同じ過ちを、繰り返さない為にも Jewel.14 「有休休暇かー」 アスランさんを見送り、夕飯を食べて一息ついた頃 着替えを愛来と水姫と炎妃に手伝ってもらい、痛む身体を悟られないようになんとかやり過ごしながらも、私の頭の中は突然舞い降りた予想外のご褒美の使い道を思案していた 「どうしたもんかなーうーん…」 「ミリ様…何をそんなに悩む必要があるんです?せっかく、お休みを頂けれたんですから…まずは身体を第一にしてください」 「ミロー…」 「キューン…」 「や、それは百も承知だよ。勿論ちゃんと休むさ。だからそんなに心配しないでって〜…ただ、」 「ただ?」 「今まで仕事漬けの毎日だったから…突然仕事をお休み出来るとなると、今更何をすればいいのかってね」 「キューン…」 「あはー、知らないところで随分私も社畜に成り下がったもんだよ〜ハッハッハ」 「…ミ、ミロォ…」 けらけらと私は笑う 瞳を閉じても開けてても見えるのはたくさんの書類やお仕事の山に囲まれてる自分の姿…いずれはその山に押し潰されそうな、そんな予感… ……… ………本当に休んで、いいのかしらとってもすっごく不安なんですけどォォォ(滝汗 「キューン…」 「そうですよ、炎妃さんの言う通りお仕事の事はキレイに忘れましょう!この二週間でミリ様は身体を休めながら、ミリ様がやりたい事をやりましょう!私、精一杯お手伝いしますから!」 「ミロッ、ミロー!」 「あ、水姫さんそれ素敵です!バトルばかりじゃなくそろそろコンテストの練習に費やすのもアリですね!」 「キューン」 「炎妃さんもコンテストに賛成ですって!炎妃さんと水姫さんのコンテスト…私、すっごく見てみたいです!」 「ミロー」 「私も、ですか…?…ど、どうでしょう…で、ですがもし私にも機会が恵まれたら!精一杯頑張ります!」 「可愛いなぁ〜」 よくよく考えたらチャンピオンになってから多忙過ぎて(大半自分の提案で自分の首を絞めてる)こうして皆と向き合える時間もあまりなかったから、いい機会かもしれない よし、何事にもポジティブに物事を捉えていこうではないか! 「うーん、皆の言う事も最も。そろそろコンテストにも手を出してもいい頃合…うんうん、この休みは今まで出来なかった事に専念するいい機会かもね!三人にはコンテストでそのピッチピチでビューティーキュートな姿を色んな人に魅せてもらわないと!宝の持ち腐れになっちゃう!決まり決まり!そうとなればさっそく練習に入るよ皆!」 「ミリ様!?優先順位間違えちゃダメですよ!!」 「ミ、ミロー…」 「……キューン…」 「チュリ〜……Zzz」 ちょっと楽しみが増えたよ! ―――――― ――― ― 此処は豪邸から外れた場所にある、人間の手が施されていない自然のままの広場。修業場所として普段から使用され、その際は衝撃音と地響きが鳴り止まないが…―――秘密裏に話し合う場所としてはもってこいの場所でもあった その広場には、ミリの元から離れていたポケモン達が集っていた ダークライの闇夜、ルカリオの朱翔、アゲハントの風彩、バンギラスの轟輝、ラティオスの蒼空。そしてミリが着替えるからと席を外していたいつも傍にいた三強―――スイクンの蒼華とセレビィの時杜とミュウツーの刹那の姿があった 《…―――朱翔、轟輝。お前らは一旦冷静になれ。何度も言うが、復讐など主は望んではいない》 《だがしかし!あの様なお姿になられてしまってもこちらが何一つ手出しが出来ないなど!許されない事!》 「ガァアア!」 《そうだぜ!俺らがやらねェで誰がやるっつーんだ!このままみすみす泣き寝入りさせるつもりかよ!アイツによォ!》 《そうは言っていない。