何の唄かは分からない



昔から伝えられた、鎮魂歌

唄は遥か先にまで響き渡る




優しい様で、切なくて

それでいて何処か懐かしいメロディー








(何故だろう)(どうして)

(私はこの唄を、知っている)



―――――――――
――――――
―――











彼女との出会いは何だ、と言えば…一言では言い表わせられない位に私にとって彼女の第一印象は強烈だった








「こんにちは、そこのお方。今日は良い天気ですね。こんな日はピクニックが最適な日ですよね!」

「―――…君、どうして回りに野生のポケモンが居る中で有意義にピクニックをしているんだい…?」









世間一般に知られる彼女はとても有名人で、知らない人は居ない程に彼女は慕われている。それは今も昔も変わらない

美しい顔立ちから出る微笑みは誰もが魅了され、容姿は勿論スタイル抜群、性格も温厚で誰にでも平等に優しくしっかり者、けれどバトルに入れば穏和な雰囲気がガラリと変わり、儚くも凛々しいその姿をも人々の虜にさせてしまう。人間も、ポケモンも、人種関係無しに彼女は慕われる





勿論私も初めて彼女に出会った時なんか、彼女がシンオウで有名になりたての頃で彼女自身の噂も嫌でも耳にしていた。行く街先々やテレビや雑誌でも彼女を報道すれば嫌でも顔さえも分かってしまう

彼女は確かに美しい人だ

少女にしては女性とも見える容姿や雰囲気、凛とした姿から見れば何処かのお嬢様にも見える彼女。盲目だけれど、吸い込まれてしまう漆黒の瞳は何故か全てを見抜いている様にも見えてしまう

テレビや雑誌で見る彼女は大人びいていた。いや、大人だった。本当に聞いている歳かさえも疑ってしまう程に。たまにテレビでインタビューされている言葉も、大人顔負けの言葉を見事言った彼女は率直に「敵に回したくないな」と思った





でも彼女の事を知っていても、彼女と出会う事は無いと思っていた

当時、シンオウのこうてつじまで修業三昧だった私はほぼ日常の全てをこうてつじまで過ごしていた。こうてつじまは修業場所にはもってこいな場所だが、彼女みたいな高嶺の花が来る様な場所なんかではない。むしろムサい男ばかりが汗を流す場所でもある。そんな場所に、彼女なんてくるはずがない。期待すらしていなかった




だが、私の考えを覆す日がやってきた



それは即ち、彼女と初めて出会ったあの日の事―――…

















〜〜〜〜〜〜♪……‥




不思議な音色が耳に入ってきた。これは…フルートだろうか?

優しくも切ない、そんなハーモニーが島に聞こえてくるなんて、明日は雨でも降るかもしれない。そう思いながら修業の手を止め、空を扇ぐ。こちらに近寄ってくるルカリオもフルートの音色を聞こえている為、自分の隣りに立った後、同じ様に空を扇いだ







「…良い音だ」

《えぇ。心がとても安からになります》






珍しい、こんな事は初めてだ

こんな離島に、誰かがフルートを吹いているのだろうか







「………これは、」

《ゲン様もお気付きで?》

「あぁ、空気が…澄んでいる気がする」





具体的にどう説明すればいいかは分からない。だが直感で感じた。空気が澄み、居心地が良くなったのを

フルートのお蔭だろうか







「…行ってみよう、ルカリオ」

《はい》


「キュ〜」






フルートの音を辿ろうと足を動かそうとした時、何かの鳴き声とこちらに向かってくる紅く淡い光が視界に入った

何だろうとソレに視線を向けてみれば、初めて見るポケモンだった。ここら辺では見掛けない珍しいポケモンで、こんな島でしかも可愛い顔をしたポケモンなんて居る筈も無い。そのポケモンが実は幻の時渡りポケモンである事に気付くのはもう少し先だが――

こちらにまっすぐ飛んできた紅いポケモンは自分達の前まで止まると、コテンと頭を傾げる。ルカリオもコテンと頭を傾げ、つい自分もつられて頭を傾げてしまったのはしょうがない。フルートの音が止まり、私達の間に暫く沈黙が広がった。気まずい、果てしなく気まずい。それから眼前のポケモンは品定めする様にクルクルと自分達の回りを飛び始める。一体なにがしたいのだろうかこのポケモンは


…ん?よく見ればこのポケモン…






「…盲目の聖蝶姫の手持ちにいるポケモンによく似ている……」

《そういえば…》





最近読んだ雑誌に掲載されていた噂の彼女が映る写真に、眼前のポケモンと似ているポケモンが映っていた気がしたのが頭にちらついた

そう、確かこんな感じに紅くて小柄で可愛らしく彼女の肩にいたような…







「キュッ、キュゥ〜」

「君は…何処のポケモンかい?」

「キュ〜」

「ルカリオ、」

《"こちらに行けば分かります、僕の後に着いて来て下さい"…と言っています。如何為さいますか?》

「そうだね、行ってみよう」





もしこの子があの盲目の聖蝶姫のポケモンだったら、もしかしたら噂の彼女に会えるかもしれない

そんな、ちょっとした期待感。私の言葉に紅いポケモンは宙を一回転し、先程居ただろう方角に飛んで行く。私達は一度視線を合わし、それから紅いポケモンの後を追った






それから数分後....









「キュー!!」

「おかえりー。今ねー、皆でポフィン食べていたんだよ。早く食べないと取られちゃうよ〜」

「キュッ!?キュー!!」
「…」
「……」





紅いポケモンを追い掛けて、出会ったその先に居たのは――あの、盲目の聖蝶姫

本当に、いた

眼前の先に、あの噂の彼女が


―――――が、









「こんにちは、そこのお方。今日は良い天気ですね。こんな日はピクニックが最適な日ですよね!」

「―――…君、どうして回りに野生のポケモンが居る中で有意義にピクニックをしているんだい…?」





回りにはこうてつじまを生息地にしている鋼ポケモンがわんさかといて、その中央で平然とピクニックをしていた、盲目の聖蝶姫

気が荒いはずだった島のポケモンが、ニコニコと笑みを浮かばせ、スリスリと彼女に擦り寄る姿に私は開いた口が塞がらない。ルカリオも唖然と目の前の光景を見つめていて――そんな私達を知ってか知らずか、彼女は視えていない瞳をこちらに向け、無垢な笑顔で笑った







「そんな所に居ないで、貴方も一緒にピクニックしませんか?」








それが私と彼女の出会い





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