平穏な平和で微温湯な日常

その日常は、ゆっくりと崩れ去る
















Jewel.21













『盲目の聖蝶姫・関連データベース



‐個人情報‐
名前  ミリ
誕生日 7月29日
出身地 カントー地方マラサタウン
T.C登録日 20XX年〇月〇日
T.C色 SILVER
職種 ホウエン地方リーグチャンピオン

・経歴…
20XX年〇月〇〇日
シンオウ地方マスターランク優勝
同時期にシンオウ地方特別特設リーグ大会優勝、殿堂入り

20XX年〇月〇〇日
トップコーディネーター及び殿堂入りの登録を行う

20XX年〇月〇〇日
ホウエン地方リーグ大会優勝、チャンピオンに君臨


(以下省略)』




『カントー地方マサラタウン



・シンボルカラー…
「白」

・名前の由来…
「何色にも染まっていない汚れなき色」
「まっさらで白い、始まりの町を意味する」


・敷地面積等…
マサラタウンの面積約〇〇〇

マサラタウンの人口約〇〇〇

(以下詳しく記載)



・備考…
タマムシ大学携帯獣学部名誉教授でもありポケモン権威であるオーキド・ユキナリ博士の研究所が構えてある

マサラタウンは不思議と過去ポケモンリーグの優勝者が全員マサラタウン出身者

(殿堂入り優勝者以下略)









"ミリ"という戸籍は存在しない

又、"ミリ"という対象者を知る者は誰もいない

尚、他の地域に同様の戸籍を調べるも――――対象者の戸籍は何処にも存在しなかった』








「――――…ランス様、準備万端です。いつでもご命令を」

「そうですか。ご苦労」





此処はホウエン地方のとある小島

現自分の上司であるアポロの命令を受けてから約数ヶ月後――――ランスは盲目の聖蝶姫襲撃の為にカントー地方タマムシシティを離れ、名も無い小島に拠点を構えていた

此処にいるのはランスをリーダーとした少人数メンバー。黒い服と黒い帽子、胸元にはRの文字、全員同じ格好。彼等はランスの命令を今か今かと待っていた

そんな彼等構わず、ランスは調査報告書に目を通していた






「――――彼女は一体、何者なんでしょうね」








聖蝶姫、その名も盲目の聖蝶姫

シンオウ地方GF・K協会認定トップコーディネーターでもあり、リーグ協会シンオウ支部殿堂入り覇者

そして、リーグ協会ホウエン地方チャンピオン



こんなにも輝かしい栄光を抱えていながら

彼女は、あまりにも何もなかった






「―――――…」







ペラリとめくる調査報告書の添付された写真に写るのは、彼女の手持ちのポケモン達

その内、彼女に従う三匹のポケモン


伝説のポケモン、水色のスイクン

幻のポケモン、紅色のセレビィ

そして、緑色のミュウツー




脳裏に霞むのは、あの頃の記憶

ほの暗い研究室の中、試験管には緑色の液体に漬けられていた研究対象

その研究対象相手に冷静に且つ隻眼の瞳は鋭い視線で黙々と研究に勤しむ、かつての自分達の上司―――





「さあ皆さん、作戦開始です」

「「「はい」」」








全ては我がロケット団の為に

そして、全ては行方を眩ませた自分達の上司の在処を見つけ出す為に




絶対的な勝利を核心するランスは不敵に笑うのだった






――――――――
――――
――











リーーーーン


リーーーーン



リーーーーン






「――――…ミリ」





(誰、なの)

(貴方は一体誰なの?)








リーーン


リーーン







「――――…舞姫」


「――――…ミリさん」







リーーン


リーーーーン







(お願い、呼ばないで)

(私を優しく呼ばないで)








