「本当にこれお前の趣味か?ギラギラゴテゴテ過ぎるだろこの軍服。権力の主張がヤベェ。当てつけの様に着てきやがって。趣味悪過ぎだろ仕事し過ぎてついにバグったか」

「馬鹿お前これが俺の趣味と思うか?前任の趣味に決まってんだろ。俺だってこんなギラギラゴテゴテしたやつ着たくねぇよ。普通に重くて目茶苦茶肩が凝る」

「だったらなんで着てきたんだよ。いつもの格好でいいだろーが」

「そりゃお前、ポケモンマスターたるミリ様の初舞台となったら着るに決まってんだろ?こうみえてあのデザインは俺が作製したやつだ。羨ましいだろ?」

「だと思ったぜぶっとばすぞ」

「フッ、デザインは違えど色違いの軍服を着るのは無性にテンションが上がるってもんだぜ」

「だったら俺が今着ている服は全部ミリの手製だぜ?すげぇよな、布さえ用意すれば作り上げちまうんだからな。サイズもピッタリ、俺好みのデザイン…貰った時はテンションが上がったってもんだぜ。羨ましいだろ?」

「は??なんだそれ羨ましいだがぶっとばすぞ」

「ちなみにゴウキとナズナも何故かミリの手製だ。そう、何故か」

「……へえ?」

「……俺の言いたい事は、分かるな?」

「フッ、当然。剥ぐか」

「剥ぐぞ」

「「剥ぐな」」









「…彼氏さんの服を作るのはいいとして、彼氏でもない人の服も作るのは大丈夫なのかな…?お二人に彼女さんがいた場合、中々に厄介なネタになりそうなんだけど……うっっっ無理…ここでも大迷惑かけてる…!…むしろお二人の懐が広くない…?彼女でもない女の作る服を着てあげるの、優し過ぎない…?」

《主、それ以上はいけない》





自分自身の事には辛辣評価をするミリだった



――――――
――――











先程の穏和な雰囲気と一変して

この場は一気に体感温度がガクリと下がる






「これでも当時俺の存在は可能な限り伏せていたつもりだったが…やはり【氷の女王】の前では意味を成さないか」

「…貴方の部下が毎回毎夜自分のトップの名前を叫んでいたら嫌でも覚えますよ」

「…精神異常の人間に組織の情報規制は意味を成さなかったか」






ロケット団首領サカキ

気さくなおじさんの印象を、かつて存在していたであろう"本来の姿"の片鱗を見せるサカキ。不敵に笑うその姿は、息子や娘を想う家族想いの父親のイメージを持たせていた他の者達を静かに驚かせる


否、これが本来のサカキの姿なのだ


息子を探す為にロケット団を結成したとはいえ、やってきた事は悪名高い事ばかり。今までその牙を隠していただけで、犯した罪は消えず、隠した牙も消える事はない

サカキが"ただの父親"としていられたのはシルバーがいて、【聖燐の舞姫】のミリがいたから。その肩書きを剥いだら、残っているのは悪名高い裏の顔だけ







「ッミリさん、まずは話を聞いてほしい」

「待てナズナよ。…お前は口を挟むな。勿論、お前達もだ」

「ッ!しかし…!」

「ナズナ、サカキを信じるんだ。私達は見守ろう」

「ッ…あぁ………」







嫌な雰囲気を察したナズナが二人の間に入ろうとするもサカキの一言、そしてカツラの言葉で一端は退き浮かせていた腰を下ろす

ナズナは冷や汗だらで、嫌な予感が心中を燻らせた。やはりミリはサカキを、ロケット団首領の存在を認定していた。会議ではあえて名前は出さないで進行していたし、ミリの方からは何も質疑が無かったから問題ないと判断した。しかし、やはりその判断は早急で軽率だったらしい



先程までほわほわしていたミリは、今は完全に【氷の女王】



光の無い漆黒の瞳は、凍て付いた眼光がサカキを映している。闇夜の眼を使っているとはいえ―――やはり改めて近くにいると、心臓を撫でられる程の恐ろしい感覚にさせられる

それはナズナだけではなく他の五人も思っていたらしい。マツバとミナキは先程のふざけていた雰囲気が嘘の様に顔を青くして二人を見ていて、ゴウキはいつでも間に入れる様にと身構えている姿があり、レンは「ミリ、落ち着け」とミリの手を握り落ち着かせようとしている。そしてナズナを止めたカツラは―――ただただ、二人の姿を静観していて

