傷付いた身体

ボロボロの身体



冷たく光る、漆黒の瞳







Jewel.12











「あはー、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」









テヘペロッ☆と私は言う

けど残念な事に表情は無表情のまま


ピクリとも口角が上がらないのが、ぼんやりと自分でも分かる。流石にこんな状態にされてヘラヘラ笑ってられるほどそこまで私は…強くない。なんたって私は襲われたのだ。暴行され、一歩間違えたら強姦に近いものをされかけたから。まださっきみたいな対処法を持つ私だからよかったものの…これが普通の人間だったらそれこそ最悪な事になっていたはず

とりあえず身体だけでも起き上がらせておくか、と身体を動かした直後、自分の襲いかかる激痛に眉を顰める


今、手持ちの皆がいないので目の前の光景がどうなっているのかは残念ながら分からない

でも安易に私は想像出来ていた。きっと目の前の光景は、誰もが大惨事と騒ぎ立ててしまうくらい大変な事になっているに違いない。敢えてどういう状態になっているのかという説明は省くとしても、自分でやらかしてしまった事には変わりはない




「…力は抑えておいたし、下の階の皆さんに気付かれないように結界だけでも張っといたから…大丈夫なはず」





結構、かなり大きな爆発だったから、皆さん自分の仕事の手を止めてこちらにやってきて…私のこの状態を見て、それこそ大騒ぎになる事は明白

無駄で大袈裟に騒ぎまくって、仕事はそっちのけで、警察沙汰にさせ、マスコミにもリークされ……今後の為にもこれは避けた方がいいと判断した私は、力を発動する前に念の為にと結界を回らせた

上の階までは気が回らなかったから、暫くしたら上にいる皆さんがこちらにやってきてくれるはず。今日は確かアスランさんと副幹部長だけだったはず…後の事は二人にお願いしよう。ハァ、決算前にも関わらずこんな時にご迷惑をお掛けしちゃう事になるなんて……

それに蒼華達が気付いて助けにきたとして今の私の姿を見たとしたら…色んな意味で、もっと大変な事になっていたはず。こわいこわい


とにかく私がしっかりしていなくちゃね。たとえ私が被害者だとしても、皆さんに心配させたくないからね




それと、






「記憶、消しておかなきゃ…ね」








普通の人間にはアリエナイ光景を、彼等は目撃してしまった

自分達が付けた筈の傷や痣が、ゆっくりと、しかし確実に消えていくさまを

私の身を守る為にも、私の尊厳を守る為にも、彼等には記憶を消してもらう






――――アンタ、すっごくキモチワルい






分かっている。キモチワルいのは

でも、おあいこだよ

歪んだ感情を持った貴方達の方が、よっぽどキモチワルいんだから





「これからどうせ治療とかいって病院送りにされるから…回復、ちょっと抑え気味にした方がいいのかも。んー、調整結構難しいんだよねー…ま、仕方ないか。それでいこう。決まり決まり」






自分なりに次の方針を固め、踏まれて激痛走る手をなんとか動かして、パチンと指を鳴らした






パァアアアッ―――…





どこからともなく現れた淡い光が倒れた彼等全員の身体を包み込み、容赦無く記憶を消し、淡い光は粒子となって消えていく

丁度、そのタイミングで

騒動に気付いた誰かの慌てた足音が、こちらの休憩室の前に辿り着いたのだった







「――――チャンピオンッッ!!!」








――――――――
―――――
―――











「今騒ぎを起こしてしまったら今以上に騒ぎが起きてしまうのは明白です。とにかく今は騒ぎの悪化を防ぐ事を前提に、皆さんは慎重に行動して頂きたい」




「まずはこの階の立ち入りを禁止、騒ぎの様子を見に来た職員の皆さんには職場に戻る様に指示を。理由はポケモン達が喧嘩したとでも伝えて下さい。申し訳ありませんがこの部屋の後始末を。それと今倒れている彼等にはテレポートで運んで頂きたい。警察の方々には他の皆さんに情報や騒ぎが漏れない様に内密にお願いします。私も手持ち達の回復を終わらせ、この傷の手当てを終わらせたらそちらで事情聴取を行います。…が、やはり私がそちらに行く話は内密にお願いします。他にも――…」






