「シロナさん、」

「………」

「シロナさーん」

「………」

「シロナさん」

「シロナさんやーい」

「………」










「トリップしてますね、ゴヨウさん」

「そうみたいですねリョウ君。今ので四回目になりますが、次で返事が来なかったら新記録達成ですよ」

「ですよねー。もう一度いきますか?」

「そうですね。二人でいってみましょうか」

「いっちゃいましょう!」

「せーの、」










「「シーロナさ「目潰し!!」ギャァアアアッ!!?」「リョウ君!?」










シンオウ地方、リーグ協会


その一室にある部屋にて






「全く、ちゃんと聞こえているのにそんなに大袈裟にしなくてもいいじゃないの」

「シロナさぁああん!僕だけ目潰しとか酷くありませんか!?てか目潰し!?あのシロナさんが目潰し!!?」

「ごめんなさいリョウ君、ついうっかり☆」

「うっかりにも程がありますよちょっとーーーッ!!」

「……………(汗」






目が、目がぁあああ!とジタバタもがくのは、此所のシンオウリーグの四天王の一人である虫使いのリョウ。アホ毛みたいに髪がピョンと跳ねているのが特徴だ。ピンポイントで目に突き刺さってしまったらしく、かなり痛そうだ。地面に這いつくばってもがくリョウを冷や汗かきながらも冷静に見守るのはゴヨウ。同じくシンオウリーグの四天王の一人でエスパータイプの使いだ。別名インテリスーツにメガネな紳士。嘘です。けれど紳士な事には変わりはない彼はとりあえず見ていないでリョウの介抱すべきだと思う

そんな彼らを笑いながら机の上に散らばる資料を片付けるのはシロナ。このお方こそ、シンオウリーグチャンピオンとして君臨している憧れの存在。しかしその裏は目潰しを食らわすちょっとお茶目なチャンピオンだったりする






「それで?四回私を呼んでいたみたいだけど、用事は何かしら?」

「呼ばれている事に気付いていたのなら是非反応くらいして欲しかったですよ」

「ごめんなさいね、ちょっと懐かしい記憶が流れたから…それで、話は?」

「リーグ協会からリーグ集会の変更が通知されて来たので確認の為に伺いに来ました。もう詳細は聞いていますか?」

「えぇ、映像付きモニターでの集会がホウエン地方の方で取り止めになったのでしょう?話は前々から聞いていたわ。どうやら向こうで不都合が生じたらしいわね。無理もないわ、向こうは大災害が起きて、数ヶ月経っても傷は残ったまま…復旧作業の方が最優先。ホウエン地方は不参加、でも代わりにダイゴが代表で参加する事になっているのよね?」

「そこまで聞いていましたか。ホウエン代表はダイゴさんで、今現在シンオウに滞在中なので私達の中に入っての参加になりますから…この集会は表向きは北東西南のリーグ集会ですか、実際の所はカントーとジョウトのセキエイリーグと私達シンオウリーグの参加、と言う事になりますね」

「そういう事になるわね」






南の方も随分と大変なのね、とシロナは小さく零す。ホウエン大災害の話はこっちまで伝わっていた。丁度元ホウエンチャンピオンであるダイゴからも話は聞いてある為、ホウエンリーグ不参加についてはすんなりと受け入れた。ホウエン大災害についてはゴヨウもリョウも、他のリーグ関係者も理解はしている。理解がしているからこそ、別地方のダイゴをこのシンオウリーグに混ざっても何の支障はない

忙しいのはこちらにも言えた事。現在シンオウ地方ではギンガ団という悪の組織を壊滅させ、その処理に終われていたり近々開催されるシンオウリーグ大会の準備に手間取っている最中。けれど、ホウエン大災害に比べたら屁でもないだろう






「気候が安定してくれれば無事にスズラン大会が開催してくれるでしょう」

「そうね。忙しいのはリーグ集会までの間だから、それさえ終われば済む事だから…さっさとギンガ団の報告を纏めておかないと」

「私も手伝いましょう。一人より二人の方が早く終わります」

「ありがとう、ゴヨウ」






六年前、カントー地方に拠点を置いていた極悪組織が少年少女の活躍により解散をした。その二年後の四年前ではマスクオブ仮面という団体にまた、別の少年少女が活躍をした。月日が流れホウエン地方でも少年少女の活躍のお蔭で陸と海を争う組織を壊滅させ、その数ヶ月後に活躍してきた全ての少年少女が一つとなり、敵の野望を打ち砕いた。勿論、彼らを支えたジムリーダーや四天王達の活躍によって出来た事でもある

