知識と情報は貪欲に取るべし

時間は沢山あっても短きもの


一分一秒も、逃さない












Jewel.05













「――――…ししし、失礼します!チャンピオンに頼まれた追加の本を持ってきました!どどど、どちらに置いておきましょう、か!」

「ありがとう。そっちの棚に置いといてくれるかな」

「ははは、はーい!」

「失礼しまーす!チャンピオン、私も新しい本を持ってきましたー!同期や上司のオススメの本も選んできましたよ〜!此処に置いておきますね〜!」

「ありがとー」

「…」
「キュー」
「……」







此処はリーグ協会ホウエン支部内部にある、チャンピオンの自室

隣はミュウツーの刹那が手にしている分厚い資料を朗読、肩ではセレビィの時杜が眼前を黙視、足元にはスイクンの蒼華が眼を閉じて瞑想、そしてデスクに座って仕事モードに入っているミリの所に、二人の従業員が大量の本を持って訪れた






「お疲れ様。ゴメンね〜お仕事あるのに、いつもこんな事頼んじゃって」

「い、いえ!いえいえ!チャンピオンのお頼みとあればたとえ火の中水の中!また何かあったら呼んで下さい!オレでよければそれこそたとえ火の中水の中!」

「ちょっとアンタ、緊張しちゃってんのー?すみませんチャンピオン、この人緊張通り越すとこうなっちゃうんですよーまあいつもの事なんですけど」

「ばッ!おまっ、余計な事ををををを!」

「本当の事言って何か問題でもー?」

「あるだろーー!?同じ職場にいても部署が違うから話し掛けた事もねーしつーか話し掛けられねーしそんなすんげー人がオレに!頼みごとをだぜ!?オレだけに!」

「いやアタシもその内の一人なんだけど」

「普段は滅多にお目にかかれない、いつも多忙を極めるチャンピオンを目の前にあがるなって言われてあがらない人なんていないだろーー!?」

「あらー、そうなの?」

「(Σハッ)…」

「……………」

「……………」

「…………(プルプル」

「………ΣΣ!!!」

「……(ブハッッッ!!)やーだアンタって本当にバカだよねー!本人がいる前で言ってるしー!マジうけるー!」

「グハアアァァァオレとした事がァァァァッ!!こいつの前ならともかくチャンピオンの前でしでかしちまうとはァァァァ!!不覚!一生の不覚!」

「フフッ、二人共元気だね。…――――それじゃまた何かあったら、その時はよろしくね?」

「ははははい!いつでも何処でもお待ち、してまっしゅ!(噛)……グォォォ噛んだ馬鹿オレうわあああああ(ダァァァアッシュッッッ!」

「(爆笑)それじゃ失礼しまーす!…―――ねえちょっと待ってよー!」

「あらあら」







色々と墓穴を掘りまくった若き男性従業員は真っ赤な顔を手で隠しながら逃走、その後を同期らしい女性従業員が爆笑しながら追いかけていく。そんな微笑ましき彼等の姿を、ミリは書類にサインする手を止めずにのんびりとした口調のまま見送る

うん、皆さん元気が一番でなによりだ

部屋の扉付近にある棚に置かれた、沢山の本の山。サイズもまばらで統一感が無く、背表紙の名前も様々だ。「ポケモンリーグ協会の歴史V」「GF・K協会の成り立ち」「ポケモンの心を知る」「ブリーダーとしての心得」「ポケモンにも鬱病はあるのか」「人間の医学とポケモンの医学の違い」「ポケモンの生態U」「ホウエンの歴史」等々―――…どうやら言われたままに手当たり次第持ってきと伺える

ミリは執筆の手を止め、目配せをする。視線に気付いた時杜はフワリと宙に浮き、本の山まで飛んでいく。キラリと円らで大きな紅い眼が開くと大量の本が突然宙に浮いたと思ったら、突然として現れた紅い空間の中にゆっくりと、しかし次々と確実に吸い込まれていった

全部本を空間の中へ移動させ、紅い空間を閉じた時杜。フワリと宙を飛んで踵を返し、定位置であるミリの肩に戻る。ありがとう、そういうミリのお礼の言葉に嬉しそうに触角を揺らし、自分の仕事である黙視に戻る

よしよし、と腕を伸ばして時杜の頭を撫でながらミリは黙々と仕事を進めていく

これを一通り終わらせたら次は定例会議だ。定例会議を終わらせたら選抜試験会場に顔を出して、状況を見ながらちょっと予定より早く上がらせてもらおう。今日のスケジュールだとあちらの会場は今回早めに終わらせる予定だから、自分達が早く上がっても支障は無いだろう

