サカキの放たれた言葉に

回りは騒然とした






「サカキ…お前本気か?」

「へぇ…?」

「俺達は見守っているしかない、か…」

「サカキさん…何処か覚悟をした様子だったのは、この事だったのか…」

「…ミリ姫は一体どんな選択肢をするんだ…?」

「…………」






小さく驚くレン、面白そうに喉を鳴らすゼル、サカキの意思を尊重するゴウキ、納得な顔をするマツバ、固唾を飲んで見守るミナキに、沈黙を守るカツラ

いつかこの壁にぶち当たるとは理解していたが、まさか早々にぶち当たるとは。嫌な予感は当たるものだ。特に今一緒に暮らしているマツバとミナキはひやひやものである

けれどサカキは昔とは違う事だけは分かってほしい。一人の父親として娘の無事を願っていたのは本当の事なのだから―――そう言いたいのに、彼等は二人の会話に介入する権利はない。ただただ固唾を飲んで見守るしかない

しかしここで唯一、サカキの言葉に異を唱える者がいた






「首領!お待ち下さい!」

「黙れナズナ、口出しは許さん」

「しかし!貴方はもうロケット団の首領ではなくただの一般人、息子を持つ父親だ!今回の件も貴方がいたからこそ成せた話!」

「もう一度言う、ナズナよ。口出しは許さん、そこでジッとしていろ」

「しかし…!」






それはナズナだった

彼には珍しく動揺した姿で、慌てた様子で二人の中に割って入る

それはそうだ。ナズナこそ、この流れになるのを一番に危惧していた。サカキとミリが対立する事を。対立しない様に会議ではサカキ自身の事に触れない様に進行を進めた。自分に出来る事を周囲にバレずに操作していたのに、まさかミリが知っていたとは

予想外にも程があるし、なによりも一番予想外なのはサカキ自身が放った言葉だ

流石に実行させるわけにはいかない






「ミリさんも待ってほしい!」

「……サラツキ博士、貴方は今この方に首領とおっしゃいました。首領だなんて言葉、一般の人は言わない単語………まさか貴方も、元ロケット団ですか?」

「ッ、あぁそうだ…俺は、」

「いや、こいつはロケット団を脱退した裏切り者だ。よほど俺のやり口が気に入らなかったらしい…身内に警察がいたくらいだ、スパイだったと推察できよう」

「ッ首領!?」






畳み掛ける様に放たれた、サカキからの予想外な言葉

流石にその台詞に回りは驚いた様子でサカキを見て、ゼルはそれこそ面白そうにサカキを見る

当然ナズナはサカキに絶句した






「こいつはお前の体感で言う…確か一年前くらいに、突然脱退した。理由なんて知ったところでもうロケット団は解散した。聞くだけ野暮だ。こいつにはつくづくブラック企業並に社畜させていたからな……尻尾巻いて逃げるのも無理はない」

「首領貴方は何を…!」

「外で女でも作っていたらそれこそ逃げ出すのは無理はない。こいつはこんなナリだ、女団員の中でも特別人気だったからな…別に不思議な話じゃない」

「首領!!!!」






しみじみと何処吹く風でそんな事を言うサカキに、ナズナは普段の冷静さを殴り捨ててまで叫ぶしかない

しかもさらにナズナを驚愕させる事態が起こってしまう






「刹那の事やランス達の件を指すなら、ナズナはシロだよ。そこは私が保障しよう。しかしまだクロの存在がいる―――この、私だ」

「カツラさん!?」

「私はグレンジムリーダー、カツラ。けれど六年前まではロケット団の科学者として腕を振るっていた。まぁ私も思う事があって脱退した身だけどね。そして同時に、君の手持ちである刹那とは別の個体を造ったのは、この私だ」

「カツラさんまで何を!!??」






今まで沈黙を守っていたカツラまで名乗り出してきたとなったら、ナズナの動揺と驚愕っぷりは相当なものであろう

勿論それは回りの者達を驚かせるわけで。まさかカツラまで名乗りを上げるとは、と。しかも自分自ら「別個体のミュウツーを造った」という自白発言は予想以上の衝撃だった

レンとゴウキは二人がミュウツーを造った事を知っているのでまだいい。カツラとナズナがロケット団だったのは知っていても、まさかカツラがミュウツーを造った事までは知らないマツバとミナキはただただ驚くしかない

唯一ゼルは意味深そうに「へぇ…?」とカツラを見るだけで、やはり何もするつもりはないらしい

ミリの眼として徹底している闇夜も小さく驚いた様子を浮かべている。それはそうだ、自分の仲間が造られた存在だった事だけでも驚きなのに、仲間を造った存在が実は目の前にいて自白し始めているんだ。闇夜とて動揺してしまうのも無理はない