私の予想通りだった。後からやってきたアスランさん含めた数名の人達は、私の惨事を目の当たりにした事でかなり動揺をし、大騒ぎになろうとしていた。そりゃこんな状態を目の当たりにしてしまえば誰だって大騒ぎする。警察も従業員の誰かが連絡を入れてくれたお陰ですぐに駆け付けてくれるも、彼等もまた私の姿に動揺を隠しきれない様子だった

私はすかさず彼等に色々お願い事を付けた。落ち着いてもらえる様に―――外部にこの事が洩れない為にも、最善の手を尽くしてもらう為にも





「…本当に、いいの?」

「はい」

「本当に本当に、いいの?」

「はい。構わずやっちゃって下さい」







場所は変わって、此処は病院

病院の中にある、関係者以外立ち入れる事が出来ない、特別室の中に私と副幹部長のリンカさんはいた





「………せっかく綺麗な髪なのに…」

「いいんです。バッサリいっちゃって下さい。こんなグシャグシャなこの長い髪なんてバッサリサッパリしたいんです」

「………でも、櫛で梳かせば綺麗に…」

「お願いしますリンカさん。リンカさんは美容師の資格をお持ちなんですよね?今頼めるのは貴女しかいないんです。リンカさんの好きな髪形にしてくれても構いません。…髪を切って、気持ちを入れ替えたいんです」






引っ張られ、踏まれ、あまつさえ不愉快な相手に口付けを落とされたこんな汚らわしい髪なんてさっさと切ってしまいたい

それが、率直な私の気持ち

それに髪を切ったところで髪なんて自然と伸びてきて元通りになるし、私は人と違って髪が伸びるスピードが早いから(聖性の力の関係でね)特別問題はないから大丈夫

名残惜しそうに私の髪を撫でるリンカさんに、私は苦笑いを零す








「―――――お願いします」

「…分かりました」









一緒に病院に付き添ってくれたアスランさんは今、別室で私の代わりに診断を聞いてくれている。ちなみにリンカさんは早急に現場を他の人に任せて駆け付けてくれて、今に至る。暫く一緒にいてくれるらしい。リンカさんも仕事がまだまだたくさんあるのに―――その心遣いに、感謝したい

蒼華達はまだポケモンセンターにいてくれる。リンカさんが様子を見に行ってくれた話だと、あと1時間は掛かるらしい。また後でリーグに戻ったアスランさんが皆を回収してくれるとのことだ。アスランさんならあの子達もすんなり言う事を聞いてくれるから、まあ大丈夫でしょう。うん








「…――――――」








首を絞められた跡が鬱血してくっきり残っていたソレは、今はもう包帯に巻かれいる。左右の頬には湿布が貼られ、殴られた左の眼には眼帯で隠され、踏まれて蹴られて鬱血した部分は湿布や包帯で巻かれている

身体を動かそうとするとズキリと痛む身体にやれやれと私は溜息を零した。痛い事は慣れてるけど、それが続くとなると先が思いやられる。普段ならすぐにでも治ってしまう回復力、周りの目を気にして抑え気味にしていくわけだから……あー先が思いやられるったらないよ







「……ミリさん、何も力になれなくて…ごめんなさい。早く気付けていれば…こんな事には、」

「今回は仕方がない事です。予想外な事が起こらないわけじゃない…それが、今日だったんですよ。これは誰にも責任はありません」







そう、誰にも責任はない

誰にも、ね

だから、そんな辛くて悲しい気持ちにならないで

貴女もアスランさんも、誰も悪くないんだから








「此処は誰もいないわ。……泣いても、いいのよ」

「………大丈夫ですよ。お気遣い、ありがとう御座います」

「ミリさん…」






…泣いてなんて、いられない

泣いてしまったら、自分が自分で無くなってしまうから

それに、私は、こんな事でつまずく訳にはいかない




皆と交わした約束の為に、

こんな私に着いて来てくれる人達の為にも


自分の、為にも――――












「それじゃミリさん、切るわね」

「はい」











(ジョキッと乾いた音が)(やけに生々しく感じた)


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