とりあえず、






「お腹が空いてきたね。よーし、ラストスパートいくよー」

「……」
「キュー」
「…」






そろそろ腱鞘炎が再発しそうでヤバいです






―――――――――
―――――――
――――
――










さてさて、お腹が満たされたところで

そろそろ始めちゃいましょうか






「資格取得に向けて&自分の趣味特技向上の為のお勉強ターイム!」

「…」
《はい!》
《眠いが私も頑張るぞ》
《興味がある》
《マスターの為なら!》
「キューン」
《人間の学問を学ぶのも悪くないな》
「精一杯頑張ります!」








時刻は現在夜の7時を回ったところ

まだまだ夜はこれからなのです

タンスの中からひっぱってきた(アスランさんから許可済み)机を皆で囲み、勉強態勢に望む。この場にいるのは私の他に蒼華、時杜、刹那、闇夜、朱翔、炎妃、蒼空、愛来の8匹の仲間達。他の子達は一階のリビングや外で思い思いに過ごしている&おねむタイムに入っていたり様々。簡単に言えばこのメンツは頭が働く優秀タイプの子達が集ってくれたわけである

そして部屋の隅に置かれているのは、今日リーグの図書館から借りてきた大量の本が積み重なっている

事の始まりは、新生リーグ誕生からそう日が経っていない頃。リーグ敷地内にあるリーグ専用図書館を訪れ、そこで働く司書の二人(あの面白い二人の事)にお願いしたのだ。「ポケモンの本、資格の本、歴史の本。なんでもいい、色んな本を少しでもいいからたくさん読んで勉強したい」って。最初こそ盲目の私がどうやって本を読むんだってかなり驚かれていたけど(いつもの事だから気にしない)、今となれば良い本が見つかったら取り置きしてくれて、今日の昼みたいにたくさん持ってきてくれる様になっていた。その数はかれこれもう五十冊くらい、返却期限もあるから返した本を含めればまだまだ沢山ってところかな






《今日もえらく大量に持ってきたな。ふむ、中々興味深いものが…主、これ読んでも構わないか?勿論、心夢眼使って私の眼から見てもらっても構わない》

「ありがとー、そうしてもらえると同時進行でたくさんの事が学べるから助かるよ」

《マスター、なら私はこの本を》

《私はまだ読み終えていないの本の続きを読もう》

「『ブリーダーとしての心得』…ミリ様、私この本を読みますね!」

「キューン」
《…学問が乏しい妾は、我が君の眼となり、色々学ばせて頂きたいと思いまする》

「…」
《歴史、か…悪くない》

《炎妃がミリ様の眼になってくれるなら、今日は炎妃に任せて僕はこの本を読んで勉強しよっと》

「皆勉強熱心でおねーさん嬉しいよ〜」

《なら私は…》

「あ、刹那は勿論こっちね〜。刹那にはこっちを色々覚えてもらいたいんだよ。私の為にも。うんそうなの私の為にも!」

《これは既に習得したんだが…(ペラッ)……ほう、これはまた別の類か。なるほど、これはまた読み応えがありそうだ》

《…よほど主はパソコンが苦手なんだな》







心夢眼、他人の眼を借りて心で視る力―――…この力はただ世界を多方面に映すだけではなく、使い方次第でこの様な事も可能な力

沢山の本の山を、どれだけ効率良く読み、知識を吸収していくか。それこそこんな大量の本を読んで勉強していけば時間なんてあっという間に過ぎていくし、正直足りない。でもこの手を使えば同時進行で色んな本を見て、知識を得て学ぶ事が出来る。無論、これに限っては皆の勉強に対する興味と意欲が無ければ成し得ない

この子達は手持ちの中では頭がよく、知恵があり優秀だ。人間に興味がある中で私を通じて色んな事を学びたいという意識がある。そうじゃなくても自分達の為にもこうして自分から勉強していくのも将来自身の為に繋がっていく