奴等は時期に正当な裁きを受ける事になる。我等が動かずとも、奴等は人間に裁かれる》 《しかしだな!》 朱翔と轟輝が躍起になって訴える。このメンバーで一番に権力がある蒼華に向かって、彼等は強く強く訴え続けていた。今、自分達がやらずに誰がやるのか、憎しみと怒りに燃えながら彼等は吠えた そんな彼等に冷静に対応するのは、普段から彼等の仲裁役や話のまとめ役を担ってきた刹那だ。刹那は冷静に、淡々と彼等に落ち着く様に促していた 《刹那の言いたい事は分かっている。人間には人間の法律があり、法の下に裁かれる。我等が動かずとも奴等は裁かれる……しかし、我等の裁きを与えてやっても良いはずだ》 《あぁ、蒼空の言う通りだ。この私も流石に…自分の忌々しい能力を、相手にぶつけてしまいたい衝動に駆られてしまう》 《それが駄目だと言っている。冷静に状況を判断し、落ち着け。今我等がすべきことは復讐などではないと言っているんだ》 《だからって我等の気が晴れないじゃないか!》 《ちょっと皆、落ち着いて…》 「…」 蒼空、闇夜も続いて訴える 朱翔や轟輝と比べたら幾らか落ち着いている様に見えるが、しかしまだ完全に落ち着いてるとはいえず、その瞳は憎しみや悔しさに揺れている 一番の権力を持つ蒼華は、少し離れた場所からただ静かに空を見上げていた。彼の長く美しい海色のたてがみが風で静かに靡いている 時杜も初めは何も口には出さず静観を決め込んではいたが、段々雲行きが怪しくなりそうな仲間達をハラハラした思いで静観していた 「ふりぃ!」 《ちょっと刹那!なんで刹那はそんなに落ち着いていられるの!ミリがあんな目にあったっていうのにさ!悔しくないの!?》 プリプリと羽根を震わせ、怒りを隠しきれない風彩はずっとさっきから淡々とし過ぎる刹那に声を荒げる 刹那の性格は理解してるし、その性格が逆に自分と気が合っているのは知っている。しかし、あんまりじゃないか。なんで一人だけそんなに淡々としていられるのか…風彩はこの時、刹那という友が分からなかった 風彩の言葉に、刹那の動作が止まった 暫く静寂が包み込んだ。誰も何も口を開かなかった。沈黙がただただ過ぎていく。皆は刹那を見ていた。刹那の反応を待っていた。お前はどうなんだと…―――― ふむ、と刹那は瞳を閉じた。しばし考え込んだ後、無機質な表情、閉じた瞳はそのままに刹那は口を開いた 《………怒り、という感情は恐ろしいな》 《え?》 《喜怒哀楽の感情の中でこの感情は己をも支配してしまう恐ろしいモノ…私は今まで怒りという不確かな感情を味わった事がなかった。それは今までにそういった経験が無かった事と、自身の性格からくるものだと思っていた。何処かで私は、自分には関係ないと…他人事の様に感じていた しかし…―――――》 スッと開かれた緑色の瞳 その瞳は―――…怒り、憎しみの感情で歪んでいて 《私は今、凄く怒っている》 けど、あくまでも声は淡々としていた 《こんな屈辱的な思いは初めてだ。とても、とても腹立たしい。奴等にもそうだが、自分自身にも。主を守れなかった、己自身を凄く責めたい思いでいっぱいだ。そして同時に思ってしまった…―――奴等を、殺してしまいたいと》 《!刹那それは…》 《分かっている、駄目な事だとな。一番主が悲しむ事だというのを。…きっと主は、私が初めて怒りの感情を持ってしまった事を知ったら、酷く悲しむに違いない。奴等に手を掛けてしまえば、尚更…むしろ今度は私にそうさせてしまった自分を責めてしまうだろう。それは、お前達にも言えたはずだ。私達がどう行動を起こしたところで、主は悲しむだけだ》 《《《―――――…》》》 緑色の瞳の中に揺らめく歪んだ光。