私の可愛い可愛い仲間達 お願いだから泣かないで 皆は何も、悪くないんだから Jewel.13 リンカさんの手によって私の髪の毛はバッサリと切られた。先程の忌まわしい出来事を断ち切ってくれたように思えて気持ちとしたら晴れやかだ。何十年振りに髪を切ったから久しく無かった頭の軽さに、少し感動したのは此処だけの話 医師から話を聞いてきてくれたアスランさんの話を聞いてみると、どうやら医師は私の身体を全治二週間の休養を要すると言ったらしい。身体もそうだし、特に心の休養が大切だと―――… そうですか、と私は言った。医師が全治二週間と言ったなら、二週間に合わせて痣を治していけばいい。決算前でまだまだ仕事も残っているから休んでいるわけにはいかない。……私はその言葉を、何処か人事の様に聞いていた 《ミリ様ーーーッッ!!!》 「…!」 《一体これはどういう事だ…!》 《主…!!!》 「わわっ、皆…そんなに勢いで来ちゃったらびっくりしちゃうでしょ?」 場所は変わって、此処はアスランさんの家 一足先に帰らせてもらい、自室でゆっくり休んでいたところ、皆は私の元へ帰ってきた 道中私の話をアスランさんから耳にしたらしく、皆が家に着いてこの部屋にたどり着くまでの間、こちらまでよく聞こえるくらいの凄い騒音でやってくるんだからこっちはびっくりだよ。もうちょっとゆっくり来ようよ皆。私は逃げないよ でも皆の気持ちは痛いほどよく分かった。心夢眼を通さなくても、感じるオーラに触れれば尚更。嗚呼、私は皆に悲しい思いをさせてしまった。言い様の出来ない気持ちに、ただただ私は苦笑を零した 「キューン…」 《嗚呼、なんておいたわしいお姿になられてしまったのでしょうか……我が君…妾は見ていられませぬ…》 「ミロー…」 《どうしてミリ様がこんな目に遭わなくちゃいけないんですか…私、とっても悲しいです…》 《…まさか我等の不在の隙を狙われるとは、思ってもみなかった。…なんという、不覚》 「ふりぃ…!」 《ミリをこんな目に合わせるなんて!ミリが許してもボクは許せないよ…!》 《…憎い。人間が憎い…我等の大切なマスターを、こんな目に遭わせた人間供が、憎くて憎くてしょうがない…!》 「ガルルルッ…」 《この俺らがいてもミリを守れなかった…嗚呼、何の為にこの力があるんだよ…!ミリを守れなかった…!》 《……私は初めて、己の無力さを痛感した思いだ。こんな事…在ってはならない》 「ミリ様…!御身体の方は、大丈夫ですか…?」 「大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」 「っ、違うんです!私達がミリ様のおそばにいたらこんな事には…!」 《そうですミリ様!ミリ様は、ミリ様はなんにも悪くないです!僕達が、僕達がいけないんです…!》 《そうです!マスター、貴女は悪くない!悪いのは、マスターをそんなお姿にした愚かな人間!そして愚行に気付けずマスターを守れなかった私達の否!》 《《そう、責任は我等にある!》》 私の姿に涙を流してくれる子、私に危害を加えた人間に怒りを覚える子、私がこんな事になっていたのに気がつかなかった自分を責める子…――― 分かっていたよ、君達が私を見てどんな反応を示してくるのかを 違うんだ。違うんだよ。君達こそ、そんなに負い目を感じなくてもいいの。これは誰の所為でもない、誰の責任でもないんだよ 「よしよし。ありがとうね、皆。…大丈夫だよ、もう皆が居るから安心だからさ。皆が負い目を感じる事はないんだから、ね?」 「チュリ、チュリネ…?」 「傷はもう痛くないよ(や、嘘だよ痛いけどね!)。だからそんな痛そうに涙を流さないの。私は大丈夫だから」 皆の心が泣いていた。私の代わりに、彼等は私の為に泣いてくれている それだけでいいの。それだけで、いいから。気持ちだけで十分だから、お願いだから自分達を責めないで 皆は何も、悪くない 「…」 《主人、奴等は何処だ。