美味しい紅茶を用意して

美味しいケーキを食べましょう


おもてなしは、完璧に












Jewel.18














「…」
《………(ゴォォ》

《むー…》

《………(チャキッ》

《……(ジーー》



「うーん、この全然歓迎されてない感じ!分かってたとはいえちょっとプレッシャーに負けて胃がキリキリするっつーかね!せっかく美味しいケーキが色んな意味で味がしないっつーか!まずミュウツーさんその武器降ろしてくんねーかな!?怖いッス!!」

「毎度毎度本当すみません……」

「や、いいんスよ、チャンピオンが謝る事じゃないッスよ。歓迎されてないのは初っ端から分かってましたし……暫くしたら仲良くな《調子に乗るな(グイッ》ヒィィィでもやっぱり怖いぃぃぃぃ!!」

「(やめたげてぇぇぇぇ)」






セキさんを自室に招入れ、紅茶と先程作った出来てのお菓子を提供して一息ついていた時にソレは既に起こっていた

セキさんが出来てのお菓子を感動してくれながら食べてくれてる中、勿論私もケーキの出来上がりに満足しつつ食べ進めていた中――――蒼華と時杜と刹那と闇夜は、目の前にあるケーキに手を付けずに、常にセキさんを警戒し続けていた

威圧を込めた鋭いプレッシャーであくまでも静かにしている蒼華、私の肩に座って眼の代わりになってくれててもリーゼントに抵抗を感じる時杜、具現化した武器(今回はフォーク)を構えあまつさえ喉元スレスレに向けてしまっている刹那、私の影の中からジーーッと(相手にとって不気味なやり方で)セキさんを監視中。今警備に出ている朱翔と蒼空以外の子達はボールの中に戻ってはいるけどそれでも警戒しているのがヒシヒシとよく分かる

セキさんの護衛?を受けてからかれこれ今日で三日、今日で三回目。一昨日と昨日とセキさんの帰宅後に「もうちょっとその警戒を緩めてあげようよ」って言っても全然変わってないからね!セキさん可哀相過ぎてむしろ哀れだよ!警察の威厳何処いったってくらい哀れだよ!

……まぁこの子達も私を守る為にやっている行動だから…うん、セキさん頑張って慣れておくれ←






「………セキさん、あの…」

「調査の方、ッスよね?今上司が裏取り調査をしてるッス。俺も午前中それで走ってましたし…今言えるのは順調だって事ッスかね」

「そう、ですか」

「……犯人は逮捕されてるんだ、チャンピオンが気にする事じゃない。だからチャンピオンは安心して下さい」







既に犯人は逮捕されている

意識を回復した容疑者の聴取は済んでいる

罪状は確定している。後は事件性があるかどうか、の調査だけ。それ以上の事は喩え被害者の私とて深入りは出来ない、か…

セキさんがこれ以上何も言うつもりが無ければ私からしつこく聞くつもりはない。私はあくまでも一般人として警察のお世話になる身、警察の判断に任せるつもり

しかし、もし万が一の事が本当にあったとしたら、私は――――…







《と、言われてもそう簡単に安心は出来んがな》

「…」
《全くだ》

《そうだそうだ!》

《…………(ジーーッ》

「……チャンピオーン、俺何か変な事言ったッスかねーー?泣いてもいいッスかー?」

「あらあらあら。全く、この子達は…―――では、楽しいお話でもして気持ちを入れ替えましょう。セキさん、セキさんのお話を聞かせて下さいな?」









――――――――
―――――
―――








《朱翔、行くぞ。今回は愛来も一緒だ》

《よろしくお願いします!》

《フン、精々足を引っ張ってくれるなよ愛来!》

「……………。君達お空の旅好きだねー」

《主は呑気過ぎるんだ》

《ミリ様はこれからお勉強ですよね?帰ったら精一杯お手伝いします!私もまだまだ読みたい本がありますから!》

《マスター、いってきます》

「い、いってらっしゃーい…」

《気をつけてね〜》









時が過ぎ、時刻は早くも夜の7時を回ろうとしていた

これで何回彼等を見送ったんだろう。そしてこれからもまたこうして彼等を見送っていかないといけないのだろうか。過敏になっているとはいえ自分から進んで、しかも楽しんでやっているから…新しい趣味が出来たとして割り切るしかないのかな。うん

