家族は大切にしましょうね

失って気付いてからは、遅いから
















Jewel.06













ソレに気付いたのは、此処に住み着いてからそう時間は経っていない頃

豪邸と言われるだけあって部屋の一つ一つの面積は広く、そしてとても過ごしやすい。数多くいるポケモンが縦横しても圧迫感を感じさせないのだから、いかにポケモンと人間がより良く快適に過ごせれるように配慮出来た造りである事が伺える。そんな広い部屋の中に似つかない場所、それこそ視界にすら入らないだろう場所に、ソレはあった

この家の持ち主である、アスランの書籍部屋の中。丁寧に整理整頓されてある本棚の中に、ポツリと置かれたソレ。随分高い位置に置かれている為、注目しなければ見つからないだろう。ソレは木製の小さなフレームに飾られた、古びた写真だった。相当年期が経っているのか随分色褪せていた

キッカケは、アスランにこの住居の中を案内してもらっていた時だった。盲目なのにわざわざ一つ一つ丁寧に案内してもらっていく中、この書籍部屋にも案内された。勿論、心夢眼を通じて視ていたのでこの部屋の構造はすぐに理解した。そして、三方向から視える視界の中であの本棚を映し、フレームの写真を映した。勿論ミリはソレの存在に気付いた。しかしソレに気付いても心夢眼を映す視界だけは自分の好きには出来ない為、三方向の視界はバラバラに視界を別に映し、ミリの興味を削いでしまう結果に終わる。結局その場はソレが何なのか追及するわけでもなくアスランの説明を受け、そのまま別の部屋に移動した。たとえあのまま興味を持ったとしても、ソレはアスランの所有物。これからお世話になる人間に、プライバシーに関する事をズケズケと聞くつもりは毛頭無い






そして今回始まるこの話は、ミリの手持ちのあるアゲハントとチュリネがそのフレームの写真に気付いた事からスタートする

この豪邸の主人と自分達の主の留守の間、二匹は仲良く部屋の探索をしていた。元気良くはしゃぐチュリネを背に乗せて、アゲハントはのんびりマイペースにふらふらと飛ぶ

そして書籍部屋に辿り着いた二匹は暫くその部屋を色々と探索し始める。アゲハントは日差しを求めて宙を飛び、チュリネはミリや兄姉が夜にいつも行っている勉強を真似て本をペラペラ捲るが全く意味が分からないのかハテナマークを浮かばせる。暫くそうやって過ごすも飽きた、もしくは目当てのものが見つからないと分かったのか二匹が別の部屋に行こうとした

その時だった






「チュリ〜?チュリイイ」

「ふりぃ?ふりりぃー」









―――――――――
―――――――
――――










「――――…!それは…」

「!!…アスランさん、すみません、これは…」

「いや、いいんだ。そう畏まらなくていい。そうか…それを見つけたんだね。見つけたのは…チュリネ、君か。ハハッ、君は探し物のプロだったのか。…驚いたよ」

「チュリチュリー♪」







仕事から帰宅し、いつも通り手持ちの子達の手を借りつつも晩ご飯を振る舞い、一息ついた頃

皆が思い思いに過ごしている中、私の膝の上でチュリネの桜花がコロコロと甘えていた時だった。何かを思い出したのか、突然膝の上からピョンと下りて何処かに行ったと思ったら、何かを引きずって戻ってきた桜花の手に…何処かで見た事あった様なモノを、頑張って持ってきてくれた

心夢眼を通じていなかったので、手に取るまでは分からなかったけど、桜花からソレを受け取り、蒼華が眼になってくれた事でソレは発覚した。フレームに入った写真―――…脳裏に浮かんだのは、あの光景。そして蒼華が写真をしっかり視てもらった事で写真に写る存在を知る事になる。写真を見て、ソレに写る存在…―――今まで感じていた視線と感情、故に思う疑問全てがソレを見て全てを悟った丁度その時、部屋に入ってきたアスランさんが私の手にしていた存在に気付き、驚く。彼にしては珍しく、動揺を隠しきれないという反応だった






「君の事だ、眼が見えなくても…ソレが何か、もう分かっているだろう。その写真は…私の娘の写真なんだよ」

「娘さん、ですか」

「その写真、もう何十年経つかね…随分前のものだ。懐かしいね…こうして見るのは久々だ」








歯切れの悪い言葉、懐かしむ様で、しかし、哀愁を漂わせる感情と声色、そして心夢眼で映るアスランさんの姿に私は核心した

この写真に写る子は、もうこの世にはいない

指図め、病気か何かで短い生涯を閉じたのだろう。アスランさんの事だから、きっとそれはそれは可愛がってやったに違いない。可愛いもんね、この子。大切にしてきた愛娘が病気になってしまっただけでもショックなのに、命をも奪われたのならそれこそダメージは大きいものだったでしょうね。今まで全く娘の話を出さなかったのも、その証拠。配偶者である奥さんの話も出てこないという事は…二人はもう、離婚しているんだろう。原因なんて、それこそ安易に想像出来た。色々あったんだろう。じゃなきゃこの写真を、あんな場所に放置するわけないんだから







