余計なお世話だよ

私達には、そんなモノなんて


必要は、ない












Jewel.16













さっそく事情聴取が始まった。始めは私の様子を気遣ってか当たり障りのない事から入っていくも、しっかりと返答していく私に安堵してくれたらしく、次第に本格的な内容になっていった

心配そうに見守るアスランさんとリンカさん、そして隣にいる蒼華達の視線を受けつつ、私は嘘偽りのない事実を話していく



――――予選選抜を無事終わらせ、頑張って活躍してくれた皆を全員回復に回した事で無防備になった事

仕事に戻る前に普段から使用している休憩室で一旦仮眠しようかとしていた事

突然聞こえた複数の足音が聞こえたと思ったら、ノックも無しに扉が開かれ、こちらが身構えるよりも先に頬に強い力を受けて殴られた事

それから―――――





「―――――…話を纏めますと、公開試合を終わらせて傷付いたポケモンを預けて一人休憩室に戻った所、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴った。誰かが来たかと出迎えたら…見知らぬ集団に襲われた、と」

「はい」

「後頭部強打、顔面を殴られて、首を絞められて…服を乱された。……では、どうやって容疑者達を倒せたかまでは…」

「それはアレです。火事場の馬鹿力ってやつですy「…」(ペシッ!)あたっ」

「…………、あなたが無事ならそれで十分です。深くは聞きません」

「ありがとう御座います。そうして下さるとこちらも有り難いです」






誰がどう見てもあの現場には頭を捻らせる現象が起きたとい事実は、やらかした私でもそう思うから乾いた笑いで誤魔化す事しか出来ない

うん、だってポケモン達が暴走しない限り人間一人であんな半壊しちゃう様な事なんて、アリエナイわけだし?(あっはっはー

少なくともこの件は深く追及される事はないのがこの人の口から伝えてくれたわけで。その点に関しては物分かりのよくて察しの良い警察の方で本当によかったとしみじみ思う

完全に頭が違う方向にいっていた私と、隣りにいたリンカさんが「もう大丈夫だからね」と声を掛けてくれたのが同時だった





「っ…!」






完全に意識が違う方向にいっていたから―――突然自分の肩に手を置いてきたリンカさん相手に、ビクリと、なんとまあ情けないくらい露骨な反応を返してしまった

すぐに私は彼女に頭を下げた。対するリンカさんは「大丈夫よ、気にしないで」と気を利かせる言葉を返してくれた


…違う事で頭を働かせていたとはいえ、ただ肩に触れてきた相手にこうも敏感になってしまったとは

随分私も、自分が気付かない内に脆くなったものだよ。らしくない自分の気持ちを隠す為にも、私は時杜を胸に抱き締めるのだった






―――――
――






あれからまた事情聴取が続き、一通り終わらせた警察は私達に今の状況を説明してくれた

既に犯人は捕まっている。今彼等は留置所にいて、起訴を待っている状態らしい。この事情聴取が終わり、解決したと判断されれば捜査が打ち切りになり、彼等はそのまま刑務所に入る。警察の仕組みはどの世界にいっても同じだから、今更一連の流れを把握するつもりはない

彼等は彼等で、この世界の法の下に裁かれればいい

彼等の罪状は「暴行猥褻及び殺人未遂事件」として起訴が決まっていた。暴行と猥褻は納得いくも何故殺人未遂?そう聞いてみるとナイフを所持していた者がいた、と。脅しにでも使おうとしていたのか、否か…その真意は今後の彼等の詳しい調査で分かる事でしょう