さっそく蒼空が手に取ったのは『人間の医学とポケモンの医学の違い』、人間に興味がある蒼空にはピッタリだ。朱翔は『ポケモンリーグ協会の歴史V』、いつの日か「原点を一から知る者は頂点を知る」って言葉を言ったら朱翔ったら張り切っちゃってねー。闇夜はまだ途中だった『ポケモンの人体』と…今日借りてきた『ポケモンにも鬱病はあるのか』をこっそり影の中に……うん、理由は聞かないでおこう。愛来は『ブリーダーとしての心得』『ポケモンの心を知る』、心優しい愛来にはきっと良い本になってくれそうだ。蒼華は『ホウエンの歴史』、時杜は『GF・K協会の成り立ち』。二匹こそ歴史には興味津々ってところだろうね。刹那は勿論コンピュータ関連の本で、次は『高度な分析方法の手法とその種類』。秀才タイプの刹那ちゃんにはどんどん色んな事を覚えてもらいたいんだよおねーさんは(※パソコンが出来ない)。夢はいつか刹那ちゃんにパソコンを買ってあげる事です←




そして私が炎妃の眼を借りて勉強するのは、カナズミシティにあるポケモンスクールが運営する、通信講座。いわば通信学科ってところだろう




驚く事に、この世界にも学歴というものが存在して、10歳になる前の6才から10才までのポケモントレーナーの卵達はポケモンスクールで必ず勉強をしてから旅をしているそうな

その四年間はいわばポケモン関連に対する義務教育で、それこそ私の知る一般的な学問は本人達の意志によって進学するか卒業するかが決められるらしい。勿論これに限った事ではなく、トレーナー卒業後の為の編入クラスも設けてあり、一から勉強し直す人も多くいるだとか

そりゃ学校がなきゃ、まだまだ小さい10才程度の子供を外に出すわけにはいかないだろうに

そうなるとアニメのサトシやスペのレッドは…と思ったけどこの世界がどっち寄りかも分からないから何とも言えないけど



誰しもが皆、必要最低限の学歴を持っている。しかし私には残念ながら何も持っていない。トレーナーカードゲットしただけで大丈夫だと思っていたけど、まだまだ爪が甘かったらしい。学歴に関しては、ずっと生涯付いて回ってくる。それはどの世界も一緒だったらしい

チャンピオンの人間が学歴が無いだなんて、それこそ示しが付かない事。勿論この事はアスランさんには伝えた。私に学歴が無い事には随分驚かれていたけど、特に何か詮索されたわけでは無く、すぐに彼はカナズミシティのトレーナースクールを紹介してくれた

聞けばカナズミシティのトレーナースクールは名門の中の名門スクール。ホウエンでは一番優秀な人材が集まるスクールで、また勉強量も凄まじいほどと聞く。ダイゴもまたそこの出身らしく、彼の秀才を見ればそこのスクールがどれだけの人材を育て上げられているかが伺える


本来だったら私がスクールに足を運んで学ぶべきところかもしれない。しかし私は仮にもチャンピオンの肩書きを背負っている、その中でスクール通いは正直キツい。しかもチャンピオンが学歴無かったら信用も落ちればリーグにも影響が出てしまうのは安易に想像出来た。なのでそこの通信学科に短期間お世話になる事にした。通信とはいえ、本来なら最低でも2年は掛かるところを一度行った筆記テスト(一般試験ポケモン試験全て満点だったイェイ)(卒業試験と分からない難易度だったらしいワォ)と私の活躍とアスランさんのお口添え(※コネ)とスクール長のご好意で、一年も満たない半年で卒業させてくれるだとか。本当にありがたいです。けど学歴はどうにかなりそうでも、中身が無ければ意味が無い。一定の量をこなすそれ以上に私は勉強しなければならない。皆の期待を、裏切ってはいけないのだから

そして、同時進行に私は通信学科の勉強以外により多くの事を学ぶ事を望んだ。通信学科のカモフラージュと言われたらそれまでだけど、私はこの世界の、色んな資格を取得しようと考えた

一般業界の資格は勿論、ポケモン業界の資格も存在する。その中でもポケモン業界中心の資格を狙い、資格を目指しながらポケモンの事を知る

資格も学歴同様に付いて回ってくるもの。楽しみながら勉強出来て、それこそ資格取得出来たら本望。それに私には皆がいる。皆も色々たくさん学ぶ事が出来る。まさに一石二鳥ってところ。皆とたくさん勉強したのに試験に落ちたとか示し付かないしね、俄然やる気が出るってものだよ









「勉強時間は三時間、それまで皆一緒に頑張ろうね」

「…」
《はーい!》
《頑張るぞ》
《了解した》
《マスターの為ならば》
「キュー」
《あぁ》
「はい!」
















どんな些細な事でも構わない

小さな実を、次々に咲かせて


そしていつか―――…ポケモンマスターへの、一歩になってくれる事を信じて








(時間はたっぷりあるのだから

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