愚かな人間共に我等の裁きを与えねば、こちらの気も主人の気も晴れない》 《場所さえ分かれば私の力で音も無く瞬殺してみせよう》 《私のナイトメアの力で悪夢に引きずってそのまま闇の向こうに沈めてやりたい》 「こらこら、蒼華と刹那と闇夜。物騒な事言っちゃ駄目でしょう?(君達が言うと無駄に恐いから止めてあげて差し上げて!!) …―――ほら、皆、一緒にお菓子タイムにしましょう。ね?」 《ミリ様………》 まだ何か言ってくる皆に制止をかけ、私は笑う この話はこれでお終い。そう思いも込めて私は彼等の為にお菓子を用意してあげる …――――上手く、私は笑えていたのだろうか そればかりが、気掛かりだった ――――――― ―――― ―― 「―――…ミリ君、暫く休みを入れよう。君には休養が必要だ」 おやつを与え、皆を宥め、なんとかお互いに一息つき、数時間後。一向に私の元から離れようとしない子達、さらに警備を強化しに躍起になって出て行った子達、処理出来ない怒りをブチまけに行った子達様々に自由の時間を過ごしてる。場違いに可愛いなぁー元気だなぁー癒しだわー、と思っていた時だった 暫く席を外していたアスランさんが、戻ってきて早々私にそう言ってきた 心夢眼で視る彼の、普段優しい色を浮かばす彼の瞳は真剣そのものだった。他言を許さない、そんな瞳。ホウエンリーグ支部幹部長として、彼は私に言ってきたのだ 私は突如その様な話を言ってきた事に少しばかり驚きを隠せないでいた 私は、いつも通り仕事に出るつもりでいた。さっきなんて時杜に明日のスケジュールの確認をしてたし刹那にはどれくらい仕事が残っているかとか、色々仕事の事を考えていたくらいだったから だから、アスランさんの言葉には少々理解が飲み込めないでいた だって、 「ですが…まだ仕事が」 …―――脳裏に浮かぶのは、仕事部屋の机の上に積まれた書類の山 リーグ大会に向けてやってくる、ポケモントレーナーとのバトル 決算前で慌てふためきどんちゃん騒ぎになる従業員の人達…―――― あ、ダメだ仕事休んじゃいけないパターンだこれ! 「君はチャンピオンとして頑張ってくれた。それに休みを削ってまで働いてくれていたじゃないか。プリムやゲンやロイドも心配していたぞ?疲労で倒れるんじゃないか、とね。君が休みを入れてもむしろ皆君を見送ってくれる筈だ。…そうだろう?」 チャンピオンとして頑張るのは当然の事 決算前の忙しさの手前、皆さんを差し置いて休むわけにはいかない 言い返したい言葉はたくさんある。皆は私を買い被りだし、心配し過ぎだって。とりあえず名前が出た三人は後でおぼえておきなさい。全く、私は全然苦に思ってないんだから、そう一々騒がなくてもいいのにさ でも私は言わなかった 否、言えなかった だってこれは――――リーグ協会ホウエン支部幹部長からの、拒否権の無い命令だから 「…はい、分かりました(解せぬ!職権乱用!)。ならケジメとして…二週間の有休を使わせて下さい。その間、ゆっくり…この子達と過ごしたいと思います」 「…」 《ミリ様…よかった…》 《あぁ、本当に》 納得のいかない気持ちをなんとか!ギリギリ!口の中に押し止めて(+申し訳ない気持ちを含めて)!私はアスランさんに頭を下げた 私の言葉を聞いて、やっと安心したらしく、彼はホッと力が抜けた笑みを浮かべた 部屋の中にいる他の子達も私の言葉を聞けて安心したのか、幾らか部屋の緊張が緩んでくれたのを感じ取れた。目線で感じる、皆の気持ち…―――嗚呼、全く。そんな目線を送られると出るにも出れないじゃないか 「分かった。そう手配しておこう。………ミリ君、」 「はい?」 「………いや、何でもないよ。今日はゆっくり休んでくれ」 「はい。ありがとう御座います、アスランさん」 彼が何を言おうとしたか、私には分からない でも、まあ、アスランさんの気持ちは素直に受け取りましょう。彼には悪気なんて当然無い。全ては私の為にやってくれている事なんだから 全ての感情を隠して、私は笑った …笑うしか、なかった (ちなみに、心夢眼を通して改めて視る自分の姿が)(あまりにも露骨な姿になっていて吹き出してしまったのは此処だけの話) |