本来だったら、これでこの話が終わるはずだった


しかし―――――…






「不可解ですね」

「やはり貴女もそう思いますか」

「えぇ。―――…人間、爆発してしまえば何をしでかすか分かりません。ですが…ただの偶然とはいえ、これは不自然過ぎます。…これ以上何も起こらなければいいんですが…」






彼等から話を聞かされた内容は耳を疑うものだった





「情報の漏れ」

「犯人は全て初対面の人間の集まり」

「犯行が同一日に重なった」

「ハッカーだけしか知らない情報を彼等全員が知っていた」


「まるで何かに操られている感覚だった」







―――――…この事件、ただの事件として終わらせてもいいものだろうか









「ミリさん、私警察の方々に護衛を要請した方がいいと思うわ。…もしまたあんな事があったりなんてしたら…」






私はリンカさんの言葉に耳を疑った







「いえ、その事なら大丈夫です。私は護衛は必要としません。そんな、お手を煩わせる訳にはいきません」

「ミリさん…もしあなたがチャンピオンとして騒ぎを拡大しない為にって思っているなら、それは違うわ。これはもしかしたらあなたの命に関わる事かも知れないのよ」

「私達からも暫く貴女に護衛を付けた方が宜しいと思います。貴女は有名人だ…本来なら護衛を付けてもいい人間です」

「大丈夫です、私達にはこの子達が居ます。……あの時は油断してしまいましたが、もう次はあんな目にあう事はありませんよ。――――そう、もう二度とあんな目にあう事はありませんよ」








警察の警備なんて、要らない

警察なんて、必要無い

私には絶対の自信があった

だって、私の周りにはこの子達がいる。この子達がいれば百人力だし、この子達の存在そのものが私の牙として、脅威としても言えるわけで。屈強たる子達相手に、立ち向かえる相手なんて存在しない。特に、蒼華を前にしたら塵も同然

その蒼華達と言えば―――…口には出していないけど、目線で私に訴えてくる。「奴等など必要ない、我等が主を守る。人間の護衛など無意味だ」と。そしてリンカさん含め警察の皆さん相手に余計なお世話と言わんばかりに態度が強く出ている(リーゼントさんビクビクしてるぞー)。異空間にある子達もカタカタカタカタとボールを揺らし、大反対だと訴え続けている

なにより――――…私は【異界の万人】。護衛をつけるくらいだったら自分の力でどうにでも出来るんだから、さ





そんな私の意思に反して、彼等は私に護衛を強く申し立ててくる。よほど心配だと取れる。心外だ。心配し過ぎてリンカさんが涙目になっているのが心夢眼から視える。リンカさんごめんなさい、申し訳ないけどこればかりは譲れないんですよ

だから私は必要ありません、とキッパリ言ってやった。だってこんな事、無意味なんだし。ここで気付いてほしい、私達が拒絶している事を。【私】が必要としていない事を…―――――






ミリ君、と今まで沈黙を守ってきたアスランさんが私に問い掛けてきた








「…本当に、要らないんだね?」

「はい。逆にいると緊張しますし、気になっちゃいますから。それにせっかく休みを貰えたので…皆と一緒にゆっくりしたいです」

「…」
《そうだそうだ!ミリ様は僕らと一緒にゆっくりするの!》
《他の人間など必要ない》







アスランさんが動いた、となると話は決まったのも同然

これでやっと無駄な会話が終わる―――ホッとした束の間、どうやら彼はあちら側の人間だったらしい。私に優しく悟りかける様に、彼は私に言い聞かせてくる





「…一人だけでも、駄目か?ずっといるわけじゃない。話し相手になるだけでもいいんだ。…その方が、私も安心出来る」







…それは、護衛と言えるのだろうか…

なんとも言えない。うーん

しかし向こうの味方でもあるアスランさんが、ここまで言ってきたとなれば…お世話になっている身として、こちらが折れるしかないじゃないか

仕方無いと、肩を竦めた






「…………分かりました。アスランさんが言うなら、アスランさんの言葉に従います」

「…」
《…むー…》
《余計な事を…》

「…そうか、良かった…」






ホッと息を吐くアスランさん。感じる彼のオーラは強い不安と心配、そして安堵の色…こんなオーラを感じちゃうと、本当に何も言えなくなっちゃう

皆も渋々、と言った様で受け入れてくれたみたい。異空間の皆もボールの揺れは収まりつつある。気に食わないのはこちらも同じ。物分かりの良い子達ばかりで本当に良かったよ。後で美味しいお菓子作ってあげなきゃね


それからさっそく、とばかりに具体的な護衛の話を付けていった


護衛というより話し相手として、私達の様子を見に行く前提で。こちらのプライベートの事があるから時間は午後の二時から三時半の間、お仕事で疲れた時の一服として休んでもらう

こればかりは譲れないとばかりに些か強引な形でもあったけど、私の主張を皆は受け入れてくれた






「ゆっくりしようね、皆」

「…」
《…僕らがミリ様を守るのに…》
《解せん》

「よしよし」







さて、その話し相手になってくれる警察の方は誰になるんだろう

と、思ったその時





「………はいいいいい!?」







リーゼントの彼の叫び声が響いた







(どうなることやら)

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