ビューンッ!とジェット機並の速さで視界から消えた三人を見送って、さっそく私は行動に移る







「さーて、皆!今日もお勉強頑張りますよー」







計画的に有休休暇を活用する

午前中はコンテストやバトル練習、お昼はお菓子作り、セキさんの護衛、その後は時間いっぱいにたくさん自由に遊ぶ

そして夜は、こうして皆と集まってお勉強会を開くこと






「キューン…」
《我が君、今日も我が君の眼になりまする…なんでもお申し付け下さい…》

「ありがとう炎妃。さっそくなんだけどこの教材を一緒に見ていって欲しいの。後少ししたら終わりそうだからさ」

「キューン」
《畏まりまする…》




「…」
《主人よ、シンオウの歴史は概ね読み終えた。次はカントーの歴史に行くが構わないか?》

「お願ーい。カントーの歴史を概ね学んだら次はジョウトにいっちゃって〜」

「…」
《承知した》




《ミリ様、僕この本が欲しいです!》

「…欲しい?時杜ちゃんソレは借り物だけど………『世界の木の実図鑑』?」

《はい!詳しく見てたら「木の実マスター」っていう資格があるみたいなんです!僕も木の実を咲かせれるので色んな種類を覚えたいんです!》

「木の実マスター…フフッ、時杜にもってこいな資格だね。いいよ、今度出掛けた時にでも買いに行こっか」

《はい!》




「ミロー!ロォ!」
《ミリ様!『ヤドンも出来る一般知識』ですって!字が少なくて絵で描かれているので私、これなら読めそうです…!》

「いいねー水姫ちゃん!私としてもこの世界の一般知識を知る事はかなり重要な役割になってくれるから頼んだよ!」

「ロォ!」
《はい!》




《主、医学を担当する蒼空が不在なので今日は私がこちらを担当しよう》

「よろしくー。……そういえば闇夜ちゃん」

《なんだ?》

「いつも手にするのって、精神科を主とする本だよね?犯罪心理とか心理学とかも読んでくれてるけど……もうちょっと明るい本を読んでくれてもいいんだよ?」

《…気にするな》




《主、概ねパソコン技術はマスター出来たつもりではいるが…主の方はどうだ?》

「………ごめん刹那、私はつくづくパソコンがダメだって事がよく分かったよ。だからこの技術は刹那、君の為だけに学んで欲しい」

《…………、そうか。なら、私は何をすればいい?》

「うーん、どうしよっか。……………思い切って、ハッカーの技術を学んでみる?」

《ほう、主を守る手段として有効活用出来そうだ。…しかしハッカーの技術が書かれてる本は此処には無いが…》

「こっそり買っておくね。今日はこっちをお願いしようかな」

《分かった》





「チュリ〜……Zzz」

「ふりり〜」
《ねむーい》

「ガァアア」
《勉強熱心なこった》









帰宅したアスランさんを出迎えて、皆で夕飯を作って食べた後はすぐに自室へと戻る

寂しそうで辛そうな、心配そうに感情を曇らせるアスランさんには申し訳ないけど………正直言って私は時間が惜しい。せっかく与えられたお休みを一分一秒も無駄にはしたくないからね

通信学科の期限は迫りつつあるし、それ以外にも資格の試験が間近に迫っている。コンテスト大会だってあるんだから、今こうしてお休みな内に動いておかないと後々後悔してしまう

有休休暇が終わってしまったらチャンピオンに戻り、またあの忙しい毎日が始まる。そうなるとそれこそこうして色んな事が出来なくなってしまう

だって私は盲目の聖蝶姫

ホウエン地方の、チャンピオンだから








「(………チャンピオン、ねぇ)」







そっと、首に巻かれた白い包帯に触れる

痛みは全く無い。触れて思い返すのは真っ暗い視界、気配を感じる中でギリギリと容赦無く首を絞める感触

…嗚呼、今でもその感触が思い出してしまってとても不快な気持ちになってしまう――――







「キューン…?」

「ッ!……炎妃?」

「……キューン」

「ううん、大丈夫。ちょっと…有休休暇が終わった後の事を、ふとね。部屋にたくさん書類があるんだろうなぁーって思ったら恐くて」

「クゥー……」

「うん、ありがとう」







今、時杜は図鑑に集中している。通訳が叶わない中での炎妃の言葉は残念ながら分からない。でもその切れ長の美しい紅い瞳は不安げな色を浮かべて私を心配そうに見上げていた

何を言っているのかなんて、時杜の通訳が無くても概ね想像出来た。私は笑い、炎妃のしなやかな身体を撫でながら目の前の事に集中した







「さーて、夜はまだまだこれからよー」













何かに集中していないと

あの時の状況を思い出してしまうなんて


つくづく自分は、弱くなったよね






(この思いなんて)(絶対に周りになんて悟らせてたまるか)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -