せっかくのお休み

二週間の、有休休暇

どうやって過ごそうかな
















Jewel.17













自分が有休休暇を頂く間、話し相手として午後二時から三時半まで警察の護衛を受けるという、とても有難迷惑な提案を(渋々)受け入れた私達

その話し相手になってくれる警察の方というのが、刹那が具現化した武器を向けていたリーゼントが特徴的な男性。名前はセキさん、といい刹那達にビクビクしつつも彼は自己紹介をしてくれた。ここは普通婦警さんが担当するよね…、と思ったけど気にしない事にした

話が纏まり警察の方々がお帰りになる際、一緒に職場に戻ろうとしたリンカさんを引き止めて朝礼での従業員の皆さんの様子がどうだったかと質問した。リンカさんは私の質問に笑みを浮かべ「皆さん快く笑顔で受け入れていましたよ。だからミリさんはゆっくり休んで下さい」と言ってくれた。その言葉に私は大変安堵し、安心した。皆の反応が一番気になっていたから…よかった、これで反乱が起こる事も無ければボイコットされる心配がないね!←


と、なれば私達は自由気儘にこの休みを堪能すればいいだけの話!


もうこの際自分の仕事すら忘れて、全てを忘れて楽しもう。何をしたっていいわけだから、勉強に専念したりコンテストの練習したりバトルしたりお昼寝したりお菓子作りしたり!

あ、ちゃんと身体は休ませるよ?大丈夫大丈夫、こんなのすぐにでも治っちゃうからさ!←←

約束の時間をちゃんと守ればいいんだから――――それくらい羽を広げても、いいよね?


















「んー、どうしようかなぁ」




私は悩む

現在進行形で私は悩んでいた






「…キューン」

「ミ、ミロロー…」

「えーと、ミリ様…またそんな黒い服なんて用意しなくても、もっと他に素敵なお色をした服を着てもいいと思うんですが…」

「えー?黒も十分素敵だよー?」






此所は私の自室

部屋の中には水姫と炎妃と愛来の女の子メンバー勢揃い(けど桜花はおにーちゃん達に遊んでもらってる)

目の前にあるのは普段から使っている高級ベット

ベットの上に置かれているのは―――数枚のワンピース



ちなみに色は、黒である






「色は同じでも丈の長さやデザインが違うんだよ?別に私だけが着る分だったら同じ色をした服を着てもいいと思うんだよねー。それにさ、日差し強いじゃん?日焼けするじゃん?暑いじゃん?嫌じゃん?黒い服は女の敵でもある紫外線を反射してくれるから日焼けはしない。夏でもこんがり知らず!いいねぇ」

「そうなんですか?私、また一つ学べました!」

「…キューン」

「…ハッ!そうでした炎妃さん!危うく話が逸らされるところでした!ミリ様、せめてもう少し色味を付けた服にしましょうよ!真っ黒な服、皆さん見たらびっくりしますって!」

「気にしなーい。てなわけで今日はコレにけってーい!」

「あああああ!」

「ミ、ミロォ…」






隣りで色々言ってくる三人の訴えを完全に無視して、何着か並んでいた白いレースが抑えめにあしらった黒いワンピースを手に取る

ブーブー言ってくるも、結局私が決めた服のお着替えを手伝ってくれる三人に私は笑ってそれぞれの頭を撫でてあげる

服を脱いだ時に見える包帯を見るたびに、彼女達は手を止め、辛そうに顔を歪ませる。心夢眼で視る私の身体は、私自身が見ても痛々しいものだった(顔の包帯とかは見慣れたけどね)。始めは動かすたびに痛かった身体は、今となれば嘘の様に痛みは無く落ち着いてくれている。そろそろ受診日だからきっとその内に顔だけでも包帯が解かれるはず。うん、もう少しの辛抱だね

次は髪形をセットに入る事に。これは人間の姿に変化出来る愛来のお仕事。リンカさんに切ってくれた髪の毛を、愛来は丁寧に整えてくれる。リンカさんに切ってセットしてくれたのと同じくらいに完璧に仕上げてくれるから、眼が視えない私にしたら愛来の存在は有り難い。私専属のスタイリストだね

隣りで心夢眼の役を静かに努めてくれる炎妃の毛並みに触れ、スリスリすり寄ってきた水姫にも撫でてあげる。フワリと優しく髪を梳いてくれる愛来の手付きに目を細めつつ、私は独白の様にポツリと言う





「…私ね、オレンジ色も好きだけど、実は黒色も好きなんだよね」

「ミリ様?」

「落ち着くんだよね、守られているみたいでさ。傷付いた身体も、心も、この黒い色が隠してくれる。…自然と黒い服を手にしてしまうのは、きっと傷付いた私の心が無意識にそうさせているんだろうね…」

「キューン…」
「…ミロー…」
「ミリ様……」

「あ、この話は皆には内緒だよ?私達ガールズメンバーだけの、秘密の話として心に止どめておいて。………そんな顔しないで、ちゃんといつものオレンジ色をしたコート着るから。そうすれば、少なくとも職場の皆さんにはバレないからさ」







【異界の万人】の闇を畏れておきながら――――自分の心が傷付いた時だけ、誰にも触れられたくない時だけ闇に近い存在に縋ってしまう

嗚呼、なんて自分は滑稽なのだろうか

嘘の様に他の服に手が回らなかった。色とりどりの、可愛らしい色をした、今まで着てきたワンピース。あの高級だったワンピースを破られたせいもあってパタリと着る意欲が失せてしまった。…高かったんだよねー、アレ。普段フレイリに(強制的に着せられ…ゲフン)与えられた服だったり自分の力でパパーッと(適当に)作った自前の服で終わらせていた私にしたら奮発したほどだからね!破られたのは!ショックだよ!

黒い服にコートの組み合わせはこのホウエンからしてみればむちゃくちゃ暑そうな格好になっちゃうかもしれないけど、それは私の力で体温調整してくれるからへっちゃらだし。そう、だから何も問題はないよ!←






「キューン」

「ミロ、ロー」

「…そう、です…ね。分かりました。ミリ様、そのお話を聞いてしまった以上私達は何も言いません。ですが、また…着て下さい。ミリ様らしい、優しい色をした色とりどりの服を。私、精一杯お手伝いします」

「…――――えぇ、勿論」







髪をセットしてもらい、コートを着せてもらい、不安そうに顔を曇らせる子達に私は笑う








――――…アレから、もう三日が過ぎていた








―――――――
――――











《主、私はこれから空の警備に行ってくる》

《マスター、私も蒼空と共に行ってきます。異変があったらすぐにでも知らせます》

「……………、うん?君達さっきも行ってなかった?」

《念には念を、だ。当然の事だろう?》

《全てはマスターの為に》

「う、うーん…いってらっしゃい。あまり遅くならないようにね」

《いってらっしゃーい》






有休休暇が始まり一日目、二日目と時が簡単に過ぎていき三日目の今日。休みなんて要らないお仕事するんだああああ!と葛藤していた自分が懐かしく感じてしまうくらい、あっという間に時が過ぎていった

さて、せっかく頂いたお休みを使わない手はない!と思い立った私は(自分の身体は置いといて)計画的に練りにねって、やりたい事をやりたい様に行動していた

アスランさんが出勤するまでの間は今までやっていた事は変わらない。朝から色々やるとアスランさんに色々怒られそうだし。「君はあくまでも療養の為にうんたらかんたら〜」みたいな?あんまり心配かけさせたくないからね。そんなわけでアスランさんを見送ってからこそ、私達は行動を開始する











ゴオオオォォ!

プシャアアァァッ!




―――――パァアアアッ!






「おー、いいねいいねぇ。流石、【金妖銀艶】。息はピッタリだよ。息は、ね。……うんうん、まだまだ改善の余地はある。いいねいいねぇ」

「ミロー、ロォ、ロー」
《水と炎のコンビネーション…バトルと用途が違って中々難しいですね…!》

「…キューン、キューンコォン」
《…相手を倒すのと魅せるのでは、威力のコントロールが違っていきますれば。異なる技のタイプなら、尚更……暫くその手の練習に励んだ方が、いいのやもしれませぬね…》

「チュリ〜!チュリリ〜!」
《しゅごーい!キラキラしてりゅ〜!》

「…グルル…ガァアア」
《アー……暇だなァ。朱翔の奴行っちまったし、バトルじゃねーなら俺ァ適当にやってるぜー》

「ふりり〜」
《ボクは遊びにいってくる〜》









午前中は外に出て、花一面広がる庭の中でコンテストの練習に入る

シンオウでは蒼華と水姫の水のコラボレーション、時杜と風彩の妖精コラボレーションを中心に活動していた。たまに刹那と闇夜のサイコパスコラボレーションもやった事はあったけど、主に水と妖精のコラボレーションが主流だった(朱翔は断固拒否した)

新たな仲間が加わった事で、また新たな組み合わせが増えてくれる。【金妖銀艶】でお馴染みの水姫と炎妃の水炎コラボレーション、蒼空と愛来の兄妹コラボレーション。時杜と愛来の赤色コラボレーション、蒼華と蒼空の水色コラボレーションもあったら面白そうだ。このメンバー達なら色んなコラボレーションが出来るからコーディネーターの身としたら腕が鳴るってものだよね!

コンテスト練習でうっかり庭をへっちゃかめっちゃかにしても私の力で元通りになるから、アスランさんにバレる事はないよ!←←







正午に回るとコンテスト練習は終了

お昼ご飯を食べた後、とある子達はお昼寝タイム

あんまり寝過ぎると帰って夜眠れなくなるから、長くても一時間程度。その間、蒼華と闇夜と炎妃と蒼空に見守られながら、私は時杜と愛来と一緒にお菓子作りに取り掛かる








《愛来、慌てずにな。けして焦ってすべってコケて皿を割って怪我をしないように》

「分かっていますお兄様!私、精一杯美味しいお菓子を作ります!」

《ミリ様、こちらのモモンの実とオレンの実はどうしましょう?》

「タルト生地が焼き上がるまでそれは冷蔵庫に入れておいて。愛来、カスタードクリームの材料はある?」

「はい!こちらに!」

《今日はオレンとモモンのフルーツタルトか。刹那は昼寝中だからつまみ食いされる心配はないな》

「〜〜〜♪」

「キューン…」
《我が君…楽しんでおられる。妾も嬉しゅう御座います…》

「…」
《そうだな》






リーグを新しくしてからあまりの多忙の生活に家事はしてもこうしてお菓子作りが出来ていなかったから、やっぱり皆に囲まれて作るお菓子作りは楽しい気持ちにさせてくれる。作ったお菓子を皆に提供して、皆が嬉しそうに食べてくれると思うと、自然と口に笑みが浮かんでしまう

傷が完璧に治ってまだお休み中だったら、久しく会えてないダイゴとミクリにお菓子を作ってあげようかな。…あ、そういえばミクリは彼女さんとはどうなったんだろうね。上手くいってるかな〜






「うん、やっぱり平和っていいね」







あの事件が、まるで嘘の様で

チャンピオンなんて存在しなかったかの様な穏やかで、平和な日々だと錯覚してしてしまうくらい

私達は、私は、幸せだった











…―――――こんな感じに、私達は自分達の好きな事を余す事なく充実に過ごしていた







《――――蒼空!こんなところにいたのか!愛来の心配ばかりしてないで警備の時間だ!早く来い!》

《あぁ…そうだったな。愛来、けして怪我には気をつけるんだぞ。主、私と朱翔は今から空の警備に行ってくる。お菓子は皆に盗まれぬ様にしておいてくれ》

「………………、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?」

「…」
《否、主人はそう思っても我等の気がしれない。我等の為にも、二人を行かせてやってくれ》

「…う、うーん…………蒼華が言うなら……………二人とも、遅くならない様にね」

《《了解した(しました)》》







……が、どういうわけかあの事件以降、朱翔と蒼空を中心にこの家の警備がやけに厳重になっていくっていうね

結界は張ってあるから変な事がない限り大丈夫なんだけど……(まぁ二人がやりたいなら止めないけど







《マスター、警備に行く前に一つ》

「ん?」

《今、家の前に"奴"が着ました。すぐにでもインターホンを押すかと。耳にはお気をつけを》

「そう、ありがとう。……時杜、」

《はい!耳栓をどうぞ!》







ピーーーンポーーン……―――











「お、流石は朱翔。噂をすれば」

《ではマスター、私はこれで》

「うん、いってらっしゃい。……さてさて、迎えに行きましょうか。蒼華、時杜、着いてきて。後の皆は寝てる子達を起こしてきて。場合によってはボールの中に戻って貰っても構わないから」

「はい!」

「キューン」
《わかりました、我が君…》

《私は影の中にいるぞ》








着いてくる蒼華と時杜の眼を借りながら、今では見慣れた玄関に足を運ばせる

大きな扉に付いているドアノブを時杜が念力で押し、開かれる扉の先には――――…まだ少し見慣れない、中々見応えのあるリーゼントが視界に入った

彼はまだ緊張した面持ちで、私達と眼が合うとビシッと敬礼を決めた





「こここ、こんにちはチャンピオン!今日もおおお日柄もよくいい天気っす!ネ!」

「はい、こんにちは。今日もお勤めご苦労様です。ささ、美味しいお菓子を作りましたので一緒におやつタイムにしましょう?







…――――セキさん」









現在の時刻は、約束通り二時ピッタリ


さあ、形だけの護衛を始めましょう






(自由にやっていても)(決め付け事は、ちゃんと守ります)

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