遠くに響かせる鈴の音

小さくも、余韻を残す

この鈴の音が鳴る、その意味は














Jewel.08













リーーーーン



リーーーーン




リーーーーン…






鈴の音が、聞こえる







リーーーーン




リーーーーン




リーーーーン…








遠くで、鈴の音が響いている








リーーーーン



リーーーーン…






「…――――、―――――、」

「―――――!――――!」

「―――――…、――――――!……―――――」

「―――――――――!!」







鈴の音が響いている

鈴の音に重なって、何処からか声が聞こえる


…何を言っているかは、分からない

この声は、一体何処から聞こえるんだろう








リーーーーン…



リーーーーン………





リーーーーン………………









「――――――――…ミリッッ!!」





















「――――――…ッ!」






ガバッ、と勢いと共に布団から起き上がる






「………ッ………ハァ…」






また、だ

また、あの声だ


冷や汗が流れる。動悸が激しい。苦しい。胸が苦しいのは動悸が激しいからか、もしくは心が悲鳴を上げているからか

もうずっとこんな調子が続くと、本当に参ってしまうよ





《…主、また起きたのか》

「!……闇夜…ゴメン、起こしちゃった?」

《私が起きているのはいつもの事だ。そんな事よりも主…大丈夫か?》

「うん…」






気配がする方に、私は縋る思いで手を伸ばす

距離は離れている。手は虚空を掴む。けど私のしたい事に気付いた闇夜は黙って影から出て私に近付き、その身体を触れさせてくれる。少し、安堵した。そのまま数回闇夜の身体を撫でた後、今度は腕いっぱいに闇夜の身体をギュッと抱き着いた。闇夜は何も言わず、傍にいてくれる。闇夜も大きな腕を私の背に回した

これはもう、いつもの事

一体これで、何回目だろう







「皆は…起きてないよね?」

《安心しろ、グッスリ眠っている。刹那と風彩なんか気持ち良さそうに鼻ちょうちん膨らませている。呑気なものだ》

「…そ、う。…蒼華は?」

《寝ている。今日の事も、今までの事も、アイツはまだ…気付いていない。勿論、時杜も刹那もだ》

「そう……なら、…よかった」

《……………》








これは今に始まった事じゃない

ここ暫く、詳しく言えばリーグ改正後。あの、モノクロの影が起こす不可思議な夢が起き始めていた頃。ただでさえ忌々しい夢に散々苦しめられていたっていうのに、次は"声"ときたものだ。嗚呼、本当に嫌になる。こんなに色々重なると仕事に支障が出るし、私の体調がヤバい。いや本当に。まだ、回りの皆には気付かれていないのが幸いだけど…ここまで続くと本当に、笑い事じゃない

一番近くにいる、蒼華と時杜と刹那。三匹は一番私を見てくれている。そして、一番私を心配している。特に蒼華は右腕に相応しいくらい過敏に気をかけてくれている。…こんな事で、三匹には迷惑は掛けられない。日常でも仕事でも色々力になってもらっていて、常に行動を共にしている分、疲労も蓄積してるはず。夜は夜で、三匹には休んでもらいたい。…毎回起こしてしまったら、逆に三匹が体調を崩しかねない

そうやって、皆にバレない様に夢や声に起こされる事が多くなった。本当に、これで何度目だろう。考えるのが嫌になる

夢や声に起こされ、暫く恐怖と嫌悪感で眠れない私を、見兼ねた闇夜はいつもいつも私の傍にいてくれてた。震えた身体を優しく抱き締めてくれたり、勇気づけてくれたり、心の支えになってくれた。だからこそ、いつも通りの私でいられた

皆が望む、立派なポケモントレーナーとして。それこそ立派な、ホウエンチャンピオンとして


けど…―――――







《………主、》

「違う、違うよ。君の所為じゃない、君の所為じゃないんだよ、闇夜。だから、ね、辛そうにしないで、苦しまないで。これは君の所為じゃない、私が勝手にこうなっているだけなんだよ」

《…しかし、私のナイトメアは…》

「君のナイトメアの力は私の力によって打ち消して無効になっている。だから皆にその力が及ぶ事はない。…それは、もう君には言ってあったはずだよ」

《……………主、》

「ゴメンね、ゴメンね闇夜。私の所為で闇夜が苦しまなくちゃいけなくなるなんて、本当はいけない事なんだよ。ゴメンね、本当に、ゴメンね闇夜。ゴメンね…」

《………――――――》






闇夜は自分の力にコンプレックスを抱いている。本人の意思に反して発動してしまう彼の特性のナイトメア、この力は周りを、そして闇夜自身を苦しめてきた

冷静で物事にも動じない闇夜が唯一怯え、ネガティブになってしまう元凶

本当は、彼だけには気付かれたくなかった。知ってしまった最後、自分の所為だと思い続けてしまう。現に闇夜は私の状態を知ったらすぐに自分の所為だと言い、闇夜自身も苦しむ結果になってしまった。その闇夜を落ち着かせ、貴方の所為じゃないと言い聞かせたのに随分と苦労したのも記憶に新しい

闇夜の所為だとは、私は全然思ってなんかいない。故に、この身に降り懸かる悪夢は、それこそ闇夜とは無関係

だから何も闇夜は悪くない。悪いのは勝手にこんな状態になってしまった私なんだと、何度も何度も言っても闇夜は必ず私にすまないと謝ってくる。違うのに、闇夜の所為じゃないのに。頭では分かっているのに、悪夢や声は私を苦しめる

口から出てくる言葉はゴメンねという言葉ばかり。寝不足と極度の緊張感と不安感から、精神的に情緒不安定なのは自分でも理解している。そんな私の状態を分かっているからこそ、闇夜は傍にいてくれる。昼間でも何かとフォローしてくれたり助かっているから、今となればこの夜は闇夜の存在こそ私にとって必要不可欠となってしまった

頼り過ぎもいけない

…頭では分かっているのに、ね






《…辛いなら、泣けばいい。苦しいなら、私を頼れ。私は影、主の闇。主の苦しみは私の苦しみ、主の辛さも私の辛さ》

「…あん、や………」

《だから一人で溜め込もうとするな。ただでさえ主は頑張り過ぎている。…人間の仲間は勿論、蒼華でさえも言えないこんな裏側の主の姿など、この私が覆い隠してやろう。影の中に入ってしまえば、誰も何も気付かない》

「…………」

《主を決して、一人にはさせない。…影として、主が眠るまでずっと傍にいよう》

「………ありがとう…」






そう、闇夜はいつもそう言って私を落ち着かせくれるんだ。自分は私の影だから何も気にするな、と。こんな脆くて弱い私を、それこそ皆に見せられない裏側の私をいつも闇夜は隠してくれた

闇夜の腕に包まれた抱擁は、鋼の身体故に冷たいけれど、しかしその冷たさが心地が良い。…万人の闇までとはいかないけど、今の私を包み隠すこの闇の存在は本当に有り難かった

ギュッと、私の身体を抱き着く力を強め、本当に夢から私を守ろうとしてくれる闇夜に感謝をしながら、私は冷たい温もりの中で瞳を閉じた







「(本当に…何なのさ、もう…)」







夢に出てくる白と黒のシルエットと、強い光を放つ四人の男性らしき姿。彼等は本当に、何者だろう。なんで全員、私を待っているんだろう。私には分からない

私を必死になって呼んでくる声も、一体何。誰が、何の為に、どうして私の名前を呼んでいるんだろう。何故、私の名前を必死になって叫ぶんだろう。最後に必ず聞こえてくるのは、必死に声を荒げる男性らしき声…あの声は、一体誰の声なんだろう

分からない、分からないよ

…だからといって、分かりたくもないけど







「(…思わぬ障壁、敵は自分自身っていうのも、あながち間違いじゃないね。…憂鬱だなぁ)」








普通の人間だったら病院に行くべきところ。こんな状態が長く続いてしまったら身体も持たないし精神的にも持たない。仮に心療内科に行ったとしても、状況が状況だから精神内科に行かされるだろう。精神と身体は密接で、中でも精神は繊細だから。医師から下される診断は不眠症からくる鬱病か…鬱って言っても種類があるし、私は医師でもないから簡単に判別する事は出来ないけど、間違ってはいないはず。普通の人間だったら。…そう、普通の人間だったら

幸いな事に、私の聖性は身体の機能にも働くと動じに、そういったメンタル面でも働いてくれる。ストレス緩和、セロトニンやノルアドレナリンに近い補助の聖性の作用…なのでよほど酷い事が無い限り、そういった症状になる事は少ない。…この作用が無かったら、今の私じゃいられなかっただろうね

…それに、まあ、大体この悪夢と声の原因も大方想定範囲内。いつもの事だし、来たるべき日の覚悟も出来てる。その日が来たら闇夜だけじゃなく皆にも迷惑がいっちゃうんだろうなー

あー、やだやだ







「…明日の日程…やっぱり無理言って休ませてもらおうかな。そうじゃなくても三時間の空き時間があるから、休憩室のベッド借りて仮眠取ろ…」

《その方がいい。誰も何も言わない、むしろ進んで貸してくれるはずだ。…しかし、大丈夫か?》

「前に少し仮眠した時は平気だったから…多分いけるはず。でも、まあ、昼夜逆転しちゃってもしょうがないよね。逆転しちゃったら闇夜、その時は一緒に勉強でもしていよっか」

《無理に勉強せず休め》

「時は金なりっていうじゃんね」

《分かったから寝ろ》

「いやん闇夜ちゃんつめたい!」

《寝ろ》










とにかく、暫く闇夜とまったりお話して、悪夢や声の恐怖感が薄まり、待望の睡魔ちゃんがやってきたらまた寝よう。起床時間までまだ後数時間はあるから大丈夫。大体この悪夢や声は一回起きた後の二度目の就寝では起こらなかったから、今の内に寝ておかないと

ホウエンチャンピオンが睡眠不足で体調崩しちゃった、だなんて話になったらアスランさんに迷惑掛かるし、体調管理がなってないってチャンピオンとしてどうかしてるだなんて言われても困るからね



とりあえず、







「明日の朝ご飯は何にしよっか」

《寝ろ》









それから、その後

予想通り、お昼の仮眠では軽く四時間もグッスリ眠ってしまって予想外の熟睡でドタバタしちゃったのは、此所だけの話







(そして私の予想は嫌でも的中する事になる)

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