唯一、ゼルはこの現状を面白そうにサカキを見ていた。総監として止める様子はないらしい。面白そうにサカキを見ている反面、ミリを見つめるそのカシミヤブルーの瞳は、狂信めいた光を浮かべている。一体何故その眼でミリを見ているのか―――

いやその前に止めてほしい

面白そうに観戦しているんじゃないふざけるな






「まず結論から言おう。現在―――既にロケット団は解散している」

「……!」

「今回の『彼岸花』と組んだロケット団は残党なのは先の会議で知ったと思うが、事実上ロケット団は解散―――復活させる予定はさらさらない。なによりこのサカキ自身が復活しないと決めている。故に奴等がどいつと手を組もうが俺はロケット団には戻らん」






予想外な奴等はまだいるがな、と最後にサカキは付け加えて言う

その予想外な奴等はシンオウ地方で旅をするピカチュウを連れたトレーナーを執拗に追いかける、喋るニャースを共にいるロケット団の事である。残念ながら彼等は今もなおロケット団が解散した事は知らずに、日当を稼ぎつつ今日も元気にストーカーをしている

彼等もある意味で残党。ちょいちょいシンオウ地方に迷惑をかける厄介な存在。彼等の存在をレンから聞かされたサカキとカツラとナズナの三人は、それこそ宇宙ニャースを脳裏に浮かばせたものだ。なにやってんだ、と三人揃って頭を抱えた

ちなみにレンも知らない事だが、このお騒がせロケット団と【聖燐の舞姫】のミリは普通に顔見知りだし友達だったりするから恐ろしい話だ

世間って本当に狭過ぎる



当然そんな事を知らない【盲目の聖蝶姫】―――否、【氷の女王】のミリは片眉を上げる






「…その言葉に信用性は感じませんが」

「【盲目の聖蝶姫】であり、【氷の女王】のお前だったらそう思うだろう。言い訳はしない。しかし、【聖燐の舞姫】は違う」

「!」

「アイツは俺の言葉を信用してくれた。短い間だったが…俺の息子の"姉"として慕ってくれた。この言葉に嘘偽りはない」

「………」






【聖燐の舞姫】のミリは、サカキがロケット団の首領だった事を知っている。それはこの場にいる全員も認知しているし、シンオウに行く前に共に息子のシルバーを交えて食卓を囲んだ事も知っている。その際ギリィと双子が嫉妬していたのは置いといて

サカキが本当にロケット団を復活させるつもりがない事を当然知っているし、それがしっかり本心だと見抜いている。でなければいくら息子がいても食卓を囲む事はしないだろう

ミリは静かにサカキを視ている。しかし今の言葉で思う事があるのか、小さく驚く姿もそこにはあった


サカキは構わず続ける






「では六年前の出来事の話に移ろう。…お前からすれば半年前だったな。…あれは当時の部下が俺の意思に反し、独断で行なった」






そしてサカキはミリに説明をする


当時のロケット団の状況を

解散前にあった出来事を

ロケット団の首領補佐だったとある団員が脱走した。詳細は省くがその団員の部下が探し出す為に手掛かりとして見つけ出したのが【盲目の聖蝶姫】の存在だった

首領補佐の脱走は実はフェイクで、実はサカキが用意した先で身を潜めている。故に【盲目の聖蝶姫】の存在は意味を成さない。意味のない事だと、捜索の案を却下したはずだったが…

何故、フェイクしてまで脱走の手段を出してまで逃がしたか。サカキはミリに説明はしなかった。ランス達をそこまで駆り立てた渦中の団員の存在を知りたいと思うのは、被害者側からしたら当然の事。ミリの眼が理由を求めているのを気付いていながら、それでもサカキは明言を避けた

―――それはナズナとミリの関係に亀裂が入る事を防ぐ為だった。【氷の女王】のミリにとって、この雰囲気だけでもロケット団の存在は地雷だと察し余るところ。ナズナはミリの手によって救われ、ナズナなりにミリの事を守ろうとしている。そしてミリもナズナの事を慕っている。二人を知る者としてこの関係性を壊す訳にはいかない