「……眼で見なくても、私には分かります。とても優しくて、可愛らしい娘さん…フフッ、アスランさんに似てらっしゃいますね」

「!…私に、かい?」

「はい。特に笑い方が、優しく笑う顔がアスランさんとそっくりです。ねー、桜花ちゃーん」

「チュリチュリー!」

「……………、そうか…」

「というか、桜花ちゃん。君は一体これを何処で見つけてきたのかなー?此処は皆のお家だけどアスランさんのお家なんだからねー?一体誰と見つけたのかなー?」

「チュリッチュー」

「ふりぃ〜」

「……………」







しかしこれで納得した。初めて出会った当初、初対面なのにこんな私を気遣ってわざわざこの家に住まわせてくれた事を。彼から感じたまなざしを、感情を。今まで感じていた疑問が解決してくれたから、こちらとしたら超スッキリ爽やか

彼は私を通じて自分の娘を見ている

そうと分かれば、これ以上こちらから何も追及する事はなければ、知る必要もない

これはアスランさん自身の問題だ。誰にだって言いたくない事もあるし、知られたくない闇がある。他人の私が安易に踏み込めるものではない。ならこの話はもう終わりにするべきだ。今のアスランさんは、私の知るアスランさんじゃない。辛く悲しい感情を浮かばす彼の姿は、なんて似合わないんだろうか

それに…――――







「アスランさんがお父さんだったら……きっと、幸せな日々を送っていたんでしょうね」

「!」

「…優しいアスランさんの娘さんでいらっしゃるこの子が、私にはとても微笑ましくて、…羨ましいです」

「―――――……」










本当に、羨ましい

この子が、…ううん

家族を持った、子供達が


帰る場所があって、大切な存在がいる

嗚呼、なんて羨ましいんだ

私には無いものだから、焦がれてしまうよ

私も、【私達】も、"家族"を知らないから

真似事は出来ても、本物じゃないから





……――――――でも、









「(でも私には、この子達がいる。一緒にいてくれる。…これ以上の幸せは、望んではいけないんだよ)」







皆がいて、仲間がいて

居場所があって、帰る場所がある

嗚呼、なんて幸せだろう

だから私には、家族なんて必要無い

それこそ、忘却された本当の家族なんて




むしろ全てをひっくるめて皆の事を家族と呼んでもいい気がする

それほど私はこの場所を大切に思い、皆に心を開いている証拠なのだから









「…ミリ君の事も、大切な娘だと思っている」

「!!」

「無論、この子達もね。君達が此処に来て早くも数ヶ月…まだまだ日が浅くても、私にとって君達は家族同然なのだよ。久しく忘れていたものを、君達は思い出させてくれた」

「アスランさん…」

「本当に、君達が来てくれて良かった」








心夢眼で視る彼の姿

先程の姿ではなく、私の知るアスランさんの姿そのもの。写真に写るこの子と同じ笑顔を浮かべたアスランさんは、私の膝の上に座る桜花の頭を撫でる。それから彼は私の頭を撫でると踵を返して部屋から出ていった

頭に触れた手から感じた感情は、とても温かなものだった



















「…………娘、か…」






オーラから感じるより、やはり口で言ってくれた方が心に響いてくれる

彼は私を、娘だと言ってくれた

嬉しく思う反面、こんな私が娘でいいのだろうかと躊躇してしまう。こんな、こんなイレギュラーの私なんかが娘になっても、なんのメリットもないのに。頭では分かっているからこそ、彼の純粋な気持ちに素直に喜べない自分がいた


…けど、もし許されるのなら――――








「…………やっぱり家族って、素敵な響きだね」

「…」

「…これ、もっと素敵なフレームに入れよっか。あんな場所じゃなくてもっと良い場所に飾ってさ。きっとこの子も、寂しくないはず」

「ふりぃ」
「チュリ〜」

「この子も私達と同じ家族なんだから」








…今はまだ、抵抗があって言えないけど

いつか、言えたらいいな


彼の事を、お父さんって呼ぶ日が来てくれる事を―――…














その後、色褪せた写真は可愛らしい花柄刺繍を施されたフレームに大変身し、食卓の机に置かれる事となった







(何でお父さんって言わないかって?)(だって、恥ずかしいんだもーん)


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