闇に葬りましょう

こんな事件なんて



私を阻むモノは、許さない












Jewel.19













あれからまた、数日






「チャンピオンも大変ッスねー。まだ未成年なのにチャンピオンとか…俺なんてまだまだバイクぶっ放していた年齢だったのになぁ…」






セキさんが唐突に言ってきた





「フフッ、確かにチャンピオンは大変ですよ?でもやり甲斐はありますし、それがホウエンの為なら私は努力を惜しみませんよ」







確かに未成年でチャンピオン…しかも膨大で責任重大なお仕事を未成年の子供にやらせるとなると…私でさえ大変だったから他の人はそれ以上に大変なはず

けど頑張った分、努力は報われる。今リーグはすごく良い方向に向かってくれている。全てホウエンの為に繋がると思うと俄然頑張れるというもの

内心フフンと得意げに微笑む私を余所に、セキさんは私の言葉に口を閉じ、表情を曇らせた

どうかしたのかな?なにかおかしなものでも食べたのかな?ふとそう思っていたら「…………大丈夫ッスか?」と遅い返事が帰ってきた。意味も意図も分からなかった私は「…何がです?」と逆に質問をする

彼の口から出た言葉はこちらが拍子抜けるものだった






「――――アンタがホウエンの為に尽くして来たのは周知の事実だ。けど、アンタはこんなに頑張っているのに…こんな事件が起きてしまった。……それでも、まだチャンピオンに君臨するつもりッスか?」






嗚呼、なんだ…そんな事


とても、くだらない質問だった





「…………セキさん、貴方は私を見くびってますね」

「は?」

「上に立つ者はそれ相応の義務と覚悟が必要になっていきます。義務は上として、チャンピオンとして民間に尽くしていく為に。覚悟は…いつ命を狙われてもおかしくないからこそ、命を狙われる覚悟をしていかなければならない。…そう、今回みたいな事件のように。ですがたかだかこんな事件程度で、チャンピオンを辞めるなんてありえませんよ」

「!…は!?じゃアンタは自分を犠牲にしてまでチャンピオンをする気なんスか!?」

「……確かに裏を返せばそういう捉え方もあるかも知れません。犠牲…そうですね、しっくりくる言葉です。ですが…私は私の為に、皆との約束の為にチャンピオンを続けなくちゃいけない。これは私の意地でもあるんです」







そう、これは意地

私の強い意志と、強い意地

多少の犠牲はつきもの、と人は言う。それが私だけの話だったら万々歳!全ては皆との約束を守る為に、私は自分を犠牲にしてでも守ってみせる

交わした約束を、破らない為に



だから―――こんなくだらない戯言に耳を貸す暇なんて私にはないんだよ








「約、束…ッスか。……けどいくら意地って言っても…アンタがボロボロになっちまったら元も子もないッスよ。また今回みたいな事件が起きたとしたら…確実にアンタは心に傷を負う。それでもまだチャンピオンに君臨し続けられるんスか…?」

「ボロボロになろうとも命狙われようとも私はチャンピオンの責務を果たし、誓った約束を果たす







…それが私の存在理由です」







じゃなければ――――…チャンピオンみたいな縛られた存在なんて、私がやるわけないでしょう?









「――――…命狙われるの、慣れてますから」







ポツリと不意に呟いた言葉は

そのまま虚空に吸い込まれて、消えていったのだった





――――――――
―――――
――









「―――アスランさん、お話があります」







食卓で一緒にご飯を食べながら、目の前に座るアスランさんに私は言う

他の皆は私がこれから真剣なお話をするんだと勘づいてくれたみたいで、私の膝の上にいた桜花を愛来が回収しつつ、蒼華と時杜と刹那を残して皆は席を外してくれた。物分かりのよゐこばかりでおねーさん嬉しいよ