リーーン



リーーン








鈴の音と一緒に聞こえる誰かの声

声は私を呼んでいる



知らない、知りたくもない

優しく私の名前を呼ぶ声は

私にとって悪魔の声にしかならない









リーーン

リーーン


リーーーーーン…









「――――…ミリ、あ…し……る」



















《――じ、――じ!主!》

「ッ……!!」







ヒュッ、と喉で音が鳴った






《…主、無事か?》

「あ、んや…?」

《うなされていた。しかも凄い汗だ。…起きれそうか?》

「ん………」






闇夜の冷たくて大きな手が私の身体に触れ、ゆっくりと起き上がらせてくれる

硬くて冷たい闇夜の身体は悪夢から醒めた私にとって現実に引き戻してくれる唯一の存在。冷たい身体が汗ばむ私の身体を心地良く冷やしてくれた

闇夜に寄り掛かりながら、私は苦々しく息を吐いた





「………また、あの声……」

《……主……また、》

「闇夜お願い…それ以上言わないで」

《…………》

「……皆は?」

《…いつも通り、眠っている。特に付きそい組はグッスリだ。安心しろ…誰も起きない》

「そ、う……水、ある?」

《此所には無い。今から台所に行って水を持ってこよう。しばらく待っていてくれ。…けして此所から離れる様な事はしないでくれ。夜だけは私が主を守るのだから》

「おー、けー…」






ヒラヒラと手を振れば、隣にいた気配は静かに消えていく。きっと地面の影に沈んでいったんだと簡単に想像出来た

気配が完全に消えたのを確認して、私は自分の身体を強く抱き締めた。闇夜の前でも見せられない弱い姿を守る為に、震える身体を落ち着かせる為に

徐々に聞こえてくる悪夢の声に恐怖を感じ、聞きたくないと耳を塞ぐ。しかし悪夢は容赦なく私を襲いかかる

私の心を、殺していく






「(私の心が…壊れていく…)」







毎日の様に襲いかかる悪魔の所為で

自分の心が壊れていくのと同時に――――歪みつつあるのを、頭の片隅で私はヒシヒシと感じていた







「(悟られてはいけない…気付かれちゃいけない………―――笑わなきゃ、いつも通りに笑っておかなきゃ…こんな自分を、皆に見せちゃいけない)」







自分はホウエンチャンピオン

一人の人間でもあるが忘れてはならないのは自分は【異界の万人】でもある


この程度の事で自滅なんてそんな事はアリエナイ


そう、

あってはいけないんだよ







「(…歪んでもいい、壊れてもいい…この微温湯みたいな平和を壊されるくらいなら……)」








私は仮面を被り

心を無にして、修羅にして

迫り来る脅威を"否定"し、完封無きまでに叩き潰してやろう



…そう思えてしまうのも、やっぱり歪んでしまっているんだなぁと私は自嘲気味に笑った









《―――――主、水を持ってきた。飲めるか?》

「ん、ありがと。…ねぇ、闇夜」

《なんだ?》

「…もし、私達の平和を陥れる者達が現れたら…その時は力を貸してくれる?」

《…藪から棒にどうした。それは予知夢か?》

「もしだよ。もし。戯言と思っておいて」

《……言わずとも私は主の影だ。主が向かう道が私の道。仮に私達に脅威が及んだ場合…進んでこの力を使ってくれ。私は容赦無く、相手を闇に引きずり込んでみせよう。私だけではない…気持ちは此処で眠る者達も一緒だ》

「ん。…それを聞けて安心したよ」

《…………》

「闇夜には言っておくけど……歪んでいっているんだ、私の心。この平和で平穏で微温湯に漬かったような…この優しい居場所を壊されそうになったら、めっためたに相手を叩き潰してやりたいって思ってしまうくらいにさ。歪んでいるよねぇ…困った困った」

《……私からしてみればそれは歪んではいない、防衛反応だ。誰だってそう思う。…勿論、私達も。前の事があったから尚更》

「防衛反応、ねぇ……」

《こんな事で歪んでいると思う主は本当に…優しいんだな》

「…………優しい、か……闇夜の方が優しいよ」







闇夜の方が優しいよ

心優しい私の闇夜

私を包んでくれる闇夜の影が

こんなにも優しくて、心地良いんだから








「…………そういえば最近、炎妃の唄を聞いてない…唄を聞けば少しは気が紛れるかな…」

《そうだな。明日にでも唄ってもらえる様に炎妃に伝えておこう》

「ん、よろしく。…くれぐれも、」

《分かっている。この事は伝えない。…おやすみ、主。明日も早い》

「…おやすみなさい、闇夜」








さあ、もう一度寝よう

悪夢の事は忘れて

明日もしっかりお仕事があるんだから

ちゃんと明日に備えないとね













「――――…ミリ、あ…し……る」










嗚呼、でも

夢の声は一体、私に何を言おうとしていたんだろう



分からない、否…分かりたくもない







(これをきっかけに)(私の心は歪んでいった)



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