「ちょっとママーーっ!何で上書きしちゃってんのよーーっ!これじゃ盲目の聖蝶姫の勇姿なんて拝ませる事が出来ないじゃないの!」 「取っておきたいビデオがあるならあるって言ってもらわないと間違ってダビングしてもしょうがないじゃないの!」 「だからって何で昼ドラが流れるのよーーッ!これもしかして全部昼ドラ!?昼ドラなの!?」 「おっかしいわねー、まさかダビングしたビデオが盲目の聖蝶姫が録画されていただなんて……ヒカリ、ごめん☆」 「ちょっとぉおおおおッ!!」 「「「………………(汗」」」 物置から帰ってきたヒカリの手には、ドッサリとビデオテープが積み重なっていた 物置に仕舞い込み、しかも六年も経てばテープは埃を被っていた。手伝いでヒカリの後を着いて行ったポチャマなんて、物置の中でコケたのか煤塗れで、埃が気管に入り噎せればビデオは不安定に揺れる。とても、危ない。なんとかテーブルに置いたはいいが、いざテープをビデオデッキに入れてみれば、待っていたのは盲目の聖蝶姫!…―――ではなくて、いかにもドロドロ〜なグチャグチャ〜な昔の昼ドラが流れたじゃないか! 誰のせいだ、と言えば確実に犯人だと断定出来るのは一人しかいない。自分の母に怒りをぶつける間にも映像は流れ、「あなた!私よりあの人を選ぶの!?…浮気よ!さいっっってい!!!!」と中にいる主婦は浮気馬鹿野郎な相手の頬を平手打ちで殴る。普段は外で遊んでいたり旅をしていて昼ドラなんて無縁な彼ら(特にサトシ)には刺激が強い。痛そうに頬を擦るサトシだが、安心したまえ、君は殴られてはいない 「コホン。とりあえずビデオの中身は置いといて…ヒカリちゃん、こんなにビデオがあるけど自分で録画したのかい?」 「えぇ、そうよ!コンテストバトルとかリーグバトルってテレビ放送されるでしょう?盲目の聖蝶姫が出た大会は欠かさず録ったの!もちろん、アンタ達の好きなバトルもね!」 「本当か!?そりゃ早く見たいぜ!」 「ピッカッチュウ!!」 「ポチャー!!」 「…だが、この調子だとどうやら無理らしいな」 「うぅー…」 数十本あるビデオテープ。小さな頃、憧れの存在に惹かれた小さな自分。ワクワクしながらテレビの前に座り、いつでもスタンバイOKとビデオデッキのリモコンを手に握り締めていた、若かりし自分 彼女が写っているモノなら全て録った。コンテスト大会も、バトル大会も、報道番組で写る姿も、そして雑誌も。自分の母親も彼女の大ファンもあってか、親子揃って熱烈なファンになったのは言うまでもない。彼女がマサゴタウンに来たと聞けばすっとんで行ったり、口から出る言葉は「今日はテレビに聖蝶姫出てくる?」と…――幼い頃のヒカリにとって、盲目の聖蝶姫は光だったのだから ―――…しかし、そんな彼女の勇姿を久々に見たいもしくは見せたいと思った矢先のこの仕打ち。確かにビデオテープをちゃんと仕舞い込まなかった自分の責任でもあるが―――ガクッと、ヒカリはテレビの前でうなだれた 「うわーん…ママのばかぁ…」 「ごめんってばヒカリ…本当にごめん。私も確認してダビングをすればよかったのよ。本当にごめん。……皆も、ごめんなさいね」 「いえ、無いならしょうがないですよ」 「チェッ、楽しみにしていたんだけどなぁ。まぁ無いならしょうがないぜ。な、ピカチュウ」 「ピーッカ」 「フン、とんだ無駄足を掛けてしまった」 「そう言うなよシンジ」 「そういえば昨日作ったゼリーがあるのよ。これでチャラにして、は言わないけど食べていって頂戴ね」 「ありがとうございます!いただきます!」 「ピッカ!」 サトシ君とシンジ君は大会に出るんでしょう?なら手によりをかけて美味しくデコレーションしちゃうわよ〜、と台所に消えていく母。良いお母さんだと思わせるが、気付け、アレは母親特権から成せる逃げだ。そうとも知らない残された三人は「楽しみだなピカチュウ!」「ピーッカッチュウ!」「フン」「良かったじゃないか二人共」と呑気に会話を楽しむ 「ポチャー、ポチャポチャ」 ソファーから降り、滑って転ぶも短い足で自分の主であるヒカリに近付いたポチャマはペシペシと背中を叩いてあげる。ポチャマなりの、励ましだった うなだれていたヒカリは顔を上げ、ポチャマの頭を撫でる。しかし口から出るのは大きな溜め息しか無く…「オーバ隊長…任務は遂行かないませんでした…!」と、此所には居ないアフロを思い描いて涙を堪える 「はぁ…」 「まあまあ、そんなに落ち込まないで。君のお母さんの手作りゼリーを食べようじゃないか」 「はぁ…」 「ヒカリ〜、機嫌直せって。ポチャマも心配しているぜ?」 「ピカチュウ」 「ポチャマ〜」 「はぁ…」 「フン、温いな。無理してビデオを見せなくても他にあの人を見せるものならあるだろ?」 「それよ!!!!」 「「「(ビクゥッ!)」」」 「ピッ!?」 「ポチャ!?」 何かが閃いた! → |