その意図に気付いたナズナの驚く姿を横目で黙視しつつ、


サカキは続けた






「…一人の組織のトップとして、言わせてほしい







―――俺の部下達が、大変迷惑をかけた。申し訳なかった」







本来ならサカキに罪はない

何故ならサカキは己の直感の元、アポロの提案を却下している

しかし。しかしだ。リーダーと名乗る以上、部下の失態は己の失態。サカキは曲がりなりにも首領としてのプライドを持ってロケット団を率いていた。ならば、たとえ自分の意思と反した行動を起こされたとしてもその結果を受け入れ、頭を下げるのは道理であろう

世間は中々それを認めず、あまつさえ謝罪をせず逃げるパターンが多い中、それをしないサカキは中々な人格者と言えよう


サカキは頭を下げた

首領だった頃では絶対に見せる事がなかった、その姿を




そして一人の父親としても頭を下げた


大切な娘に結果的に牙を向けてしまった事実は、悔やんでも悔やみきれない罪となる







ピ キリ…


ぴ き リ、


キリ リ 、




何かが軋む音が聞こえる






「……話は、理解しました」






遠くに軋む音が聞こえてくる中、

ミリは小さく口を開く






「―――私は貴方達ロケット団が近い内に解散する事を知っていました」

「ッ!」

「「「「「!!」」」」

「何故か知っていました。…理由は分かりません。ですから私は取るに足らない存在だと、始めこそ私は貴方達を放置していました」






全員ミリの発言に驚く姿を見せる

ミリは記憶を失っているのは会議で発覚している。なのにロケット団が壊滅する事実を知り得るのはありえない。それこそ六年前の行方不明になった当時の事を考えたら尚更

ミリは不思議な力を持っている。ポケモンの"みらいよち"の能力が発動していた、と言われても特別驚きはしない






「ですがロケット団は、やり過ぎました」






ピキリ、ピキリ、


部屋の温度がゆっくりと下がっていく






「私は、貴方達ロケット団を少なからず憎んでいます」






光の無い筈の漆黒の瞳が


鋭い眼光を光らせて、サカキを貫く


「…愚問かと思いますが、ミュウツーのポケモンはご存じですよね?」

「……あぁ」

「ミュウの睫毛の細胞から作られたポケモン、それがミュウツー。…貴方達ロケット団が作り上げた、最高傑作」

「ッミリさん…!?」
「「「「!!」」」」

「……やはり知っていたのか」

「えぇ。貴方の部下が毎夜毎夜と叫んでいたら嫌でも覚えますよ。…大方、件の脱走した団員が関係しているのでしょう?語りたくなさそうなので理由は聞きません。いつかこちらで暴かせてもらいますが」

「………」

「そう思うと私はロケット団の事を感謝しなければいけません。私の手持ちにいる子、ミュウツーに、会わせてくれた事を……ですがそれ以前に、ロケット団はあの子に…"殺意"というものを芽生えさせたから」

「「「ッ!」」」

「殺意、だと…!?あの刹那が、そんな…!」

「ですが結果、あの子は辛い思いをした。…感情の起伏が薄く、喜怒哀楽の喜と楽を持っていただけに初めて感じた強い感情―――凶暴ポケモンと言われる片鱗に苦しみながら、あの子はずっと戦っていました」

「「「ッ!」」」

「私はそれが―――許せない」






大切な愛しい子を辛い目に遭わせた事が、許せない

ランス達がミリにした事も十分憎しみの対象になりえるはずなのに


やはりミリは、自身の事は棚上げし―――大切な存在に牙を向かれた事を、許さない






「―――分かっていた。こうなる結末を。嫌な予感は当たるものだな……いや、むしろ俺が望んでいたのかも知れんな…」






嗚呼、やはりお前はお前だ


俺の知るミリと、全く変わらない






「【氷の女王】よ」






俺達ロケット団のせいで歪んでしまった"大切な娘"


お前がロケット団を許さないのであれば


俺は唯一今出来る事をしよう







「来て早々に空気を悪くするようで申し訳ないが、こういうのはなるべく早急に終わらせた方がいいだろう」

「!!??―――首領、貴方は何をッ!」

「ロケット団代表として…そして、一人の父親として、全ての責任を取ろう






俺をその罪の鎖とやらで縛れ、【氷の女王】よ」






パキ り、と


何かが割れる、音がした











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