それから、このシンオウ地方でも旅の途中である少年少女のトレーナーの活躍によって、悪の組織ギンガ団が壊滅されている。しかし壊滅と言っても、ギンガ団の首領が消息不明になっての壊滅。真相はその場にいた者でしか、分からない。シロナが何故この問題の処理をしているか、だなんて答えは簡単だ。彼女もその場に居合わせ、少年少女と手を組み、バトルをした。全ての全貌を知る、一人だったからだ







「チャンピオンも大変ですよねー。シロナさんって、考古学者でもあるんですよね?両立が出来るなんて僕改めて尊敬しますよ〜」

「あら、ありがとうリョウ君。そんなリョウ君には特別に資料を届ける役目を授けましょう」

「ワー、役目とか要らないですヨー」

「ゴウキに持って行ってくれれば後はやってくれるらしいの。よろしくね」

「はーい」





素敵な笑顔でドサッと資料を渡すシロナに、文句も言えないリョウは渋々受け取り、よろよろと足をふらつかせながら部屋を出て行く

かなりの量だけど大丈夫でしょう、と手を振りながらシロナは見送る。相変わらずなシロナにゴヨウは小さく苦笑を零すも、すぐに視線を資料に戻して作業に取り掛かった







「早めに作業を終わらせましょう。シロナさんは忙しい身です。私はこちらをやっておきましょう」

「ありがとう。…ねぇ、ゴヨウ」

「はい?」

「アレから、六年が経ったのね」

「……そうですね」







資料に視線を戻して作業を始めるシロナからポツリと零れた言葉。ソレが何かを瞬時に理解したゴヨウも、資料に目を向けたまま静かに答える

まるでその問い掛けがキッカケなのか、部屋は急に沈黙が広がった。資料の紙を捲る音に、紙にペンを滑らせる音以外は、無音



六年――…その言葉を指す意味を、ゴヨウは知っていた








「六年…もう、六年も経ってしまったんですね」

「……えぇ」

「――…彼女は、」

「あの子は死んでいないわ」

「…まだ何も言ってませんよ?」

「あの子は生きているわ。だって約束したもの、絶対に帰ってくるって。…あなたも、覚えているでしょう?」

「……えぇ、勿論です」










「おや、お二人仲良く指切りですか。どんな約束をされたのか、聞いても宜しいでしょうか?」

「勿論、"  "がこっちに戻って来る約束と私はこっちで頑張るから、"  "があっちで頑張る約束。それに再会したら、またバトルをする約束よ」

「おやおや、約束が三つもあるなんて、守る方も大変ですね」

「そうでもしないとこの子ふらふらしそうなのよね。ほらゴヨウ、あなたも今の内に約束とかしちゃいなさいよ」

「あまり強要をする主義はありませんが…そうですね、帰ったらまたミオシティでいつもみたいに、私が朗読しながら一緒に読書をしましょう。それが私と貴女の約束ですよ?」

「だってよ"  "!私の為にもゴヨウの為にも約束ちゃんと守るのよ?…――あ、キクノさん丁度良かった!今―――……」











「あの時した指切り…彼女の指が自分の指と絡んだあの日を、忘れた事はありませんよ」

「……聞けばあの子、指切り嫌いだったらしいの。…後悔したわ。でもあの子は嫌な顔一つもしなかった。…優しい子よ、本当に」

「えぇ、本当に…」










「なんだか凄い大所帯になっちゃったわね〜」

「シロナさん、それは確実に貴女の所為ですよ」

「良いじゃないの今日くらいは!そうよね、"  "―――……」












「あの子は絶対に生きている。生きて、絶対に私達の所に戻って来るわ。約束を果たしに…その為の、約束なんだから…」

「……………そうですね」






シロナの細い指が、机の上に置いてあった写真立てに触れる。カタリとそれを持ち、懐かしそうにそこに映る人物に触れる

埃塗れだった、その写真立て。あの時はちゃんと立ててあったのに、何時から写真立ての存在を忘れてしまったのだろう。見つけ出した時は凄く汚くて埃塗れで、それでも見つけただけで安心して、涙まで流れてしまった。それだけこの写真立ては、写真は――シロナやゴヨウにとって、とても大切な……








「――…作業に、取り掛かりましょう」

「――…はい」









(ねぇ、覚えていますか?)

(あの時の、約束を)









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