初めて見た刹那の、その歪んだ瞳に誰もが皆、口を閉じた あくまでも淡々と無機質なままに話す刹那だったが、彼もまた同じだった。同じ気持ちだった そして刹那は分かっていた。この感情が危ない事を、その先がどんな末路を迎えてしまうのかも―――それこそミリを悲しむ結果を引き起こしてしまう。それだけは避けなければ、ならない。じゃないと、自分が、壊れてしまいそうで…――― 刹那は変わらず淡々と続けた 《だから私は自分の感情を悟られぬよう、あくまでも冷静に対処しようとしている。………だから風彩、あまり私を煽る発言は避けてくれ。いくら私でも…どうなるかは分からない》 「ふ、ふぅ……」 《う、うん…ゴメン、刹那》 「グルル…」 《なァんだ…テメェにもちゃんとそれなりに感情があるじゃねーの》 《お前は淡々とし過ぎていたからな。もう少し感情を露にしてもバチはあたらん》 《そうか。善処しよう》 「…」 《…皆の者、よく聞け》 先程まで空を見上げ黙っていた蒼華が口を開いた 「…」 《我等のすべき事は二つある。まず一つは主人を守り、傍にいる事。普段は我等三人が主人の傍にいるにしても、席を外した際は必ず誰かが主人の傍にいろ。主人を一人にさせるな。そして今後我等が避けるべき事は、我等全員がまた回復に回されて主人を一人にさせてしまう事だ。今回みたいな事はけして、繰り返してはならない》 《そうだね、その時はお互い交代していこう。ミリ様には僕の方から言っておくよ》 「ふりり〜」 《譲り合い精神だね〜》 「…」 《二つ目は周りの警戒を怠らない事。今まで以上に厳重且つ慎重に周りの事に目を配らせろ。幾ら主人の結界の力が悪しき者達を阻んだところで、万が一の事を考えねばならない。…朱翔、お前は波動の力をもっと先まで範囲を広げろ。蒼空、お前も空の警備の活動範囲を広げるんだ。もし何か少しでも異常を見つけ、不審者が現れたらすぐにでも知らせろ。早急に駆け付けよう》 《承知した》 《任せろ。マスターの為なら》 《知らせを受けたらすぐに僕が空間繋げるね》 自分達に出来る事があるのなら、惜しみ無く最大限に尽くそう。ミリを守る為、仲間を守る為、家族を守る為にも もう二度と惨事を繰り返してはいけない。守るんだ、皆を。守るんだ、自分達の大切な居場所を 「…」 《心を無にし、鬼となり、牙となれ》 《蒼華、それは…》 「…」 《もし主人を狙い我等を狙う奴等が現れたら、慈悲やちっぽけな優しさなど捨てろ。自分の理想論をも捨てるんだ。主人の代わりに我等が奴等に裁きを与えてやるのだ。…主人が望めば、尚更な》 《僕らがいる事で、それさえも抑止力となってくれる。それでもやってくる人間には容赦はしない。…そういう事だよね》 「…」 《そうだ》 「グルルル…」 《…それは、イイ提案だなァ》 自分達の存在でミリが守れるなら、大いに構わない 喩え自分達が傷つこうとも、守りたい者を守れるならそれこそ本望 《…あ、どうやらミリ様のお着替えが終わったみたい。……僕らを捜しているっぽいよ》 《そうか、ならそろそろ戻ろう。確か明日は警察とやらがこちらに来る話だからな。今日は早めに寝よう》 《この話、分かっているが主には内緒だぞ。隙を見て影の中から他の者達にも伝えておく》 「ガァアア」 《わかってらァ》 「ふりり〜」 《怒ったら眠くなってきたから早く寝よ〜》 《ハッ、呑気なものだな風彩。…時杜、私は先に波動を調べてから帰る。主に遅くなると伝えてくれ》 《私も空の警備に入る。朱翔、私の背に乗れ。共に行動すれば更にお前の波動は広範囲を可能にしてくれる》 《あぁ、分かった》 (絶対に、許さない) |