強固な身体で仲間を守り

破壊の力で敵を打ち返す

決して崩れない絶対防壁


脅威を轟かす、強靱な鉄壁












Jewel.54













アスランが所有する、リーグ協会が聳え立つサイユウシティより離れた位置に在る離島。島の全体がほぼ森に包まれている此処では、野生のポケモン達が共に共存しながら過ごしている。仲良き事はいい事だ、と微笑ましそうにとある女は「あはー」と笑う

今日も今日とて、平穏で平和な一日が過ぎようとしていた…――――







ドガァアアアアンッ!!

ドドドドドッ!

ゴオオオオォォォ…






…訂正

今日も今日とて物騒な衝撃音が響き渡っている


そんなに毎日響き渡っている訳ではないが、定期的に響き渡るそれらは危機感を感じさせるもの。しかし衝撃音が地響きになって空気を震わせているのにも関わらず、島は変わらず平和だった。何故なら、野生のポケモン達はこの元凶たる存在の事を知っていた。始めは一体全体なんだなんだと慌てふためいては戦闘態勢になっていたり時には逃げ腰になっていたりもしていたが、流石にこうも頻繁に続いていれば慣れてくるものだ。慣れとは恐ろしい。いや、本当は慣れてはいけないんだが。島の中にある小川に済むマリルなんか、地響きが響きようが呑気に欠伸を噛み締めて鼻ちょうちんを膨らませて夢心地の中だ。気持ち良さそうだ。まあなにがともあれ平和な事はいい事と自己完結をすることにしてだ

衝撃音と地響きの元凶は、広場にあった

この島には広場と呼べる場所が二ヶ所存在する。一つは、アスランが住う豪邸から覗ける開拓された広場。手入れが施されたそこは、人間もポケモンも関係なく過ごせる様に作られている。芝生一面に広がる地面、湧き上がる噴水、花壇には風に揺られる色とりどりの花が揺られているなど、手の込んだガーデニングが豪邸を囲んでいる。この広場はまさに豪邸の玄関と言ってもいい為に、やはり綺麗に整備されているだけあって豪邸との組み合わせが実に感銘を覚えさせる

ちなみに新たな住人が此処に住み着いてから、この色とりどりの花達の寿命が一向に見えない。ずっと色褪せないこの光景は、一体どうしてだろうか


そして最後の一ヶ所と呼べる広場というのが、今まさに現在進行形で衝撃音やら地響きが起こっている震源地だ。その広場は先程説明した広場とは、全然違った。人間の手が施されていない、まさに自然から出来た広場と言っていい

よくある学校の野球場一個分くらいの、広々とした広場があるのは豪邸から少し離れた場所。森に囲まれたそこは、"彼等"にとっていい修業場所だった。何故なら、こんなに広い場所なら存分に暴れる事が出来るから。誰にも止められる事も無く、誰も傷付けたり傷付けられる事が無いのだから





――――ビュォオオオオッッ!





広場の中央から、凄まじい砂嵐が巻き上がっている。障害物を巻き込み、全てを無に返す砂嵐を前に、誰も何もする事が叶わない

本来ならこの島のモノ全てを巻き上がらせてしまうくらいの威力をもつこの砂嵐。しかし、まるでこの島を守る為に――――この無法地帯の広場だけ、不思議なベールに包まれている様に見えるのは、気のせいなのだろうか



その砂嵐の中に煌めくのは、三つの光



一つは、砂嵐に負けないくらい目にも止まらない閃光を輝かせる朱色の光

二つは、強烈な砂嵐をモロともせずに悠々とした様子で砂嵐の中に佇む黒銀色の光

そして三つは―――…






「ガァアアァアアッ!」







凶悪な牙、逞しく巨大な身体、凄まじい威圧感。身を震えさせてしまう、咆哮

まるで一つの山だと言ってもおかしくないソレの正体は―――バンギラス

褐色の、バンギラスだった






「グオオオォオオォッ!!」






砂嵐の中からピカッと何かが光れば―――凄まじい威力の光線が、辺り一面を無慈悲に襲いかかってくる。止まる様子を見せないこの光線の技は、はかいこうせん。しかし、はかいこうせんという技は威力が強い為に反動を受け、動けなくなる己自身にも危険な技なのに―――…何故、砂嵐の中にいるソレは反動を受けずに何発も光線を放つ事が出来るのだろうか


この砂嵐の中にいる存在こそ

この地響きの元凶でもあり―――…ホウエン地方で出会った、数少ないミリの手持ちのポケモン

バンギラスの名は、轟輝といった







《―――――…相変わらず、容赦ない攻撃だな。守りの防壁が貼られて無ければ今頃この島は崩れ、海の一部になっていただろう》

《流石は我等のマスター、どんな力の前でもマスターの力では傷一つも付きはしない!マスターの御力添えがあってこそ、こうして日々の鍛練を有意義に出来るのだからな!》

《かと言って毎度暴れ回るのはどうかと思うが。この島に住む他の種族達に迷惑が掛かっている事を忘れては困る》

《フン、知った事か》







巨大な砂嵐を前に、俄然と立ち向かう朱色の光と悠然と観戦している黒銀色の光

それは、ミリの手持ちであるルカリオの朱翔とダークライの闇夜

鋼タイプが入っている彼等にとって、この砂嵐の前では無意味だと言ってもいい。鋼タイプには、砂嵐の追加効果は効かない。そんな彼等だからこそ、この戦場に立つ事が出来て、対等に戦える。他にいる手持ちのポケモン達はともかく、他のポケモンだったら既に砂嵐の餌食になっていただろう。そして、広場だけを包む不思議な防壁が無ければそれこそこの地は荒れ放題になっていた。それだけこの砂嵐の威力は凄まじいものだった