唯一冷静だったのはミリだった







「……別の個体…通常色と言われている個体がいるんですね」

「…不思議な話だ。知名度で言えば通常色はむしろ刹那の事を言われそうだが、それは些細な事。しかし実際に私は悪業だと知りながら悪に手を染め、己の探求心を優先してミュウツーを造った。勿論それは、刹那の事も含まれている」

「!」

「私は別の個体を、君の刹那は脱走した団員が造ったのだよ―――【氷の女王】」






ここでナズナは察してしまう

二人は自分の存在を公にせず、自分の罪の全てを闇に葬ろうとしている事を



自分がミュウツーを造った事、

あのイーブイ達を実験した事、

沢山のポケモンを実験を通じて殺めてきた事、

首領補佐として容赦なく悪業を強いた事、


いくらゼルが罪を見過ごしているからとはいえ、罪は罪。自分こそ【氷の女王】から罪の鎖を受けるべき身だと、嫌でも分かっているのに

なのにこの二人は、ミリに全てを話す事はせず―――自分が真っ当な人間として生きていける様に、そしてミリと良好の関係でいられる様に努めようとしてくれる







「ナズナの事は知らん。しかし俺は俺のプライドを持って全責任を取ろう。お前の罪の鎖とやらで償えるのなら、両手を広げて受け入れよう」

「私も、人様に迷惑を掛けた自覚はある。その報いを今日、受けるだけの事。君の罪の鎖なら、遠慮なく身を捧げられる」






二人の表情は、不思議と穏やかだった

しかしその瞳は強い覚悟が現れていた


誰からの横槍を許さないとばかりに、その覚悟は息を飲むほどに強かった







「待ってくれ二人とも!これ以上は…!!」

「おっと!」

「待てナズナ、」

「ナズナさん、辛いだろうけど」

「あの二人の覚悟を無駄にするな」

「ッしかし!」






流石に見過ごすわけにはいかないと、席から立ち上がろうとするナズナだったが、時既に遅し

隣に座るゴウキとミナキに肩や腕を抑えられ、マツバとレンに制止の声を投げられる。ゼルはただ静かにミリを、そしてサカキとカツラの姿を静観するだけ

そしてカツラはミリ以外の全員に「巻き込まれてはいけない、この場から離れてくれ」と席を立つ様に言う。闇夜のダークホールに巻き込まれない為に。そして彼等はミリを残し、席を立って部屋の隅に移動する事になる。それは勿論ナズナもそうで、ミナキとゴウキの腕から抜け出そうともがいているが、残念ながら成す術もなく






「………、そう。貴方達は…」

「フッ、そこから先の言葉すら野暮と言っておこう」

「外野は気にしなくていい。君は君の正義の元で一思いにやってほしい」

「………」







ミリは視る

二人の強い覚悟を


ミリは視る

二人の確固たる決意を






「その意気やよし。貴方達の覚悟、受けとりました」






そこまで強い覚悟を持ち、"誰かを守りたい"という強い決意を持つ相手に何もしないのは逆に失礼

貴方達が自分の贖罪に苦しんでいるなら

僣越ながら―――私達が手を差し出しましょう




ミリの後ろに控えていた闇夜がゆらりと身体を影へと溶け込んでいき―――その影から深い深い恐ろしい闇が、部屋の中を包み込む

この闇を知っている

この恐ろしい闇を、知っている

初めはレンに向けて放たれた闇。次はミリのかつての姿を見せる為に出した闇

そして今は―――明確な意思を、殺意すら持って生み出された闇

その闇は席に座る二人の足に、

ゆっくりと、這い上がっていく―――






「待て、待ってくれミリさん!ッやるなら俺も一緒に…!」






ナズナの悲痛な叫びは

残念ながら、届かない





「闇夜。応えましょう、彼等の望みを」

《―――あぁ》

「彼等の覚悟に―――敬意を込めて、」


闇夜の金色の眼が不気味に輝く

ぐわっ、と巨大な闇が二人を包み込む様に襲いかかる


静かに眼を閉じる二人を、

それはまるで、スローモーションの様に見えて―――




嗚呼、やめろ

やめろ、やめてくれ

こんなこと俺は全く望んでいない




二人が飲み込まれていく姿も

貴女が傷付く姿も、見たくないのに






「や、めてくれええええええッッ!!!」

「ダークホ――――」







ズキィィッッ!








「ッい゛ァ゛っ゛…!!!!」

《ッ主!?》

「「「「!!?」」」」」









またしてもミリに

強烈な頭痛が襲いかかった







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