Jewel.01 また、あの夢だ 霧の奥にある白と黒のシルエット (この世界に来て度々目撃する幻想の光。現れては消えていく、儚き光、脆い夢。私は二つの存在を知らないはずなのに、でも何処かで知っているこの矛盾感。懐かしさも感じさせるこの胸の内は、一体どうして) 霧の中でソレらは楽しげに笑う (小さなシルエットはこちらを振り返りながら、楽しそうに笑い、尻尾と耳を揺らしながらもっと先へ駆け出していく。置いて行くなら、私を置いて行けばいいのにソレらは必ず私に振り返るんだ。まるで霧の先に向かって、私を導いているみたいに) シルエットは私を呼んでいる (夢が進行しているのが分かる。前まで無かった事が、また新たに夢として出て来ている。あのシルエットは、振り返りながら私を呼んでいる。確かに呼んでいる。純粋なまま、混じりの無いまま、私を嬉しそうに呼ぶんだ。けど、私にその声は届かない。全然、届かないんだよ) ねえ、君達は誰なの? なんで、私を呼んでるの? どうして、ずっと私の夢に出てくるの? その先に、一体何があるっていうの? 夢はこれだけじゃない まだ夢は、終わらない 緋色の瞳と藍色の瞳を持つ青年の影 (いつの日か一回だけ現れた二つの影。思い出すと胸が締め付けられて、泣きたくなるそんな不可解な現象に蓋をして、思い出さない様にしていたのに。此処最近、よく出てくるのだ。白銀色の光が後光の様に煌めく光の先で。まるで私を待っている様にこちらを見ているんだ) 藍色の瞳を持つ青年から感じる力 (これは夢だと分かっているのに、まるで遠くに立っている感覚を疑わせるという事は、彼にはよほど力があるのだろう。あの力を私は知っている。私達、【異界の万人】が持つ聖性という力に近い、あの力を。…力と力の反発を起こさないところを感じると、私達の力は相性がいいのだろう。実際に現実で会わなきゃ分からないけど。彼も、私の仲間なのだろうか。今の私にはソレを知る術は皆無、出来ればそうでないことを願いたい…) 緋色の瞳を持つ青年の手首にある光 (私には何がなんだか分からない。あの光は、あの力は、まさに私の聖性の力で出来た存在そのものではないか。何故、青年の腕にアレが着いているのだろう。私には、全くもって理解出来ない。私は、青年の事なんて知らない。知らないはずだ。じゃなきゃ見ず知らずな人間に、わざわざ自身の力を削ってまで加護を与える事はしないのに) 私は彼等を知りたくない もしこれが記憶からくる夢だとしても 思い出したくない 思い出してしまったら、最後 自分がダメになってしまいそうだから それでも夢は終わってくれない また現れた二つの影 (緋色の瞳と藍色の瞳を持つ青年達の影のすぐ傍に、新たに現れた存在。鋭く強い光を放つ灰色の瞳を持つ、二人の男性らしき姿。彼等も私を見ている。私の事を、待っている。彼等は一体誰だろう、霧の奥にずっと立って、ずっと私を見ているんだ) 白と黒のシルエットは彼等の元へ走る (何の躊躇も無く、警戒する事なく小さなシルエットは彼等の元へ走っていく。なんであの子達は彼等の元に?彼等とあの子はどう関係してるの?どうして、君達はまた私を振り返って呼んでいるの?まるで、私の居場所が、彼等の元だと言っているみたいで―――…) 分からない、分かりたくもない 恐い、恐い恐い恐い! 彼等の全てが、彼等の存在が、 私のナニかを、壊してしまいそうで… 「彼等が過去に私と接点があったとしても、私には関係ない。記憶が無い以上彼等の事はただの赤の他人同然。だからこのまま夢に蓋をしよう。この夢は私にとって、悪夢でしかないのだから」 思い出したくない 何も知りたくない (過去を知らない私に、そんな記憶も夢も不要。もう記憶に十分苦しんだ。振り回されたくないし、昔の私を捨てて今の私があるんだ。今更過去を振り返っても何の意味がない) だから、今宵も私は眼を逸す (この夢も、過去も、記憶も、全て、全てから私は眼を逸す。今の幸せを大切にしたい、久しく出来た居場所を、守りたい。目標を掲げ、新たに出来た仲間達と一緒に生きるんだ。こんな事で、私は一々止まる訳にはいかないのだから) 「ミリ―――――…」 リーーーーン――――… 誰の声かも分からない声 しかしそれは鈴の音で掻き消える 「行こっか、皆」 橙色の蝶は、世界を舞う 過去を振り返らず、前に進む 今ある幸せを、大事にしながら 喩えそれが、幻想の夢だとしても Jewelly flower -5- Start (私はこの夢を、"否定"しよう) |