むしろこの戦場だからこそ、朱翔の闘志が燃え上がらせる。ギラギラと燃えている朱色の瞳は、回りなど映さず眼前の敵を狙う。自分の主でもあるミリを守る為に、自身の実力の向上を誰よりも望む彼は、どんな危機的状況に置いても果敢に立ち向かう。たとえそれがただの修行の一貫だとしても

毎度毎度行われる双方の容赦ない暴れっぷりに、今となれば同じ修行仲間でもありストッパー役になってしまった闇夜は、眼前の惨事を前にしてやれやれと溜め息をついた











―――――…止まる事を知らない砂嵐の中から、口から放つのは脅威のはかいこうせん。その逞しい身体は相手の攻撃をモロともせずに跳ね返し、その剛腕は容赦無く相手を叩きのめし、大きな岩を木っ端微塵に粉砕させる

褐色のバンギラス、轟輝―――パーティの中では一番の腕っ節を持ち、一番の暴れ王。朱翔に負けないバトル狂な彼は、仲間を守る為なら、蓄積された憎悪の力を惜しみ無く相手にぶつける。彼の事を人は畏怖も込めてこう呼んだ、"暴君の破壊神"と…―――

ミリと出会う前までは、ずっと薄暗い研究所の中で閉じ込められてきた。周りのモノは全て敵、敵、敵―――…人間の手によって目の前で最愛だった親を殺され、捕らえられ、身体を弄られ、久しく光の世界を見られずに生き長らえてきた轟輝にとって、もはや敵味方の判別が付かなくなっていたのだろう。蓄積されてきた人間に対する憎悪は、憤怒を抱く朱翔の感情をも越える

彼もまた、悲しい過去を持っていた

痛くて辛くて、悲しい過去を







「…」
《ただいま〜》
《またやっているのか》

「今日も元気にやってるねー」

《!主、戻ったか》

「ただいま闇夜。今日は予定より早く仕事を切り上げたんだ〜」

《…!マスターの波動を感じる…――――!!マスター!お帰りになられたのですね!そうとなれば轟輝!修業は此処までだ!マスター!》

「ガァアア!」

「おーおー、二人もお疲れ様。今日も派手にやっちゃって〜。いい子にしていた?朱翔、轟輝―――――……」








轟いて輝くと書いて、轟輝

ミリは彼の名前を考える間も無く、すぐにこの名前に決めた。轟輝、読み方はゴウキ――――…その存在を全てに轟かせながらも、けして揺らぐ事はなく輝き続ける強者

その身体は傷をも受け付けない鉄壁を持ち、力強い腕っ節と光に向かって突破口を開ける剛腕を持つ彼にはピッタリの名前だと言ってもいいだろう。そして、"ゴウキ"という名前には妙に親しみがあり、違和感が無かった。懐かしさも感じさせ、己の胸内に浮かぶ不釣合いな感覚に首を傾げる事もあったが、ミリは構わず彼にその名を与えた

そんな轟輝の普段の日常では身体が大きい事もあり、普段は豪邸の庭やボールの中で大半を過ごす。ミリの部屋は二階なので、開いた窓から丁度良く顔が覗けているのでコミュニケーションは殆どがそこで行われていたりいなかったり。バトルが入ると暴れっぷりが凄まじくなるが、バトルから外れると嘘の様に落ち着いていたりする。オンとオフが激しい子なのです。面倒見が良かったりするのか、アゲハントの風彩や生まれたばかりのチュリネだったり野生のポケモンだったりと、そして今こうして修業相手になってあげたりと彼は色んな所で活躍していた

バトルになるとなりふり構わず暴れ回るのがちょっと悪い癖かな〜、とミリは目の前に広がる惨事の前にのんびりと笑う







「さ、今日もいっぱい修業したらゆっくり休むに限る!ってね。皆で一緒に帰りましょうねーおやつにしましょー」

「…」
《はーい!》
《おやつ…!》
《ゆっくり休むか》
《はい、マスター》
「ガァアア!」





先程より一段と荒れ放題になった広場を前にミリが指を鳴らせば一変、突如現れた淡い光が広場を包み込んで―――…パァァッと光が消えたと思いきや、眼前にあるのは元の形状に戻った広場の姿

満足げに微笑を浮かばせたミリが、仲間を連れて踵を返す。勿論そこには轟輝の姿もあり、先程の暴れっぷりが嘘の様に落ち着いている彼は今日のおやつは何かと考えながら帰路に戻って行く。家に帰れば他にいる仲間達に出迎えられながら、楽しい一時を過ごすのだろう

彼は今―――…幸せだった


















さあ、次はこの子の紹介をしよう


どういった経緯でミリの手持ちに入り、

どういう子で、どんな過去を持って、どんな闇を持っているのかを







(頑丈な身体に秘められた内側の闇は、一体どれくらい深いの?)


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