――――マスター、》 《――――主、》 《《敵を発見した(しました)》》 いつもと変わらない日常なんて 呆気なく、崩れるもの ――――――――― ――――― ―― 「――――で、哀れなおバカさんはどう処理しといた?」 《無論、私の朱き波動で空の彼方へ吹き飛ばしてやりました》 「そう。で、蒼空が持ってきたソレがおバカさんの狙い?」 《そう考えてもいいだろう》 此処はミリ達が普段から使用する仕事場でもあるチャンピオン室 部屋にいるのはこの部屋の主でもあるミリと、彼女に従う屈強な【三強】と呼ばれし存在、水色のスイクンの蒼華と紅色のセレビィの時杜に緑色のミュウツーの刹那。その彼等の前に頭を垂れるのはミリの手持ちの一匹でもある朱色のルカリオの朱翔と、"ソレ"と指されたモノを念力で浮かせている空色のラティオスの蒼空、そしてミリの影の中には黒銀色のダークライが身を潜めていた 彼等以外この部屋には誰もいない。今回は、否、"今回"もミリが人避けの結界を張ってあるのでこの部屋に近付く者は誰もいない 何故結界など張る必要があるのか その答えはすぐに分かる ふうん、と興味無さそうな素振りでミリは蒼空の念力で浮かべているソレを、光の無い瞳で一瞥する 「全く、ほんと、物騒なモノを持ち込んでくれたよね」 蒼空が持ってきたモノ それは――――爆弾だった 《奴等、休憩を利用してバトルフィールドの天井に仕掛けようとしていた》 《もし万が一爆発しちゃったら大変な事になっていたね…》 《爆弾も次元式のモノを使っているのを見ると、主がフィールドに立った時を狙ったか、それとも無差別かどうか…か》 《奴等は確実に我々を、否!マスターを狙っていました。波動から感じた感情はマスターに向けられていました。奴等を許しておけません!》 これが初めてではない ここ数週間、毎日のようにソレは起こった 全ての始まりは、従業員達がいないところでポケモンによる襲撃を受けた事があった。しかしその襲撃はミリを守る屈強な【三強】によって不発に終わった。当時はポケモンの喧嘩によって起きた騒動による巻き込みかと思っていた為、対して気にもしていなかった その日を境に、ポケモンに限らず"色々な面"で妨害を受ける様になる そう、今日みたいに しかしその妨害は全て不発に終わる 何故ならミリに集う仲間達が見逃さなかったから 兼ねてより警備や監視を進んで行なっていた朱翔と蒼空が"奴等"を見つけ、状況次第では裁きを下してきた。勿論、状況によってはテレパシーにより仲間全員に知れ渡り、時杜の空間を繋げて乗り込んでフルボッコしに行ったりと色々やってきた しかしどんなに相手を追い返しても、奴等は一向に懲りる気配は無かった 何故なら―――― 《…主よ、どうする?》 「や、別にいいよ。ほっとこう」 《!!…マスター、何故です!?また今回も見過ごすのですか!》 《ミリ様…》 《……主、私も異論を唱えたい。流石に爆弾ともなると状況が悪い。まだ私や朱翔が警備をしているからいいが…奴等は何をしでかすか分からない。早急に手を打つべきだと私は思う》 《私も朱翔と蒼空に賛成だ。今なら間に合う。奴等を追い、私のナイトメアの力で更なる鉄槌を》 「いーのいーの。そんな事よりもお菓子食べようよ。ほら、プリムとミレイが作ってくれた美味しいクッキーよー」 《《主!!》》 《マスター!》 そう、ミリはこうやって奴等の後追いも追及をも命令してこなかった よほど奴等の存在なんて興味が無いのか、どうでもいいとばかりの余裕な態度だった 勿論ミリの仲間達は納得出来るわけが無い。このやり取りは一体何回目だろうか。幾度目かの会話を蒼華と時杜と刹那の【三強】組はただ黙って眼前の光景を見つめていた 「だいじょーぶだいじょーぶ。そんなに心配しなくてもだいじょーぶ」 《主、不安要素でしかならないぞ》 《マスター!そろそろ命令を!》 《私達は主の事を思ってだな…!》 「あ、このクッキー結構イケる」 《《主!》》 《マスター!》 そして朱翔と蒼空はボールに戻され、影の中にいた闇夜もほぼ強制的にボールに戻される これもいつもの光景だった。ボールに戻された彼等は煮え切らない思いのまま、暫くボールの中へ過ごす事になる そしてまた、ボールから出た時はすぐにでも警備に回ったり影の中に潜ったりと彼等なりの方法でミリを守るのだ ミリからの命令を、待ちながら 「……今はまだ、動く時ではないよ」 ポツリ、とミリは言う 何処か含みを込めた言葉は全てを悟った様にも捉え そしてその顔は――――背筋が凍ってしまうくらい、無表情だった 《ミリ様…》 「……その時が来るまで、精々彼等は浮かれていればいい。浮かれて、調子に乗って…そして彼等は思い知る事になる。私達に刃向かった事を、平和で平穏で微温湯みたいな私達の囁かな日常を邪魔した愚かな行為を、ね」 「…」 《…………》 「それまで私達はいつも通りに過ごしましょう。いつも通り、普通に…ね?」 嘲笑うかの様な、囁きと しかし何処か茶目っ気残しながら、先程の無表情が嘘の様にミリは花が咲く様な微笑で笑う ―――――嗚呼、いつの間に いつの間に自分達の主は、歪み、壊れてしまっていただなんて おかしそうに笑うミリを、蒼華と時杜と刹那はただ黙って見つめていた (鉄槌へのカウントダウンが、始まった) |