静かに大爆笑している面々の中に遅れて現れたミナキは、当然事の顛末をマツバから聞き「私もミナキ兄と言われたいんだが!」とミリに懇願し、ゼルには「私達は友人だろう?」と当然の様に言ったりと短い時間だが中々に濃い会話を交わす事に

懇願されたミリは要望に応えて「ミナキにいさん(にぱっ」と言ってやり、ミナキを無事萌殺しさせた。しかしそこはミナキ、「兄さん」が少し気に入らなかったらしく「ミナキにいちゃんがいい!もしくはミナキにい!にいにでもなおよし!」という大人気ない言葉にナズナから頭蓋チョップを食らうハメになる。痛そうな音が鳴ってミナキはダウン、攻撃したナズナの方もダメージを受けてダウンと双方中々にシュールな結果に終わる

ゼルはミナキの友人発言に眉間に皺を寄せるも、全てを諦めた顔をしていた。ここで色々言ったらマツバとミナキのコンビに振り回され、またミリの認識が己の思っている認識とかけ離されてしまう。もう何も言うまいと、遠い目すらするゼルを闇夜は同情する眼で静かに眺めていた

ここまでが僅か五分以内の出来事である







「はじめまして。貴方が、【聖燐の舞姫】さんの…お父さん、ですか?」

「血縁関係は無いがな。…息子の世話の代わりに共に過ごした事があってな…少々複雑だがそれ以来の仲、とでも言っておこう」

「そう、ですか…」





ここでミリは対面する事になる

【聖燐の舞姫】が親しくしていた一人の男性であり、そしてこの"家族の父親枠"でもある男―――名をサカキ

サカキは黒のスーツ姿で彼等の前に現れた。ナズナ達会議出席者に軽く言葉を交わしてすぐにミリの座るソファの対面する席に座る





―――ミナキが呼んでくる前まで、サカキは会議中ずっと別室でオンライン会議で視聴していた

理由はサカキという"元ロケット団首領"の存在を伏せる為だ。あの会議に出席していた全員(ゲンとアスランは除く)はロケット団首領がサカキだという真実を、数ヶ月前に行われた北東南西リーグ集会で知られている。余計な混乱を防ぐ為にも出席はしない方がいいだろうと予測したサカキは、自主的に出席を控える選択を取った

けして恥ずかしがり屋だとかシャイだからだとかそういうのではない。カツラのおちゃめなかわいいジョークである

会議は色々と濃い内容だった。会議の内容によってミリの傷付く姿や【氷の女王】の片鱗が見えたシーン、友人が亡くなった事を知り激昂し自分を責める場面、戸籍上の父親に叱咤されるシーンに、ミリに振り回される全員の姿、記憶を無理矢理掘り起こし嘔吐する姿等々―――端から見たらこれら全て無料で映画を見ている気分。しかし残念ながらしっかり現実だから笑えた話ではない

つくづく現場にいなくてよかったな、とサカキはインスタントコーヒーを嗜みながらそんな事を思っていた。尚、アスランがミリに叱咤したあのシーンはサカキも大いに同調し同意していたし、拍手もした。なんならサカキ本人も父親としてミリに叱咤する気概でいたので、どの道ミリに逃げ場は無かった

ちなみに。憐れにも回りの手によって恋人から友人に降格したレンに対して、サカキは静かに肩をポンと叩くだけだった事は余談としてここに記しておこう







「会議は全部見させてもらった。色々と言葉を交わしたいところだが、時間も時間、お前の体調の事もある。結論だけ先に言おう―――【聖燐の舞姫】だとか、【盲目の聖蝶姫】だとか、そんな異名関係無く、俺はお前が無事にいてくれただけで十分だ」






久し振りに見たミリは、自分の知るミリとさほど変わりはなかった

否、盲目のせいで【聖燐の舞姫】にあった活発な姿がなりを潜めてしまっているが、それは闇夜の視せてくれた記憶で知っているから別にいい



しかし、サカキには理解していた



裏の人間だったからこそ解る―――ミリの【氷の女王】の片鱗を、その歪みを

【聖燐の舞姫】には全く無かった片鱗。自分達ロケット団及びアクア団マグマ団等々犯罪組織のせいで誕生させてしまった、【氷の女王】―――【盲目の聖蝶姫】に刻まれた歪みを前に、サカキは沈痛な思いでしかなく、つくづく自業自得だと己を悔やむ事しか出来ない

しかし、それでも

お前という"自分の娘"が―――無事だった事だけでも、喜ばせてほしい







「俺の名はサカキ。今はただのしがない一般トレーナーだが、かつてはトキワシティのトキワジムリーダーを務めていた」






いきなり知らんおっさんからの名前呼びは抵抗あるだろうから、敬意を込めて"聖蝶姫"と呼ばせてもらおう

そう言って、サカキはニヒルに笑う


―――初めて出会った時みたいに






嗚呼、今でも思い出せる

あの時のお前はシルバーを腕に抱えたまま、キョトンと俺を見ていたな


小さく驚いた顔も申し訳なさそうに頭を下げた姿も、

シルバーに擦り寄られて嬉しそうに笑っていた、あの時の優しい微笑も

記憶が忘却され、また紐解かれていく今

鮮明に――――






「よろしくお願いします、サカキさん」


















「サ、カ…キ………?」






現実は、そう甘くはなく






サカキの名前を聞いた瞬間、

ミリの雰囲気が―――変わった






「「「??」」」

「…?」

「ミリ?」

「ミリさん、どうし―――」

「闇夜、シンクロして」

《!…分かった》






この場に座る全員がミリの様子に疑問符を浮かべてすぐ、ミリは後ろに控えていた闇夜に命令を下す

影の中にいた闇夜は姿を現わし、ミリの頭上へと身体を浮上させる

そしてその金色の瞳がキラリと不思議な色彩を煌めかせてすぐ――――







「―――前任トキワジムリーダー、その名はサカキ」







ミリが浮かべていた表情が


スッ…、と冷たいものに変わる







「今回の会議でも名を上げていた犯罪組織ロケット団の首領もまた―――サカキという、名前でした」

「――――やはり、俺の事を知っていたか」






サカキもまた、

纏う雰囲気が変わった








(嗚呼、恐れていた事が)(始まってしまった)


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