皆の手早い行動にしばし呆気に取られていたけど、すぐに彼は私に顔を向ける






「………、話とは?」

「今回の事件の事について」

「!………聞こうか」

「アスランさんやリンカさんの計らいで外部にこの事は報道されていない。…マスコミにバレずに処理をして下さった事について感謝しています。警察の方々にも極秘で捜査してくれる様にも配慮して下さったのも、アスランさんのお口添えがあったと同然」

「…私は何もしていない。いや、私はあの時何もしてあげられなかった。お礼を言われる立場ではないよ。私がやった事なんて、あくまでも幹部長として責務を果たしただけ………むしろ私は、あの様な状態にされてまで毅然とする君に感服する思いだ」

「私もチャンピオンとして責務を果たしただけの事です。チャンピオンとして、私はアスランさんにお願いをしたい―――…この事件の全てを、闇に葬り去りたい」

「!………」

「リーグとしてチャンピオンとして、これは深手を追うスキャンダルになる事は目に見えてます。喩え被害者の私を庇う声が出たとしても、関係ないんです。全ては私の管理不足で起こった事件です、他の方々を巻き込ませたくはありません。今ホウエン支部は頑張ってくれています……私なんかの事で、足を引っ張りたくありません」

「…………」








この事件は誰の所為でも誰の責任でもない

全ては私の所為だ

管理不足統率不足、警戒不足…―――まだ相手が自分だったからよかったにしろ、これが他の従業員の皆さんにも被害があったとなったらそれこそ大問題で言語道断

会社に不利な事が生じた際は隠蔽もしくは隠匿され隠される話が常にある。しかし今回は違う。あくまでも警察が解決した事件をただ公にしなかっただけの事。なんの問題も無い。上の本部に迷惑さえ掛からなければ全ての事態は治まってくれる。……むしろ評価してほしいくらいだよ。急速且つ的確に対処し、迷惑を掛けずに処理できた私達の計らいを








「チャンピオンとしてもそうですが――――私個人としても、こんな事件なんて、さっさと忘れてしまいたいのが本音ですね」







身体の傷は癒え、包帯も解かれた

少なくとも昔と違って言えるのは、私の普段着が完璧に真っ黒い服に変わってしまった事。肌を露出したくない、誰にも触れられたくないという気持ちが自分が気付かない内に強くなってしまっていたからだ(そうなるとフレイリの与えられる服とか着れなくなるけど…まあいいや知らん

首に巻いていた包帯の代わりに巻いているのは、白いシルクのスカーフ。ずっと巻いていても蒸れず紫外線効果も兼ね備えた自慢の手作りスカーフ(手作りは勿論自分の力さ)!今となれば、首に何か巻いていないと落ち着かなくて不安になってしまって…

確実に二週間前の私が取る行動じゃない事は自分でも理解している

こんな姿、ダイゴやミクリ以前にシロナやデンジ達に見せられない。仮に見せたとしたらエラい騒ぎになるのは安易に想像出来た

早く事件の事なんて忘れて、またあの穏やかで平和な微温湯みたいな日常に戻ってほしい。今はそう思うしかない






「―――――…分かった。君がそこまで言うのなら、私はこの事件を公表しない。リンカ君には私から伝えておこう。警察の方にも…」

「警察の方々にはセキさんを通じてお願いしておきます。明日が最後の護衛になりますから…再度改めて、私の方から伝えます」

「よろしく頼む。…ミリ君、」

「…はい」

「…………正直なところ、私もその判断でいこうとしていた。今この事件を公にしてしまったら、君が積み重ねてきたモノが呆気なく崩れてしまうと考えた。幹部長としても、ホウエン支部の立場が危うくなるのも分かっていて……私は、」

「アスランさん」

「!」







私は頭を振った

これ以上は何も言わなくていい、と

全て分かっています―――その意味を込めて







「ありがとう御座います、アスランさん」




















時は呆気なく過去り

二週間もあった有休休暇は着々と消化していき


気付くと明日で最後のお休みとなっていた








(明日で全てが終わる)

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