彼女は一言で言うと、"蝶"だ

行きたい所を自由に飛び回る事が出来る、蝶。当時デボンコーポレーションの副社長の肩書きを持つ僕にとってその自由が羨ましかった。僕の手に止まったかと思ったらすぐに飛び立って行ってしまい、高い高い所に飛んで行く。僕が手を差し出しても届かない所まで飛んで行く蝶はまさに彼女にぴったり当てはまっている


勿論容姿は御墨付き


彼女が道を歩けば人は必ず振り向く。彼女が微笑めば全員紅潮。勿論、ポケモンもだ。彼女は老若男女プラスポケモン問わずに人気者。気付けば彼女の回りには人で溢れかえり、一息ついたと思えば今度はポケモンが。彼女は人(とポケモン)を寄せ付ける不思議な力が存在していた。勿論それは僕もそうで、いつの間にか彼女の力に引き寄せられていたのかもしれない


長い漆黒の黒髪を靡かせ、オレンジの色をしたコートを着た、絶世の美女。手持ち全てが色違いという、珍しいポケモンを持っているもその実力はお墨付き


彼女はすぐに注目の的になった。リポーターがストーカーをする程よくテレビで放送されたり、雑誌にもよく載っていた。その雑誌は発売してすぐに売り切れる程の人気ぷりだ。僕も試しに読んでみたけど、内容は彼女の写真(盗撮だね)や行動や(この時点でストーカー)、実際に聞いたのか彼女自身のコメントとかもあってなかなか面白かった印象があった


そんな彼女は『盲目の聖蝶姫』でもあり、ホウエンチャンピオン







「―――…初めまして、私の名前は"  "と言います。貴方の名前を伺ってもよろしいでしょうか?」







彼女がチャンピオンになるまで、そう時間は掛からなかった。彼女はまるでスイクンの如く(そういえば色違いのスイクン持っていたね)にジムを制覇していき、リーグのドアをブチ破ったと思ったら殿堂入り。人は言った。「まるで風の様だった」と。嵐の言葉を使わなかったのはきっと嵐だけど穏やかで、穏やかなんだけど強い風だったと僕は思った


そんな彼女に、僕は負けた


あれは確か、久々の休日で趣味である石探しに没頭していた時だった。綺麗な鈴の音が聞こえてその音を頼りに向かってみれば、野生のポケモンと一緒に戯れていた彼女

あれが僕と彼女の出会い

そして僕の運命がガラリと変わった瞬間だった







「君…強いね。まさか僕が負けるとは思わなかったよ」

「楽しいバトルを、ありがとうございます。この子達も、大変満足しています。骨がある戦いを、出来た事に」

「こちらこそありがとう。…また、バトルをしてもらっても、いいかい?」

「勿論」








あの時の彼女は此処ではまだそれほど有名になる前で、本人曰く駆け出しトレーナーだと言っていた。何でそんなに野生のポケモン達と中がいいのだろうかという疑問を抱きながらも、トレーナーの鉄則に沿ってバトルをすれば、結果は惨敗。この地方では見た事がないポケモンを繰り出してきたり、反則だろと思う位の力の差を味わった。あの頃自分は若かった。今思えばあの戦いが無かったら、今の僕は無かったかもしれない。当時の僕は生まれて初めて負けたという敗北感を叩き付けられた。同時に、世界は広いんだという気持ちになった事に驚いた


この日から僕と彼女は知り合った


彼女はよく、僕の元へやってきた。ラティオスの背に乗ってやってきた彼女は色々な話を聞かせてくれた。副社長という囲いに閉じ込められ、世界を知らない僕には彼女の話は新鮮そのもの。その頃は既に彼女はチャンピオンになっていた。ホウエンに来る前は色々飛び交っていたらしく、沢山の面白い話、楽しい話、勿論彼女は僕の趣味である石の話も聞かしてくれた。彼女の話は僕の探求心を燻ってくれるのに充分だった。僕も彼女みたいに色々な所に行ってみたい。彼女の見た景色を自分の目で見てみたい

そう言えば、彼女は微笑んで僕の囲いをいとも簡単に開けてくれた









「行こう、ダイゴ。貴方には見る力があるんだから、その目で色んな世界を見に行こうよ」








そして僕は彼女の背を追いかけた






×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -