嗚呼、知ってしまったのね

その瞳に浮ぶ、歪んだ光の意味を



















Jewel.15













沈黙からくる静寂が夜を包み込み、不安を煽る。喩え普段気にせずむしろ心地良かったとしても、ちょっとした事で変わってしまう。えも言わぬ不安と恐怖は、傷付いてしまった者達をどん底へ突き落とす

…――――昨日の正午の出来事が夢の様に、夜は穏やかで平和な時間を過ごせたと思う

…本当に、嘘の様に夜は穏やかだった

やっぱりそう思えるのは、この子達のお蔭。私のところからけして離れず連れ添ってくれる、可愛い可愛い私の仲間達。昨日の一件で過保護が極まった様に私の元から離れようとしない皆に苦笑を零す思いだけど、でも不思議とその皆の気持ちが有り難くて、安心し、悪夢を見ずゆっくり眠る事が出来た

つくづく私は頼もしい仲間を持ったものだよ


……でもおトイレやお風呂や早起きまで一緒に着いて来なくてもいいと思うんだけどなー

うーん、困ったなぁ












「今日の11時頃、こちらに警察の方々がお見えになる。一旦リンカ君がリーグで落合った後、テレポートを使ってこちらに来てくれるそうだ」

「そうですか…分かりました」

「…君には辛い思いをさせてしまうかもしれない」

「あぁ…そんな事。大丈夫です、分かってますから。事情聴取くらい平気です。既に犯人は逮捕されているんです、私は私の事を話すまでです」







数時間後に、警察の方々がこの場所を訪れる。彼等の目的は、私の身元安否を含めた事情聴取

この一件はリーグにとって、大打撃になる事は被害者の身であれ重々理解していた

警察も含め、今回の一件を知る者達は私の要望通りに動いてくれている

アスランさんにあの後どうなったか聞いてみたら、皆通常通りお仕事をしてくれているとの事らしい。うまく結界が動いてくれてなにより。でも結界外にタイミング悪く出ていた人達がいたみたいだけど、そこはリンカさんが対応してくれた、と。崩壊した部屋は当然立ち入り禁止、その内修復工事が始まると。…もうちょっと手加減してあげたらよかったと本当に思うよごめんなさい許して!←←

今日、きっと朝礼でアスランさんに代わってリンカさんから皆さんに私の事が話されるはず。「今日から二週間、チャンピオンが有休休暇で仕事を休みます」、と。………あー決算前でむちゃくちゃ忙しくて私自身のお仕事もいっぱい残っているのに二週間も休むのかよ!って反感買われそうだ……!反感買われて反乱が起きそうなフラグ真っ盛りだよ!マズいよ!

四天王の皆にも苦労掛けさせてしまうとか…ああああああ不安過ぎる色々な面でえええええ





「……皆さんにくれぐれも、宜しくお伝え下さい……(皆ああああすまねええええ」

「大丈夫、全てこちらに任せてミリ君はゆっくり休んでくれ」

「…ありがとう御座います、アスランさん。宜しくお願いします(最悪時杜の力で空間繋げてこっそりお仕事持ってこよっかな…」

「あ、ミリ君、最初に言っておくけど職場から仕事持ってくるような事がないようにね」

「(Σギクッ!)」








――――――――
―――――
――







数時間後が経ち、11時を回った

アスランが言っていた通り、リンカさんがテレポートでこの家に訪れた。数名の警察の方々を連れて

さっそく簡単に挨拶を済ませ、事情聴取に入ろうとした時だった。今まで見なかったアリエナイ光景に…周りはともかく、私は大いに驚いた







《貴様、何奴。敵なら容赦はしない》

「…」
《一人だけ、警察とは思えない人間がいる。…事と次第によっては排除をも厭わないぞ》

《なにあのリーゼント。あのリーゼント、すっごく前に見た事ある。ワルい奴だよね?ワルい奴の象徴がリーゼントなんだよね?…なんでそんな人間がここにいるの。すっごく、怪しい》

《………(じーー》



「あ、あのー…チャンピオーン……そちらのポケモンさんの、鋭い視線と鋭い武器と鋭い雰囲気が正直キツいんですけどぉー、みたいなぁ…あはは〜」

「(ちょっと君達いいいいい!?)」







彼等が部屋に現れて――――…スーツ姿を着崩し、リーゼントの頭をした男性が部屋に入ってすぐの事だった

なんという事だ!あの刹那ちゃんがその彼に向かって刃を向けたじゃないか!

平和主義で滅多に具現化した武器を所持しない刹那ちゃん。勿論武器を人に向ける事なんて今まで無かったのに!どうした刹那!?おねーさんびっくりだよ!?びっくり過ぎてまともな反応が出来ないよ!人に刃物を向ける様な育て方をした覚えはありませんよ刹那ちゃん!!!

てか蒼華も無駄に構えなくていいから!クリスタルの額が何処か寒気を覚えるよ!時杜ちゃんも確かにリーゼントは世間的に良いイメージとは皆無かも知れないけどそこまで身構えなくていいよこの人も多分良い人だよ!多分!あくまでも彼は警察だよ闇夜ちゃん影の中からそんなにジロジロ見ちゃいけませんんんん!!






「…すみません。事件にあってからずっとこんな調子で…(何故!どうしてこうなった!」







申し訳ない、本当に申し訳ないリーゼントのお兄さん



苦笑を零しつつも、こちらの内心が悟られない様にするのが精一杯

てかそう言うしかないよね!ちょっと皆!そんなに警戒しなくていいよこの人可哀相だよ!?お兄さんめっちゃくちゃ冷や汗タラタラしてるよ!?






《…主、私のナイトメアの力を使いたくば幾らでも言ってくれ。永久に眠らせてやろう》

《マスター、なら私は朱き波動で木っ端微塵にしてやりましょう!》

《それなら私は高速スピンからのちきゅうなげの組み合わせで遥か彼方から突き落としてみよう》

《お兄さま!私も頑張ってお手伝いします!》

「(皆!?駄目だよ!?)」







よし、君達後でお説教タイムにおやつ抜きね!






「無理も無いです。私達の方は大丈夫ですので、どうかおきになさらないで下さい」

「………すみません」






知らぬが仏、というのがまさにこの事

完全に受け入れられてないこの状況。普段見ない皆の姿にアスランさんもリンカさんも警察の皆さんも、頭では理解していても戸惑っているのが分かる

私も正直、戸惑ってる





「(…こうさせてしまったのは、結局私の所為なんだよね……)」







私が思っていた以上に、彼等の傷は深い

まざまざと思い知らされた思いだ。嗚呼、ただでさえ人間があまり好ましくない子達がいるんだ、人間が私にした仕打ちを見てしまったら…―――私が幾ら大丈夫だって言っても、彼等はもう人間を信用する事は出来ないのかもしれない…


ほんと、私は駄目な主だよ







刹那、と私は声を掛ける

時杜の心夢眼で視る刹那の姿。私の声にピクリと反応を返すと無機質な緑色の瞳をこちらに向ける

無機質な瞳の裏に蠢く別の光

一瞬だけ感じた違和感。些細な、ほんの小さな違和感。その光は何処か、歪んでいる様な気がして…―――











「刹那、」

《………》

「おいで、刹那」

《……主、しかし》

「もう武器は消して、その人を放してあげて」

《………》

「刹那」

《…………》

「…おやつ抜きにす《分かった、止めよう》」



「た、助かったァァァ…!!」











さあ、気を取り直して事情聴取始めましょう







(歪んだ光、歪んだ瞳)(君は何も言ってこない)(だから私は、気付かない振りをするしかなかった)

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